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奪還

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 「こいつら、意外と持ってたぜ」
 衛二は隠し金庫のような物の前から結にそう言った。金庫の中にはたくさんの札束が見えていた。
 「そう、」
 結はちらりと金庫を見てそう言うと、銃を持ったまま主犯と思われる女の方に歩いていった。
 「キャバクラで三宅さんが祖父から遺産を相続したことを聞いて盗みを思いついたらしい」
 衛二は女から聞き出したことを結に伝えた。
 「そうだったの、」
 結は微笑みを浮かべそう言うと女の額に銃口を押し当てた。
 「ゆ、許して」
 女は手をブルブル震わせながら結に哀願するようにそう言った。
 「欲ばり過ぎたみたいね」
 「か、勘弁して、く、ください」
 「海斗、聞かせてあげて」
 「了解」
 海斗はスマホを取り出し何かを操作し始めた。
 「誘い出して捕まえたら、女を使って根こそぎ奪い取るのさ」
 「マジっすか」
 「だけど、最後は二人とも口を塞ぐことになるからな覚悟しとくけよ」
 スマホから大きな音で犯人達の会話が部屋の中に流れ始めた。
 「不法住居侵入、身代金目当ての誘拐殺人未遂、監禁、不同意性行」
 そして衛二は会話を補足するようにそう言った。
 女はブルブルと体を震わせながら観念したように目を閉じた。
 「金庫のお金をいただいても、良いわね」
 結は女に聞いた。
 「ぜ、全部は困ります」
 「そう、言われてもタダではねえ」
 「お願いします」
 「ふーん、それなら、半分にしてあげても良いわよ、もちろん条件付きでね」
 「は、は、はい、何でも約束します」
 女は驚いたように結の方に顔を向けた。
 「三宅さんや後ろのお嬢さんに今後絶対に手を出さないこと。それを約束してくれる」
 「え、ええ、も、もちろん、や、約束す、しっ、します」
 「でも、もし、約束を破ったら、残りの半分に利子を付けて払っていただくことになるから。覚えておいて」
 「はい、覚えておきます」
 「じゃあ、半分は置いていくわ。あっ、それと、一応言っておくけど、もし、警察ご防犯カメラ映像などからあなた達を捕まえてしまった場合のことなんだけど、私達のことは警察に絶対に話さないでね」
 「は、はい、絶対に言いません」
 「よろしく。約束を破れば、お金だけじゃ済みませんからね」
 結は笑顔を浮かべそう言うと、銃口で女の額をゴツゴツと叩いてみせた。
 「や、約束します」
 「契約成立」
 結は銃口を女の額から離した。
 「衛二、良い」
 そして衛二の方に顔を向けそう聞いた。
 「了解」
 衛二はバッグをポンポンと叩きながらそう答えた。
 「お嬢さんは、どうする」
 すると、結は酒井の方に顔を向けそう言った。
 「い、いえ、私は、大丈夫です」
 「優しいのね」
 「いえ、」
 「じゃあ、帰りましょう」
 結はそう言うと銃を胸ポケットにしまった。
 そして酒井を連れ玄関の方に早足で歩き始めた。衛二と海斗も誘拐犯を警戒しながら結に着いて行った。
 「急いでくれる」
 玄関を出ると結は酒井にそう言った。
 近くに犯人の仲間が潜んでいる可能性があるからだった。
 「は、はい」
 酒井は結の顔の見ながら頷き、一緒に走り始めた。
 「急いで、」
 するとエレベーターの前から力也が声をかけてきた。どうやら皆より先に部屋を出てエレベーターを呼び寄せ待っていてくれたようだった。
 結達はエレベーターに走り込んで行った。
 がガーッ
 ダダダダダダッ
 そしてエレベーターで一階まで降りると、ドアが開くとともに一斉に外に飛び出し車に向かい全速力で走っていった。
 バタンバタンバタン
 キキキキキキッ
 そして全員が車に乗り込むと衛二はタイヤを空回りさせながら車を急発進させていった。
 
 「ミッション終了、かな」
 衛二は大通りまで車を走らせていくとバックミラーを見ながらそう言った。
 「ご苦労さま」
 「まあ、楽な仕事だったけどね」
 「そうだな、これで金がもらえるなんて申し訳ないくらいだったな」
 「それでいくら持ってきたんだい」
 「二千八百万」
 「経費はガソリン代とガムテープ代だけだから、まあまあかな」
 「だな、」
 「ちょっと、どうでも良いけど、もう少しお行儀よく話せないの。お嬢さんが驚いてしまうじゃないの」
 「あっ、すいません」
 すると助手席から力也が体裁悪そうに軽口を謝ってきた。
 「うん、それじゃ、お嬢さん、三宅さんが心配していると思うので、三宅さんに電話をしてもらってもよろしいかしら」
 「いっ、今から、すぐ、ですか」
 「はい」
 「でも、スマホが、」
 酒井はスマホを探すようにしながらそう言った。
 「はい、どうぞ」
 すると横に座っている海斗が酒井の前にスマホを差し出してきた。誘拐犯から奪い返してくれていたようだった。
 「あ、有難うございます」
 酒井はスマホを受け取った。
 そしてちらりと結の顔を見てから三宅に電話をかけ始めた。
 
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