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第1章
ギンギラ豪華なお衣装
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三日後、私達は言われた通りギルドに来ていた。
ギルドとは言われたがずっと入り口で待ってる訳にもいかない、仕方がないので食堂を兼ねた酒場らしきところで待つことにした。のだが……
「ヘぇ~、あんたが今ギルドで話題の『ヴージェノヴ・ニュアレンバーグ』のリーダー? ふーん、結構いい体つきしてるじゃん! ちょっと筋肉触りたいから服全部脱いで貰える?」
と言って明らかに初対面なのにいきなり私の腕を触ってくる魔道師らしき女、
「ちょっと! あんたみたいな筋肉愛好家が来るんじゃないわよ! あんた、筋肉ある人だったら誰でも追い剥ぎみたいに服全部を所構わずひん剥こうとするんだから! っ邪魔よ!!」
「きゃ! 痛ーい」
「ふん、それよりもお兄さーん。こんな変態放って私と一緒にコレ、やらない?」
筋肉愛好家の女を蹴り飛ばし、次に私の腕に抱き着いてきたのは、服装の派手派手しい女だった。よく見ると手には何色かの紙で包まれた小さい粉薬の包みが握られている。
おい、それ大m……、
「いや結構だ」
「そう? 残念~」
「ハァ、ハァ、不思議系の女の子がゴスロリきてるだと?! まるで物語のヒロイン見たいだね!……ねぇ、君いくつ?」
「五月蝿い、このロリコン。……とっと失せろ……」
「ヒ、ヒィィィーーー!!」
派手派手しい女の誘いを断ったその時、後ろから酔っ払いのスケベ親父の会話と地を這うような凄みを効かせた声が聞こえた。
後ろを見ると腕を組んで踏ん反り返っている新月と逃げていくスケベ親父……ではなく若い男だった。
……なんと言えばいいのか……新月も新月だがこのギルドもギルドだな。でも今のはやり過ぎだろう。
「新月、お前ってやつは。ギルドの人間に睨みを効かせてどうする」
「別にいいでしょ? これぐらい言っておかないとああいうやつには効かないんだって。むしろクロもこうして欲しいぐらいなんだけどな~」
さっきの発言に軽く注意をする。が、なぜか逆に私が注意されてしまった。
今度は隣から黄色い悲鳴が聞こえた。今度は何かと思って目をやると、ハリスが巨乳の熟女に抱えられて連れ去られそうになっていた。
「キャーー!! ショタっ子が軍服きてる! 可愛い♡ 連れて帰ってもいい? いいよね?! ってな訳でこの子、お持ち帰りで!!」
「え?! あ、あ、クロス様! 助けて下さい! どこかに連れていかれそうです!!」
慌てて連れていかれそうになっているハリスを救助しに行く。熟女には事情を説明してなんとか諦めて貰った。しかし、疲れた。
普通、初対面でいきなりお持ち帰りなんてしないだろ。新月か。
なんなんだこのギルドは、前にもこんなことはあったがその時よりもバージョンアップしていて酷い。それになにより、自由過ぎる。
いや、自由であることが悪い訳ではない。が、流石に連れ去るのはアウトだろ。
もう女帝のご機嫌なんでどうでもいい。
そんなのマルクスが体を張って『中年男性による一発芸、“腹踊り!”』 とかなんでもしておけばいいだろ、それが無理ならギルドの問題児達全員に土下座でもさせておけばいいだろう。
っと考え始めていると向こうから呑気な顔をしたマルクスがよっ!、 っと手を上げながらやってきた。
「おお、予想はしていたが囲まれてるな!」
遅い、少し腹が立った。
あとでお礼に今日の夢で大量の山羊に大事な書類を食われる夢をプレゼントしておこう。精々夢の中で大事な書類が一枚、また一枚とムシャムシャと食われるさまを見てへこむがいい。
そんな私の考えなど露知らず、マルクスは、「コラ、この馬鹿ども! こいつらは今から宮殿にいくんだ。とっとと離れろ! ほら、行くぞ。出入り口の前に馬車があるから早く乗れ!」
と言って出入り口に止められていた簡素な馬車に乗せられる、というより押し込められ、私は入って左側の窓際、隣に新月、右側のドア側にハリスというように座らされる。
最後にマルクスが乗り込んで「もういいぞ、出してくれ」 と言うと馬車が動き出した。
馬車が走り出すと周りの店や冒険者達からの「行ってらっしゃい~」 なんて軽い声で見送りをされる。中には「ご機嫌取り頑張ってなーー!!」なんて声も混じっていた。
だからそういうのはマルクスの腹芸でどうにかして欲しいんだが。
