継承スキルで下克上!

オリオン

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番人との戦い

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マリちゃんの一撃を喰らい、吹き飛んだ番人がチェンソーをならしながらゆっくりと立ち上がった。
普通ならあんな一撃を喰らえば即死、仮に生きていたとしても逃げるはずなのに。
あの様子を見る限り、番人は一切退くつもりは無いらしい。

「あれだけの一撃を受けて…」
「番人ですからね。この場を守るのが彼の仕事ですし」
「それでもあれは…」

不味い…あのレベルと戦うのにマリちゃんは少し動けそうに無い。
俺とアンヌさんの2人だけで何とか迎撃しないといけないのか。

「あの巨体です。動きは遅い。しかし一撃は非常に重いでしょう。
 食らえば即死。普通に考えれば遠距離攻撃で削るのがセオリーです」
「でも、俺達は遠距離攻撃の手段が」
「えぇ、私しか無いでしょう。そこで非常に危険なのですが
 あなた達2人で注意を私から逸らしてください。
 その間に私は番人へ攻撃し、体力を奪います」
「そんな無茶! 今のマリちゃんは!」
「私の心配より…自分の心配をして…」

確かにマリちゃんが言うとおり、俺があの化け物と戦えるとも思えない。
完全なる支配空間を使用するにしても接近する必要がある。
接近した状態であいつの攻撃を防ぐことは戦闘が得意では無い俺には厳しい…
経験を積んでいけば分からないかもしれないけど
少なくとも今の俺では…戦闘スキルも皆無で
戦闘経験が殆どない今の俺では避けきれるとは思えない。

「それでもこの戦い、ノクさんの協力も必須となります。
 いくら何でもマリさんだけではこの相手は凌ぎきれないでしょうしね」
「でも、ノクにこいつは!」
「……大丈夫だ、マリちゃん」
「はぁ!? ろくに戦えないくせに格好付けないで! 私に任せて!
 これ位…う、うぅ…」

やっぱり爆発的な身体強化を使った反動はかなり大きいみたいだ。
マリちゃんがいくら強くても、万全な状態では無いこの状態で
あいつの攻撃を防ぎきるのは困難だろう。

「あなたの無鉄砲な行動の結果がこれです。自覚を持って反省してください」
「…だ、大丈夫…じ、自分の失敗は…自分で拭う…
 例え反動で辛い状態でも…私は1人で!」
「1人にこだわらないでくれよ、マリちゃん。
 何度も言ってるけど、俺達はチームなんだ。
 少しくらい…俺を信じてくれよ」
「無茶よ、あなたにあれは無理よ。あなたみたいに弱い子が勝てるわけが!」
「俺は1人で戦うわけじゃ無いからさ、アンヌさんも居るし
 勿論、マリちゃんだって居る。確かに俺1人じゃ無理だろうけど
 2人が居るから、きっと戦えるさ」

俺は弱い。完全なる支配空間を上手く扱えたとしても
今の俺には戦闘経験も戦闘スキルも無いのだから。
だけど、仲間が居る…だから大丈夫だ。
戦える。俺は間違いなく生き残れる!

「援護とか頼みますよ」
「任せてください」
「くぅ、あ、足引っ張らないでよね! 死んだら殺すから!」
「2度も死にたくないから生き残ってみせるさ!」

俺とマリちゃんは同時に走り出す。
マリちゃんは左に展開、俺は右に展開した。

「そこ!」
「…」

最初に攻撃を仕掛けたのはマリちゃんだった。
番人はマリちゃんの攻撃を防ぐ。

「…」

マリちゃんの攻撃を防いだ番人は、すぐに反撃を仕掛けた。

「甘い!」

しかし、マリちゃんはすぐに槍を引き、チェンソーを回避
同時に槍で番人の心臓付近を突き刺した。

「ほら、やっぱり弱いじゃない…」
「…」
「マリちゃん!」
「え!? う、嘘!」

だが番人は死ななかった。
番人は既に右手のチェンソーを振り上げていた。
完全に殺したと思っていたマリちゃんは反応が遅れ
このままでは引き抜くよりも早くあのチェンソーが振り下ろされる。

「油断しないでくださいよ」

しかし、振り上げられたチェンソーは番人の側面から飛んで来る
小さな弾丸により僅かに動きを止めた。

「く!」

マリちゃんはその隙を逃さず、すぐに槍を引き抜き後方に下がる。
チェンソーは振り下ろされることは無く、番人はマリちゃんを狙ったままだ。

「くぅ! し、心臓を刺したのに駄目って!」
「弱点は頭部でしょうか…かなり破損させないと無理そうですけど。
 しかし、ダメージは蓄積されているはず。回復をしている様子もありません。
 このまま攻めましょう。くれぐれも油断しないように」
「分かってるわよ!」

番人はすぐにマリちゃんへ追撃を仕掛けた。
その間に俺は急いで番人の方に接近する。

「援護しますよ」

俺の行動に気付いたアンヌさんが、俺の接近に番人が気付かないように
何発も弾丸を放った。
銃声が洞窟中に響き渡ることにより
番人は俺の足音に気付いては居ない。
これが狙いだったんだろう。流石はアンヌさん。

「ちょ! ノク!」
「大打撃なら、俺でも与えられる!」

銃声で俺の足音に気付いていない隙だらけの背後に接近し、
飛び上がって番人の頭部に掌を向けた。
同時に、その掌から大量の剣を召喚する。

「……」

番人の頭部にいくつもの剣が突き刺さる。その剣は全て貫通している。
番人はゆっくりと膝を付き、大きな地鳴りと共に地面に倒れた。

「よ、よし! やっぱり頭部の破壊が有効だったんだ!」
「…いいとこ取りされた気分」
「チーム戦ですよ? 気分よりも全体の生存の方が大事でしょう?
 あなたの槍ではあそこまでの大きなダメージは与えられない。
 スキルを使用すればまだ分かりませんが、スキルの使用ももう無理そう。
 ならば、有効打を与えられそうなのはノクさんだけになりますからね。
 いいとこ取りも何も、あなたでは何も取れなかったんで諦めてください」
「く、くぅ!」
「け、喧嘩しないでくれよ…勝てたんだし! そっちの方が大事だろ?」
「た、確かにそうだけど…はぁ、悔しい」
「さて、奥へ進みましょうか」
「はい」

そのまま、俺達は奥へと進んだ。
この先に何があるか…わくわくは止まらない。
だって、番人が生きていたと言うことはここから先は完全に未開の地なのだから。
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