前世記憶障害症候群

いつはる

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8 呪いの成り立ち

8-1

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「だってね、変でしょ。私、昔っからフレッドのこと好きだったのよ」

リリアスに乗っ取られた私は、フフフと笑いながら目を閉じ、更に語る。
「夏に会えなくなってから、凄く寂しい思いをしたわ。周りは私を慰めようと、新しい男の子の友達も紹介してくれたの。楽しかったわよ、それでもフレッドと比べることは多かったわ」
ユラユラと身体を揺らしてリリアスは語る。
エリザベスの時とは違い、三木里織経由ではなく、直接身体を使って。これは憑依なのだろうか……まだ自分の意識はハッキリしているけど、抗おうとするが身体が言うことを聞かない。エリザベスの時のように記憶を読むことも出来ない。

「久々に会ったフレッドが『リリィ』って呼んでくれたのよ。私のことを覚えててくれたんだって、気付いてくれたんだって思ったの。でもね……婚約予定の相手がいるって彼の母親から聞いたわ」
ギリギリと奥歯を噛み締め悔しさを滲ませる。
「変でしょ?リリィって私を呼んだのよ。エリザベスならリズでもベスでもいいじゃない?だから伯母様に話したの、本当は私とフレッドが想い合ってるってね。伯母様ったら直ぐに周りの人に話してくれたわ。姪の一途な恋心を応援してやってとね」
フゥと大きくため息をつくと
「それなのに、周囲は何故かあの女とフレッドが婚約するんだと言うのよ、変でしょ。伯父様からも言ってもらったけど、信じてくれない一部の人がいるの。私の想いをわかってくれないのよ。だからね、あの女に後悔させてやろうと思ったのよ」
ニヤニヤと口元が動くのがわかった。嫌な顔をしてるんだろうな……
「茶会の席で無様に吐き苦しめてやろうと準備したのよ。殺鼠剤で使う薬をね……ちょっと紅茶に垂らして出したの。でも失敗したのよ。だから逆に私に毒を盛ったことにしたのよ。苦しかったわ、でも言ってやった、こいつにやられたと!
男たちに連れて行かれる様は最高だったわ。私も病院に行ったけど、大して口に入れなかったから直ぐに病院を出たわ。
次の日警察であの女に会ったわ。絞首刑だと指差してやった!これでフレッドは私と結ばれるはずだと……そう思ったのに」
再び悔しそうにギリギリと歯軋りする。
「あの女、無罪放免で家にいるのよ。フレッドも足繁くあの女の家に通ってるって。
もう変でしょう?おかしいじゃない?何もかも……それなら後は呪うしかないじゃない!」

興奮するリリアスである私を冷めた目で見ながら
「どうやって呪ったんだい、リリアス」
ソロジア先生が問い掛ける。
「昔、牧場の下働きに聞いたのよ。四辻の真ん中に穴掘って、贄を埋めるんですって。そこを呪いたい相手が踏んだ時に唱えるの『贄を捧げる、我が願いに応えよ』とね。そしてどんな風に呪いたいかお願いするのよ。そうすると四辻の魔物が呪いをかけてくれるって。
だから街外れのイチイの木の下に呼んだのよ。前日に贄は埋めておいたわ。あそこも四辻だもの」
ソロジア先生の問い掛けは続く。
「でも、リリアスは行けなかったんだね?」
その問い掛けに突然、ブルブルと小刻みに震えると
「……だって……だって……お父様が帰って来たんですもん」
何故か恐々こわごわとリリアスが呟いた。

◆◆◆

「「リリィ、何てことしたんだ!」
お父様は手に持っていた物をテーブルに叩き付けて言ったわ。あんなに怒ったお父様を見たのははじめて、思わず伯父様の後ろに隠れたの」
リリアスはボソボソと、また語り出した。

「「兄さん!お願いしたよな、暫くリリィを大人しくさせといてくれと!」
普段、伯父様に歯向かうことがないお父様。今回だけは違ったの。
「手紙にも書いただろう、下らない噂を流すのは止めてくれと。リリィの結婚相手は俺が話を付けてるって」
そう伯父様に詰め寄ったわ。
確かにお父様は言ってた、お前が気に入る結婚相手を見つけてくるよと。でもフレッド以上なんて早々いないわ。下らない?私の恋が下らないの?
「伯父様を責めないで、フレッドとはこれから話し合いして……」
一緒懸命説得しようとしたの。
「うるさい!彼にはモルガン嬢がいるだろうが!噂の火消しで慌ただしい時に言われたよ「大丈夫わかってますから、ご両家から聞いてますよ」とね」
お父様自ら噂を否定してたなんて、私だけじゃなく、伯父様も腹を立てたわ。
「お前、リリィの気持ちが分からんのか!小さな田舎の約束事だから世間の目を気にしてるんだろうが、リリィの方が素晴らしいとわかってるだろう」
伯母様はお父様を宥めるように言ったわ。
「そうそう、先日も警察に世話になった娘ですからね。エバンズ家だってもう見切りを付けるんじゃないかね」
そう言うと伯母様は私に目配せして笑ったわ。
わたくしたちで、リリィの初恋を実らせて上げようじゃないか」
そんな言葉を受けてお父様は力なく笑うとソファーに座ったわ。

「そうか……そうかよ。リリィが言ったから、会いに行ったのに……あれは気の迷いだったのか?」
怒ってるのか泣いてるのか……伯父様よりも老けた顔をしてお父様がそう言ったの」
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