馬車が走り出してからは特にすることが無かったので、窓の縁に頬杖をついて窓から流れる景色を眺めていると馬車がギルドをから離れたところでマルクスが軽く頭を下げた。
「っと、遅れて悪かったな。あいにく賞味期限ギリギリのケーキがあったんだ。許して欲しい」
「許せるか(ねーし)(ません)」
息を合わせた訳ではないが自然と合ってしまった私達の返事にマルクスは、ハハハ っと乾いた笑い声を上げる。
そこで何かに気が付いたのかマルクスは私達を頭のてっぺんからつま先まで凝視する。
何かおかしな所でもあっただろうか? そう思い目だけをマルクスに向けて聞いてみる。
「なんだ?」
「いや、ハリスもレモーネも、装いをしっかりした物にしろとは言ったが思った以上にに飾ってきてるなって思ってよ。クロスも……なんだかこう……いつも以上に絢爛豪華だな。こんなの見たことがないぞ。もしかしてそれ特注品か?」
「あぁ、特注品かと聞かれればそうかもしれないな。」
そう、私達はそれ相応の服装で、と言われていたのでそれなりの格好をしていた。
まず、ハリスの格好だがこれは軍服に近い。白い線が入った紺色のジャケットタイプの軍服にいつもの留め具を着けたもの。同系色の膝丈のズボン、シャツ、黒いネクタイ、膝まである黒い靴下、ローファーだった。
見てわかる通りこれは新月が作った物だ。あいつ趣味に走ったな。
そして趣味の道を突っ走って暴走したアホの新月は前に作ったゴスロリだ。
黒いレースとフリルの上に赤紫色のサテンの生地が重ねられた膝下丈のフープドレス、袖も広がっている姫袖だった。
さらに赤紫色のリボンで縁取りがされたケープ、黒いレースの手袋、 ヒールブーツに蜘蛛の巣模様のパンスト。
これでもかとレースとフリルをふんだんに使った服を着ていた。道理で私とハリスの服が少なかったわけだ。材料の殆どがこういう服に使われたんだ。そりゃ、こんなのばっか作っていたら無くなるだろ。
で、最後に私の服だがこれがなんと言えばいいか……とってもタカラ●カだった。
惜しげも無く黄金を使って染めたような生地に、金と黒のアラベスクだかなんだかの模様の刺繍が全体に入った、ロングコート。
スワロスキーが胸元にどっさりと着けられた黒いシャツ、シンプルな黒いズボン、革靴。
見事にタカラ●カのフィナーレで出てくるような絢爛豪華な衣装。ついでにひだが折り重なって出来た波打つような襟とフリルのようにヒラヒラした袖のおまけ付き。
一体、あいつは私を何にしたいんだ。衣装の輝きで目くらましの技を使えと? 女帝とやらと衣装対決でもしろというのか? 聞きたいことが山ほどあるが、とにかくいろいろと問題のある服だった。
「で、一体、いくらしたんだ?」
服の出所より値段に興味があるのだろうか? マルクスは私の顔よりも服を見ながら聞いてきた。
「金貨250~60」
「は?!」
素直にこの服にかかった値段を教えると目を丸くした顔が一つ出来上がった。
一旦、一呼吸置いてマルクスは気を落ち着かせると「へ、へーえ、そうか、凄いな。ハハハ……」と言って乾いた笑いを上げた。
大方、値段の高さに驚いたんだろう。そりゃそうだ。原材料はそれぐらいかかってるからな。
作ったのは新月だ。【裁縫と裁断】の能力で丸二日かけて作ったらしい。
らしい、というのは私は新月と、新月にアシスタントにされてしまったハリスが服を作っている間に、家具を買ってこいという命令で王都中の店や別の大陸まで足を伸ばしていたので詳しくことはよく知らない。
なにせ新月が買ってこいと言った家具の注文が細かかったのでこの三日間の大半を費やしたのだ、仕方がないだろ。
家具選びも難航した。服の原材料を選ぶは新月に振り回されてもっと大変だった。
****
「では、三日後にギルドに来てくれ。女帝に会いに行くんだ、それまではゆっくりしていていいぞ。あと、貴族もいるだろうから正装か盛装で頼む。」
マルクスに言われた次の日の早朝、私とハリスは新月の買い物に付き合わされて今は足りない材料を買いにきていた。
「………」
「………」
最高の生地やら服飾用の飾りが売っている王室御用達の店の中では、私とハリスに無言の時間が流れていた。
いや決してハリスを嫌っているわけではない。原因は私とハリスの前で商品をカゴへとぶん投げてくるアホだ。
そしてそのアホは現在進行形で商品を吟味していた。
「うーん……厚手のサテンみたいな光沢のある金色とかの生地が欲しい。ん? あ、何これ? ミルキーシルクの糸出てきた最高級生地?
