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1.颯人視点
6.捨てられる
その後も亮太は急に俺の家にやってきては俺を抱き、翌朝にはどこかへ消えていった。大学生の俺に気を使っているのか、週末の夜が多かった。
色々聞きたいことは多かったけれど、踏み込んだことを聞いて亮太から連絡が来なくなるのが怖い。俺は、ただ黙って受け入れた。高校生のあの時、俺たちの間に引かれた線は越えられない。
俺たちはあの時以来、もはや友達とかそんな関係ではない。そして今はただセックスをするだけの関係。
端から見ればセフレというものなのかもしれない。亮太からすればただの性欲処理。俺からすれば表向きは罪滅ぼし。だが、その中身は亮太への独占欲でいっぱいだった。1分1秒でも繋ぎ止めておきたくて、ぎりぎりまでセックスをねだることもあった。
そんな関係だからか、一人になるとどうしようもなく寂しくなる時があった。それでも亮太に会えない日々より、性欲処理でも会いに来てもらえる日々のほうがいい。身体を繋げているときだけは、亮太は他の誰のものでもない俺のもの。それだけで十分幸せなのだ。その時間を少しでも長くするだけでいい。
―― そう思っていたのに。
吹き付ける風が冷たくなり、木々の葉っぱが色づき落ち始めた頃、久しぶりに俺のアパートへ来て、いつもより濃厚なセックスをした後、亮太は強い意志を持った瞳で言った。
「しばらくこない」
身体を繋げた当初は毎週のようにうちに来ていた亮太。だが、最近では来る回数も少しずつ減ってきていた。久しぶりに来ても難しい顔をしていたから、俺は不安になって「もっと、もっと」とセックスをねだって繋ぎ止めていた。ついに俺に飽きてしまっただろうか?
「なん……で……?」
尋ねる声が震える。こんな事質問できる関係ではないというのはわかっていても聞かずにいられなかった。
「いや、ちょっとしばらく忙しいから」
俺の視線から逃れるように顔を背けながら亮太は言った。
「いつ……まで……?」
「さぁ? 早ければ春? だめならもっと?」
「そん、なに……?」
俺にとってはあまりにも長い時間。
「もうこない」と言われたわけではないが、俺を拒絶するような、亮太の強い意志を感じる発言に、もう会えないような、嫌な予感がした。意図せず涙がこぼれてくる。
何回か前に、亮太が泊まった日の翌朝だった。
亮太が帰ったあと、買ったばかりの本をうちへ忘れていったことがあった。困るものでもないだろうが、まだ近くにいるだろうから、とあわてて追いかけて目にしたもの。
優しく女性に話しかけ、肩を組んで消えていく後ろ姿。
呆然と立ち尽くす俺の鼻腔に届いた香水の香り。
わかってはいたけれど、問い詰める立場にないのもわかっているけれど、亮太には自分の他にも相手がいるのだ。
「……っ!! やめろよ!! 泣くな!! 俺にだって都合があんだよ!! 俺だって真面目に将来を考えなきゃいけねぇんだよ!!」
「……将来? ……そう……だよ、ね……」
アルファ同士の俺たちに未来はない。俺がどんなに亮太のことを好きでも、亮太の隣に立つのは亮太の子供を産める女性かオメガなのだ。
俺だって、いつまでもこの初恋にすがっていないで、どこかで見切りをつけなくてはいけないのだ。
わかってる。わかっているけれども、どうしても俺は亮太が好きなのだ。小さい頃からずっと。だからこそ、この限られた時間を少しでも離れていたくなかった。
黙っていれば泣いてしまう俺をなだめるように、何度も俺を抱いた。そして、俺はやはり「もっと、もっと」とねだるしか繋ぎ止めておく手段がなかった。
そんな俺を亮太が「お前、めちゃくちゃ淫乱になったな」と笑った。「うん。だからまた来てくれるでしょ?」俺は甘えた声を出す。
だが亮太は「落ち着いたらな」と言うばかりで次の約束はしてくれなかった。
そしていつも通り俺を置いて亮太は去っていった。
「また連絡する」
玄関のドアが閉まった瞬間、俺は再び泣いた。
身体中につけられた赤い鬱血痕。初めて身体を繋げた日と同じ言葉を残して、亮太は俺のもとから去った。
泣いてすがって、監禁して、俺だけのものにしたい。将来なんていらない。今だけでいいじゃないか。
―― 大学卒業して、社会人になったら、俺が養うから、だから俺のもとにいて欲しい。亮太がそばにいてくれるなら、大学をやめて今から働いたっていい。だからどこにもいかないで。
言いたかったけど、言えなかった言葉。
だって、再会した時俺は「元の亮太に戻って欲しい」と言った。亮太が真面目に将来を考えた故の決断なのだ。俺が望んだ通りになったじゃないか。
だが、本当はどんな亮太でもよかった。ただあのとき俺が発した言葉の本音は、亮太を養っているというその相手に嫉妬しただけにすぎない。
亮太が自分の人生を取り戻すのに、俺は不要になった。ただそれだけ。
亮太は昔からずっと俺のヒーローで。ずっと憧れの存在。一瞬手に入れた気になったから、舞い上がっていただけなのだ。もともと亮太は俺のものじゃない。
「しばらく来れないだけ。 今度は別れじゃない……」
