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11、騎乗訓練
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ガキィン!!
金属同士がぶつかる音が空に響く。
訓練場では、甲冑をつけた騎士二人が馬上から激しく剣を撃ち合わせていた。
物理的な火花が飛び散る。一方が上段から振り下ろした剣をもう一方が刃を滑らせて受け流し、返す動作で下段から撃ち込む。
兜に赤い羽飾りの付いている方がヴィンセントだとフルールには一目で判ったが、あまりに激しい攻防に言葉もでない。
「これは騎乗訓練。使ってる剣は刃を潰したナマクラだから安心して。当たっても骨が折れるくらい」
「まあ……」
ギイの解説には安心要素が全く無くて、フルールは卒倒しそうになる。
何合目かの撃ち合いの後、相手の騎士がバランスを崩した。ヴィンセントは勝機を逃さず彼の胴を剣の平で薙いだ! 衝撃に騎士は手綱を離し、地上に崩れ落ちる。主人を失くした馬が嘶く。
「それまで!」
判定者の声に、馬上のヴィンセントは剣を収め、兜を脱いだ。汗に濡れた豪奢な金髪が陽の光にキラキラ揺れる。馬から降りた彼は、落ちた訓練相手に手を差し伸べ、引っ張り起こす。笑いながら互いの健闘を讃えた騎士は、愛馬の手綱を引いて訓練場を後にしようとして……。
「……フルール!?」
居るはずのない人物の顔を確認して驚愕した。
「フルール、どうしてここに?」
馬を従卒に任せ、ヴィンセントは全身甲冑の重さも感じさせず妹の元へ駆け寄ってきた。
「ごきげんよう、お兄様。実はお母様から……」
言いかけたフルールに、兄は怪訝な表情をする。彼女の手は、右手にパンの詰まったバスケット、左手は……なぜかギイに握られていたから。
これは、訓練場に案内された際、ギイが離してくれなかったからなのだが……。
ヴィンセントは手甲を嵌めたまま、同僚の手首に手刀を落とした。
「痛ってえ! 折れるぞ!?」
フルールの手を離し、自身の手首をさすって大騒ぎするギイに、
「折る気だ」
ヴィンセントは怒気を込めて唸る。
「貴様、嫁入り前の妹に気安く触るなど、どういう了見だ?」
「い、いやだなぁ。フルールちゃんがヴィンスに用があるっていうから連れてきてあげただけじゃないか」
卑屈に笑って誤魔化すギイを置いて、ヴィンセントは妹に向き直る。
「フルール、大丈夫か? なにもされていないか? こいつはケダモノだ。近づくと孕まされるぞ」
「はら!?」
品行方正な兄の口から出た言葉とは思えず、フルールは目を白黒させる。
「ちょっと、俺のことどういう目で見てんだよ、お兄様!」
さすがにギイが抗議するが、
「そういう目だ。あとお兄様って呼ぶな」
ヴィンセントは一蹴する。
「いいじゃん。俺とフルールちゃんが結婚したらヴィンスはお兄ちゃんじゃん」
「しない、させない。そんな未来こない」
ギイの軽口に、ヴィンセントはあくまで冷たい。
「ちぇーっ。妹のこととなるとヴィンスは人が変わっちまうんだから」
唇を尖らせわざと拗ねた口調で言うと、ギイはフルールからバスケットを受け取った。
「差し入れありがと。休憩室に置いておいて、みんなで食べるよ。あとは兄妹でごゆっくり」
「あ、お世話になりました!」
去っていく騎士の後ろ姿に、フルールは頭を下げた。
「それで、今日は何の用だったんだ?」
ヴィンセントにもう一度同じ質問をされて、妹はやっと来訪の目的を答えることができた。
「お母様とパンを焼いたのだけど、作りすぎてしまって。それでお兄様と騎士団の皆様に差し入れで持ってきたの」
「そうか、ありがとう」
にっこり微笑む銀の甲冑姿が眩しい。
「ちょっと待っててくれ、着替えてくるから。城門まで送る」
「はい」
城門なんてすぐそこだから送らないでいいのにとも思ったが、兄の厚意に従い、フルールは騎士団の敷地内に留まることにした。