へー、これって光沢があって丈夫で防御性もトップレベルなのに寒暖の差も調整してくれるんだ。色は、金があるね。よし、これ。
イメージ的には金色や黒色のアラベスク模様みたいな刺繍とかレースを生地を埋め尽くすぐらい付けたロングコートにしたいからここら辺のものを買って。
あとシャツとズボンも黒にしたいけどそれじゃあ外側だけが豪華になちゃうからシャツだけスワロスキーを付けよっと。クロ、ハリスくんパス! 」
「………」ポスッ! ポスッ!
「………」ポスッ! ポスッ!
投げられた商品を金色の蔦で編まれた籠で受け止める音だけが私とハリスの間に響く。
ぶつぶつと悩んだ結果、どんどんカゴに向かって飛んで来る糸や生地達、後ろで待っている私とハリスはそれをフリスビーをキャッチする犬が如くカゴで受け止めている、玉入れか。
さっきまでは新月の隣であれこれとアドバイスをしていた店員も商品が飛ぶ度に「あっ! お、お客様!」 と息を飲んで叫んでいたが私とハリスがちゃんと掴むとわかったら注意しなくなってしまった。特大のカモを逃がしたくないのだろう。
ちゃんと仕事してくれ。
「一体どれだけ買えば気がすむんだ」
私はそろそろ買い物をやめてほしいという意味合いも入れて新月に質問を投げかけてみた。
「は? これ全部クロの服に使うやつなんだけど。言っとくけど俺のは前に作ってあるし、ハリスくんのは残ってる生地で作るから。一番金がかかっているのはクロなんだけど?」
「私は何も言ってない」
新月は棚に顔を向けたまま、当たり前じゃんと言わんばかりに返答してきた。
巫山戯るな、誰もここまで豪華なものを作れとは言ってない。第一、私は服なんて作れなんて一言もいった覚えはないぞ。
「よし終わり! 店員さーん、これお会計で!」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
「あー、ちょっと引っ張らないで下さい!」
新月は店の商品を一通り物色したことを確認すると、私のことを無視してハリスの手を引っ張りレジ台のような場所へと歩いて行ってしまった。
「あ、おい、勝手にいくな!」
慌てて追いかけようとするがカゴが邪魔をして布が並んでいる棚にぶつかり脇腹に当たった。
痛い。
「クロー早く、会計済ませたら俺とハリスくんはやることがあるんだから!」
レジの方から呑気な声が聞こえる。だったら自分でカゴぐらい持て。
「ありがとうございました~」
会計を済ませた商品を人気のない路地で【無限の胃袋】に入れていると、ん! っという声がして目の前に紙が差し出された。
顔を上げて見ると新月が紙を持って再度ぺらりと差し出される。
紙をのぞくとチェスト、衣装タンス―――など、なんだか我儘いっぱいの内容が書かれていた。つまりこれらを買ってこいと?
