15 / 85
惨めな感じ
しおりを挟む
キャンプは、トルコ・シリア国境付近の山あいにあった。
レヴィーンが見下ろした感じでは、山というよりなだらかな丘と言った感じだ。高さがある木がないのでそんな感じに見える。ゴロゴロした山や、枯れた色の茂みが荒れ果てた感じを強くしていた。
丘には、硬質発砲スチロールのドームみたいなテントが密集していた。スタッフのテントは与圧されているけれど、患者のテントには負圧がかかっている。
与圧はウィルスの侵入を防ぐため、負圧はウィルスの漏出を防ぐためだった。『ハタイ脳炎』の感染ルートはまだ、はっきりと解明されていなかった。
丘の上にあるのは周囲がよく見渡せるようにだった。患者は難民キャンプの自警団に狙われているから、見通しがいい方がUNの兵士も守りやすい。
駐車場は、テントが集まる丘から少し下った場所にあった。
見下ろすと駐車場の手前には、平板状の石がたくさん立っている。膝くらいまでの高さの簡素なその石は、亡くなった患者たちのお墓だ。今のキャンプの状況では、これがしてあげられる精一杯だった。
ほんとのことを言うと、防疫キャンプは治療設備じゃなくて、隔離設備だ。どうしてかというと、発病して回復した人は、まだ一人もいないから。
だから、シモーヌ医師は苛立っている。イツキを殴ったのは八つ当たりだけど。心を痛めているのは本当だ。
医者は、病気の人を看取るためではなく、病気を治療するために存在するのだ。
遺体は、汚染ごみを処理するのと同じ炉で、ガス焼却される。目的は容積の縮小と、ウィルスの不活性化だ。
火力が強いので大きな骨しか残っていなくて、サラサラの灰は、援助物資の小麦粉みたいだった。
それをプラスチックの廃容器につめて、小さな墓の下に納める。
全部、レヴィーンが自分自身の目で見た光景だ。
最初、難民キャンプの大人たちは、レヴィーンが防疫キャンプで働くのを止めた。
病気の母親をおいて、いったいどういうつもりだ、とも言われたし、そんな危険な場所でキャンプにウィルスを持ち帰ったらどうする、とも言われた。
でも、レヴィーンが母親の為に持ち帰る給料の額を知ると、もう誰も、なにも言わなくなった。
いまは、母の親せきや友人は、母からいろいろな名目でお金をせびっていることを知っているけれど、べつになんとも思いはしなかった。
母が孤独にならないように働いたのだから、べつにそれでいのだ。
お金を稼ぐ方法は他にもあったけれど、レヴィーンは防疫キャンプで働くのが好きだった。人の役に立っている実感があるし、支給される食べ物はおいしい。それに他の仕事とは違って、働いていて惨めな感じがなかった。
それに、イツキと出会うこともできた。
レヴィーンは転ばないように石をよけながら、慎重に丘を下っていった。山道は尖った岩だらけなので、転んで防護服が破れたら隔離と徹底洗浄だ。そんな面倒は避けたい。
レヴィーンが見下ろした感じでは、山というよりなだらかな丘と言った感じだ。高さがある木がないのでそんな感じに見える。ゴロゴロした山や、枯れた色の茂みが荒れ果てた感じを強くしていた。
丘には、硬質発砲スチロールのドームみたいなテントが密集していた。スタッフのテントは与圧されているけれど、患者のテントには負圧がかかっている。
与圧はウィルスの侵入を防ぐため、負圧はウィルスの漏出を防ぐためだった。『ハタイ脳炎』の感染ルートはまだ、はっきりと解明されていなかった。
丘の上にあるのは周囲がよく見渡せるようにだった。患者は難民キャンプの自警団に狙われているから、見通しがいい方がUNの兵士も守りやすい。
駐車場は、テントが集まる丘から少し下った場所にあった。
見下ろすと駐車場の手前には、平板状の石がたくさん立っている。膝くらいまでの高さの簡素なその石は、亡くなった患者たちのお墓だ。今のキャンプの状況では、これがしてあげられる精一杯だった。
ほんとのことを言うと、防疫キャンプは治療設備じゃなくて、隔離設備だ。どうしてかというと、発病して回復した人は、まだ一人もいないから。
だから、シモーヌ医師は苛立っている。イツキを殴ったのは八つ当たりだけど。心を痛めているのは本当だ。
医者は、病気の人を看取るためではなく、病気を治療するために存在するのだ。
遺体は、汚染ごみを処理するのと同じ炉で、ガス焼却される。目的は容積の縮小と、ウィルスの不活性化だ。
火力が強いので大きな骨しか残っていなくて、サラサラの灰は、援助物資の小麦粉みたいだった。
それをプラスチックの廃容器につめて、小さな墓の下に納める。
全部、レヴィーンが自分自身の目で見た光景だ。
最初、難民キャンプの大人たちは、レヴィーンが防疫キャンプで働くのを止めた。
病気の母親をおいて、いったいどういうつもりだ、とも言われたし、そんな危険な場所でキャンプにウィルスを持ち帰ったらどうする、とも言われた。
でも、レヴィーンが母親の為に持ち帰る給料の額を知ると、もう誰も、なにも言わなくなった。
いまは、母の親せきや友人は、母からいろいろな名目でお金をせびっていることを知っているけれど、べつになんとも思いはしなかった。
母が孤独にならないように働いたのだから、べつにそれでいのだ。
お金を稼ぐ方法は他にもあったけれど、レヴィーンは防疫キャンプで働くのが好きだった。人の役に立っている実感があるし、支給される食べ物はおいしい。それに他の仕事とは違って、働いていて惨めな感じがなかった。
それに、イツキと出会うこともできた。
レヴィーンは転ばないように石をよけながら、慎重に丘を下っていった。山道は尖った岩だらけなので、転んで防護服が破れたら隔離と徹底洗浄だ。そんな面倒は避けたい。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる