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3章 転生者
第22話 補佐
しおりを挟む男が立ち去り、ホッとした。
そして、助けてくれた、目の前にいる愛しい人の背中へと、抱きつく。
「ルド、来てくれてありがとう。本当に助かった」
フィアがそう言うと、ルドは体を反転させ、ギュッとフィアを抱きしめる。
「フィアが無事で良かった。剣で切られそうになってるのを見た時は、心臓が止まるかと思ったよ。……本当に無事で良かった」
そう言ってフィアの左頬にルドの右手を添え、そっと上を向かせる。
チュッ。
軽く触れるだけのキスをして、お互いに微笑み合う。
「もっと顔をよく見せて?無事なのを確認させて?……あぁ、フィアが何かされる前でよかった」
「クスクス。さっきから無事でよかったしか言っていないよ?」
「ふふ、本当にそう思っているからね」
「正直、殺されると思ったよ。逃げようと思ったのに、男が近づいてきた恐怖で体が動かなくなったの…」
その時の恐怖を思い出して、ブルッと震えてしまった。
するとルドがギュッと強めに抱きしめ、落ち着くように優しく背中を撫でてくれた。
「怖かったよね…。ごめんね、俺がもっと早く来れればよかった…」
ルドの声に後悔が滲み、自分自身を責めているのがわかる。
ルドのぬくもりと匂いのおかげで気持ちが落ち着き、体をルドに預けながらも、その言葉を否定する。
「いいえ、ルドのせいじゃないわ。自分を責めないで?
今、ルドが側に居てくれているから落ち着くことができているし、ルドが来てくれなかったら今頃私は死んでいたかもしれないわ」
「でも…」
「いいえ、私は大丈夫よ。
それに、ルドが贈ってくれたチョーカーとピアスで、どのみちあの男の剣は弾かれていたでしょう?
ルドがたくさん魔法を付与してくれたもの。
信用しているわ。
あの時は動揺してそのことを忘れてしまっていたけれど、ルドが付与してくれたものなら、ほとんどの魔法攻撃や物理攻撃を弾いてしまうでしょう?守ってくれていてありがとう」
「いいや。お礼を言われるようなことはしていないよ?俺がしたくてしているんだから。
これからもずっと守らせて?
その特権を永遠に持っていたいんだ。
俺はフィアとずっと一緒に生きて行きたいから」
「私は守られるだけではないわよ?
私はルドのことを守りたいと思っているもの。
心も体も全て守りたい……。
私に独占させて?」
「ふふ、喜んで。俺もフィアを独占したいからね」
お互いにギュッと強く抱きしめ合い、気持ちを伝える。
***
その後、フィアはルドに抱き抱えられ、ルドの執務室へと移動する。
「ここがルドの執務室?」
「うん。特別部隊は基本的にここで業務をしているよ」
「そこそこ広いのね。特別部隊は何人いるの?」
「うーんと、俺を合わせて4人だね」
「まぁ!随分と少人数なのね」
「うん、普通の部隊とは違うからね。
特別部隊のメンバーは一人一人が強いから、主に大きな事件や、他の部隊が解決できないことをするのが仕事かな」
「難しい事件ばかりになるのでしょう?忙しくなってしまうわよね…」
少し寂しくなってしまうなと思っていると……。
「んー、時期によるかな。いくつも事件が重なると大変だけど、大きな事件が重なって起こることは少ないから、残業が続くような日は来ないと思うよ」
だから安心して?とルドが優しく微笑んでくれる。
「そうなのね。ルドが忙しかったら私との時間が無くなってしまうと思って……、ちょっと安心したわ」
「ふふ、可愛いなぁ。
……特別部隊に配属されるのは、個性が強くて実力がとんでもないヤツなんだよ。
上層部の人達が、面倒な奴らをいっそのこと一緒にしてしまおうっていう感じて決まったんだ。
はっきり言うと、個性が強すぎて扱いずらかったんだよね。だからまとめてしまえば少しは楽かもしれないって考えたのかもしれない。
