異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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新しい命

 10月の心地よい季節に、私は元気な男の子を産んだ。
 
「マッドによく似ている、賢そうな子だな。髪の色は金髪とまではいかないが、明るい薄茶色だ。これは将来が楽しみだ」
 
 ミシェラン侯爵であるお爺様はひ孫を褒めてばかりいた。
 
「お爺様が名前を付けてくれると聞いていますが、決まりましたか?」
 
 私が尋ねると、お爺様は頭を抱えた。
 
「たくさんの候補はあるんだが、いまだに迷っているんだ。もう少し待ってくれるか?」
 
 お爺様は今では領主仕事の大半をマッドに任せるようになったので、毎日のようにひ孫に会いに来てくれる。
 
 お父様とお母様は、新たにブライトン領となった街を治めるのに忙しく、まだ一度しか孫を見れていない。
 
「そういえば、ジルとドナの子供もあと数カ月で生まれるだろう」
 
「はい、二人の子供の名前は、男の子だったらマッドが名付けするそうです。今のお爺様のように、マッドも悩んでいましたよ」
 
「もし男の子だったら、この子の側仕えにちょうどいいな」
 
「ジルもドナもそのつもりでいるようです」
 
 ドナは大きなお腹をしていても、変わらず元気に働いてくれていた。今は私の代わりに薬草園の世話までしてくれている。ドナの出産予定は来年の一月だと聞いていたので、私も楽しみにしていた。
 
 ドレスデン国では、男の子が生まれると一家の主人が名付け親になることが多い。そして女の子の場合は母親が決めることが多いそうだ。もしドナの子供が女の子だったら、ドナは私と相談して決めたいと言ってくれていたので、実は密かに名付け本をこっそりと読んでいたりする。
 
 私が産んだ子はお爺様の言うようにマッドによく似ているけれど、リオにもどこか似ていると思う。特に口元はリオにそっくりだ。
 
 名前が決まったら、マッドが正式に鑑定をして魔法属性やスキルを教えてくれるだろう。私にはよく分からないけれど、名前がないと鑑定しても弾かれて見れないらしい。
 
「この前、デイルから手紙が届いたよ。あの子の子供ももうすぐ二歳だそうだ」
 
 デイルはお爺様とは血が繋がってはいないけれど、今でも大切な孫だ。リスタ男爵と共にリスタ村で頑張っている。
 
「可愛い盛りですね。リスタ男爵の治めている村も順調に成果を上げていると聞いています」
 
「ああ、陛下の耳にも入ったらしく、喜んでおられたよ」
 
 お爺様は本当に嬉しそうにリスタ男爵とデイルのことを話していた。言葉には出さなかったけれど、ずっと心配だったのだろう。
 
 デイルからはマッドと私宛にも手紙と出産祝いの品が届いていた。出産祝いの品は小さな木彫りの玩具で、リスタ村の職人が作成した物だと書かれていた。そして手紙には感謝の気持ちとお爺様を自分の代わりに労わってほしいという内容が綴られていた。本当にデイルは変わったのだと思う。
 
「マッドも最近は仕事に慣れてきたようで良かった。このままいけばミシェランも安泰だ」
 
 マッドは領主の仕事をとても頑張っていて、今のところは順調だと言っていた。お爺様がこれまでしてきた領地運営が完璧だったのもあり、プレッシャーもあったようだが、今は力を入れすぎないように、できることからやっているようだ。
 
「お爺様のご教授はまだまだ必要ですから、これからもよろしくお願いしますね」
 
「キャロルはすっかり大人になったな」
 
「私も日頃から頑張っていますから」
 
 最近ではお爺様と私はすっかり茶飲み友達になっている。
 
 お爺様が帰られてから、私は薬膳料理をいろいろ作っていた。ヒュムスカの町にある私の店舗に出す新作を考案しているところだ。何種類か作ったので、使用人にも食べてもらい感想を聞こうと思う。
 
 マッドが仕事から戻ってきたので早速試食をお願いしたが、マッドは褒めるばかりであまり参考にならない。
 
「キャロルの薬膳料理はどれも本当に美味しいよ。それよりも、お爺様は名前付けてくれた?」
 
「まだ考えてくれているそうよ。マッドこそ、ジルたちの子供の名前は考えたの?」
 
「俺はまだだが……。だってまだ生まれてもいないだろう?」
 
「でも、私が産む前にはお爺様も同じようなことを仰っていたわよ」
 
「キャロル、何だかリオに少し似てきたな」
 
 私とマッドは顔を見合わせて二人で笑った。リオたちがいなくなった後も、私はマッドの隣でいつも笑っている。
 
 二日後、お爺様がようやく名前を付けてくれたので、マッドは早速鑑定をした。
 
リアム
 * 誕生日: 10月
 * 属性: 風
 * 魔力: 特大
 * 加護: 男神アマスの加護
 * スキル: 真偽判定、空間、鑑定、速読、地図、遠見、釣り、建築
 * 戦闘スキル: 大剣、体術
    
   「真偽判定に、釣りって……」
    
    私がそう言うと、マッドが大笑いした。
    
   「すごいな。美味い魚がまたそのうち食べられるぞ」
    
   「遠見?私から引きついだ唯一のスキルよね」
    
   「うーん、違う気がするな。だがまだ何ともいえないかな」
    
   「え――私のスキルを全く受け継がないなんて……」
    
   「次の子はきっと受け継ぐよ」
    
   「今のは直感?」
    
   「いや、キャロルにそっくりな女の子が欲しいと思ったんだ」
    
    そう言いながら、マッドは私を抱きしめた。
    
    そして12月の終わりに、ドナが出産した。とても元気な男の子だった。目元はドナに似ているけれど、他はジルに似ているように思うが、まだよく分からない。
    
    マッドは散々迷い、最後にはチャドと名付けた。
    
   チャド
 * 誕生日: 12月
 * 属性: 火
 * 魔力: 大
 * 加護: 男神ルカスの加護
 * スキル: 執事、管理、整理
 * 戦闘スキル: 拳、身体強化
    
   「スキルを見ると、ジルとドナを足したようでとても優秀だ。賢くて強くなるだろう。リアムを立派に支えてくれそうだな」
    
    お爺様がチャドを見て満足そうにそう言ってチャドを眺めている。
    
   「ええ、チャドがお役に立てるように、今から私がビシビシ教育しますよ!」
    
    ドナが元気にそう言った。
 
 ドナは出産後の翌々日にはいつもと変わらず元気に働き始めている。ジルもしばらくは休むように言ったが、寝ているとかえって身体がしんどいと言うので結局はドナの好きなようにさせている。
 
 祝福の日には、お父様とお母様がミシェランに何日か滞在することが出来たので、毎日のようにリアムに会いに来ては嬉しそうに世話をしている。リアムはよく笑う子で、愛想もいいので、お父様もお母様もメロメロだった。
 
「すごいな。真偽判定に釣りとは、たいしたものだ」
 
 お父様がそう言うと、お母様が「そうね。新鮮な魚が食べたくなったわ」と言い笑い合っていた。
 
『リオ、みんな笑っているよ。私はすごく幸せに暮らしているから安心してね』
 
 私は心の中でリオに話し掛けた。
 
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