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人生を楽しむことだって
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けっきょく、なんだってよかった。夢中になることが出来さえすれば。
もし、アリシアの思い通りにならないボーイフレンドがいたら、のぼせて入れあげていたかもしれない。
学校の勉強が、もしも、アリシアにとって難しいものであったなら、もしかしたら意地になっていたのかもしれない。
でも、その当時のアリシアにとっては、何もかもが簡単すぎた。
そして、世界はこんなにもアリシアの思い通りになるのに、母親の暖かい腕のなかに抱かれてみたいという思いは、どんなに足掻いたって、絶対にかなうことはないのだ。
「友達をつくらないのかい、アリー」
と、父親は困ったような顔で言った。アリシアの父は、「最高経営責任者」という仕事をしているので、あまりアリシアと過ごす時間を作ることが出来ない。
そのくせ、たまに一緒の食事をすると、こんな風に説教じみたことを言うのだ。
「『おともだち』は欲しいわ。ただし、ちゃんとわたしが言うことを理解できて、ちゃんとわたしにも理解できるご返事をしてくれる『おともだち』。わたしの意見は違うけど、とか、アリーの言うとおりだわ、とか、たぶん、そうね、とか……そういうオウムみたいな『おともだち』は嫌。ペットなら犬を飼うわ。犬は知ったかぶりしないもの」
「……アリー。誰もが君のように賢く生まれてくるわけじゃない。それは神様の贈り物なんだ。そんな風に使ってはいけないよ」
贈り物なんか誰も望んでない。馬鹿に生まれた方が気楽だった。それに神様なんか信じていない。もし、お母さんが死ぬことを決めたのが神様なら、わたしは神様を憎む。
さすがにそれは父親には言えないので、アリシアはとっておきの――便利な――笑顔を作った。
「ごめんなさい、パパ。もちろんわたしだって努力してるのよ。クラスメートが嫌いなわけじゃないの、ただ、どうしようもなく退屈なだけ」
「退屈が問題かい? そう言えば、もうすぐ誕生日だったね」
ああ……まただ。
頭の中で、アリシアは天を仰いで十字を切った。アリシアの父親は、論理的には超人的な知性を発揮するけれど、情緒的には発達障害もいいとこだった。女の子の気持ちなんか、ハダカデバネズミの気持ちと同じくらい理解していない。
退屈なのは、クラスメートじゃなくて、ほんとうはこの生活だ。
もし、父が休日を一緒に過ごしてくれたら、アリシアはきっと退屈にも我慢することが出来る。
もし、母親が生きていたら……今のアリシアには信じられないことだけれど、たぶん、人生を楽しむことだって出来るに違いない。
なのに、アリシアの父親は、また見当はずれななにかをしようとしている。
去年は部屋の模様替えだった。亡くなってしまった母親がアリシアの為にそろえてくれた家具を、オカマみたいなインテリアコーディネーターが、 ガラクタ扱いで全部捨ててしまった。
それらの家具は、記憶にはない母がアリシアを愛していたことを、確かに知らせてくれる物だった。
とても悲しくて、赤ん坊みたいに泣いてしまいそうになった。
腹立たしくて、父が呼んだインテリアコーディネータの顔を足の裏で蹴ってやりたい、と思ったけれど、どう? 気に入ったかい? と尋ねる父親に、アリシアは笑顔を作って、とても素敵と答えた。
父親をがっかりさせたくなかったからだ。
異星人みたいな父親だけれど、アリシアは、父のことがとても好きで、母の代わりに力になりたいと思っていた。
「な、なあに、パパ? あたし、な、なにかを期待してもいいの?」――ほんとにいいの?――
「もちろんだ、アリー。楽しみにしているといい」
お願いだからなにもしないで、とアリシアは思ったのは一週間ほど前の話で、朝目覚めると、ベッドのまわりはガラクタで埋め尽くされていた。
まさに、文字通りの、ガラクタだった。トイザらスをそのまま部屋に連れてきた感じだ。
アリーの年頃とか、好みとか、父親の趣向さえ――関係なかった。選ばずに、ぜんぶ買ったのだ。
ふざけてんの? と一瞬、本当に逆上しかけたけれど、ベッドに腰掛けると少し冷静になって、仕方ないな、と諦めの気分になった。
これが、パパの愛情だ。見当はずれだけど、べつに腹を立てるようなことじゃない。
オモチャのほとんどは、アリシアには意味がない商品だった。
ままごとセットとか――これは、ほんとうに腹を立てても許されると思う――サッカーボールとか、モデルガンとか、あと、ディズニーキャラの変身セットとか。幼児向けに仕立てた安っぽいティンカーベルの衣装を、父親の前で、謝罪するまで着続けてもいい、とアリシアは思う。
その中で、一つだけ興味を惹く商品があった。
それはテレビでCMをしているテレビゲームだった。仮想現実デバイスを内蔵した最新のマシン。プレーヤーは部屋に居ながらにして、異世界への旅をすることが出来る。ゲームパッドを使っても構わないし、体感覚――脳が体を動かそうとする時の電位情報――を使用して操作してもいい。
