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因縁 1
しおりを挟む俺の声は・・届いている。
目の前で息を荒くしている透と目が合う。
そして、大きく息を吸うと同時に透は表情を一変させた。
「やっぱ・・・気が付いてたか藍」
「あぁ、あの時から。お前手加減してたんだろう」
「ふっ、そうでも無いけどな」
俺の知る透。
澄原にずっと悪夢を見せられていた時の獣のような仕草はもうそこには無かった。
演技だった。
何処から何処までなんて俺にはわからない。だが俺と再会した時には恐らくもう澄原の人形を演じていたのだろう。
「澄原の為・・・か」
そう俺が呟いた瞬間だった。
一瞬で俺との距離詰めてきた。
透の拳が俺の顔面目掛けて振り被られた。
「ちっ・・・!」
瞬時に俺は剣で防いだ。
普通の人相手なら恐らくやられていた。だが相手が相手だった。
親友の透、親友だからこそだった。
いくら俺も力を付けたからと言って心構えは変わらない。
親友だからこそ、一切の気も許してはならないと。
「あぁ! そうだ!! 澄原と・・・俺と!! 二人の為のな!!」
防いだ俺の剣を掴み取り、俺ごとぶん回しす。されるがままに抵抗出来ず俺は壁へ投げ付けられ激突する。
「二人の為・・・か、お前らしからぬ事言うじゃないか。随分と様変わりしたじゃないか透」
「!!!! 藍ぃぃいぃいいいー!!!!」
何事もなかったかのように立ち上がる俺に透は血相を変えて飛び付いてくる。
「メリス!! 預かっててくれ!!」
「えっ!? な、なんで!!?」
俺は剣をメリスに投げて渡した。
そして透と同じように両手を光らせた。
「ぐぅぅ!!!」
「がぁぁ!!!」
お互いの拳が顔面に減り込む。
こんな事は過去に多くやってきたことだ、事あるごとに俺達は喧嘩をしている。他のクラスメイトは知らないだろうが、意外に俺達は馬が合うようで合わず、こうして殴り合うことが多くあったのだった。
「てめぇ等の都合で殺され掛ける身にもなってみろよな!!!」
「うるせぇー!! 何も知らない癖に!!!」
「はなから何も知らねぇんだよ!!」
殴り合いは続く、お互いがお互い身体強化をしている。
攻撃を上げた拳は強化された防御力で相殺しあっているのがわかる。それは恐らく透も同じだ。
刻印の力が偉大なら、俺の培ってきた経験の魔力も決して引きを取らない。
「透! お前まさか、まだ俺が犯人だって。この世界に来てしまった原因が俺だって、そんな事言うんじゃないだろうな!!」
「そんな訳あるか!!」
透の頭突きが俺の頭にクリーンヒットする。
どれだけ石頭なんだこいつ。
でもまあ、二人して同じように思っているはずだ。
その証拠にお互い頭から血を垂らして睨み合う。
「いいかよく聞け藍! 俺達はな!! 俺達の転移は間違いだったんだよ!!」
間違いだった?
透の言葉が一瞬わからず思考を停止してしまった。その隙を付かれ俺は胸倉を掴まれそのまま地面に倒された。
「ふはははっははははは!! そうなんですよね! あなた達はふはは・・・あははははっは!!!」
俺達が殴り合っているのを見て高笑いをしているのは、大司教だった。
そんな耳に入れたくも無い声が頭に突き刺さり刺激した。透の言っている事を意味。
「まさか・・・"事故"なんて言うんじゃないだろうな」
「そうだ・・・!! 俺達は間違ってこんな世界に来ちまったんだよ!! 大司教が呼び出そうとしていたのは俺達じゃない!!」
それを聞いて。俺は頭がおかしくなりそうになった。
何がどうなってるのか、俺が最初にこの世界に来てからわからない事だらけで今もそうだったと改めて実感した。
この白昼夢のせいだとばかり思っていた。
何のゆかりも無いみんなを巻き込んでしまったのでは無いかと。
「だから言ってるじゃないですか、私の目的は・・・邪災神の復活だと!! まさか、復活の儀式でふふふふ、こんな! こんな出来損ないのガキ共が転移してくるなんて、誰が予想出来たっていうんだ!!」
豹変したかのように大司教はキレ散らかし始めた。
「パンドラに記された通りの儀式で邪災獣は復活するはずだった!! 復活するはずだったのに!! それなのに訳のわからんガキ共が現れてその世話なんてさせられて・・・私の気持ち、わかりますか??」
豹変したと思ったら次は涙を流し出す。なんて情緒不安定なんだあの大司教とか言う奴は。
「だから、もう俺達は帰れないんだ」
「なら、何でみんなに人殺しなんてさせ――っ!?」
俺が口にする事をわかっていたのか。
透の目からは悔し涙が零れ落ちていた。
「透・・・」
名前を呟いた途端に俺は投げられた。俺にその表情を見せないかのように悟られないように。
もうその行動でわかってしまった。
「だ、大丈夫」
ズサーっと地面を転がりメリスの足元まで飛ばされた俺は、手で大丈夫だと告げるだけに済ませた。
透、お前・・・。
何で泣いてるんだよ。何でそんな面見せてるんだよ。
「いいか藍、俺達はこの世界では異物なんだ。異物の俺達には、元々生き残る術はほぼ無かったんだ。何をどうしても・・異物の俺達はこの世界から食み出される」
抵抗は出来ない。その悔やみ。
刻印という力を持ってしても、いや持ってるからこそ透にはわかってしまったのだろう。
自分達の未来が。
「なのに俺は由子を・・・!! 一番大切にしなきゃならない由子の心を壊させちまったんだ・・・だから!!!」
「だから、俺を殺すのか」
「そうだ!! それしか俺と由子が生き延びる方法が無いんだよ!!!」
再び透が俺に飛び掛かる。
拳は震えながらも確実に俺へと届いていた。
当然俺も反撃して殴り合いが再開されるたのだった。
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