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お花見
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卓也はおしゃべりは少し控え車の運転に集中することにした。耳の火照てりを鎮めるためだった。
美桜も卓也の考えが分かるのかあまり喋りかけなくなっていった。
そして三十分くらい走ると卓也の車は大学の校門のような所へと入っていった。そして小さな駐車場に車を停車させた。
「到着です。ここからは歩いて行きます」
「あっ、はい、分かりました」
「信号を渡れば、鶴舞公園です」
「あの、すると、その、ここが筒井さんの母校なんですか」
「はい、そうです」
「だから、鶴舞公園をホームって言ったんですね」
「花見は今日で四年目になります」
「光栄です。ご一緒させていただけて」
「僕こそ感謝してます。今年は花見は出来ないのかなと思ってたんです」
「そうだったんですか」
「では、行きましょうか」
「はい、」
二人は車から降りていった。
外は風もなく日当たりはとても暖かかいようだった。絶好の花見日和りかもしれなかった。
二人は雲一つない青空を見ながら校門の方へと歩いていった。
「筒井君、」
すると後ろの方から卓也を呼ぶ声が聞こえてきた。
二人は立ち止まり後ろを振り向いた。
「ああ、野宮さん、」
「今日はどうしたの」
「花見に来たんだ」
「お花見、」
「ああ、そうだよ、君は」
「これからのこともあるから、教授に挨拶に来たのよ」
「なるほど、君らしいね」
「お褒めの言葉と受け取っておくわ。ところで、そちらの方は」
「あっ、ああ、」
卓也は美桜の方に顔を向けた。
美桜は微笑んで卓也を見返した。
「僕の、婚約者なんだ」
卓也は野宮の方に顔を戻し正直に答えた。
変な答えをしたら、妙なことになるような気がしたからだった。
「えっ、本当、」
「本当さ。じゃあ、また」
「あっ、はい、また」
野宮は卓也に小さく手を振った。
「あっ、ちょっと」
「何、」
「おめでとう」
「ああ、ありがとう」
「じゃあね」
「ああ、また」
卓也は野宮に背中を向けた。
「行きましょう」
そして、美桜にそう言った。
「はっ、はい、」
美桜は野宮に小さく頭を下げ挨拶をして卓也と一緒に歩き始めた。
「あの、よろしいんですか」
でも、野宮のことが気になるみたいだった。
「えっ、何がですか」
「あの方ともう少しお話をしたかったんじゃないかと思いまして」
「そんな事ないですよ。別に用事が有るわけじゃないですからね」
「そうですか、それなら良いんですけど」
美桜は後ろをちらりと見た。
「彼女は僕のクラスメートなんです。卒業後は建設会社で働くそうです」
「その、きれいな方でしたね」
「えっ、そうですか」
「はい、とても」
「うーん、そう言う目で見たことはなかったからな。男ばかりの学校ですからね、彼女も男みたいにしてましたからね」
「でも、卓也さんを気にしてるみたいでしたわ」
「友達としてですよ」
「そうでしょうか」
「誤解しないでください、僕は、」
「とても、素敵な方ですわ」
「えっ、」
卓也は美桜の方に顔を向け聞き返すようにそう言った。
「あっ、」
すると美桜と間近で目が合ってしまった。
卓也はまた耳に火照りを感じてきてしまった。
「ごほん、ごほん」
卓也は咽るような咳をして美桜から目を逸らした。
「大丈夫ですか」
「はい、大丈夫、ごほん」
そして二人は黙ったままゆっくり歩き始めた。
卓也はまたやらかしてしまいそうだと考えていた。美桜と目を合わせただけで耳を火照らせてしまうようではこれから美桜とどう接したら良いのか分からなくなるからだった。
こうなったきっかけは見合いの時にピンクのワンピースを着た美桜さんを見た時に母が「何を見惚れてるの」と耳打ちしてきたことからだった。
