【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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0.7 柄を得たからか、得たのが柄だったからか。

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 俺は目の前に現れた刃の無い剣、柄をただ眺めることしか出来ないでいた。

「これは・・一体」
「召喚石が割れてしまったと?」
「彼はたしか今期一番の人材だと」
「だが、あれはどう見ても・・・」

 贈呈具の出現に宮殿全体がどよめき始めた。
 神官様もまた召喚石が壊れた事に加えて、俺が生み出した贈呈具に驚きを隠せないでいた。

「騎士フォーズ! これは一体どうゆう事かね?」

 一人の男がまるで俺に野次を飛ばすかのように立ちあがっていた。

 どうゆうこと事って・・・え?

「え・・・?」

 俺は手に持っている柄を隅々まで見た。
 何かあるはずだ、あんな見たことの無い程の光りを出したのだから、何かあるはずだと。

「ちょっと待ってください、これは・・えっと!」

 何故俺は体を震わせているのだろう。
 今まさに俺は夢を叶えた瞬間だというのに、何故怯え出しているのだろう。

「おい! どうなってるんだ!」
「それが贈呈具っていうのか!?」
「誰がどう見てもただ柄じゃないか!」
「武具ですら無いなんて、ふざけてるのか!」

 待ってくれ。
 何で? どうして? 何が起こってるんだ。

「きっと何か・・何かあるはずですから!」

 声が上ずっているのが自分でもわかる。思考が乱れるのは当然だった。
 だって自分自身何がどうなってるのかわからないのだから。

 そんな挙動不審に陥っている俺を見守っていた神官様の背後に名誉騎士の統合役員の一人が耳打ちで何かを告げていた。
 何を言われたのかわからない。
 内容なんてわからないが、予想の出来ないことではなかった。

 だから俺は声を荒げてしまった。

「待って下さい!!!!」

 それでも、俺の言葉が受け入れてもらえるはずもなかった。

「これにて、召喚の儀は閉幕とさせて頂きます。予定していた名誉騎士の授与式はまた後日追ってお知らせする事とさせて頂きます」

 神官様の言葉に、頭が真っ白になった。
 予想してしまった事が現実に起きてしまったからだ。

 もう、何も言えなかった。何を言えばいいのかすらわからなかったから。

 そんな俺はもう地面に膝を付く事くらいしか出来なかったのだった・・・。


 授与式は中断となり、宮殿から追い出されるように出された俺は放心状態のままただ帰るように足を動かした。

「え・・・もう入れないんですか」
「当然だろう? 君はもう騎士団では無いのだから」
「でも、その・・・名誉騎士には」
「知らないよ、第一君の居た部屋はもう他の新兵に割り当てられてるんだから」

 それだけ言い残しバタンっと扉を閉められた。
 何も言えなかった。食い下がる気力すら失っていた。
 
 これが本当の最後なのだと告げられたようだった。あまりにも呆気ない最後。
 
 長年お世話になっていた宿舎を後に、するしかなかった。


「これから・・・どうなるんだ俺」


 トボトボと夜中の町中を徘徊した。
 宿屋はある、だが不思議と入る気にはなれなかった。

 また後日追って連絡をすると言われたが、一体俺は何処でそれを待っていればいいのだろうか。
 それまで何をすればいいのだろうか。

「あれ・・・俺って」

 ふと、気が付いてしまった。まるで今までの報いを受けているかのように。

 俺って・・・何も無い。

 夢の為に努力してきた結果。俺はあらゆる物を捨ててきたつもりだった。趣味も娯楽も、友情も愛情も。

 実際に捨ててきたのだと実感した。

 だって数時間前に、ただ残し続けた物にヒビが入ったから感じられた。
 夢があるから大丈夫。夢が叶ってからでも遅くない。全ては夢の為に。
 そう、俺がただ一つ大事にしていた夢に亀裂が入った途端だ。


「俺・・・俺は・・・」


 立ち寄ったのベンチで一人、夜空を見上げた。
 真っ暗で星一つ見えない、まるで自分自身の心を見ているようだった。
 何も無い。
 たった一つの輝かしい星が、今では見えないでいた。

 残された物。唯一叶った物を握り締める。
 堅く冷たい、ただの柄。

 どうして生まれたのか、何で俺からこんな物が生まれたのか。
 俺は、贈呈具が自分自身に感じてしまった。

「くそぉぉおー!!!」

 叩きつけるように柄を投げ捨てる。
 ただの八つ当たりなのはわかってる。けれど許せなかった、その存在を。
 まるで俺をあざ笑うかのように存在する、贈呈具を。

 だが、贈呈具は時間が立つとその姿を光の粒子に変え、再び俺の手に戻ってくる。

「何なんだよ!! お前のせいで俺は!!!」

 何度も何度も投げ付けては戻ってくる贈呈具に更に苛立ちを覚える。

「俺には何も無いって言いたいのかよ!! 俺が何もしてこなかったとでも言いたいのかよ!!」

 贈呈具が自分の手に戻ってくる度に怒りと共に虚しさもまた顔を出し始める。そんなの最初からわかってる。今怒りをぶつけている物は何も言わないただの物。
 神器なんて呼ばれているとしても、所詮はただの道具。俺のに至っては武器ですらない。

 そんな物しか、今の俺には無いと告げているようだったから。


「・・・夢から覚めろってことか」



 気絶するように公園のベンチで眠りに付いた。

 何度も叩き付けた柄を、強く握り締めながら目を閉じたのだった。
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