そう自分に言い聞かせるが、亮太がどこか遠いところへ行ってしまったような気がして、涙が止まらなかった。
色々聞きたいことは多かったけれど、踏み込んだことを聞いて亮太から連絡が来なくなるのが怖い。俺は、ただ黙って受け入れた。高校生のあの時、俺たちの間に引かれた線は越えられない。
俺たちはあの時以来、もはや友達とかそんな関係ではない。そして今はただセックスをするだけの関係。
端から見ればセフレというものなのかもしれない。亮太からすればただの性欲処理。俺からすれば表向きは罪滅ぼし。だが、その中身は亮太への独占欲でいっぱいだった。1分1秒でも繋ぎ止めておきたくて、ぎりぎりまでセックスをねだることもあった。
そんな関係だからか、一人になるとどうしようもなく寂しくなる時があった。それでも亮太に会えない日々より、性欲処理でも会いに来てもらえる日々のほうがいい。身体を繋げているときだけは、亮太は他の誰のものでもない俺のもの。それだけで十分幸せなのだ。その時間を少しでも長くするだけでいい。
―― そう思っていたのに。
吹き付ける風が冷たくなり、木々の葉っぱが色づき落ち始めた頃、久しぶりに俺のアパートへ来て、いつもより濃厚なセックスをした後、亮太は強い意志を持った瞳で言った。
「しばらくこない」
身体を繋げた当初は毎週のようにうちに来ていた亮太。だが、最近では来る回数も少しずつ減ってきていた。久しぶりに来ても難しい顔をしていたから、俺は不安になって「もっと、もっと」とセックスをねだって繋ぎ止めていた。ついに俺に飽きてしまっただろうか?
「なん……で……?」
尋ねる声が震える。こんな事質問できる関係ではないというのはわかっていても聞かずにいられなかった。
「いや、ちょっとしばらく忙しいから」
俺の視線から逃れるように顔を背けながら亮太は言った。
「いつ……まで……?」
「さぁ? 早ければ春? だめならもっと?」
「そん、なに……?」
俺にとってはあまりにも長い時間。
「もうこない」と言われたわけではないが、俺を拒絶するような、亮太の強い意志を感じる発言に、もう会えないような、嫌な予感がした。意図せず涙がこぼれてくる。
何回か前に、亮太が泊まった日の翌朝だった。
亮太が帰ったあと、買ったばかりの本をうちへ忘れていったことがあった。困るものでもないだろうが、まだ近くにいるだろうから、とあわてて追いかけて目にしたもの。
優しく女性に話しかけ、肩を組んで消えていく後ろ姿。
呆然と立ち尽くす俺の鼻腔に届いた香水の香り。
わかってはいたけれど、問い詰める立場にないのもわかっているけれど、亮太には自分の他にも相手がいるのだ。
「……っ!! やめろよ!! 泣くな!! 俺にだって都合があんだよ!! 俺だって真面目に将来を考えなきゃいけねぇんだよ!!」
「……将来? ……そう……だよ、ね……」
アルファ同士の俺たちに未来はない。俺がどんなに亮太のことを好きでも、亮太の隣に立つのは亮太の子供を産める女性かオメガなのだ。
俺だって、いつまでもこの初恋にすがっていないで、どこかで見切りをつけなくてはいけないのだ。
わかってる。わかっているけれども、どうしても俺は亮太が好きなのだ。小さい頃からずっと。だからこそ、この限られた時間を少しでも離れていたくなかった。
黙っていれば泣いてしまう俺をなだめるように、何度も俺を抱いた。そして、俺はやはり「もっと、もっと」とねだるしか繋ぎ止めておく手段がなかった。
そんな俺を亮太が「お前、めちゃくちゃ淫乱になったな」と笑った。「うん。だからまた来てくれるでしょ?」俺は甘えた声を出す。
だが亮太は「落ち着いたらな」と言うばかりで次の約束はしてくれなかった。
そしていつも通り俺を置いて亮太は去っていった。
「また連絡する」
玄関のドアが閉まった瞬間、俺は再び泣いた。
身体中につけられた赤い鬱血痕。初めて身体を繋げた日と同じ言葉を残して、亮太は俺のもとから去った。
泣いてすがって、監禁して、俺だけのものにしたい。将来なんていらない。今だけでいいじゃないか。
―― 大学卒業して、社会人になったら、俺が養うから、だから俺のもとにいて欲しい。亮太がそばにいてくれるなら、大学をやめて今から働いたっていい。だからどこにもいかないで。
言いたかったけど、言えなかった言葉。
だって、再会した時俺は「元の亮太に戻って欲しい」と言った。亮太が真面目に将来を考えた故の決断なのだ。俺が望んだ通りになったじゃないか。
だが、本当はどんな亮太でもよかった。ただあのとき俺が発した言葉の本音は、亮太を養っているというその相手に嫉妬しただけにすぎない。
亮太が自分の人生を取り戻すのに、俺は不要になった。ただそれだけ。
亮太は昔からずっと俺のヒーローで。ずっと憧れの存在。一瞬手に入れた気になったから、舞い上がっていただけなのだ。もともと亮太は俺のものじゃない。
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そう自分に言い聞かせるが、亮太がどこか遠いところへ行ってしまったような気がして、涙が止まらなかった。
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