もし、アリシアの思い通りにならないボーイフレンドがいたら、のぼせて入れあげていたかもしれない。
学校の勉強が、もしも、アリシアにとって難しいものであったなら、もしかしたら意地になっていたのかもしれない。
でも、その当時のアリシアにとっては、何もかもが簡単すぎた。
そして、世界はこんなにもアリシアの思い通りになるのに、母親の暖かい腕のなかに抱かれてみたいという思いは、どんなに足掻いたって、絶対にかなうことはないのだ。
「友達をつくらないのかい、アリー」
と、父親は困ったような顔で言った。アリシアの父は、「最高経営責任者」という仕事をしているので、あまりアリシアと過ごす時間を作ることが出来ない。
そのくせ、たまに一緒の食事をすると、こんな風に説教じみたことを言うのだ。
「『おともだち』は欲しいわ。ただし、ちゃんとわたしが言うことを理解できて、ちゃんとわたしにも理解できるご返事をしてくれる『おともだち』。わたしの意見は違うけど、とか、アリーの言うとおりだわ、とか、たぶん、そうね、とか……そういうオウムみたいな『おともだち』は嫌。ペットなら犬を飼うわ。犬は知ったかぶりしないもの」
「……アリー。誰もが君のように賢く生まれてくるわけじゃない。それは神様の贈り物なんだ。そんな風に使ってはいけないよ」
贈り物なんか誰も望んでない。馬鹿に生まれた方が気楽だった。それに神様なんか信じていない。もし、お母さんが死ぬことを決めたのが神様なら、わたしは神様を憎む。
さすがにそれは父親には言えないので、アリシアはとっておきの――便利な――笑顔を作った。
「ごめんなさい、パパ。もちろんわたしだって努力してるのよ。クラスメートが嫌いなわけじゃないの、ただ、どうしようもなく退屈なだけ」
「退屈が問題かい? そう言えば、もうすぐ誕生日だったね」
ああ……まただ。
頭の中で、アリシアは天を仰いで十字を切った。アリシアの父親は、論理的には超人的な知性を発揮するけれど、情緒的には発達障害もいいとこだった。女の子の気持ちなんか、ハダカデバネズミの気持ちと同じくらい理解していない。
退屈なのは、クラスメートじゃなくて、ほんとうはこの生活だ。
もし、父が休日を一緒に過ごしてくれたら、アリシアはきっと退屈にも我慢することが出来る。
もし、母親が生きていたら……今のアリシアには信じられないことだけれど、たぶん、人生を楽しむことだって出来るに違いない。
なのに、アリシアの父親は、また見当はずれななにかをしようとしている。
去年は部屋の模様替えだった。亡くなってしまった母親がアリシアの為にそろえてくれた家具を、オカマみたいなインテリアコーディネーターが、 ガラクタ扱いで全部捨ててしまった。
それらの家具は、記憶にはない母がアリシアを愛していたことを、確かに知らせてくれる物だった。
とても悲しくて、赤ん坊みたいに泣いてしまいそうになった。
腹立たしくて、父が呼んだインテリアコーディネータの顔を足の裏で蹴ってやりたい、と思ったけれど、どう? 気に入ったかい? と尋ねる父親に、アリシアは笑顔を作って、とても素敵と答えた。
父親をがっかりさせたくなかったからだ。
異星人みたいな父親だけれど、アリシアは、父のことがとても好きで、母の代わりに力になりたいと思っていた。
「な、なあに、パパ? あたし、な、なにかを期待してもいいの?」――ほんとにいいの?――
「もちろんだ、アリー。楽しみにしているといい」
お願いだからなにもしないで、とアリシアは思ったのは一週間ほど前の話で、朝目覚めると、ベッドのまわりはガラクタで埋め尽くされていた。
まさに、文字通りの、ガラクタだった。トイザらスをそのまま部屋に連れてきた感じだ。
アリーの年頃とか、好みとか、父親の趣向さえ――関係なかった。選ばずに、ぜんぶ買ったのだ。
ふざけてんの? と一瞬、本当に逆上しかけたけれど、ベッドに腰掛けると少し冷静になって、仕方ないな、と諦めの気分になった。
これが、パパの愛情だ。見当はずれだけど、べつに腹を立てるようなことじゃない。
オモチャのほとんどは、アリシアには意味がない商品だった。
ままごとセットとか――これは、ほんとうに腹を立てても許されると思う――サッカーボールとか、モデルガンとか、あと、ディズニーキャラの変身セットとか。幼児向けに仕立てた安っぽいティンカーベルの衣装を、父親の前で、謝罪するまで着続けてもいい、とアリシアは思う。
その中で、一つだけ興味を惹く商品があった。
それはテレビでCMをしているテレビゲームだった。仮想現実デバイスを内蔵した最新のマシン。プレーヤーは部屋に居ながらにして、異世界への旅をすることが出来る。ゲームパッドを使っても構わないし、体感覚――脳が体を動かそうとする時の電位情報――を使用して操作してもいい。
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