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第三章 思惑

第四十四話 内密の話し合い

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「商人の変装で来たんですか?」

「そうだ。城をお忍びで抜け出すのはそれなりに大変だったぞ。しかし久しぶりの変装は楽しかったな」

 オクタヴィアンの質問に楽しそうにヴラド公は答えた。
 そこでオクタヴィアンは恐る恐る質問をした。

「あ、あの……見張りの人……何にも覚えていないとかになってないですか?」

「? 何の事だ? あいつなら、私の命令でこの件は絶対に口外しないようにしてあるが」

「そ、そうですか……」

 オクタヴィアンは自分の能力が全く効かなかった事に落ち込んだ。
 そこでグリゴアが話に割って入った。

「最初、城になんでトランシルヴァニアの商人が来たのかさっぱり分かりませんでしたよ。まさかヴラド公だなんて思わないですから」

 これを聞いたヴラド公は大笑いをし、それに合わせてグリゴアも笑った。
 いっしょになってヤコブ、アンドレアスも笑っている。

 オクタヴィアンが渡した手紙を受け取ったヴラド公は、一人で内密に城にやって来ていた。

 ヴラド公は以前から街の様子を見るために、よく宮廷から変装して出かけてはいたのだが、以前は部下も数人もいっしょに行動していた。
 しかし今回は完全に一人である。

 しかも城内の人間にも接触を避けたがっていたヴラド公は、グリゴアに連れられて隠し通路までやって来ていたのだった。

 そしてオクタヴィアンが寝ている間に、城で起こった事やグリゴアに起こった事などを聞いた。

「しかし、ブルーノから昨日『グリゴアが空に消えた』と報告を受けた時は、全く意味が分からなかったが、貴様のその容姿を見ると、信じるしかなさそうだな」

 ヴラド公は通路で寝ていたオクタヴィアンを見た時に、人ではない事にすぐに気がついたようだった。

 オクタヴィアンはヴラド公が今なら何かを言っても信じてくれると思った。

「ヴ、ヴラド公。大事なお話があります!」

 オクタヴィアンの構えた態度に、ヴラド公も少し身構えた。

「何だ?」

「ラドゥが生きているんです!」

 オクタヴィアンのその言葉にそこにいる皆が固まった。

「? 貴様、何を言っている。ラドゥなら私が腹に剣を刺して殺したはず……」

「でも生きているんです。吸血鬼として」

 オクタヴィアンは今までに起こった事……ラドゥがエリザベタを使って父を毒殺した事……そしてその毒を娘が飲み、それが発端になって屋敷が全焼になった事など、出来るだけ分かりやすく皆に話した。

 ヴラド公は神妙な面持ちで耳を傾け、グリゴアもヤコブも驚きを隠せなかった。
 アンドレアスはニコニコしている。

「……そうか……ラドゥが生きているとなると……そう簡単に事は進まんだろうな。また裏切り者が現れるかもしれんからな」

「そうですね……十二年前も裏切り者が仲間にいましたからね」

 ヴラド公とグリゴアは当時の事をいろいろ思い出していた。

 十二年前、ヴラド公とラドゥが戦っていた時、ラドゥの人たらし戦法が凄まじく、仲間の何人もがラドゥの配下にくだっており、結果ヴラド公はハンガリーに行くしかなくなった経験がある。

 この時、グリゴアは捕まり、処刑寸前まで追い込まれたが、オクタヴィアンの父であるコンスタンティンがラドゥに掛け合って命拾いをしたのだった。

 しかし数年は城の管理のみしか仕事を与えられず、騎士らしい事など何も出来なかったが。

 この事もヴラド公は今回初めて知った。

「……グリゴア、オクタヴィアン。今、グリゴアには私の殺人未遂容疑がかかっている。だから今日を最後に姿を消してほしい。いいか? そして、私の軍で何かおかしな事が起こった時に、助けに来てほしいのだ。分かるか?」

「はい。別行動を取れと言う事ですね。分かりました。でしたら私とオクタヴィアンは馬車で少し離れた所でこの戦闘を監視します。そして何かあったら、私の部下達と共に助けに参ります」

「うむ、グリゴア。そうしてくれ。その方が助かる」

 ヴラド公とグリゴアが話をしている間、オクタヴィアンとアンドレアスはイマイチ話について行けなかったので、何となく愛想笑いをしていた。
 そんなオクタヴィアンに向かってヴラド公が真面目な顔をして質問をしてきた。

「オクタヴィアン、かなり大事は事をききたいのだが……貴様の気分を害するかもしれん。それをまず許してほしい。いいか?」

「え? もちろんです」

「うむ。吸血鬼の弱点を具体的に教えてほしいのだ。いいか?」

「え……」

 オクタヴィアンは絶句した。

「どうだオクタヴィアン。教えてはもらえぬか? 貴様の気持ちも分かる。だが教えてほしい。ラドゥと対等に戦うために」

 オクタヴィアンは少し考えた。しかし……

「分かりましたヴラド公。お教えします。でも他の人……いや、皆にも聞いてもらった方がいいと思う。何が起こるか分かんないから」

 その言葉を聞いたヴラド公、グリゴア、ヤコブは息を飲んだ。アンドレアスはニコニコしている。
 こうしてオクタヴィアンは皆に吸血鬼の弱点を分かる範囲で教え、加えて吸血鬼の能力も教えた。

 ヴラド公は教える度に「うむ~」と唸り、グリゴアとヤコブは段々と声が出なくなっていった。

 そしてひとしきり吸血鬼の事を教え終わると、ヴラド公はそろそろ帰るという話になった。

「いいか? 今日の事は内密に頼むぞ」

「はい。でもヴラド公、どうやって宮廷に戻るのですか?」

「フ。見張りだけは私の事が分かっている。問題ない」

「あ、そうかっっ」

 ヴラド公の答えにグリゴアやオクタヴィアンは少し笑ってしまった。そしてこの人は大した方だと、感心もした。

「しかしヴラド公。夜道は危険です。ボクが宮廷の近くまで飛んで送りますよ」

「ほう。それは楽しみだな」

 オクタヴィアンの提案にヴラド公はすぐに乗った。

 こうしてオクタヴィアンとヴラド公は、隠し通路を使って、焼け野原のオロロック邸の跡地に出た。
 そしてオクタヴィアンがヴラド公を抱えると「間違って噛むなよ」と、冗談を言われながら空へ舞い上がった。

 そしてあっという間に宮廷の近くまで飛んで来た時、宮廷の門近くで何やらどこかの軍隊がたむろしているのに気がついた。

「ん? 何だヤツらは?」

 ヴラド公も思ってもみない来客だったようで、宮廷の中に直接降りて中から話を聞く事にした。

 こうしてオクタヴィアンは宮廷に入っていい許可をもらい、人気のない庭にヴラド公を下ろすと、ヴラド公はこそこそと自分の部屋に戻り、オクタヴィアンはまた上空に上がり、何があったか探る事にした。

 そしてヴラド公が普段着に着替えて、宮廷の大広間へ移動した。

 そこには自分の部下のブルーノや部下達の他に、なぜか地主貴族のモゴシュが、手を後ろに縄を縛られて、ひざをついて床に座らされていた。

 ヴラド公は全く分からなかったが、上空で音を聞いているオクタヴィアンはもっと分からなかった。
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