後宮にて、あなたを想う

じじ

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61 蔡怜の心

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思わず口をついて出た言葉に蔡怜自身驚いた。こわごわ皇帝の顔をみると、こちらも、驚いたように軽く目を見開いている。

「陛下、あの…」
「はは。珍しいな、あなたがそんなことを言ってくれるとは。ではお言葉に甘えて、またいつでもあなたの顔を見にくることにしよう」

必死で言い訳をしようとした蔡怜の言葉を途中で遮って妙に嬉しそうな様子で皇帝は去って行った。

「あのー、蔡怜様?」

奏輝に気遣うように声をかけられ、蔡怜は皇帝にできなかった言い訳をし始めた。

「奏輝、私、違うのよ。私から陛下をお呼びしてしまえば、他の側妃様達のもとへも行かなければならない陛下のお邪魔をしてしまうと思って…」
「よろしいのではないですか。どのような心持ちでおられようと蔡怜様は皇后陛下であられます。ましてや、陛下からのご依頼を受けて動かれていらっしゃることは周知の事実となってきております。蔡怜様が陛下をお呼びになったところで問題はないかと。」
「そうなのだけれど」
「かえってあれでは、陛下の方が誤解されたかもしれませんよ。」
「どう言うこと?」
「さっきの仰りようでは、まるで陛下の方から望まれた上でお会いしたい、とのように聞こえます。」

さっと蔡怜の頬が赤く染まるのを見て、流石の奏輝も驚いた様子で尋ねた。

「そのおつもりだったのですか」

奏輝からの指摘に蔡怜はかぶりをふって答えた。

「そんなつもりじゃないわ…もちろん陛下のことは尊敬してるし、お役に立ちたいと思っているけれども…それに私は仕方なしに皇后とされただけで、陛下に柳栄様のように望まれたわけではないわ。」

淡々と、しかしどこか悲しそうに言う蔡怜を見て、珍しく奏輝は厳しい口調で蔡怜を嗜めた。

「蔡怜様。蔡怜様がどのように思われていても真国の皇后は蔡怜様です。陛下は国政のために様々なことを考慮しておられますし、時には非情な決断もなさいます。ですが、柳栄様同様、蔡怜様も必要と思われたからこそ現在の地位にいらっしゃるのです。」
「そうね。ありがとう」
「出過ぎたことを…申し訳ございません。蔡怜様は望んで皇后になられた訳ではございませんのに。でも、私は蔡怜様にお仕えできて幸せでございます」
「ありがとう。私は自分が皇后に選ばれた理由をよく分かってるの。実家を気遣う必要がなく、都合よく動けて、でもいざとなったらいつでも切り捨てることができる存在。だからこそ私は尊敬以上の感情を陛下には抱かないわ。」

自分に言い聞かすように呟いた蔡怜の言葉を聞いて、奏輝は困ったように微笑んだ。
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