聖女の私は勇者に失恋した直後に魔王に拐われました

灯倉日鈴(合歓鈴)

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11、魔王に支配された村(2)

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 どこにでもあるような、風光明媚な田舎村。
 のどかな風景をのんびり歩いていると、

「魔王様!」

 一人の青年が手を振りながらこちらに駆けてきた。二十歳くらいのこの若者は……人間だよね?

「こんにちは、聖女さん。僕はロック。この村の青年団の団長です」

「どうも、アリスです」

 挨拶に差し出された手を握り返す。

「村のみんなに魔王様が聖女さんを案内してるって訊いて。ほら、魔王様って天然で言葉足らずでしょ? 僕がナビのお手伝いをしますよ」

 陽気に笑うロック。
 ……ここの住人、魔王に気安すぎない?
 因みに、執事のバルトルドは翼猫のまま魔王の肩に座ってうたた寝してる。……魔王様の威厳って……。

「この村の名産はトマトとジャガイモ。甜菜も採れるから、砂糖が精製できてスイーツ作りも盛んなんですよ」

 畑の畦道を通りながら、ロックが説明する。さっき食べたケーキは、この村産なのか。

「麦も村人が困らない程度には収穫できます」

「わぁ!」

 山の斜面を利用した段々畑に植えられた一面の麦の苗に、私は感嘆の声を上げた。私の出身の村は土地が痩せてて農作物が育ちづらかったんだよね。
 ここは農業用水路と生活用水路が村の隅々まで張り巡らされていて、とても住みやすそうだ。

「いい村ですね」

 偽りのない感想を述べる私に、ロックは照れたように笑う。

「ちょっと前までは、大変だったんですよ」

 遠い目で語る。

「ファステ村は山に近いので、大雨が降ると水害や土砂災害が多くて。その度に作物はダメになって、村人達はいつも空腹に喘いでました」

「そうだったんですか……」

 ……私の出身村の現状に似ている。

「特に、七年前の水害の被害は深刻でした。農作物は全滅、種籾まで食べないと生きていけない状況で……。そんな中でも、領主は税を無理矢理取り立てて、何人も餓死者が出たんです」

 ……とても痛ましいが、それはこの国ではどこでも聞く話だ。ファステ村はどこかの伯爵の領地だったと聞いたことがある。貴族って、庶民の暮らしなどお構いなしなんだよね。
 ロックは沈痛なため息をついてから、明るく顔を上げた。

「でも、そんな時、魔物の軍勢を率いて魔王様が山から降りてきたんです!」

「……え?」

「魔王様は山で採れた食料を村人に配り、治水工事をしてくださり、そして……悪政を強いる領主をこの地方から追い払ってくれたんです!」

「えぇ!?」

「お陰で僕達は平和で人間らしい生活を送れるようになったんです。村人はみんな魔王様に感謝してるんですよ」

 ニコニコと喋り続けるロックに、遠くから彼を呼ぶ声がする。

「あ、そろそろ行かないと。夕方、村を上げてバーベキューパーティーしますから、絶対来てくださいね!」

 合流した時と同じように手を振って、青年団団長は去っていく。

「……」

 私は言葉を見つけられず、隣に佇む魔王の顔を見上げた。
 透き通るような朱い瞳の、人外の王。
 三百年の沈黙を破り、ジャスティオ王国への侵攻を始めた魔王。
 まさか、その理由が……。

(人間を救ける為だったなんて……!)
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