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3章 本を旅する
3章 本を旅するー13
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「まぁ、ただ私を驚かせようと、念入りに調べて書いたのかもしれないのですけどね」
「なんでそれをこういう風にアップしたんですか?」
「孫が面白いから公表したらと言うので私がパソコン教室でパソコンを習っているところでしたから、このようにインターネットに妻の小説を細々と発表しているんですよ」
重垣さんはそれまでほぼ相槌を打って聞いていましたが、麦茶のグラスをたん、と置き、
「我々も一緒に探します」
と勝手に宣言してしまいました。
「えっ重垣、そんな勝手に」
しかし、一人さんは「それは助かりますね」と言って、もう立ち上がって案内しようとしています。もう断れなくなってしまったので、「面倒くさい」という言葉を顔に貼りつけたような本中さんを無理やり立ち上がらせ、探すことになりました。
元々この家は妻の明子さんの実家だったそうで、一人娘の明子さんが引き継ぎ、一人一家で住むようになったそうです。そのせいで、読書好きの明子さんが集めた本、雑誌の数は膨大でした。
「孫も本を勝手に置くので、もう訳が分からないんです。要らなさそうなのは、こうして束ねて、チリ紙交換に出しているんですが」
「明子さんが最後に書いた文章はどれなんですか?」
「最後……ですか。いつごろでしょう。ガンになってしまって、急に入院して、とあっと言う間に無くなってしまったもので……。入り口の一番本の多い部屋が妻の書斎でして、そこにあるのだろうとは思うのですが」
本は、最初の部屋のみならず、いろんなところにありました。私たちは手分けして中身を探すことにしました。私と本中さんがもう探したであろう玄関付近の部屋の本、一人さんと重垣さんは屋根裏です。
「屋根裏は本以外にも物が多くて、妻の本が奥に見えるんですが、私一人の力では机をどけれなくて困っていたので、助けていただけると助かります」
重垣さんはニコニコと話す一人さんの説明を聞き「重労働……」と言っていました。
「正直自業自得よ、あいつが勝手にそんなこと言うから」
「でもこうしてくれないと調べれませんでしたよ。一人さんの話だと、明子さんは本中さんと同じような状況なんですから、こうやって調べる価値はありますよ」
「まぁ、そうなんだけどさぁ」
「でもどう思います? 本当に本中さんのように本の世界に入って、そこに隠したんでしょうか」
「私それは無いと思う。だって、あの人は本の中に入れないんだから、その中に隠しても絶対に見つからないもの」
「分かりませんよ、入れるのかもしれない」
「うーん、まぁ本人に確かめたらいいんじゃない?」
本中さんは簡単に言い、「一人明子」の著作を抜き出しました。発行された年を見ると六年ほど前のものです。私の腕を掴み、いつものように「入りたい」と本の世界に飛び込みました。
そこは今までいた、一人さんの家に他なりませんでした。しかしさっき見たのよりも、少し片付いていて、例えば花瓶が飾ってあったり、テーブルクロスがかけてあったりと、なんだか「行き届いている」という感じがしました。この前Web上の小説の中で出会った明子さんよりも少し年を召したような明子さんが、机に向かって座っていました。私たちに気付き、優し気に微笑みます。
「あら、お客さんかしら」
「明子さんですか」
「ええ、そうです」
明子さんは、なにか書いていたようですが、その手を止めました。
「こんにちは。私本中歩といいます。こっちは戸成さん。あなたの旦那さんが、あなたの隠したっていうものを探してるんですけど」
前と同じように、初対面のように挨拶すると、明子さんは
「何言ってるの、この前も会ったじゃない」
というのです。
「えっ」
私と本中さんは顔を見合わせました。
「この前鎌倉で会ったわ、そうでしょう? それで住所を教えたから、私の家に来たのね」
「ええ、そうです、それは明子さんにとってどれくらい前のことですか?」
「そこは少し不思議なの。数日前のように感じるけど、鎌倉の本の旅をしたのは数年前のはず」
実際本の中で明子さんと話したのは数日前のことで、そこはあっています。
「うーん、本の世界の時間軸ではきっと、これはかなり晩年の作品だからあのWebの小説の話は数年前のはずよね」
「私達と話すことで時間に齟齬が生じてしまうんでしょうか」
「晩年?」
私と本中さんの会話を聞いて、明子さんが止めました。
「もしかして、私は死んでいるのかしら」
本中さんがしまった、という顔をしました。そして恐る恐る頷きました。この世界の住人に、未来を言ってしまうのはいいことなのでしょうか?
