多分、うちには猫がいる

灯倉日鈴(合歓鈴)

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42話

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「何故だ? 俺の方が長く住んでいて、俺が賃貸契約して俺が家賃を払っているのに、何故あいつの方が認知度が高いんだ?」
 釈然としないコウに、僕は苦笑する。
「僕には理由が解るけど?」
「どういうことだ?」
 話に食いついてくるコウ。
「僕はこの街出身だから知ってるけど。この街には地域ごとに自治団体があって、夜回りしたり、草むしりしたり、夏祭りをやったり、バザーを開催したりしてるんだ。コウはそういうのに参加したことある?」
「いいや。最初のうちは何度か近所のイベントの手伝いを頼まれたことはあるが、仕事があるから規約通り活動費を多く払って免除してもらった。そういえば、近頃はそういう手伝いを頼まれなくなったな」
「十中八九、ミルカちゃんはそういうことに参加してると思う」
「は!?」
 コウは素っ頓狂な声を上げた。僕も確信はないけど、そうとしか思えない。
「ミルカちゃんは、コウがご近所でをしてるんだよ。まだコウんに来て日が浅いし、時期的に夏祭りとか大きなイベントには出てないだろうけど、でも何らかの手伝いはしてるはず。その他にも、ミルカちゃんは普段から子ども達に勉強を教えたり、暴漢を追い払ったりして、地域の治安維持に貢献してるんだよ」
 僕は渇いた喉を麦酒で潤して続ける。
「つまり、コウは『金だけ出して労力は使わない世帯主』で、ミルカちゃんは『ご近所のためによく働く同居人』なわけだよ。どっちの心証がいいと思う?」
 コウは数秒考えて、
「日常生活って難しいな。これまで義務は果たしてきたつもりだが」
 片肘をついてやけ酒を呷るコウに、僕はまた苦笑する。
「別にコウは悪くないよ。自治団体の制度に従って役目を免除してもらってるなら、何の落ち度もない。でも、関わり合うことで親近感とか連帯感は強くなっていくから」
 僕の言葉に、コウは「むう」と呻く。
「しかし、なんであいつはこんなに早く近所の住民に溶け込めるんだ? うちに住み着いて間もない、エンバーの街初心者なのに」
 不思議がるコウに、僕は「考え方が逆だよ」と笑う。
「ミルカちゃんはノクトーム族の村に住んでたんでしょ? ロジャーの話しぶりからすると、小規模なコミュニティに。生まれた時から全員顔見知りみたいな環境で育ったのなら、ミルカちゃんは生粋のご近所付き合いエキスパートだよ」
「……俺が敵うわけないか」
 項垂れる彼の背中をポンポンと叩いて慰める。
 ――でも。
(ミルカちゃんのお陰で、ご近所さんがコウに気さくに接せるようになったのは、いいことなんじゃないかな)
 と思ったけど、追い討ちになりそうだから、コウには言わないでおいた。
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