金属同士がぶつかる音が空に響く。
訓練場では、甲冑をつけた騎士二人が馬上から激しく剣を撃ち合わせていた。
物理的な火花が飛び散る。一方が上段から振り下ろした剣をもう一方が刃を滑らせて受け流し、返す動作で下段から撃ち込む。
兜に赤い羽飾りの付いている方がヴィンセントだとフルールには一目で判ったが、あまりに激しい攻防に言葉もでない。
「これは騎乗訓練。使ってる剣は刃を潰したナマクラだから安心して。当たっても骨が折れるくらい」
「まあ……」
ギイの解説には安心要素が全く無くて、フルールは卒倒しそうになる。
何合目かの撃ち合いの後、相手の騎士がバランスを崩した。ヴィンセントは勝機を逃さず彼の胴を剣の平で薙いだ! 衝撃に騎士は手綱を離し、地上に崩れ落ちる。主人を失くした馬が嘶く。
「それまで!」
判定者の声に、馬上のヴィンセントは剣を収め、兜を脱いだ。汗に濡れた豪奢な金髪が陽の光にキラキラ揺れる。馬から降りた彼は、落ちた訓練相手に手を差し伸べ、引っ張り起こす。笑いながら互いの健闘を讃えた騎士は、愛馬の手綱を引いて訓練場を後にしようとして……。
「……フルール!?」
居るはずのない人物の顔を確認して驚愕した。
「フルール、どうしてここに?」
馬を従卒に任せ、ヴィンセントは全身甲冑の重さも感じさせず妹の元へ駆け寄ってきた。
「ごきげんよう、お兄様。実はお母様から……」
言いかけたフルールに、兄は怪訝な表情をする。彼女の手は、右手にパンの詰まったバスケット、左手は……なぜかギイに握られていたから。
これは、訓練場に案内された際、ギイが離してくれなかったからなのだが……。
ヴィンセントは手甲を嵌めたまま、同僚の手首に手刀を落とした。
「痛ってえ! 折れるぞ!?」
フルールの手を離し、自身の手首をさすって大騒ぎするギイに、
「折る気だ」
ヴィンセントは怒気を込めて唸る。
「貴様、嫁入り前の妹に気安く触るなど、どういう了見だ?」
「い、いやだなぁ。フルールちゃんがヴィンスに用があるっていうから連れてきてあげただけじゃないか」
卑屈に笑って誤魔化すギイを置いて、ヴィンセントは妹に向き直る。
「フルール、大丈夫か? なにもされていないか? こいつはケダモノだ。近づくと孕まされるぞ」
「はら!?」
品行方正な兄の口から出た言葉とは思えず、フルールは目を白黒させる。
「ちょっと、俺のことどういう目で見てんだよ、お兄様!」
さすがにギイが抗議するが、
「そういう目だ。あとお兄様って呼ぶな」
ヴィンセントは一蹴する。
「いいじゃん。俺とフルールちゃんが結婚したらヴィンスはお兄ちゃんじゃん」
「しない、させない。そんな未来こない」
ギイの軽口に、ヴィンセントはあくまで冷たい。
「ちぇーっ。妹のこととなるとヴィンスは人が変わっちまうんだから」
唇を尖らせわざと拗ねた口調で言うと、ギイはフルールからバスケットを受け取った。
「差し入れありがと。休憩室に置いておいて、みんなで食べるよ。あとは兄妹でごゆっくり」
「あ、お世話になりました!」
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「それで、今日は何の用だったんだ?」
ヴィンセントにもう一度同じ質問をされて、妹はやっと来訪の目的を答えることができた。
「お母様とパンを焼いたのだけど、作りすぎてしまって。それでお兄様と騎士団の皆様に差し入れで持ってきたの」
「そうか、ありがとう」
にっこり微笑む銀の甲冑姿が眩しい。
「ちょっと待っててくれ、着替えてくるから。城門まで送る」
「はい」
城門なんてすぐそこだから送らないでいいのにとも思ったが、兄の厚意に従い、フルールは騎士団の敷地内に留まることにした。
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