「そう、でもそんな気がしていたの。だからそんな顔をしないで。大丈夫よ」
そう言われてもなんだか不安です。
「まぁお座りなさいよ、そうめん食べる?」
返答も聞かないうちに、明子さんは勝手に立ち上がって台所でそうめんを作りはじめました。台所の後ろに食卓があり、そこに座ってと言うの座ると、作りながら話をすすめました。
「今、季節ごとの料理をテーマに書いてるの。タウン誌の隙間を埋める小さいものなのだけど」
「普段は小説は書かないんですか?」
「書かないわ。だって思いつかないんだもの。それに、実際の生活のことの方が興味があるの、私はね」
「なんでそれをこういう風にアップしたんですか?」
「孫が面白いから公表したらと言うので私がパソコン教室でパソコンを習っているところでしたから、このようにインターネットに妻の小説を細々と発表しているんですよ」
重垣さんはそれまでほぼ相槌を打って聞いていましたが、麦茶のグラスをたん、と置き、
「我々も一緒に探します」
と勝手に宣言してしまいました。
「えっ重垣、そんな勝手に」
しかし、一人さんは「それは助かりますね」と言って、もう立ち上がって案内しようとしています。もう断れなくなってしまったので、「面倒くさい」という言葉を顔に貼りつけたような本中さんを無理やり立ち上がらせ、探すことになりました。
元々この家は妻の明子さんの実家だったそうで、一人娘の明子さんが引き継ぎ、一人一家で住むようになったそうです。そのせいで、読書好きの明子さんが集めた本、雑誌の数は膨大でした。
「孫も本を勝手に置くので、もう訳が分からないんです。要らなさそうなのは、こうして束ねて、チリ紙交換に出しているんですが」
「明子さんが最後に書いた文章はどれなんですか?」
「最後……ですか。いつごろでしょう。ガンになってしまって、急に入院して、とあっと言う間に無くなってしまったもので……。入り口の一番本の多い部屋が妻の書斎でして、そこにあるのだろうとは思うのですが」
本は、最初の部屋のみならず、いろんなところにありました。私たちは手分けして中身を探すことにしました。私と本中さんがもう探したであろう玄関付近の部屋の本、一人さんと重垣さんは屋根裏です。
「屋根裏は本以外にも物が多くて、妻の本が奥に見えるんですが、私一人の力では机をどけれなくて困っていたので、助けていただけると助かります」
重垣さんはニコニコと話す一人さんの説明を聞き「重労働……」と言っていました。
「正直自業自得よ、あいつが勝手にそんなこと言うから」
「でもこうしてくれないと調べれませんでしたよ。一人さんの話だと、明子さんは本中さんと同じような状況なんですから、こうやって調べる価値はありますよ」
「まぁ、そうなんだけどさぁ」
「でもどう思います? 本当に本中さんのように本の世界に入って、そこに隠したんでしょうか」
「私それは無いと思う。だって、あの人は本の中に入れないんだから、その中に隠しても絶対に見つからないもの」
「分かりませんよ、入れるのかもしれない」
「うーん、まぁ本人に確かめたらいいんじゃない?」
本中さんは簡単に言い、「一人明子」の著作を抜き出しました。発行された年を見ると六年ほど前のものです。私の腕を掴み、いつものように「入りたい」と本の世界に飛び込みました。
そこは今までいた、一人さんの家に他なりませんでした。しかしさっき見たのよりも、少し片付いていて、例えば花瓶が飾ってあったり、テーブルクロスがかけてあったりと、なんだか「行き届いている」という感じがしました。この前Web上の小説の中で出会った明子さんよりも少し年を召したような明子さんが、机に向かって座っていました。私たちに気付き、優し気に微笑みます。
「あら、お客さんかしら」
「明子さんですか」
「ええ、そうです」
明子さんは、なにか書いていたようですが、その手を止めました。
「こんにちは。私本中歩といいます。こっちは戸成さん。あなたの旦那さんが、あなたの隠したっていうものを探してるんですけど」
前と同じように、初対面のように挨拶すると、明子さんは
「何言ってるの、この前も会ったじゃない」
というのです。
「えっ」
私と本中さんは顔を見合わせました。
「この前鎌倉で会ったわ、そうでしょう? それで住所を教えたから、私の家に来たのね」
「ええ、そうです、それは明子さんにとってどれくらい前のことですか?」
「そこは少し不思議なの。数日前のように感じるけど、鎌倉の本の旅をしたのは数年前のはず」
実際本の中で明子さんと話したのは数日前のことで、そこはあっています。
「うーん、本の世界の時間軸ではきっと、これはかなり晩年の作品だからあのWebの小説の話は数年前のはずよね」
「私達と話すことで時間に齟齬が生じてしまうんでしょうか」
「晩年?」
私と本中さんの会話を聞いて、明子さんが止めました。
「もしかして、私は死んでいるのかしら」
本中さんがしまった、という顔をしました。そして恐る恐る頷きました。この世界の住人に、未来を言ってしまうのはいいことなのでしょうか?
「そう、でもそんな気がしていたの。だからそんな顔をしないで。大丈夫よ」
そう言われてもなんだか不安です。
「まぁお座りなさいよ、そうめん食べる?」
返答も聞かないうちに、明子さんは勝手に立ち上がって台所でそうめんを作りはじめました。台所の後ろに食卓があり、そこに座ってと言うの座ると、作りながら話をすすめました。
「今、季節ごとの料理をテーマに書いてるの。タウン誌の隙間を埋める小さいものなのだけど」
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