ーーー無理だ。
「新月、お前はいい加減にしろ。さっきの店で金貨を260枚程使ったんだぞ、普通そんなことしないだろ。馬鹿か? 馬鹿なのか?」
「馬鹿じゃないし、いいじゃん、経済に貢献はしてるし、店側も喜んでたし。
第一、クロって金を稼ぐだけ稼いて計算してないでしょ。
金なんて青銅が368枚に銅貨が475枚、銀貨が5,465枚だし、金貨なんてあと87,474枚もあるんだよ?大金貨も123枚もあるし余裕じゃん」
総額を日本円に直して10億5290万1800円……。ハリウッドセレブか。
そんなに稼いでたか?
「そりゃあんだけの死にそうな(死なないけど)思いをする依頼を何個もやってるんだ。これじゃあ割に合わないって言って依頼主の貴族をおどs、話をつけて報酬を上げて貰ったからね」
「へ~、それでこんなにあるんですか」
ハリス、のほほんと感心するんじゃない。こいつ明らかに脅しと言いかけたぞ。
「つーことで金はある。時間もある。ってな訳でクロ、あとは頼んだZE☆」
「は? 今からか?!」
****
なんてことがあった。
それか二2日間、新月は徹夜をして私の服作成に没頭し(一応、ハリスにはさせなかったらしい)、私はこの世界の全大陸のありとあらゆる店に出向いて大金を落とす。なんてことをしていた。
おかげで、今は元気そうに見える新月だが実は、二徹夜で気分がハイになっているだけ。
私はありとあらゆる場所に足を向けたおかげで疲れが溜まっていた。
「クロス、おい、クロス、大丈夫か?」
偽名を呼ばれて声がした方へ意識を向けるとマルクスが目の前で手を振っていた。意識が飛んでいたらしい。
「もうすぐ宮殿に着くからな」
「分かった」
返事をしながら窓の外に顔を出す(新月も反対側から頭を出していたので馬車にツノが生えたように見えた。と、のちの門番達は語る)と目の前に緑色の宮殿が見えてきた。
緑色の城壁に緑色の宮殿。緑緑していて見るからに他の建物よりも目立っている。
馬車が近づくと門の前に止まり、立っていた門番達に向かってマルクスがやり取りをする。しばらくして門が開き、馬車がまた走り始めた。
ところで、女帝とはどんなやつなんだろうか。それに世界樹はどこにあるんだ?
ギルドとは言われたがずっと入り口で待ってる訳にもいかない、仕方がないので食堂を兼ねた酒場らしきところで待つことにした。のだが……
「ヘぇ~、あんたが今ギルドで話題の『ヴージェノヴ・ニュアレンバーグ』のリーダー? ふーん、結構いい体つきしてるじゃん! ちょっと筋肉触りたいから服全部脱いで貰える?」
と言って明らかに初対面なのにいきなり私の腕を触ってくる魔道師らしき女、
「ちょっと! あんたみたいな筋肉愛好家が来るんじゃないわよ! あんた、筋肉ある人だったら誰でも追い剥ぎみたいに服全部を所構わずひん剥こうとするんだから! っ邪魔よ!!」
「きゃ! 痛ーい」
「ふん、それよりもお兄さーん。こんな変態放って私と一緒にコレ、やらない?」
筋肉愛好家の女を蹴り飛ばし、次に私の腕に抱き着いてきたのは、服装の派手派手しい女だった。よく見ると手には何色かの紙で包まれた小さい粉薬の包みが握られている。
おい、それ大m……、
「いや結構だ」
「そう? 残念~」
「ハァ、ハァ、不思議系の女の子がゴスロリきてるだと?! まるで物語のヒロイン見たいだね!……ねぇ、君いくつ?」
「五月蝿い、このロリコン。……とっと失せろ……」
「ヒ、ヒィィィーーー!!」
派手派手しい女の誘いを断ったその時、後ろから酔っ払いのスケベ親父の会話と地を這うような凄みを効かせた声が聞こえた。
後ろを見ると腕を組んで踏ん反り返っている新月と逃げていくスケベ親父……ではなく若い男だった。
……なんと言えばいいのか……新月も新月だがこのギルドもギルドだな。でも今のはやり過ぎだろう。
