薄毛貴族とその家族、ドラキュラ以前とその弟、そして吸血鬼。〜ボクは国の行く末より、自分の髪の毛の方がよっぽどか心配!!〜

広田川ヒッチ

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第五章 復活のはじまり

第六十五話 ローラは守りたい

 屋敷の前に着いたオクタヴィアンは、おじさんに少しだけ後方の馬車の十字架を下げるように伝えた。
 おじさんは馬車を降りると、すぐさま後ろへ走り出して十字架をさげてもらった。

「よし、ボク先に行って、様子を見てくるよ」

 オクタヴィアンはベルキにそう言うと、一瞬のうちに馬車から飛び出て屋敷の門をくぐり、焼けた本館の柱に埋もれている隠し通路への入り口へ入って行った。

 そこには通路沿いに棺桶が三つ縦に並んでおり、どれも蓋が閉められている。
 そして悪臭のせいか、誰もいない。

「あれ~……アンドレアスもいないのか……」

 オクタヴィアンが一言もらすと、後ろから「ダンナ~」と、アンドレアスが隠し通路に入ってきた。

「ああ、外にいたのかアンドレアス。で、どれがローラで……つーか誰の?」

「あ、ああ、一番奥のがヤコブので、真ん中がローラでえ、一番手前がテスラ様でさあ~」

 アンドレアスは鼻をつまみながら説明した。

「あ、ここ臭いな確かに。アンドレアス、外に出ようか。ちょっとローラの棺桶を出したいから、入り口を開けといてくれるかい?」

「ヘイ、ダンナ~」

 アンドレアスは外に出て行った。その時、オクタヴィアンは(あれ?)と思った。

「ねえアンドレアス。キミの友達の……ヤコブ? 彼は?」

「それがまだ目が覚めないんですわあ」

「え?」

「テスラは?」

「テスラ様はもう城へ行ったですわあ」

「え?」

 これはおかしいぞ。ヤコブに何かあったんじゃないのか?

 オクタヴィアンは、一番奥のヤコブの棺桶の前まで移動した。

 ど、どうしよう……、屍食鬼になってたりしたら……

 そう思い、耳をそばだて、臭いも意識した。すると、ちょっとだけカタカタと中で動いているのを感じた。

 ……生きてるな……。どっちだ?

 オクタヴィアンは優しく棺桶をトントンと叩いた。

「キミ。キミ。えっと……ヤコブ? 大丈夫かい?」

 中からのカタカタという音が止まった。

 ん? 反応があった。これは意識があるな!

「ヤコブ。ボクだよ。オクタヴィアン。分かるかい? キミ、屍食鬼にはなってないんだろ? もう夜だよ。起きて。アンドレアスも心配してるよ」

 オクタヴィアンは優しく棺桶に向かって話した。

「……オ、オクタヴィアン様……。わ、わ、わし、わし、ここを出るのが怖いんですっっ。わ、わし、吸血鬼になっちゃって、人を……誰か友達とか襲っちゃっうんじゃないかって……嫁の顔も見たいけど……こ、怖いんですっっ」

 な、なんてまともな男なんだっっ……。ボクはこれっぽっちもそんな事、考えなかった~……

「で、でもここから出ないとっっ。キミはずっとそこにいるつもりなのかい?」

「わ、わ、分かってるんです。いつか外に出ないといかんのはっっ。で、でも恐くてっっ」

 オクタヴィアンは困った。

 よくよく考えてみると、自分の場合、棺桶から出ても誰もいない個室で、隣の部屋にはテスラがコップに血をくんでくれていた。
 でも今はそんな事誰もしてくれないし……

 あれ? 頼んだら出来ないかなあ?

「ちょ、ちょっと待ってて、ひょっとすると、誰かが、血を提供してくれるかもしれない」

「え?」

 オクタヴィアンは外の対吸血鬼部隊に頼めないかと隠し通路の出口へ向かおうとした、その時だった。

 ズズーーーーーーーーーーーーーーンッッ!

 何か奇妙な地響きが聞こえた。

「ヒャッッ!」

 この地響きのおかげでヤコブが慌てて棺桶から出てきて、オクタヴィアンの所まで一瞬で来た。

 オクタヴィアンはつい周りを見渡した。しかし、特に隠し通路が崩れる心配はなさそうだ。
 しかし、何やら嫌な予感がする。

 カタカタカタカタカタカタ……

 何の音?

 オクタヴィアンは最初よく分からなかった。
 しかし、すぐにその音の正体に気がついた。

 眠っているローラの棺桶が一人でにカタカタと音を立てて動き出したのである。

「わ! オクタヴィアン様! あれっっ」

 ヤコブが指差した先、隠し通路を抜けた行き当たり。その下の大きな布がモゴモゴと動いている。

 そこはオクタヴィアンが退治した屍食鬼が眠っている場所。

「ど、どういう事?」

「い、生き返った~っっ!」

 ヤコブは恐怖のあまり、オクタヴィアンの後ろで固まっている。

「ヤコブ、悪いけど、ローラの棺桶の上に座ってて」

 オクタヴィアンはそう言うと、一瞬で死んだはずの屍食鬼の所へ行くと、かぶっている大きな布をガバっとめくった。

 すると死んだはずの屍食鬼が、キリキリキリと口を鳴らして動いていた。

「ゲゲっっ!」

 オクタヴィアンもこれはどうしていいか分からない。
 何せ切断してトドメをさした首がキリキリと動いているのだ。
 それにヤコブの座っているローラの棺桶もカタカタと動いている。

 そこにアンドレアスが入ってきた。

「い、今の地震っっ! ダンナっっ! 恐いっっ!」

「何カタコトになってんのアンドレアス。こっちは大丈夫……じゃないや、外のみんなに『死体が生き返ったから気をつけて!』って言ってきて!」

「ヘイ! ダンナ~!」

 オクタヴィアンの命令にすぐさま反応したアンドレアスは慌てて外に出て行った。

 オクタヴィアンはアンドレアスが出て行ったのを見終わると、カタカタと音を立てている屍食鬼の顔を、さらに縦に切り、モゴモゴとうごめいて、無理矢理立とうとしているその身体もバッサバッサと切断しまくって、全く動けないまでにバラバラにした。

 しかしそれでもその肉片はピチピチとうごめいている。

 これにはオクタヴィアンも嫌悪感を覚えた。

「オ、オクタヴィアン様っっ! フタ、開きそうですっっ」

 ローラの棺桶に乗っているヤコブが必死になって棺桶を押さえている。

「ちょ、ちょっと待ってよお~……っっ」

 オクタヴィアンは何かないかと考えて、さっきまで屍食鬼の死体に被さっていた布を手に持つと、それを細く切り始め、何本かの即席ロープをあっという間に作った。

「よし! 後はボクがやる!」

 オクタヴィアンはヤコブを棺桶から下ろすと、フタが開く前にそのロープを棺桶に巻き、フタが開かないようにした。

 ガタガタとフタは動くものの、フタが外れて中からローラが出る事はなさそうである。

「フーっっ」

「や、やりましたねっっ」

 オクタヴィアンは死んでいるローラをこれ以上、傷ついてほしくなかったので、とりあえず安心した。

「よし、ヤコブ、外に出ようか」

 オクタヴィアンはそう言うと、ヤコブと共に隠し通路の出口へ上がった。

「熱っっ!」

 オクタヴィアンはあまりの眩しく痛い光に慌てて顔を引っ込めた。

「オ、オクタヴィアン様っっ。顔から煙がっっ」

「うん。分かってる。ここからは出られないから、城の中を移動しよう」

 そう言って今度は隠し通路を城側に歩き始めると、後ろからアンドレアスが慌てて隠し通路に入ってきた。

「オ、オラ、ダンナの言う事、守ろうとしたら、みんなが『吸血鬼! 吸血鬼!』って言い始めて、みんなが十字架をあげ始めただっっ。オラ吸血鬼じゃないのにっっ」

 アンドレアスの風貌が普通じゃない事を忘れていたオクタヴィアンは(あ、そりゃそうなるわ)と、思いつつ、結果十字架を掲げてくれたので、ヨシとした。

「よし! じゃあもうみんなで中から行こう……あ、待った! ローラの棺桶の事言わないとっっ」

 オクタヴィアンがまたアンドレアスに指示しようとした時、隠し通路にベルキが入ってきた。
 後ろにはおじさんも松明を持ってきている。

「あ! ベルキっっ! おじさん! いいところに来た! いいかい! このガタガタしてるのがローラの棺桶! それで、さっきの地響きで、なぜか生き返っちゃったって、何しだすか分からないし、十字架で燃えるかもしれないから、ここから出さないようにしておいてっっ!」

「え? 生き返ったの? 会いたい!」

「いやダメだ! 自分の意志で動いてるんじゃないと思う。現に屍食鬼ペチペチ動いてる! きっと何かの力で操られてるんだと思う。だから絶対に開けない事! いいね? それに開けたら対吸血鬼部隊の人達にボロボロにされるかもしれないだろ?」

「それはやだ!」

「よし! ベルキ、いい子だ。じゃあ、ここから出るんだ。そして、城は正面から入って来るようにみんなに言うんだ。いいね」

「うん」

「分かった」

 奥でしっかりおじさんも聞いていた。

「おじさん! ありがとう! じゃあボク達は行くよ」

「いや待て! これを持って行け!」

 おじさんは荷物の入った袋を投げた。
 それをオクタヴィアンはサッと掴むと、袋を開けた。
 すると鋭い光が目の中に飛び込んできた。

 オクタヴィアンは慌ててその袋を閉じた。

「お、おじさん! こんなの要らないよっっ! 吸血鬼退治セットだろ?」

「いや、持って行け! 何かの役に立つ!」

「仕方ないなあ……」

 そういう訳で、三人は城の中へ入って行った。
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