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EMPG
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不可視レーザーで照準されたことを示す警告が、視覚野に表示された。聴覚野には、耳障りな警告音が届く。
アクティブ防護システムが作動し、射出された無数の矢が、【スプリガン】のタンデムHEAT弾を迎え撃った。タングステンの矢が造った雲は、HEAT弾の高性能炸薬や推進剤を傷つける。弾頭は着弾の間際で誘爆した。
その間にも、カイトの【ピクシー】は、【スプリガン】の索敵に対して、欺瞞情報を返し続けている。
電子的対抗策を取っているのは、【スプリガン】の方も同じだった。表示された「敵性存在」を示すコンテナは、【スプリガン】の姿を捉えられず、あちこちをでたらめに踊っていた。火器統制装置は、偽物の距離や速度情報で、ロックオン出来ないでいる。
機体性能的には、やはり米軍が優位だった。他の【ピクシー】も苦戦している。電子妨害で射撃に必要な物理情報が、確保できなかった。スピードでは勝っていたけれど、それは数の差で相殺されていた。
【スプリガン】も、【ピクシー】と同じく、熱工学迷彩を装備している。お互いに、揺らめく陽炎のような姿を追う様子は、まるでゴーストが戯れているようだ。
意外だったのは、キオミの機体操作が様になっていたことだ。下手したら予備チームの連中より上かもしれない。作戦オペレーターとしてチームを指揮する前は、間違いなくピクシードライバーだった筈だ。
「キオミ。ブランクはどれくらいなんだ?」
『……五年。まだ覚えてた』
抑えきれない好奇心が湧いてきた。有名なプレーヤーだったのか? どういう経緯でオペレーターになった? スカウトなのか? それとも、バルバロイのシステムには、まだ上があるのか?
「なあ、聞いてもいいか?」
『集中させてカイト。余裕がない』
「……了解」
しびれを切らした【スプリガン】が、二十ミリのモーターガンで、射撃を行った。誘導されていない攻撃は欺瞞のしようがない。何発かが装甲をかすめ、自壊式のマウントが衝撃を吸収した。
カイトは、射界の死角に、機体を運んだ。【ピクシー】の装甲は、あくまで対人火器を防衛する程度でしかなかった。二十ミリ機銃の直撃はもらえない。
【スプリガン】は、急旋回してカイトを死角から引きずり出そうとしたけれど、カイトは運動性能の差を生かして、安全地帯をキープした。
「まだなのかキオミ。分が悪いぜ」
『もう少し、あと百メートル西に誘導』
今回の隠し玉は、大きさがあり過ぎて【ピクシー】に搭載できなかった。谷あいに隠し、岩で偽装してある。
『もう十メートル。みんな遮断して』
体感覚の混乱を警戒して、カイトたちは視覚以外の感覚情報を遮断した。
谷間に転がる岩の間から、青白い閃光がもれた。
視覚野を激しいノイズが舐めた。神経接続の途切れる、掻き毟られるような感覚が、全身を襲う。システムがダウンして再起動を始めた。バックグラウンドでチェックシークエンスが目盛りを刻み始める。
「どうだ?」
【スプリガン】は、電源が切れたように固まっていた。熱光学迷彩は、頭足類が色素細胞で表現する警戒色のように、明滅していた。
「ぷぷ、どっちの再起動が早いか、競争だぜい」と、チャーリーが笑う。
カイト達は、電磁パルス弾頭技術の応用で、より出力の高いパルス発生器を準備していた。台車に乗せてけん引し、岩に偽装していたのだ。
電磁パルス発生装置は、通電したコイルを爆縮して、強力な電磁波を発生する武器だ。旧型戦車や人間にはなんの影響もないが、C4Iシステムで運用する最新の兵器には、致命的なダメージを与えることが出来る。
今回は少し、出力をコントロールしていた。システムにはダメージを与えるけど、チップの素子を皆殺しにしない程度。よりシステム負荷の少ない【ピクシー】の方が、【スプリガン】より再起動が早い筈、という読みだった。
【ピクシー】が再起動し、コントロールが戻った。高度な戦術支援は後回しにされ、機体操作に必要な最小限のデータが優先されている。機体の相互支援も、自動照準も、複雑な情報表示もなくなった。
旧世代戦車のように、自分の視覚と、操作技術だけが残った。
遅れて、【スプリガン】も動き始めたけれど、手にした数秒の優位は、もう揺らぎようがなかった。
「なあ、つまらないぜこれ」とトラッシュがぼやいた。
カイトは、スポッティングレーザーと連動した視線を、動き始めた【スプリガン】に注ぐ、人が乗ってないから、殺す心配はなかった。