確かに個性は強いけど、特別部隊の隊員は仕事は早いし、実力も魔法騎士団の中でトップクラスだから、扱い方に慣れればどうってことはないよ。
俺は隊長に任命されたから、上手くまとめてフィアとの時間を作れるようにするよ」
「ふふ、無理はしないでね?」
「あぁ、ありがとう」
無理だけはして欲しくないと念を込めて言えば、ルドは本当に嬉しそうに頷く。
私に心配されるのが嬉しいようだ。
「そういえば、ここはルドだけの執務室なの?」
「うん、ここは俺専用の執務室だよ。隣が特別部隊の執務室で、俺もそこで仕事ができるようにしてある。
主にここは、より機密性の高い事件の詳細を保管してあったり、盗聴されたくないことを話す時に使うかな。俺以外は許可がないと入れないようにしてある。
特別部隊の執務室の隣には応接室があって、ここに何か用がある人にはほとんどそこで対応しているよ」
「そうなのね…。私は入ってしまってよかったのかしら?」
「もちろん!フィアは俺の特別だからね。いつでも許可しているよ」
「うーん?それは危ないのではなくて?私にも許可しなくていいわよ?」
ルドの伴侶だからといって公私混同をして、過ぎた特別扱いはあまりして欲しくない。
「いいや。……このことはもう少し後で話そうと思っていたんだけど…、実は、フィアにはこの特別部隊に入って欲しいんだ」
「……えっ?理由を聞いてもいいかしら?」
突然の話に理解が追いつかない。
「うん…。実は、この部隊は仕事が早いのはいいんだけど、とにかく事務作業が得意な者がいないんだ。俺とあともう1人はそこそこできるんだけど、あとの2人が苦手でね。できなくはないんだけど、俺たちのチェックが必ずないと不安なんだ。
できればフィアにはそういうあらゆる面でサポートして欲しくて、俺の補佐というか、フィアの前世の言葉でいう秘書?みたいな感じの立場になって欲しいんだ」
「なぜ私なの?」
なぜ私なのだろうか。
他にも適任な人がいるだろうし、私はただの令嬢だ。
ただの令嬢に何ができるというのだろう。
「俺をサポートすることができて、いざという時には止めることができる。……そんな逸材はフィアしかいないだろう?」
「でも、私はただの令嬢よ?」
「クスッ。ただの令嬢?
魔法を自在に扱えて、魔力も俺と同じくらい多い、俺の大切な人。
自分がただの令嬢だと思っているの?
ふふ、本当フィアは自己評価が低いな。ま、そんなところも可愛いんだけど。
俺に我儘を言えて、俺が暴走した時に止めることができる人が、この世界に何人いると思う?片手で足りるくらいの数しかいないと思うよ。数少ない、俺を止めることができる人が、ただの令嬢なわけないじゃないか。
もっとフィアは自覚して?
貴女は俺の大切な人で、魅力的な女性で、魔法に優れた人。
この世界で俺を唯一殺せる人だよ。」
「殺せるって……」
衝撃的だった。
私が唯一ルドを殺すことができるなんて……確かにルドより強い者なんてそうそういないだろう。
私の方が弱いのにルドを殺せるなんて、それだけ愛されているということなのだろうか?
「事実だろう?フィアがいなきゃ生きていけないし、生きている意味もない。フィアがもし俺を捨てるなら、俺はフィアを殺して自分も死ぬだろうね。そのくらい、いやそれ以上、フィアのことを愛しているんだ」
「捨てないわ。ルドのことを捨てるわけないじゃない!私は貴方に捨てられたら生きていけないもの……。きっと、心が壊れて死んでしまうでしょうね……」
私の方がルドなしでは生きていけない……。
想像しただけで絶望してしまいそうだ。
「フィア…」
「愛しているわ。ルド…」
「俺も愛しているよ。フィア、俺の補佐をしてくれる?」
「ええ、ルドの補佐をするわ。公私ともに支えさせてね?」
「ああ、ありがとう」
途中不穏な空気が流れたが、こうして私がルドの補佐をすることが決まった。
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