異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

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犯罪者たちの末路

 あの森で捕らえた犯罪者三人は、すぐに犯罪奴隷となることが決まり、王都の奴隷商に売られることになった。

 カルロさんが言うには、一度犯罪奴隷となれば、王命でも発令されない限りは死ぬまでその身分から解放されることはないという。彼らの行末に、私たちの間に言葉はなかった。代わりに、彼らの逮捕による懸賞金として38万リラもの大金が、私たちの共用口座に入金された。
 
 私たちはこの村で、以前から何かと注目されていたようだが、今回の事件でさらに目立ってしまったらしい。以前からそうだったが、マッドやリオを見ると女の子たちは顔を真っ赤にして俯いてしまうし、男の子は私に声をかけようとしても、目が合うと黙り込んでしまう。
 
 そのことを薬屋のクレアさんに話すと、彼女は不思議そうな顔で私に言ってきた。
 
「キャロルちゃん、貴方は自覚がないの? それとも天然なの? 貴方たち三人の話は、おそらく村の皆が全て知っているわよ。例えば、よく受けるクエストとか、親しくしている人とか、貴方たちがどうやって暮らしているかとか、貴方たち以上に知っているはずよ」
 
 クレアさんの言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。
 
「えっ、何故そんなに知ってるの? 私たちはあまり目立ちたくないんですけど……」
 
「ええ、私は知ってるけど、それは無理だと思うわ。ミシェランくらいの大きな街なら、それほどは目立たないかもしれないけれどね」
 
 クレアさんの言葉に、私はハッとした。
 
「ミシェラン……そういえば、ギルドのお姉さんが、そろそろミシェランのクエストを受けないかと聞いてくれていたわ」
 
 クレアさんは、私の困惑した顔を見て、クスリと笑った。
 
「ミシェランは大きな街だから、ぼうっとしてたら攫われるわよ。行くのだったら、絶対に細い道には入っちゃ駄目だからね。それと、男の子のような格好をした方がいいわ。分かった?」
 
 クレアさんは、薬草関係のクエストをいつも私に指名で依頼してくれる、綺麗でしっかり者のお姉さんだ。隣の診療所のグレンさんの奥さんでもある。クレアさんは私に薬草の知識や薬の作り方を教えてくれるし、グレンさんは医術を教えてくれる。私にとって、本当に素晴らしい先生たちだ。
 
「クレアさん、そろそろ私はギルドに行きますね」
 
「あら、もうそんな時間なのね。本当に良く働くわね、貴方たちは。じゃあ、頑張ってね」
 
 私はクレアさんに別れを告げ、ギルドへと向かった。今日は午後から、何かクエストを受ける予定だ。
 
 今日のギルドのおすすめクエストは二つ。溝掃除と倉庫への運搬作業だった。
 
「私は溝掃除はできるけど、運搬作業は無理かな」
 
 私が言うと、マッドが頷いた。
 
「そうだな。俺は力をつけたいから運搬作業をするよ。リオはどうする?」
 
「うーん、僕はキャロルと溝掃除をしようと思う。キャロルを一人で行かせるわけにはいかないからね」
 
 それを聞いた受付のお姉さんが、にこやかに話しかけてきた。
 
「それは問題ないですよ。溝掃除は女の子も何人か参加しますし、同行するのは優しいお爺さんですからね。運搬作業の方が人手が足りないので、可能であればリオさんには運搬のクエストを受けていただきたいですね。どうされますか?」
 
 お姉さんは、笑いをこらえているように見えた。
 
「すみません、冗談ですよ。溝掃除が安全なのは本当ですけどね。無理はいけません、適材適所ですからね。マッドさんは運搬作業で、リオさんとキャロルさんは溝掃除で良かったですか?」
 
 私とリオとマッドは、大声で笑いながら頷いた。
 
 私とリオが溝掃除の現場に到着した時には、既にお爺さんと三人の子供たちがいた。15歳の長女のミーナさんと、その弟さんと妹さんの三人姉弟だ。私たちのすぐ後に二人やってきて、作業が始まった。
 
 ミーナさんは、ここでの溝掃除を何度も経験しているので、中心になって指示を出してくれる。私は「生活魔法」を使いながら、割り当てられた右端の溝を作業していた。生活魔法には自信がある。「綺麗になれ」と念じれば、一瞬でピカピカになるし、魔力量も全く問題ない。だが、隅の方は、やはりしっかりと手を使って拭き取らないと綺麗にはならない。レベルの問題なのかもしれないが、魔法も万能ではないのだろう、と改めて思った。
 
 昼休憩の時間になったので、一旦作業を止めた。ミーナさんたちもお弁当を持参していたので、五人で一緒に食べることになった。ミーナさんたちは、この村でご両親とずっと暮らしていて、ギルドを通して仕事をもらっているようだ。この村にとって、ギルドは就職先を斡旋してくれる場所なのだという。10歳になると、家の仕事を継がない子供はギルド登録をして、15歳くらいになると適した就職先を紹介してくれるらしい。そして、その就職先のほとんどは、ミシェランになるそうだ。
 
 ミーナさんが、少し寂しそうに笑った。
 
「冒険者になる人は少ないのよ。冒険者なんて若いうちしかできないし、本気でやってたら早死にするか、片腕を無くすかだもの。冒険者で成功する人なんて、ほんの一握りの人間よ。この村はすごくいい所だけど、定職に就けるところはないからね。だから、ギルドに良い就職先を紹介してもらうために、普段から頑張っているの。妹も働ける年になったし、そろそろかなって……」
 
 その時、弟が口を挟んだ。
 
「姉ちゃんは、隣のハイド兄ちゃんと結婚すれば、ここに住めるだろう! 母さんはあまり身体が丈夫じゃないし、俺も離れたくないしさ。なんでハイド兄じゃ駄目なんだよ!」
 
 ミーナさんは、真っ赤な顔で弟を睨みつけた。
 
「何を言い出すのよ! あんたは黙ってなさい! ハイドは私と同い年よ。結婚なんてまだまだ先だし、第一、お互いそんな感情持ってないわよ!」
 
 だが、妹が、決定的な一言を放った。
 
「ハイド兄ちゃん、お姉ちゃんの事、好きだって言ってたよ! 将来結婚したいって、お父さんに言ってたの、私、聞いたもん!」
 
 妹の言葉に、ミーナさんは更に真っ赤な顔になり困惑しきっていた。
 
「ハイドさんって人、なかなかやるねぇ。まずは外堀から埋めるなんて……あっ、イタッ!」
 
 リオが話し終わる前に、私は彼の頭をゴツン、と軽く叩いた。
 
 休憩も終わり、私たちは再び作業に集中した。予定よりもかなり早く終わり、午後3時ごろにはギルドに着いた。

 ギルドで報酬を受け取り、カルロさんと話していると、マッドも運搬作業を終えたようで、報告に現れた。彼が近づいてきた時、私はそっと「浄化魔法」をかけた。彼の身体から、一日の汚れや疲労が、薄い光となって消えていくのを感じる。
 
「ありがとう、キャロル。スッキリしたよ」
 
 マッドは、誰にも聞こえないように、私の耳元で囁いた。相変わらず、彼は爽やかで格好良いと、私は思った。彼の疲れが癒されて、私もホッとする。
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