後宮にて、あなたを想う

じじ

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156 葛藤

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両親の最期の言葉がまさかこれほど胸に深く突き刺さるとは…黄怜はぼんやりそう考えた。
首を刎ねられた両親に対する悲しみより、その両親が死の直前に放った黄怜も自分たちと同じだ、という言葉の方が頭にこびりついて離れない自分がひどく冷たい人間に思える。

「陛下の私への情は…あの人たちの犠牲の上ね」

ぽつりとつぶやいた言葉に、少し離れた場所でお茶の準備をしていた奏輝が反応した。

「何かおっしゃいましたか?」

帰ってくるなり青ざめた表情で黙りこんでいる黄怜に、両親の最期の姿を見たからだろうとそっとしていた奏輝だったが、ようやく口を開いた黄怜に気遣うように尋ねる。
自分の問いかけに黄怜からの反応がないのを不思議に思い、茶器から黄怜に視線をうつすと、虚ろな目で黄怜は宙を見つめていた。

「黄怜様?」

再度呼びかけると、ようやく視線が奏輝の方にむけられた。

「何かしら」

感情が抜け落ちた声で尋ねられて奏輝は戸惑った。

「いえ…何かおっしゃられたようでしたから…大丈夫ですか」

心配げな奏輝の問いかけに黄怜は突然場違いな笑い声を上げた。

「ふふ。大丈夫よ」

常とは異なる様子に奏輝が戸惑っていると黄怜はそのまま続けた。

「だって私は両親の死を代償に陛下の寵をねだるような女よ?私はやっぱりあの両親の娘だわ…ふふ。ねぇ、おかしいでしょう?あれほど嫌っていた両親なのに彼らの最期の言葉に私は…とても納得したわ」
「…」

おそらく死の間際まで両親に罵声を浴びせられたであろうことは想像に難くなかった。
それが分かるからこそかける言葉に迷い奏輝は黄怜の言葉に無言を貫く。

「今日ほど本当に黄家の娘として…いえ、蔡家以外の娘として生を受けたかったと思った日はないわ…あ、でもそれなら両親の命を差し出して国難を救うことなんてできなかったから、陛下の寵を賜ることなんてできなかったかしら」

おかしそうに一人で話し続ける黄怜が痛ましくて思わず視線を外す。黄怜は何かに取り憑かれたように続ける。

「あなたにも悪いことをしてしまったわ。優秀な侍女なのに私付きなんかにしてしまって…あなたは優しくて聡明だから次の皇后が決まっても変わらず皇后付きになれるはず…だから心配する必要はないのよ?」

一人で話し続ける黄怜にさすがに奏輝は静かな口調で答えた。

「陛下は黄怜様以外が皇后陛下となられることをお認めにはならないでしょう。それに私は皇后様付きではなく黄怜様の侍女であることに誇りを持っています」

それまでどこか狂気を孕んだ様子だった黄怜が、すっと正気に戻るように押し黙った。

「今日はお疲れでございましょう。どうぞおやすみになってください」

あやすように言われて黄怜は従順に寝台に横たわった。
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