黄昏時奇譚

歌川ピロシキ

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黄金の小鳥

樹木の医師

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「樹医さんって何よ?」

「樹のお医者さんだよ。樹の皮や葉の様子を見たり、聴診して樹の健康状態を調べるんだ。病気の樹には薬や虫を使って治療したり」

「虫!? 樹を殺すつもり!?」

「そうじゃなくて。病原体が虫や細菌だった場合、その天敵となる虫や細菌をつかって病原体を取り除くんだ。抗生物質を使うって場合もあるんだけど耐性がついちゃって余計に厄介な病気になることもあるから」

「本当に信用できるの、その樹医とやら」

「まずはお会いしてから考えれば良いだろう。引き受けていただけるかもわからんのだから」

 噛みつくように問いただす晶に、律と甲斐が丁寧に説明するが、どうにも納得がいかないらしい。いつまでもとげとげしい彼女を、「このままではらちが明かない」とばかりに尾崎がたしなめた。

「とりあえず妙林寺はすぐそこだし、行ってみない?」

「それじゃ決まりだな。放課後、一緒に行こうぜ?」

「左様でございます。まずはお会いしてみませんと、どのようなお人かもわかりませぬゆえ」

 律が取りなすように言うが、晶は渋面のまま黙ってしまった。
 それでも甲斐が人好きのする笑顔で誘い、あずまが可愛らしい声でさえずると、いつまでも意地を張っていても仕方ないと悟ったのだろう。硬い表情のまま頷いた。

「それじゃ東林堂のまんじゅう買っていこうよ」

「やった。和也さんの淹れてくれるお茶美味しいんだよな」

「甲斐、ご馳走になる気満々でしょ。一応、おみやげなんだからね」

「え~。和也さん、いつも手土産持っていくとその場で一緒に勧めてくれるじゃん」

「それはよろしゅうございますな。是非ともわたくしめもご相伴を」

 途端にはしゃぎだす律と甲斐。そこにあずまが加わって、ぴーちくぱーちく賑やかなことこの上ない。
 その明るい空気に当てられたのか、晶もようやく頬を弛めた。

「わかったわ。その樹医とかいうのに会ってみる。どうするかはそれから考えるわ」

「よし。それじゃ放課後、下駄箱のとこで集合な」

 その日の昼食はいつも以上に賑やかで楽しいものになった。
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