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プロローグ

クラスメイトとチートメイト

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 四堂たちカースト最下層の仕事は採取だけではない。
 キャンプ地での雑用仕事も多く回される。

「ほい。大皿運ぶのよろしく」
「食材はどうだったー?」
「丸太、運んどいてー」
「服の洗浄と修復、やるよー」

 多くの仕事はチートジョブを持つ者によって処理される。
 料理を作る、家や家具を造る、モンスターと戦う。キャンプ地を結界で守ったり、怪我人の治療などもジョブ持ちが活躍している。
 それぞれの専門家が担当するのは当然であり、むしろそうでなければ、ただの高校生だった彼らが未開の地で生活などできはしない。

 だが、細々とした作業はジョブの範囲外である。
 大量の荷物を運搬するのに『収納師』というアイテムボックス持ちが呼ばれるのは当然だが、料理人が作った料理をテーブルに運ぶ、すぐに使う物を倉庫に片付けておくのは誰でもできるし、ジョブ持ちに頼るほどの事でもない。
 ジョブで貢献できない人間はジョブと関係の無い仕事をより多く割り振られていた。


「仕事の量は平等にしないとな!」

 活躍できるチートジョブ持ちの貢献度は高く、仕事の成果を見れば確かに平等、むしろ四堂たちは楽をさせてもらっているようにも見える。
 だがジョブ補正無しの仕事の方が体への負担が大きく、そういった事情は考慮されない。
 集団における「平等」という言葉は、カースト上位の人間にとって都合が良いように解釈されてしまうのである。




 約一ヶ月間に及ぶ集団生活の中でルールはどんどん増えていき、上の立場の人間はより上に、下の立場の人間はより下に。
 状況が安定すると、支配者は「平等」で「公平」に、「正しい行為」をしていると、自分を肯定する。
 そうして搾取の構造が出来上がる。

 これを覆す事は容易ではなく、相応の力が必要になるのだが……虐げられる人数が最小限になると、その「相応の力」は生まれない。
 声を上げる勇気を持っていたとしても、虐げられ続ける現状が、その勇気を腐らせていく。心が折れてしまう。

 そうして支配者たちは、反対の声が無いからと、より自分の行為を正当化するのだ。




 そして、その行きつく先は。

「みんな、聞いてくれ! 長くこの周辺を探索していたが、近くに人里が無いのはみんなも知っての通りだ!
 だが、そろそろ人のいる場所を目指すべきだと思う! このキャンプ地を出て、人里を目指して旅に出よう!
 川沿いに、下流を目指せば、きっと人の居る所までたどり着けるはずだ!!」

 集団にとって不要な人間の、排除である。

「だけど、先生と花咲さんは……」
「着いて来られないようなら、仕方がない。ここに残ってもらおうと思っている」

 集団の利益、それを最優先にした、弱者の切り捨て。
 「みんなのために」を合言葉に、「みんな」ではない、誰かを作るのだ。
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