「新月、お前ってやつは。ギルドの人間に睨みを効かせてどうする」
「別にいいでしょ? これぐらい言っておかないとああいうやつには効かないんだって。むしろクロもこうして欲しいぐらいなんだけどな~」
さっきの発言に軽く注意をする。が、なぜか逆に私が注意されてしまった。
今度は隣から黄色い悲鳴が聞こえた。今度は何かと思って目をやると、ハリスが巨乳の熟女に抱えられて連れ去られそうになっていた。
「キャーー!! ショタっ子が軍服きてる! 可愛い♡ 連れて帰ってもいい? いいよね?! ってな訳でこの子、お持ち帰りで!!」
「え?! あ、あ、クロス様! 助けて下さい! どこかに連れていかれそうです!!」
慌てて連れていかれそうになっているハリスを救助しに行く。熟女には事情を説明してなんとか諦めて貰った。しかし、疲れた。
普通、初対面でいきなりお持ち帰りなんてしないだろ。新月か。
なんなんだこのギルドは、前にもこんなことはあったがその時よりもバージョンアップしていて酷い。それになにより、自由過ぎる。
いや、自由であることが悪い訳ではない。が、流石に連れ去るのはアウトだろ。
もう女帝のご機嫌なんでどうでもいい。
そんなのマルクスが体を張って『中年男性による一発芸、“腹踊り!”』 とかなんでもしておけばいいだろ、それが無理ならギルドの問題児達全員に土下座でもさせておけばいいだろう。
っと考え始めていると向こうから呑気な顔をしたマルクスがよっ!、 っと手を上げながらやってきた。
「おお、予想はしていたが囲まれてるな!」
遅い、少し腹が立った。
あとでお礼に今日の夢で大量の山羊に大事な書類を食われる夢をプレゼントしておこう。精々夢の中で大事な書類が一枚、また一枚とムシャムシャと食われるさまを見てへこむがいい。
そんな私の考えなど露知らず、マルクスは、「コラ、この馬鹿ども! こいつらは今から宮殿にいくんだ。とっとと離れろ! ほら、行くぞ。出入り口の前に馬車があるから早く乗れ!」
と言って出入り口に止められていた簡素な馬車に乗せられる、というより押し込められ、私は入って左側の窓際、隣に新月、右側のドア側にハリスというように座らされる。
最後にマルクスが乗り込んで「もういいぞ、出してくれ」 と言うと馬車が動き出した。
馬車が走り出すと周りの店や冒険者達からの「行ってらっしゃい~」 なんて軽い声で見送りをされる。中には「ご機嫌取り頑張ってなーー!!」なんて声も混じっていた。
だからそういうのはマルクスの腹芸でどうにかして欲しいんだが。
馬車が走り出してからは特にすることが無かったので、窓の縁に頬杖をついて窓から流れる景色を眺めていると馬車がギルドをから離れたところでマルクスが軽く頭を下げた。
「っと、遅れて悪かったな。あいにく賞味期限ギリギリのケーキがあったんだ。許して欲しい」
「許せるか(ねーし)(ません)」
息を合わせた訳ではないが自然と合ってしまった私達の返事にマルクスは、ハハハ っと乾いた笑い声を上げる。
そこで何かに気が付いたのかマルクスは私達を頭のてっぺんからつま先まで凝視する。
何かおかしな所でもあっただろうか? そう思い目だけをマルクスに向けて聞いてみる。
「なんだ?」
「いや、ハリスもレモーネも、装いをしっかりした物にしろとは言ったが思った以上にに飾ってきてるなって思ってよ。クロスも……なんだかこう……いつも以上に絢爛豪華だな。こんなの見たことがないぞ。もしかしてそれ特注品か?」
「あぁ、特注品かと聞かれればそうかもしれないな。」
そう、私達はそれ相応の服装で、と言われていたのでそれなりの格好をしていた。
まず、ハリスの格好だがこれは軍服に近い。白い線が入った紺色のジャケットタイプの軍服にいつもの留め具を着けたもの。同系色の膝丈のズボン、シャツ、黒いネクタイ、膝まである黒い靴下、ローファーだった。
