2 / 4
02
しおりを挟む場所をかえて。
ひたすらジェラルドの兄の公爵令息に頭を下げられながら案内されて。
自国よりついてきている護衛の騎士たちとぞろぞろと。
その先の広い部屋に案内されるとすぐにこの国の国王も飛び込むように、部屋に。
「申し訳ないー!」
スライディングに何かしそうな勢いだ、とルーナに控えていたお付きが小さく。吹き出させるなと肘打ちしたルーナは偉い。
「あらまぁ、転ばないようにお気をつけて?」
ルーナの声かけは優しく。その手をつく直前を「やめろや」と。一国の王が頭を下げるのはさすがに。
まだ、甥っ子さんのおいたな段階なのだし。
正直なところ、ルーナはまったく怒ってない。
むしろ――おもしろい見世物だった。褒めてつかわす。
そんな気分。
そしてこれから第二部が始まる。
公爵令息が弟をとっちめる――何故あのようなことをしでかしたのかを聞き出すと、なんとも呆れるお話し。
「だって、母さまも伯父さまも、兄さまだって、僕がそのうち王さまになれるって……」
ひっくひっくと……十五歳にもなろう男がしゃくりあげながら話す内容は。
ジェラルドは幼い頃より「いつか自分が王に」と聞いて育ってきたと。
特に母は「いつかジェラルドの国に……楽しみだわ。物語の舞台に行きたいわ」と、自らもそこで暮らしたいと、友人である侯爵夫人に話をしていて。それを早いうちから母についてお茶会に出ていたおませなフローディア嬢も、聞いていたそうな。
そして幼馴染なふたりはいつかジェラルドが王さまになったら……な、お話しを良くしていたそうで。
「あー……」
聞いてルーナは何とも呆れる。
ちゃんと教育できなかったのですねー、と。
だからジェラルドに、もう一度尋ねた。
「どちらの国の王様になられるのですか?」
と。
「え、この国のだろ?」
きょとんと。
何を言っているんだと、むしろまだルーナを馬鹿にしたような表情のジェラルドに拳骨を落としたのは兄と、同じく駆け込んできて事情を聞いた――王太子。ジェラルドの年の離れた従兄弟。
そうこの国の、ちゃんとした王太子。
「この無礼者めが!」
「ぴぇん!? 父さまにも殴られたことないのに!」
「ならば私がかわりにだ!」
兄がもう一度。一発目より痛そうな音が。
母も母だと、血走った目で公爵令息はため息をつく。母は自分も殴られるとぶるぶる震えている。公爵ご自身は本日は領地にどうしても外せないご用事があったとかで不在であったのが。お兄さんがその分、総責任者。
集められた王族と、関係者だからと侯爵家のフローディアとその保護者。
これで揃ったかしらと、ルーナは怒る兄君を「まあまあ」と制して。
「おかわいそうに。理解してらっしゃらないのなら、ジェラルドさまに説明しなおして差し上げるべきでしょ?」
「は、申し訳ありません!」
ジェラルドは兄がルーナにへりくだっているのかわからないと、またきょとんとしている。しかも自分を「かわいそう」と哀れまれた。
「た、ただの伯爵令嬢が、え、えらそうに!」
「まだ言うか!」
「びえん!?」
教育し直しなさいよー、と心の中でつぶやきながら、ルーナはせめて優しく教えてあげた。こんな小せぇものは怒りの対象にもならないのだ。彼女には。
「わたくし、伯爵令嬢ではありますが、ただの、ではありませんの」
王族や公爵位にとってはそう思うかもだけど、伯爵位だってとってもえらいのに。
それに、そもそも――。
「そもそもね、ジェラルドさま……貴方、わたくしの婚約者候補の一人でしかなくってよ?」
だから棄権するならあっさりと認めるだけである。
そう、まだまだ「お婿さん」候補はいっぱいいて。
「わたくしが、フィジーメール王国の次の女王なの」
369
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!
酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」
年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。
確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。
だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。
当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。
結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。
当然呪いは本来の標的に向かいますからね?
日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。
恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。
イチイ アキラ
恋愛
「ディアーナ! お前との婚約を破棄する!」
その日、アルテール公爵令嬢のディアーナは国外追放を命じられた。
王太子ヒューバードの愛しき人、ソレイユへの非道の罪により。
ソレイユは義母と義姉より虐げられる哀れな娘であった。
そんな娘をディアーナも、また。
嗚呼、なんて冷たい女だろう――と。
そしてディアーナは、国のお外にほっぽりだされた。

かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉
菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。
気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。
姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。
全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。

「これは私ですが、そちらは私ではありません」
イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。
その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。
「婚約破棄だ!」
と。
その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。
マリアの返事は…。
前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!
ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」
「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」
王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。
しかし、それは「契約終了」の合図だった。
実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。
彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、
「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。
王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。
さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、
「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。
「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」
痛快すぎる契約婚約劇、開幕!

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる