それなら、あなたは要りません!

じじ

文字の大きさ
1 / 16

カレン=クーガー

しおりを挟む
夫に結婚して欲しいと言われた時、私は二つ返事で承諾した。ダレスはとても優しかったから。
ホワン子爵家が金銭的に苦しいのは知っていたが、幸いクーガー伯爵家には有り余る財産があったし、両親も娘の婚約者に求めるのは人柄だけだったから、プロポーズを受けて半年後には籍を入れていた。
でも、2年が経った今、私はこの結婚が失敗だったと毎日悔やんでいる。
夫のダレスは私の目を憚ることなく愛人のもとに通い、義母ののダイナは屋敷で私を見かけるたびに嫌味を口にする。
ホワン子爵家での私の唯一の癒しは一歳になる娘のヨーシャだけだ。私はヨーシャを片親で育った子にしないためだけに、この理不尽な結婚生活に耐えている。



「ねえ、あなた」
「なに」
「今日、お義母様に二人目は後継が欲しいと言われたのだけど」
「だから?」
「あなた、わかるでしょう?子どもは1人ではできないわ。愛人の方のところで過ごす頻度を減らしてくださらない」
「はっ。お前になんか興味ない。そんな無駄な時間、僕にはない」
「でしたら、あなたからそうお母様に言ってくださらない」

プライドをズタズタにされながらも、私は辛うじて冷静に言い返す。それが余計に気に障ったらしく、激昂してダレスは言い募った。

「あーあ。なんでお前なんかと結婚したんだろうな。可愛げもない。愛嬌もない。後継も産めない。ヨーシャなんかお前にそっくりで全く可愛くないしな」
「ヨーシャがかわいくないって本気でおっしゃってるの?」

あまりの言葉に思わず聞き返す。

「ああ?当たり前だろ。子どもなんてただでさえうるさいのに、それがお前に似てるんだぞ。逆にどこにかわいい要素があるんだよ」

あまりヨーシャに興味を示さないと思っていたけれども、まさかこんな酷いことを思っていたなんて…許せない

「そう。残念だわ。」

ボソリと呟いた私を見て、ダレスは馬鹿にした視線をよこした。
揉めるのが嫌で、ヨーシャのために離縁するのが嫌で、淡々と耐えてきたけれど、ヨーシャのためにならない父親なんて必要?いいえ、それなら要らない。

「ねえ、あなた」
「なんだよ」
「さっきの言葉本気?」
「当たり前だろ」
「そう。それなら、あなたはいりません」
「はっ?」
「今日限りで、クーガー家の姓にもどります。」

ようやく、私が本気で離婚すると言っていることに気づいたらしい。しかしダレスは馬鹿にしたように言ってきた。

「はっ、好きにしろよ。お前の持参金のおかげで領地も既に潤ってるんだ。今更お前なんか不要だよ」

それを見て私は遂に笑ってしまった。

「あなた、大丈夫?」
「何がだよ」
「持参金だけで今の生活が勝手に成り立たったと本気で思っているの?」
「どう言う意味だ」
「実家からの継続的な金銭の援助。それに領地は私が経営したから成り立っていたのよ?」
「まさか」
「当たり前でしょ。あぁ、この離婚届はもらって行くわね。これで無関係になったし、援助もないから、もとの痩せた貧しい領地に戻って…しまわないわね」
「どう言うことだ?」
「領主が無能なツケを領民に払わすわけに行かないじゃない。」
「なんだと。」
「本当のことでしょう。私が嫁いで来て勝手に領地が豊かになるわけないでしょ?だからね。ホワン子爵領を買い取ってたのよ。」
「待て、そんな金」
「あら、あなた達が馬鹿みたいに散財したお金、どこからでてきたの?」
「お前の持参金じゃ…」
「な訳ないじゃない。私の持参金けっこうあったにも関わらず3ヶ月くらいで使い切ってたわよ。まぁ、だからこそあなた達の散財で支払ったお金と領地を相殺して2年程度で買い取れたんだけれど」
「しかし、契約書など何もないはずだ」

勝ち誇ったように言われて、私は大仰に溜息をついた。

「そんなわけないでしょ。支払いの請求書を私に月一回あなたもお義母様もご丁寧に渡して来たじゃない。その度に私はあなた達にサインを求めたはずだけれど?」
「確かにサインしてた。領収書のようなものだろ?」
「はあ?あれはね、私が支払うたびに土地を私名義にする旨の契約書だったのよ?」
「聞いてない!騙したのか」
「最初に説明したわよ。もっともあなたは興味なさそうに愛人の絵姿眺めてたし、お義母様にいたっては、うるさいささっと払っとけ、しか言わなかったけどね」
「そんな」
「でも、安心して。この屋敷と建物の立ってる土地はあなたのものよ。住むところを失うわけじゃないわ」
「…」
「でもね。その周りの土地はすべて私のもの。だから、愛人のところに通うには私の土地を通る許可を取ってね」
「そんなもの必要ない!」
「あら、貴族同士が他家の領地に入る時には必ず通行料がわりに特産物なんかを渡すじゃない?あなたは土地がないから特産物なんてないし、代わりにお金でいいわよ。」
「お前…」
「ああ、あと、国に納める地税も覚悟なさった方がいいわよ」
「そんなもの、この辺りは土地の値段なんかたかが知れてる」
「ええ、私が嫁ぐまでわね。嫁いで来てからこの辺りの領地運営を改善して収益が上がったから去年から地税が跳ね上がったのよ…家、売らずに住むといいわね」