カイトは対戦車ミサイルにデータをインプットし、発射を指示した。
アクティブ防護システムが作動し、射出された無数の矢が、【スプリガン】のタンデムHEAT弾を迎え撃った。タングステンの矢が造った雲は、HEAT弾の高性能炸薬や推進剤を傷つける。弾頭は着弾の間際で誘爆した。
その間にも、カイトの【ピクシー】は、【スプリガン】の索敵に対して、欺瞞情報を返し続けている。
電子的対抗策を取っているのは、【スプリガン】の方も同じだった。表示された「敵性存在」を示すコンテナは、【スプリガン】の姿を捉えられず、あちこちをでたらめに踊っていた。火器統制装置は、偽物の距離や速度情報で、ロックオン出来ないでいる。
機体性能的には、やはり米軍が優位だった。他の【ピクシー】も苦戦している。電子妨害で射撃に必要な物理情報が、確保できなかった。スピードでは勝っていたけれど、それは数の差で相殺されていた。
【スプリガン】も、【ピクシー】と同じく、熱工学迷彩を装備している。お互いに、揺らめく陽炎のような姿を追う様子は、まるでゴーストが戯れているようだ。
意外だったのは、キオミの機体操作が様になっていたことだ。下手したら予備チームの連中より上かもしれない。作戦オペレーターとしてチームを指揮する前は、間違いなくピクシードライバーだった筈だ。
「キオミ。ブランクはどれくらいなんだ?」
『……五年。まだ覚えてた』
抑えきれない好奇心が湧いてきた。有名なプレーヤーだったのか? どういう経緯でオペレーターになった? スカウトなのか? それとも、バルバロイのシステムには、まだ上があるのか?
「なあ、聞いてもいいか?」
『集中させてカイト。余裕がない』
「……了解」
しびれを切らした【スプリガン】が、二十ミリのモーターガンで、射撃を行った。誘導されていない攻撃は欺瞞のしようがない。何発かが装甲をかすめ、自壊式のマウントが衝撃を吸収した。
カイトは、射界の死角に、機体を運んだ。【ピクシー】の装甲は、あくまで対人火器を防衛する程度でしかなかった。二十ミリ機銃の直撃はもらえない。
【スプリガン】は、急旋回してカイトを死角から引きずり出そうとしたけれど、カイトは運動性能の差を生かして、安全地帯をキープした。
「まだなのかキオミ。分が悪いぜ」
『もう少し、あと百メートル西に誘導』
今回の隠し玉は、大きさがあり過ぎて【ピクシー】に搭載できなかった。谷あいに隠し、岩で偽装してある。
『もう十メートル。みんな遮断して』
体感覚の混乱を警戒して、カイトたちは視覚以外の感覚情報を遮断した。
谷間に転がる岩の間から、青白い閃光がもれた。
視覚野を激しいノイズが舐めた。神経接続の途切れる、掻き毟られるような感覚が、全身を襲う。システムがダウンして再起動を始めた。バックグラウンドでチェックシークエンスが目盛りを刻み始める。
「どうだ?」
【スプリガン】は、電源が切れたように固まっていた。熱光学迷彩は、頭足類が色素細胞で表現する警戒色のように、明滅していた。
「ぷぷ、どっちの再起動が早いか、競争だぜい」と、チャーリーが笑う。
カイト達は、電磁パルス弾頭技術の応用で、より出力の高いパルス発生器を準備していた。台車に乗せてけん引し、岩に偽装していたのだ。
電磁パルス発生装置は、通電したコイルを爆縮して、強力な電磁波を発生する武器だ。旧型戦車や人間にはなんの影響もないが、C4Iシステムで運用する最新の兵器には、致命的なダメージを与えることが出来る。
今回は少し、出力をコントロールしていた。システムにはダメージを与えるけど、チップの素子を皆殺しにしない程度。よりシステム負荷の少ない【ピクシー】の方が、【スプリガン】より再起動が早い筈、という読みだった。
【ピクシー】が再起動し、コントロールが戻った。高度な戦術支援は後回しにされ、機体操作に必要な最小限のデータが優先されている。機体の相互支援も、自動照準も、複雑な情報表示もなくなった。
旧世代戦車のように、自分の視覚と、操作技術だけが残った。
遅れて、【スプリガン】も動き始めたけれど、手にした数秒の優位は、もう揺らぎようがなかった。
「なあ、つまらないぜこれ」とトラッシュがぼやいた。
カイトは、スポッティングレーザーと連動した視線を、動き始めた【スプリガン】に注ぐ、人が乗ってないから、殺す心配はなかった。
カイトは対戦車ミサイルにデータをインプットし、発射を指示した。
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