見てわかる通りこれは新月が作った物だ。あいつ趣味に走ったな。
そして趣味の道を突っ走って暴走したアホの新月は前に作ったゴスロリだ。
黒いレースとフリルの上に赤紫色のサテンの生地が重ねられた膝下丈のフープドレス、袖も広がっている姫袖だった。
さらに赤紫色のリボンで縁取りがされたケープ、黒いレースの手袋、 ヒールブーツに蜘蛛の巣模様のパンスト。
これでもかとレースとフリルをふんだんに使った服を着ていた。道理で私とハリスの服が少なかったわけだ。材料の殆どがこういう服に使われたんだ。そりゃ、こんなのばっか作っていたら無くなるだろ。
で、最後に私の服だがこれがなんと言えばいいか……とってもタカラ●カだった。
惜しげも無く黄金を使って染めたような生地に、金と黒のアラベスクだかなんだかの模様の刺繍が全体に入った、ロングコート。
スワロスキーが胸元にどっさりと着けられた黒いシャツ、シンプルな黒いズボン、革靴。
見事にタカラ●カのフィナーレで出てくるような絢爛豪華な衣装。ついでにひだが折り重なって出来た波打つような襟とフリルのようにヒラヒラした袖のおまけ付き。
一体、あいつは私を何にしたいんだ。衣装の輝きで目くらましの技を使えと? 女帝とやらと衣装対決でもしろというのか? 聞きたいことが山ほどあるが、とにかくいろいろと問題のある服だった。
「で、一体、いくらしたんだ?」
服の出所より値段に興味があるのだろうか? マルクスは私の顔よりも服を見ながら聞いてきた。
「金貨250~60」
「は?!」
素直にこの服にかかった値段を教えると目を丸くした顔が一つ出来上がった。
一旦、一呼吸置いてマルクスは気を落ち着かせると「へ、へーえ、そうか、凄いな。ハハハ……」と言って乾いた笑いを上げた。
大方、値段の高さに驚いたんだろう。そりゃそうだ。原材料はそれぐらいかかってるからな。
作ったのは新月だ。【裁縫と裁断】の能力で丸二日かけて作ったらしい。
らしい、というのは私は新月と、新月にアシスタントにされてしまったハリスが服を作っている間に、家具を買ってこいという命令で王都中の店や別の大陸まで足を伸ばしていたので詳しくことはよく知らない。
なにせ新月が買ってこいと言った家具の注文が細かかったのでこの三日間の大半を費やしたのだ、仕方がないだろ。
家具選びも難航した。服の原材料を選ぶは新月に振り回されてもっと大変だった。
****
「では、三日後にギルドに来てくれ。女帝に会いに行くんだ、それまではゆっくりしていていいぞ。あと、貴族もいるだろうから正装か盛装で頼む。」
マルクスに言われた次の日の早朝、私とハリスは新月の買い物に付き合わされて今は足りない材料を買いにきていた。
「………」
「………」
最高の生地やら服飾用の飾りが売っている王室御用達の店の中では、私とハリスに無言の時間が流れていた。
いや決してハリスを嫌っているわけではない。原因は私とハリスの前で商品をカゴへとぶん投げてくるアホだ。
そしてそのアホは現在進行形で商品を吟味していた。
「うーん……厚手のサテンみたいな光沢のある金色とかの生地が欲しい。ん? あ、何これ? ミルキーシルクの糸出てきた最高級生地?
へー、これって光沢があって丈夫で防御性もトップレベルなのに寒暖の差も調整してくれるんだ。色は、金があるね。よし、これ。
イメージ的には金色や黒色のアラベスク模様みたいな刺繍とかレースを生地を埋め尽くすぐらい付けたロングコートにしたいからここら辺のものを買って。
あとシャツとズボンも黒にしたいけどそれじゃあ外側だけが豪華になちゃうからシャツだけスワロスキーを付けよっと。クロ、ハリスくんパス! 」
「………」ポスッ! ポスッ!
「………」ポスッ! ポスッ!