確かにきれいなお嬢さんだとは思ったが、そんな事で照れてしまうなんて考えられないことだった。
もしかしたら、母の耳打ちによって美桜さんを見ると顔を火照らせてしまう変なスイッチが入ってしまったのかもしれなかった。
だとすれば恐ろしいことだった。そのスイッチが切れるまではまともに美桜さんの顔を見れなくなるかもしれないからだった。このままにしておくわけにはいかなかった。
「あっ、あの、」
卓也は美桜に話しかけた。正直に話すしかないと思ったからだった。それにそう言うものだと伝えておけば、過剰に美桜を意識しなくて済むようになれるかもしれないとも思っていた。
「はい、何ですか」
「よく分からないんですが、話しておきたいことがあるんです」
「はい、」
「実は、お見合いの時、母に変な耳打ちをされてしまってから、変なスイッチが入ってしまって困ってたんです」
「変なスイッチ、ですか」
「実は、美桜さんを見ると顔が火照ってきてしまうみたいなんです」
「えっ、」
美桜は驚いたような顔をして卓也の耳に目を向けた。
卓也はまた耳が火照ってきそうになってきた。
「あの、全然、変なスイッチじゃないと思いますけど」
美桜は赤く染まっていく卓也の耳を見ながらそう言った。
「いえ、変です」
「私には、嬉しい、スイッチに思えます」
「嬉しい、どうしてですか」
「私のことを嫌いになるスイッチじゃないみたいですもの」
「でも、周りの人たちは変な目で僕達を見ると思いますよ」
「そんな事ないわ。周りの人達はきっと私を羨ましく思うと思いますよ」
「そう、かなあ」
卓也は周りを歩く人達を見回してみた。
確かに変な顔で見ている人はいないようだった。
「少し、気が楽になりました」
すると美桜はそう聞いた。
「はい、」
卓也は耳の火照りを気にせず美桜の方に顔を向けてみた。
残念ながらすぐには効果は出て来ていないようだった。耳の火照りは頬にまでじわじわと広がって来てしまっているようだった。
美桜も卓也の考えが分かるのかあまり喋りかけなくなっていった。
そして三十分くらい走ると卓也の車は大学の校門のような所へと入っていった。そして小さな駐車場に車を停車させた。
「到着です。ここからは歩いて行きます」
「あっ、はい、分かりました」
「信号を渡れば、鶴舞公園です」
「あの、すると、その、ここが筒井さんの母校なんですか」
「はい、そうです」
「だから、鶴舞公園をホームって言ったんですね」
「花見は今日で四年目になります」
「光栄です。ご一緒させていただけて」
「僕こそ感謝してます。今年は花見は出来ないのかなと思ってたんです」
「そうだったんですか」
「では、行きましょうか」
「はい、」
二人は車から降りていった。
外は風もなく日当たりはとても暖かかいようだった。絶好の花見日和りかもしれなかった。
二人は雲一つない青空を見ながら校門の方へと歩いていった。
「筒井君、」
すると後ろの方から卓也を呼ぶ声が聞こえてきた。
二人は立ち止まり後ろを振り向いた。
「ああ、野宮さん、」
「今日はどうしたの」
「花見に来たんだ」
「お花見、」
「ああ、そうだよ、君は」
「これからのこともあるから、教授に挨拶に来たのよ」
「なるほど、君らしいね」
「お褒めの言葉と受け取っておくわ。ところで、そちらの方は」
「あっ、ああ、」
卓也は美桜の方に顔を向けた。
美桜は微笑んで卓也を見返した。
「僕の、婚約者なんだ」
卓也は野宮の方に顔を戻し正直に答えた。
変な答えをしたら、妙なことになるような気がしたからだった。
「えっ、本当、」
「本当さ。じゃあ、また」
「あっ、はい、また」
野宮は卓也に小さく手を振った。
「あっ、ちょっと」
「何、」
「おめでとう」
「ああ、ありがとう」
「じゃあね」
「ああ、また」
