婚約破棄を受け入れたら第二王子に攫われました

山田 ぽち太郎

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「レミエット!侯爵令嬢ともあろう貴女が、このようなことをしでかすなんて…失望したぞ!!」

わたくしの婚約者であるはずのグレゴリオが、その後ろに派手なドレスを身に纏った男爵令嬢を伴って、わたくしにその指を向けている。
人を指さしてはいけないと、マナー講師から学んだはずなのに、この婚約者は本当に莫迦ばかが過ぎる。

「…このようなこと?一体、何を仰っているのでしょうか」

失望?
それなら、わたくしの方が、わたくしをエスコートもせずに、人目のあるダンスホールで、他の女性と一緒にいる貴方に失望しているわ。
しかも、よりによって男爵令嬢と…。

「ふん!しらを切るつもりか?貴女は本当に小賢しく、意地汚い。少しはラミア男爵令嬢を見習ったらどうだ!」
「……わたくしが、その者を見習う?ご冗談でしょう。彼女から習うことは何もございません」
「っ!愚かな…!!自分に足りないものが分かっていないとは…、本当に愚かな女だ!」
「わたくしの婚約者であろうと、わたくしを愚弄するのは頂けません。…それで、何が仰りたいのですか?」
「ーーーっ!!!!本当に、可愛げのない!そう言ったところを、ラミアから教わるべきだと言っているんだ!」

わたくしが冷ややかに指摘をしたことで、グレゴリオは顔を真っ赤にして、地団駄を踏むように足を踏み鳴らしながら、人差し指を立てた手をブンブンと振り回している。

「貴方はわたくしに、婚約者の居る男性に言い寄る、彼女のような女になれと仰るの?このような面前で?……嫌だわ、グレゴリオ、とても面白い寸劇のシナリオだこと」
「…っ!ラミアを侮辱することは赦さない!!」
「グレゴリオ様ぁ…、わたし、怖いですぅ♡」
「ラミア…、なんと可愛らしい。…案ずるな、そなたは私が守る。私の後ろに隠れていろ」
「グレゴリオ様ぁ♡」

突如始まった寸劇に、ダンスホールの一同が瞠目している。
公爵家の嫡男であるグレゴリオが、人目もはばからず、堂々と不貞をはたらいているのだ。
しかも、婚約者であるわたくしの前で。

「……そちらとご一緒になられるのでしたら、わたくしとの婚約は破棄なさって?貴方との婚約くらい、喜んで破棄させて頂きますわよ」
「婚約くらい?…そう言うなら何故最初から婚約破棄をしなかった?私の愛が欲しかったから、ラミアに手をあげたのだろう?ラミアを排除すれば、私の愛を得られると思ったか、この女狐め!」
「…っ、グレゴリオ様ぁ、わたし、わたし…っ」
「泣くなラミア、私の愛がお前以外に向くことなどありはしない」
「グレゴリオ様ぁ…♡」

頭を抱えながらも、この場を収めようと逡巡する。
けれど、このような醜聞を綺麗にまとめる妙案なんて浮かびはしなかった。
わたくしが、吹けば飛ぶような男爵令嬢に手をあげる?
この、わたくしが?
侯爵令嬢として、ひいては将来の公爵夫人として、厳しく教育を受けてきた、この、わたくしが?

貴方は、7歳のころからわたくしの婚約者だと言うのに、わたくしの努力を一つも知らないのね。
彼女のように男性の自尊心を擽り、甘え、その庇護のもとで安穏と暮らすような女と一緒にされたくないわ。
わたくしは、あくまでも公爵夫人として、グレゴリオを支えるために今日まで生きてきたの。
社交界で馬鹿にされないように、マナーと腹芸を身につけた。
毒には毒で制すように、いつでも毅然とした態度を心掛けたわ。
男性に甘えて、その後ろに隠れ、何の努力もせずにただ守られる女になりたくはなかった。
貴方の隣に立って、貴方に頼られる存在で居たかったのよ。

それなのに、莫迦な貴方は、その女を選ぶのね。


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