投げられた商品を金色の蔦で編まれた籠で受け止める音だけが私とハリスの間に響く。
ぶつぶつと悩んだ結果、どんどんカゴに向かって飛んで来る糸や生地達、後ろで待っている私とハリスはそれをフリスビーをキャッチする犬が如くカゴで受け止めている、玉入れか。
さっきまでは新月の隣であれこれとアドバイスをしていた店員も商品が飛ぶ度に「あっ! お、お客様!」 と息を飲んで叫んでいたが私とハリスがちゃんと掴むとわかったら注意しなくなってしまった。特大のカモを逃がしたくないのだろう。
ちゃんと仕事してくれ。
「一体どれだけ買えば気がすむんだ」
私はそろそろ買い物をやめてほしいという意味合いも入れて新月に質問を投げかけてみた。
「は? これ全部クロの服に使うやつなんだけど。言っとくけど俺のは前に作ってあるし、ハリスくんのは残ってる生地で作るから。一番金がかかっているのはクロなんだけど?」
「私は何も言ってない」
新月は棚に顔を向けたまま、当たり前じゃんと言わんばかりに返答してきた。
巫山戯るな、誰もここまで豪華なものを作れとは言ってない。第一、私は服なんて作れなんて一言もいった覚えはないぞ。
「よし終わり! 店員さーん、これお会計で!」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
「あー、ちょっと引っ張らないで下さい!」
新月は店の商品を一通り物色したことを確認すると、私のことを無視してハリスの手を引っ張りレジ台のような場所へと歩いて行ってしまった。
「あ、おい、勝手にいくな!」
慌てて追いかけようとするがカゴが邪魔をして布が並んでいる棚にぶつかり脇腹に当たった。
痛い。
「クロー早く、会計済ませたら俺とハリスくんはやることがあるんだから!」
レジの方から呑気な声が聞こえる。だったら自分でカゴぐらい持て。
「ありがとうございました~」
会計を済ませた商品を人気のない路地で【無限の胃袋】に入れていると、ん! っという声がして目の前に紙が差し出された。
顔を上げて見ると新月が紙を持って再度ぺらりと差し出される。
紙をのぞくとチェスト、衣装タンス―――など、なんだか我儘いっぱいの内容が書かれていた。つまりこれらを買ってこいと?
ーーー無理だ。
「新月、お前はいい加減にしろ。さっきの店で金貨を260枚程使ったんだぞ、普通そんなことしないだろ。馬鹿か? 馬鹿なのか?」
「馬鹿じゃないし、いいじゃん、経済に貢献はしてるし、店側も喜んでたし。
第一、クロって金を稼ぐだけ稼いて計算してないでしょ。
金なんて青銅が368枚に銅貨が475枚、銀貨が5,465枚だし、金貨なんてあと87,474枚もあるんだよ?大金貨も123枚もあるし余裕じゃん」
総額を日本円に直して10億5290万1800円……。ハリウッドセレブか。
そんなに稼いでたか?
「そりゃあんだけの死にそうな(死なないけど)思いをする依頼を何個もやってるんだ。これじゃあ割に合わないって言って依頼主の貴族をおどs、話をつけて報酬を上げて貰ったからね」
「へ~、それでこんなにあるんですか」
ハリス、のほほんと感心するんじゃない。こいつ明らかに脅しと言いかけたぞ。
「つーことで金はある。時間もある。ってな訳でクロ、あとは頼んだZE☆」
「は? 今からか?!」
****
なんてことがあった。
それか二2日間、新月は徹夜をして私の服作成に没頭し(一応、ハリスにはさせなかったらしい)、私はこの世界の全大陸のありとあらゆる店に出向いて大金を落とす。なんてことをしていた。
おかげで、今は元気そうに見える新月だが実は、二徹夜で気分がハイになっているだけ。
私はありとあらゆる場所に足を向けたおかげで疲れが溜まっていた。
「クロス、おい、クロス、大丈夫か?」
偽名を呼ばれて声がした方へ意識を向けるとマルクスが目の前で手を振っていた。意識が飛んでいたらしい。
「もうすぐ宮殿に着くからな」
「分かった」
返事をしながら窓の外に顔を出す(新月も反対側から頭を出していたので馬車にツノが生えたように見えた。と、のちの門番達は語る)と目の前に緑色の宮殿が見えてきた。
緑色の城壁に緑色の宮殿。緑緑していて見るからに他の建物よりも目立っている。
馬車が近づくと門の前に止まり、立っていた門番達に向かってマルクスがやり取りをする。しばらくして門が開き、馬車がまた走り始めた。
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◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
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