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第9話

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「ちょっと難しい話だったな。すまんすまん」

 ガロッゾ先生は笑いながら頭をガシガシとかいた。空気が少し軽くなった気がした。「ふぅ」と一息ついてから。


「少し話が逸れたな、話を戻すとしよう。……魔物は怖いものだ。人間より強い力、丈夫な体、素早い動き。ちゃんとした知識が無いと危ないから、よく話を聞くように」
「知識ならリリアン先生じゃないんですか? 」

 ルナは腕を真っすぐ挙げて質問した。


「確かに知識だけだったらリリアン先生の分野だな。だが経験を含むと俺になる。まぁ、リリアン先生も経験は結構あるがな。無駄に歳を取ってねぇってことだ」

 ガロッゾ先生は「ガハハ」と大きな口で大きな声を出して笑った。いつもの先生に戻ったようで子供たちの表情も明るくなった。 
先生の笑い声がしばらく続いて、教室の雰囲気が良くなると授業が再開された。


「俺の専門は魔物退治だ。要するに、魔物をどうすれば倒せるかよく知ってるって事だ。それをおまえらに教える。」

「でもこの辺に魔物っていないんですよね? じゃあ別に知らなくてもいいんじゃないですか? 」

 この村は闇から遠いから魔物がいない。先ほど教えてくれた事だ。魔物の脅威が無いなら対処の方法など知らなくてもいいんじゃないか。子供たちは口々に唱えた。


「よく聞いてたな、いいぞ。けど、こうも言っただろ、色んなやつがいるって。リリアン先生も魔物の事はよくわからないって言ってたろ。だから準備しておくんだ、自分の身ぐらいは自分で守れるようにな」

「魔物がこの辺りまで来るかもしれないって事ですか? 」

「まぁ、用心に越した事は無いって事だ。」

 そう言うとガロッゾ先生は魔物の事から教えてくれた。


「魔物ってのは基本的に獣の姿をしている。犬、猫、猪、鳥や猿だったりな。でも一目見れば普通の生き物じゃない事がわかる。目や口が複数ある」

「うぇ~、気持ち悪い」

 子供たちは舌を出しながら、しかめっ面をした。


「さらに複数の触手みたいな物まで持っている奴もいる。それで、こちらを攻撃してくるんだ」

「先生ちょっといいですか? 」

「ん? なんだ? 」

 手を挙げたのはルナだった。いつも通り真っすぐ綺麗な姿勢だ。


「魔物って狂暴なんですよね? 」

「そうだな。魔物に殺される人は少なくない」

「じゃあなんで動物は、いっぱい居るんですか。人が襲われるなら動物も襲われるはずですよね? 動物がいなくなった、なんて聞いた事ありませんよ」
 
 この村は農業をしているが、それだけでは食料を賄えない。動物を捕まえて肉も食べているし、近くの川から魚も釣って食べる。

 魔物が動物を殺しているなら何かしらの影響があるはずだが、今のところそんな感じは無いし家族から聞いた事も無い。たまに他の村から行商の人が来るが、やはりそんな話は無い。

 そうなると”魔物が狂暴だ”と言う話が大げさに聞こえる。ガロッゾは「ああそれは」と言って話を続けた。


「あいつらは動物をなぜか襲わない。まぁ飯を食わないからな。でも不思議で人の事は襲うんだ。何かしらの本能みたいなもんなのかもな」

「魔人も動物は襲わないんですか? 」

「ああ。魔人も人しか襲わない」

 魔人も魔物も人間しか襲わない。これは人間を敵と認識していると思った方がいいだろう。そうなるとガロッゾ先生の言う通り自衛手段を覚えておいた方が良いだろう。


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