卓也は野宮に背中を向けた。
「行きましょう」
そして、美桜にそう言った。
「はっ、はい、」
美桜は野宮に小さく頭を下げ挨拶をして卓也と一緒に歩き始めた。
「あの、よろしいんですか」
でも、野宮のことが気になるみたいだった。
「えっ、何がですか」
「あの方ともう少しお話をしたかったんじゃないかと思いまして」
「そんな事ないですよ。別に用事が有るわけじゃないですからね」
「そうですか、それなら良いんですけど」
美桜は後ろをちらりと見た。
「彼女は僕のクラスメートなんです。卒業後は建設会社で働くそうです」
「その、きれいな方でしたね」
「えっ、そうですか」
「はい、とても」
「うーん、そう言う目で見たことはなかったからな。男ばかりの学校ですからね、彼女も男みたいにしてましたからね」
「でも、卓也さんを気にしてるみたいでしたわ」
「友達としてですよ」
「そうでしょうか」
「誤解しないでください、僕は、」
「とても、素敵な方ですわ」
「えっ、」
卓也は美桜の方に顔を向け聞き返すようにそう言った。
「あっ、」
すると美桜と間近で目が合ってしまった。
卓也はまた耳に火照りを感じてきてしまった。
「ごほん、ごほん」
卓也は咽るような咳をして美桜から目を逸らした。
「大丈夫ですか」
「はい、大丈夫、ごほん」
そして二人は黙ったままゆっくり歩き始めた。
卓也はまたやらかしてしまいそうだと考えていた。美桜と目を合わせただけで耳を火照らせてしまうようではこれから美桜とどう接したら良いのか分からなくなるからだった。
こうなったきっかけは見合いの時にピンクのワンピースを着た美桜さんを見た時に母が「何を見惚れてるの」と耳打ちしてきたことからだった。
確かにきれいなお嬢さんだとは思ったが、そんな事で照れてしまうなんて考えられないことだった。
もしかしたら、母の耳打ちによって美桜さんを見ると顔を火照らせてしまう変なスイッチが入ってしまったのかもしれなかった。
だとすれば恐ろしいことだった。そのスイッチが切れるまではまともに美桜さんの顔を見れなくなるかもしれないからだった。このままにしておくわけにはいかなかった。
「あっ、あの、」
卓也は美桜に話しかけた。正直に話すしかないと思ったからだった。それにそう言うものだと伝えておけば、過剰に美桜を意識しなくて済むようになれるかもしれないとも思っていた。
「はい、何ですか」
「よく分からないんですが、話しておきたいことがあるんです」
「はい、」
「実は、お見合いの時、母に変な耳打ちをされてしまってから、変なスイッチが入ってしまって困ってたんです」
「変なスイッチ、ですか」
「実は、美桜さんを見ると顔が火照ってきてしまうみたいなんです」
「えっ、」
美桜は驚いたような顔をして卓也の耳に目を向けた。
卓也はまた耳が火照ってきそうになってきた。
「あの、全然、変なスイッチじゃないと思いますけど」
美桜は赤く染まっていく卓也の耳を見ながらそう言った。
「いえ、変です」
「私には、嬉しい、スイッチに思えます」
「嬉しい、どうしてですか」
「私のことを嫌いになるスイッチじゃないみたいですもの」
「でも、周りの人たちは変な目で僕達を見ると思いますよ」
「そんな事ないわ。周りの人達はきっと私を羨ましく思うと思いますよ」
「そう、かなあ」
卓也は周りを歩く人達を見回してみた。
確かに変な顔で見ている人はいないようだった。
「少し、気が楽になりました」
すると美桜はそう聞いた。
「はい、」
卓也は耳の火照りを気にせず美桜の方に顔を向けてみた。
残念ながらすぐには効果は出て来ていないようだった。耳の火照りは頬にまでじわじわと広がって来てしまっているようだった。
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