婚約破棄を受け入れたら第二王子に攫われました

山田 ぽち太郎

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ラミア男爵令嬢は状況を分かっているのかいないのか、のほほんとした顔で笑っている。
どうするべきかと思案していると、クリスティーナ侯爵令嬢が扇で顔を隠しながらわたくしに向かって口元を動かしてきた。
ゆっくりと、はっきりと、その唇は「仕留めましょう」と動く。
わたくしは腹をくくって令息たちを見据えた。

「では、わたくしがご説明致しましょう。まず、貴方がたの不義のお相手は同一人物であって、他のご令息方とも関係を持っていらっしゃいます。そして、その不義のお相手は大変に頭をなさっておいでなので、普通の令嬢なら絶対になさらないお忘れ物をなさいます」

令息二人の顔が白亜の宮殿よりも蒼白になる。
伯爵令嬢二人も婚約破棄通告を読み上げた執事も、冷酷な顔で彼らの顔を凝視した。

「これがそのが残したお忘れ物の一部ですわ。貴方がたのお屋敷で発見されたものです。…お確かめくださって?」

わたくしの合図で従者がを彼らの前に差し出す。
シルクのそれは黒もあれば赤もあり、生々しい情事を彷彿とさせるようだった。

「やぁん♡私のショーツですわぁ~♡探しておりましたの!まさかアラン様とスティード様のお屋敷に忘れていたなんて~ぇ♡」
「…なっ!?」
「そんなものっ…」

絶句する令息二人に反して、男爵令嬢はなぜか嬉々とした顔をしている。

「彼女がご自身でお認めになって良かったわ。そうでなくても貴方がたのメイドたちが証言してくれる手はずになっておりますけれどね」
「わ、我が家のメイドがそんなに口が軽い訳が…!」
「メイドたちから嘆願書を預かっております。聞けば十分な給金も与えられず、劣悪な勤務環境だと言うではありませんか。わたくしとティナ…クリスティーナ様とで彼女たちの再雇用先を用意して差し上げましたら、喜んで協力してくださったわ」
「なん…だ…と…」

スティード侯爵令息はそう絞り出すとガクリと床に膝をつく。
アラン侯爵令息はみっともなくメリーナ伯爵令嬢に縋っていた。
その汚らしい手を伯爵家の屈強な衛兵が華麗に払う。

「ラミア男爵令嬢は他にもたくさんのがいらっしゃるようですけれど、他のご令息宅にも多くのお忘れ物をなさっているようですわ。今頃、他のご令息の元にも婚約破棄通告が届いている頃でしょうね」

貴族派の選民思想には昔から辟易しておりましたわ。
自分たち貴族は平民よりも優れた人間であって、平民に対しては何をしても赦されると思っていらっしゃるのね。
アラン様たち以外のご令息宅でも、メイドや執事の扱いは非道極まりなくて驚きましたわ。
わたくしたちは平民の上でふんぞり返るためにる訳ではないのに…。

「もぉ~♡レミエット様って本当に意地が悪いのねぇ。婚約者がいらっしゃっても慰められない心を、私が癒して差し上げただけですわぁ♡そんなことで婚約破棄なさるなんて、怒りっぽいお嬢様が多いんですのね♡」

婚約破棄の元凶にもかかわらず、どこ吹く風の男爵令嬢にその場にいた全員が冷めた目を送る。
わたくしが本日何度目か分からないため息を吐いたところで、前方の扉が勢い良く開かれた。

「ラミア!お前と言う奴は、私以外とも身体を重ねていたと申すか!!」
「あら、グレゴリオ様ぁ♡」
「気の抜けた声を上げるでない!イリード伯爵令息から相談を受けてお前を追ってここまで来てみたら…。先ほどの話は事実なのか?この者たちの閨に、あろうことか下着を忘れるとは…。お前がそこまで莫迦だとは…」
「ひどぉぉぉいグレゴリオ様ったらぁ!私はお父様の命に従って、皆様とちゃーんとしていただけですわ!それに、私のように可愛い人間は色々な男性に可愛がられるべきですの♡」

流石にこの発言には令息莫迦三人衆も閉口している。
クリスティーナ侯爵令嬢だけが面白くてたまらないと言った表情をしていた。

「レミティ、このお嬢さんってば本当に面白いわね!これも含めてお父様にご報告しなくちゃ」
「…はしたないわよ、ティナ。せめて扇で顔を隠しなさい」
「ダメダメ!扇で隠しきれないわよ、こんなに笑っちゃうと!今日は来て良かったわ~。選民思想の強い貴族派のお坊ちゃんが、平民からの成り上がり令嬢に手玉に取られるなんて最高の与太話じゃない?」

クリスティーナ侯爵令嬢の言葉につられてメリーナ伯爵令嬢とヴァネッサ伯爵令嬢が噴き出す。
他の令嬢たちからも段々と笑い声が上がる。
その場の雰囲気が一気に和やかになったとき、グレゴリオが動いた。

「あぁ、レミエット…。いや、レミティ!!やはり、この国唯一の公爵夫人に足る令嬢は君しか居ないようだ!!私が間違っていた、今日から私たち二人で新しい関係を築き上げて行こうじゃないか!!!」

そう言って片膝をついてウットリとわたくしに笑みを送るグレゴリオを、蹴飛ばさなかっただけでも褒められてしかるべきだと思う。
それに加えて彼に笑顔まで添えたわたくしは勲章を授与されるかもしれない。

「お忘れでしょうか、グレゴリオ公爵様。わたくしはラインハルト殿下の婚約者でございます。わたくしのことを一度も愛称で呼んだこともない貴方が、いきなりどうなさったのかしら?領主のお仕事が忙しくて頭がお疲れのようですわね」
「そんなつれないことを言わないで、レミティ…。私たちは7歳の頃から将来を誓い合った仲じゃないか!」
「ちょっと!グレゴリオ様ぁ!!私と言うものがありながら、別の女に言い寄るなんてあんまりですわ!!」
「触るな!けがらわしい!!やはりお前のような平民出身の女は私には合わない。私にはレミティのような聡明で気高くご令嬢が相応しいんだ!!」
「ひどぉぉぉい!!私が一番可愛いって仰ったじゃなぁぁぁあい!!!」
「あぁ、山猿のような声を上げるな。だから平民とは関わりたくないんだ」
「私はもう男爵令嬢でしてよ!!あんたと同じ貴族様じゃないっ!!!バカにしないでよっ!!!」

これを阿鼻叫喚と言うのかしら。
つい先日の仲睦まじいお二人はどこへ行ったのでしょうか。
こんなお二人は貴族のほまれも何もないわ。
然るべき場所で教育が必要じゃないかしら。

「レミティ、さぁ、私と公爵家に戻ろう!」

自信満々な顔のグレゴリオが右手を差し出してくる。
わたくしはニッコリと清々しい程の笑みを浮かべてキッパリと答えた。

「いいえ、貴方やそちらの男爵令嬢が行くべきは別の場所ですわ」
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