5 / 7
思いやりを忘れなかった男
しおりを挟む
むかしむかしあるところに、娘を亡くした父親がおりました。
男の悲しみは深く、苦しみが癒えることはありませんでした。彼は、早春に咲く花のように優しい娘を、心から愛しておりました。かつて病気で妻を亡くした男にとって、娘は全てだったのです。
彼の娘は、心清らかな下位貴族の美しい少女をいじめたと、まことしやかに噂されておりました。嫉妬にかられた己を恥じて、命をたったというのです。
何日も何日も、男は泣きました。霊廟に横たわる可憐な骸にすがり、涙をこぼして問いかけます。
「お前は何故、これほど追い詰められてしまったのだ? 美醜など、こだわっていなかったではないか。お前ほど清らかな心の持ち主など、どこにもいない。私が聞かされた事情は、真実なのか?」
男は、娘の悪い噂について念入りに調べました。結果の報告を受けた彼は、じっと黙り込み、何かを考えている様子です。
男はもう、泣いてはおりませんでした。
男は魔導工学の技術者たちに、特別な自動人形を作らせました。所有者の魔力が動力源で、定期的にわけてやれば問題なく動きます。生身の人間との違いは、専門家がよく観察しないと分からないほど精巧な代物でした。
数年がかりで完成した自動人形は、彼の娘と同じ顔をしており、同じ名が与えられました。
男はしばらく、その人形と暮らしていましたが、彼はそれを王様へ献上しました。
「この自動人形は私の宝です。忠誠の証しとして、苦境にあられる陛下へお譲り致しましょう。彼女は聞き上手で、誰かを批判することはありません。ただし、必ず大切にし、動力を絶やさず、傷ひとつつけぬよう約束してください」
この王様は、身分の低い女性と結婚し、彼女の無能さに苦しめられておりました。
王妃様は素養が足りないばかりではなく、心の冷たい女性でした。妬心が強く執念深い気質で、何年も前に敵視した相手のことを、毒アザミ、棘花などと、いつまでも嘲る始末です。美人と名高い御方でしたが、ひとを罵る歪んだ顔は、たいそう醜く見えるのでございました。
王様は、若い情熱にまかせて愚かな結婚をしたことを、とても後悔しておりました。夫婦仲は険悪で、喧嘩ばかりしています。まともに話さえできません。王様には心の慰めが必要でした。
家来たちが自動人形を調べましたが、暴力的な機能は搭載されておりません。会話を楽しむためにつくられた、安全でおとなしい人形です。
孤独な王様は、この贈り物をとても喜びました。ほとんど毎日、自動人形へ語りかけます。
「シスル、シスル、最愛の人。私の話を聞いておくれ……」
何年か後、王様と王妃様が亡くなると、新しい女王様はねぎらいの言葉とともに、自動人形を元の所有者へお返しになりました。王国へ示した男の忠義を、大変お褒めになられたのです。
こうして、娘を亡くした父親は、再び人形と暮らし始めました。年月が、心の痛みを和らげたのでしょうか。男はもう、自動人形を、亡き娘の名では呼びませんでした。人形には新しく、美しい名前が与えられたそうです。
神様は、悲しい状況でも思いやりを決して忘れない、この男を祝福したに違いありません。彼の余生は穏やかなものでした。
男が老いて、安らかに息をひきとると、この自動人形は親戚に譲られたと言い伝えられています。今も王国のどこかで、家来はいても友達がいない悲しい貴人を、支えているのかもしれませんね。
男の悲しみは深く、苦しみが癒えることはありませんでした。彼は、早春に咲く花のように優しい娘を、心から愛しておりました。かつて病気で妻を亡くした男にとって、娘は全てだったのです。
彼の娘は、心清らかな下位貴族の美しい少女をいじめたと、まことしやかに噂されておりました。嫉妬にかられた己を恥じて、命をたったというのです。
何日も何日も、男は泣きました。霊廟に横たわる可憐な骸にすがり、涙をこぼして問いかけます。
「お前は何故、これほど追い詰められてしまったのだ? 美醜など、こだわっていなかったではないか。お前ほど清らかな心の持ち主など、どこにもいない。私が聞かされた事情は、真実なのか?」
男は、娘の悪い噂について念入りに調べました。結果の報告を受けた彼は、じっと黙り込み、何かを考えている様子です。
男はもう、泣いてはおりませんでした。
男は魔導工学の技術者たちに、特別な自動人形を作らせました。所有者の魔力が動力源で、定期的にわけてやれば問題なく動きます。生身の人間との違いは、専門家がよく観察しないと分からないほど精巧な代物でした。
数年がかりで完成した自動人形は、彼の娘と同じ顔をしており、同じ名が与えられました。
男はしばらく、その人形と暮らしていましたが、彼はそれを王様へ献上しました。
「この自動人形は私の宝です。忠誠の証しとして、苦境にあられる陛下へお譲り致しましょう。彼女は聞き上手で、誰かを批判することはありません。ただし、必ず大切にし、動力を絶やさず、傷ひとつつけぬよう約束してください」
この王様は、身分の低い女性と結婚し、彼女の無能さに苦しめられておりました。
王妃様は素養が足りないばかりではなく、心の冷たい女性でした。妬心が強く執念深い気質で、何年も前に敵視した相手のことを、毒アザミ、棘花などと、いつまでも嘲る始末です。美人と名高い御方でしたが、ひとを罵る歪んだ顔は、たいそう醜く見えるのでございました。
王様は、若い情熱にまかせて愚かな結婚をしたことを、とても後悔しておりました。夫婦仲は険悪で、喧嘩ばかりしています。まともに話さえできません。王様には心の慰めが必要でした。
家来たちが自動人形を調べましたが、暴力的な機能は搭載されておりません。会話を楽しむためにつくられた、安全でおとなしい人形です。
孤独な王様は、この贈り物をとても喜びました。ほとんど毎日、自動人形へ語りかけます。
「シスル、シスル、最愛の人。私の話を聞いておくれ……」
何年か後、王様と王妃様が亡くなると、新しい女王様はねぎらいの言葉とともに、自動人形を元の所有者へお返しになりました。王国へ示した男の忠義を、大変お褒めになられたのです。
こうして、娘を亡くした父親は、再び人形と暮らし始めました。年月が、心の痛みを和らげたのでしょうか。男はもう、自動人形を、亡き娘の名では呼びませんでした。人形には新しく、美しい名前が与えられたそうです。
神様は、悲しい状況でも思いやりを決して忘れない、この男を祝福したに違いありません。彼の余生は穏やかなものでした。
男が老いて、安らかに息をひきとると、この自動人形は親戚に譲られたと言い伝えられています。今も王国のどこかで、家来はいても友達がいない悲しい貴人を、支えているのかもしれませんね。
0
あなたにおすすめの小説
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる