青と春の少年タロット〜どうやら世界には異能の力があるらしい〜

柄山勇

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第一章

八話 ひと段落

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 辺りにはすっかり夕刻が差し込んでいた。保健室の先生が帰ってくるタイミングで別段異常はなかったと申請し、俺と篠崎さんは共に学校を出た。初日ということもあり生徒は残っておらず、騒々しさより静けさが広がる帰り道を二人で歩く。 
 
 が、今日知り合った仲とは思えないくらい会話は熱中した。 

「此処の学校にはラノベがたっくさんあるの! つい最近だって七冊ぐらい入ってきたんだから」 
「そんなにか…、公立だと教育上の影響とかなんとかで置いて無い高校が増えて
るのにな」 
「うん! だからこの学校は本当に珍しいんだ」 

 人懐っこい犬みたく元気よく話す彼女。このままラノベが有り続ける限りずっとこんな調子な気がする。 

「へえ、でもうちの図書館っていつ行ってもガラガラだよな」 
「うーん、それについては色々言いたいことあるけど、一番は図書館の仕組みが腐ってるところ」 
 
 腐ってる?っと聞き返す俺に彼女は一から説明してくれた。 
 
 要約すると、
 
    図書館の本は、借りるまでの処置が相当大変。 
    貸し出し利用の婆さんが必ず何かしらの嫌味を言ってくる。 
    ラノベを借りた暁には、一部の図書係から笑われる、など。

 経験を交えて解説をする彼女、それらを明かしていく中で俺自身小骨が刺さるような引っ掛かりを覚えた。何か、、何かを忘れているような…………あっ! 

「そういや、俺白紙に本の名前書いてない!」 
「……白紙に本の名前?」 
 
 突如大声で叫んだ俺に対し、煩そうに質問を投げかける。理不尽な仕組みについて詳しい人間が何故か忘却されているのは不可思議であるが頓着なく告げると、寸刻で彼女は了解を顕示した。 

「そんなの……あったね」 
「待て。まさか書かなくていいなんてことは、」 
「書いてもいいけど出す必要はない。確か校内放送してたと思うけど、来客数も変わってなさそうだから誰にも聞かれてないのかも」 
「いつやってた?」 

 うーんと彼女は首を傾げて、 

「去年の九月頃。確か土曜の臨時部活の際に流れたと思う」 
「聞けるわけないやん!!」 

  頑張った勇気が水の泡。がっくりと肩を落とす体裁にたわいない笑い声が副音声で進行した。 
 
 篠崎さん、その人だ。 

「ふふ、西岡くんってさ、」 
「え?」 
「とーっても、面白いね」 
 
 満面の笑みを芽生えさせて、楽しそうに笑いかける篠崎さん。今この時は、教室とツンとした雰囲気より鼻歌を口ずさんでいた華やかさの方に似た匂いがした。 

ーーーはは、朝とは似て非なる態度だな。 
 
 なにがこの人をあんな風にしか取り繕えない人間にしたのかは知らない。けれどもし、それが変化できるなら、彼女のこの姿がもっと大勢の人に届いたらいいなと不覚にも考えてしまう自分がいる。 

「昼休みは、沢山の人が図書館に居るのか?」 
「多くはない、寧ろ少ないけどちらほらと。この学校ってラノベはあるけど、漫画はないから」 
 
 五、六人の女子が小説を立ち読みしてるっと言い終わったところで言葉を重ねる。「だったら入学式も終了して優劣がさほど分かれてないこの一か月で、色々と検討していくのがいいと思うんだが」 

「その場所が、図書館?」 
「ああ。そんなもんでどうだ?」 

  少し踏み込み過ぎたかと後悔を催しそうになるが彼女は違った。 
    そっと目を瞑り胸に手を当てて静かに調子を整える。そうして、ゆっくりと見開いた。 

「お願い、ほんとに受けてくれるの?」  

 不安そうな声色。俺は淀みなくこれに答えた。 

「ああ」 
 

 ***** 


〈長山〉 
 和気藹々と会話する西岡と篠崎。二人が仲良さしげに下校する最中、それらを眺める一つの影があった。 

「どうして、」 
 
 嘘だと思った。そんなわけないと疑った。この瞬間にも影は一ミリたりとも信じたくなかった。 
    憎らしく、血が流れるのを顧みず舌を噛む。しかしながら現実というものは残酷で たけだけしく、それは影も同じことだった。 
 
 影は羨ましげに二人を見つめ、そのうち焦点が一つの方向に定まっていく。低く漏れたその声を聞き取れたものは誰も居ないであろう。 

「篠崎紬希…………、絶対潰す!!」 
 

***** 


〈謎の二人組〉 
「爺じ。能力って何かの拍子に覚醒とかする?」 
「前例がない。あり得ないとは思うぞ」 

 笑いながらそう言う老人を不思議に思う少女。 
 すると、彼は自分にしか聞こえない範疇で言葉を紡いだ。 

「今回の任務、遊んでる暇はなさそうじゃな」 
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