最後だけは優しげに告げてやる。 

「お前なんかこっちから願い下げだ!」

威勢のいい言葉を夫は放った。



その後、一月ほどして、ホワン子爵家の屋敷が売りに出されているのを見た時は思わず笑ってしまった。元の半値以下だったので、安く買い取れた、と喜んでいた次の日、元夫と元義母が訪れた。

「カレン、すまなかった」
「カレンさん、すみません」

土下座せんばかりで二人とも謝罪をしてくる。

「何がお望み?」

私は聞いてみた。

「カレンとよりを戻したい。お前を捨てたことを後悔してるんだ」
「愛人とは?」
「別れた」

真摯な態度で話す元夫に、私は微笑んで告げた。

「捨てたのは私よ。あなたはもうの」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子は元婚約者から逃走する

みけの
ファンタジー
かつて、王太子アレン・リオ・アズライドは、婚約者であるセレナ・スタン公爵令嬢に婚約破棄を告げた。 『私は真実の愛を見つけたのだ!』と、ある男爵令嬢を抱き寄せて。  しかし男爵令嬢の不義により、騙されていたと嘆く王太子。 再びセレナと寄りを戻そうとするが、再三訴えても拒絶されてしまう。 ようやく逢える事になり、王太子は舞い上がるが……?

婚約破棄は予定調和?その後は…

しゃーりん
恋愛
王太子の17歳の誕生日パーティーで婚約者のティアラは婚約破棄を言い渡された。 これは、想定していたことであり、国王も了承していたことであった。 その後の予定が国王側とティアラ側で大幅に違っていた? 女性が一枚上手のお話です。

疑い深い伯爵令嬢 アマリアの婚約破棄から始まる騒動とその行方

有栖多于佳
恋愛
疑い深い伯爵令嬢ジェマイマの兄マルコスとその妻アマリアの馴れ初めから結婚まで、そしてジェマイマが疑い深くなっていった様子を書いた前日譚と後日談です。 アマリアが貴族学院で婚約破棄を言い渡されてから、25歳になるまでの間に起こった、アマリアとその周辺のお話。 25歳の時にはどんなことになっているのでしょうか。 疑い深い伯爵令嬢と併せてお読みいただければ幸いです。

セカンドバージンな聖女様

青の雀
恋愛
公爵令嬢のパトリシアは、第1王子と婚約中で、いずれ結婚するのだからと、婚前交渉に応じていたのに、結婚式の1か月前に突然、婚約破棄されてしまう。 それというのも、婚約者の王子は聖女様と結婚したいからという理由 パトリシアのように結婚前にカラダを開くような女は嫌だと言われ、要するに弄ばれ捨てられてしまう。 聖女様を名乗る女性と第1王子は、そのまま婚前旅行に行くが……行く先々で困難に見舞われる。 それもそのはず、その聖女様は偽物だった。 玉の輿に乗りたい偽聖女 × 聖女様と結婚したい王子 のカップルで 第1王子から側妃としてなら、と言われるが断って、幸せを模索しているときに、偶然、聖女様であったことがわかる。 聖女になってからのロストバージンだったので、聖女の力は衰えていない。

「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました

ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」  王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。  誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。 「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」  笑い声が響く。  取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。  胸が痛んだ。  けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。

あなたの思い通りにはならない

木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。 しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。 *後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。

クリスティーヌの華麗なる復讐[完]

風龍佳乃
恋愛
伯爵家に生まれたクリスティーヌは 代々ボーン家に現れる魔力が弱く その事が原因で次第に家族から相手に されなくなってしまった。 使用人達からも理不尽な扱いを受けるが 婚約者のビルウィルの笑顔に救われて 過ごしている。 ところが魔力のせいでビルウィルとの 婚約が白紙となってしまい、更には ビルウィルの新しい婚約者が 妹のティファニーだと知り 全てに失望するクリスティーヌだが 突然、強力な魔力を覚醒させた事で 虐げてきたボーン家の人々に復讐を誓う クリスティーヌの華麗なざまぁによって 見事な逆転人生を歩む事になるのだった

待ってました。婚約破棄

キルア犬
恋愛
侯爵令嬢マリーアナは第2王子バカラスにたった今、婚約破棄を宣言された。 しかも、場所は王宮の夜会で3歳下の異母妹の社交界デビューの日だった。

処理中です...