何ノ為の王達ヴェアリアス

三ツ三

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第20話

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   それはあの日。警護団の会見で起きた事件から数日の日が経過した日。
   多くの人々はインジュが起こした奇跡に等しい異業に話題が尽きなかった。
   これまで全ての人が恐怖していた原因不明の感染者。 その存在を元の人間に戻す事が出来たという事実は、すぐさま王都全体に広がりを見せていたのだった。

   そして当然、事件の詳細は王城の者達の耳にも届いている。


「これより、今年度の”王位継承選定会議”を開始する」

   王城の玉座の間。
   壇上の1番上には誰も座る事の無い玉座。更に1段下にはご高齢の著名人が数人が鎮座している。
   見下ろす形でご老体が視線を向けるのは、王位継承の資格を持つ者達だった。

「とは言うものの、致しますか”選定者”の皆さん。私とネゼリアの半分しか居ないようなんですが」

   肩を竦めいつものように飄々とした態度のアスト。
   アストのいう選定者とは、ご老体の方々の総称であった。その名の通り、王位の選定の為あらゆる分野の著名人が集まった集団。

「んーーそうじゃのー」
「また延期・・・ですかの?」
「馬鹿言うで無い。我々の時間を合わせるのがどれだけの労力が」
「しかしなぁー・・・」

   選定会議が始まって早々に選定者の面々は次々と大きなため息を吐き出す。
   それもそのはずだった。
   この会議が行われる数日前、つまりインジュが起こしたあの事件のおかげで王都はある意味で大混乱を招いて居た。
   ここに集うあらゆる著名人、いわゆるトップの人間達は1秒でも早くこの会議を切り上げて現場に向かいたい思いを秘めて居たのだった。

「一応お尋ねしますが。第4位・・・は、まぁいつもの事として。第3位の彼女はどうしたのだい?」

   選定者の1人がこめかみに手を当てながら問いただす。
   その問いに答えられる者、それが今この会議に参加していた。故に全ての視線はその者に向けられる。

「何で君が居るのかと思ったら・・・そうゆう事かい」

   アストはその者に顔を向けながらも視線は、他の人と違う者へ向けていた。そしてその事に気付いた者は鼻で笑い肯定した。

「僭越ながら。ご報告させて頂きます。私の仕える主人である王位継承第3位であるルージェルト・N・アルバスは・・・」

   ルージェルトに仕えていた者、センナが堂々と選定者達に告げる。
   センナの言葉に選定者達は一切の関心を見せないでいる様子を見せていたが、センナの言葉により、一変する。

「謀反を起こされました」

   一切の曇り無き発言に誰もが目を見開いた。
   ルージェルトが謀反を起こした。その言葉通りに取るのであればルージェルトが王都アルバスに牙を向けた。

   インジュの件で大きく動いた情勢に対し、さらなる動きが起ころうとしている。
   この王都アルバスには、一切の休息が与えられない。

   人々が求める静寂は、あまりにも程遠い・・・。













   とある下水道。1人の人間がそこに居た。

「ッ・・・」

   ゆっくりと目を開ける。視界に映るのは真っ暗な世界だった。
   真っ先に感じた感触が”彼女”に今を知らせた。
   体が重い。動かない。痛みが全身に隈無く行き届いている。あまりの感覚に現実という今を拒絶したくなる想いが溢れてしまっていた。

「ぅ・・・ぁ・・ぐ・・」

   声もまともに発する事が出来ない。
   一体どれ程の時間居たのであろうか。暗く、異臭が漂う場所で身動きの取れない。

   何故こんな事になってしまったのか?
   鮮明に思い出せる。しかしもはやそんな事に意味を見出すことすら出来ずに彼女はゆっくりと力を抜き出した。
   それでも、彼女は口を動かしてしまった。

「ミこ・・様・・・ごめん・さい」

   目尻が熱い。溢れる涙が顔から流れ落ちていく。拭たくとも腕が動かない。泣き叫びたいのに喉が機能を失っている。言葉を発する事すらも許されなかった。
   それが今という彼女の現実。
   悔いを巡らせようと、もしもを考えたとしても、生み出せる物はただ瞳から流れる涙だけだった。
   もはや彼女に残された事はもう限られている。衰弱しきっている体の力を抜いていく事を続けるのみ。それはただの屍の一つになる為の段取り。
   それが何も出来ない今の彼女に、自分に与えられた、最後の選択肢だった・・・。

   水が滴るだけの静寂な空間。






「ルージェルトさん・・・?」
「ッ!!?」

   静寂な空間に聞こえた声に彼女は、ルージェルトの体はビクつき起き上がってしまった。これから死ぬであろう体に鞭が打たれたかのように上半身が起き上がった。
そんなは咄嗟に声が聞こえた方向へ首を動かした。

「シュコォォォー。なんで、シュコォォォー。こんな所に? シュコォォォォォー」

   ルージェルトの目の前には人型であろう二足歩行の生物?が立っていた。全身真っ白の完全防護服に身を包み、一切顔が見えない頭部全てを覆う黒いマスク。当然目も見えない得体のしれない”それ”からルージェルトは凝視されていると察した。

「シュコォォォォォー・・・ルージェルトさん?」
「ッ!?」

   一歩ずつ完全防護の不審者が自分の名前を呼びながらに接近してくる。
   だがルージェルトはその場から離れる事も、当然抗おうとする事も出来ないでいた。そんな中で一つの変化がルージェルトには起きていた。
   最後の力を振り絞るかのように声を上げたのだった。

「きゃぁあああああああああああー!!!!!」

   本能が拒んでいた。死を受け入れる事は出来た。けれどあれには、この身をここでそれに受け入れてしまったらマズイ。何が何でも抵抗しなくてはいけないと全身全霊でルージェルトは叫び散らかした。

「ぼぼぼぼ、僕です!僕です!!!」

   ルージェルトから一歩引き、完全防備の男はゴソゴソと何かを始めた。
   上手くいかない様子を見せながら苦戦してるが、ルージェルトはもはやそれをただ見ているだけしか出来なかった。

   そして何かが外れる音が響いた時、ルージェルトは目を丸くして言葉を失った。

「ぷっはぁあー!! すみません、驚かせちゃって」
「あな・・た・・・は」

   黒いマスクから出たのは、褐色肌の銀髪。
   ルージェルト自身も忘れるはずのない幼い顔の少年のインジュだった。

   ルージェルトはインジュの姿を見てまるでお決まりかのように気を失ってしまったのだった・・・。





【第20話】成り上がり謀反者のルジェ
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