遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

1.5?いえ2バージョン

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 中にいたのは―――興奮した様子で部屋を見渡すツァスタバと子供の様に部屋のドアを開けまくって走り回る目が輝いている新月だった。急いで走って来たというのにどうでもいい悲鳴だったことに二人揃って力が抜けてた。

 「悲鳴が聞こえたと思ったらこれですか!!  気が抜けましたよ!  何も無くて良かってですけど」
 「そうだぞ。余計な心配事させるな」
 「申し訳ございません」
 『ごめん、でも凄いよ!!  見て見て!!』

 手を引っ張って半幅引きずられる様に新月に連れ回される。興奮して五月蝿いな、と眉間に皺を寄せて渋々付いて回ると本当に凄かった。

 入ってすぐキッチンとリビング、その裏には庭が望める十畳はあるであろう畳の間、庭は畳の間と障子で区切られており畳の間の倍以上は広かったがまだ何も植えられていなかったが植えれば映えるだろう今度種でも買ってくるか。
 その二部屋の脇にある廊下がのびた先には二手に分かれており片方には部屋がいくつもあり少なくても十は超えている。
 試しに一番手前の部屋を開けると壁紙はシンプルなオフホワイト、床はフローリングになっておりマンションのワンルーム程はありここだけで十分人が住めるつくりになっていた。
 反対側の通路はもう片方よりも短く左右に一つづつ扉がついているだけだった。しかしその二つの扉は他の部屋とは違い細やかな装飾がされていることがこの部屋の意味を自ら発していた。

 片方は動きのある直線や繊細で優美な曲線がこれでもかとうねり重なりが葡萄の蔦をモチーフを作り出している木製の扉、もうこの部屋は主人を女性限定とみなしているのではと思わせるほど女性席なデザインだった。
 引戸式のため金属製の取っ手を引くと中はフローリングにホワイトの真っ白な壁とこれといって他の部屋と大差のないものだがドアの影に隠れる様に貼られた本来ならナイトクラブにでもありそうな色とりどりの薔薇が咲き乱れる大きなフローラガラスによって大差は大きく伸びた。
 フローラガラスは大きく部屋の左側面を全て覆うように鎮座しておりよく見るとこちらも取っ手が隅についており引くが開かない。
 方向が違ったか、試しに右にずらすと障子のように左右に分かれて開いた。奥へと進むとそこはVIPルーム―――では無く小さな工房だった。こちらの壁にはクローゼットがついており開くとドレッシングルーム並みの馬鹿でかさが顔を出す。無駄にでかい。


 反対側の扉まで戻るとこちらもどこから持って来たと言いたいぐらい高級な天然の無垢材を加工した扉は年輪の美しさと色合いを兼ね備えており入る者を選ぶ、そんな重圧を醸し出していた。扉なのに、
 だか反対側の扉と違い装飾は圧倒的に少ない。申し訳程度に装飾が施された外枠と取っ手しかないシンプルさはまるでこの部屋を使う者の性格を表しているかのように思えた。
 中を覗くと反対側や他の部屋と大差ない部屋。あるとしたら少し天井が高いというだけの微々たる差だ。
 そしてこちらにも壁の右側にVIPルームではないが扉と大差ないデザインの扉があった。開くとあちらのような工房では無くちょっとした書斎や趣味の部屋として使えそうな部屋があった。

 「凄いな」
 『だよね!  俺も驚いちゃった。外見の大きさに反して空間って言葉総無視というか庭が一番あり得ない。あると嬉しいけど』
 「元からだろ」
 『そうでした』
 「さらにキッチンが広くなっていますからリビングと切り離してコーディネート出来そうですね。楽しみです」
 「クロス様は俺にまで部屋を造ってくれたんですか?!  あ、ありがとうございます!  すっごく嬉しいです」
 「そうか、喜んでくれて何よりだ」

 部屋を見渡しながら目を輝かせる三人の素直な感想にもう体験したくはないなと思っていたマ●クの音を思い出す。
 あれは勝手になり始めて唐突に終了したが喜ぶ声を直に聞いて我慢していた甲斐があったとしみじみと感じた。



 早速、家具を配置に行くぞと意気込んで飛び足していった新月、ハリス、ツァスタバを見送り一人畳の間にまで戻る。
 空間を分別している障子を解き放つと青い畳の香りが漂ってきて吸い寄せられる感触に自然と口角が上がるのを感じて自分でも驚いた。無意識に体が動きコートを脱ぎ、シャツとスラックス以外のもの全てを【無限の胃袋】に入れて畳へと転がる。

 あぁ……涼しい。

 障子の隙間から異空間だというのに本物の月の光が差し込み藺草の海に一筋の道ができる。道は伸びた先に転がった私にまで届き、春の夜は夜気が柔らかく心が落ち着く。



 静かだ。

 ゴロン、ゴロン、っと身長あるがゆえに比例している体重のおかげででコロコロと行かないのが悲しいが全身を伸ばして動けることが嬉しい。戦争 ティタノマキアの前まではそれなりにゆっくり出来たがつい最近まではそこまで時間がなかったので久々に感じる。願わくばこの滅茶苦茶な日常が続いてくれると楽なんだがな―――いや、新月あいついるから無理か。

 「クロス様」

 淡い願いが浮かぶが現実に押し潰されて泡沫のように消え去ると開いていた障子とは反対側の障子が開いてハリスが入ってくると畳に突っ伏す。
   こいつも畳の魔力には勝てなかったか。

 「問題があったか?」
 「いえ、ただ配置が終わったので二人はツァスタバさんの部屋で女子会というのをするらしいです。あとは二人でのんびりしてこいと」
 「早いな、まだ元気があり余っているのか? 針のむしろの中にいる真っ最中だというのに」
 「確かに、あの元気はどこから湧いてくるんですかねー。で、何かすることはありますか?」

 放置された者同士、畳に寝転がっているとそういえば女帝に手紙を出してないことに気付き嫌がる体を起き上がらせる。
 中級魔法の『ノータス』という出てきたパネルに文字を指で書いていき指を離すと鳥になって送りたい相手に飛んでいく、というのを使ってみる。
 これは片方が終わるまでずっと同じ鳥が行き来するらしいのでこれならゲルを抜けても帰ってこれるだろう。

 《女帝、お前が私達を神聖カルットハサーズに使わせたのはヴェレンボーンの宮廷魔導師の身がわりにするためだったのだろう?
 おかげで数えきれない悪意に晒されているのだが私達が無事にヴェレンボーンに帰れるようにはなっているのか?》



 「え、ちょっ、どういうことですか?!」
 「そのまんまの意味だ」

 書いていたのを横で見ていたハリスは瞼を大きく開いて画面を覗き込むが読み上げるより先に八咫烏のように足が三本生えたカラスがゲルの出入り口まで飛んでいった。
 ちなみにこの魔法は術者の魔力によって出てくる鳥が変わるらしい。私のは八咫烏だからあれはさしずめ神の使いというところか。本当に私の魔力は特別らしいな。

 「無視しないで下さい!」
 「無視はしてない。前に私が隕石落としたのは覚えているか?」
 「え? は、はい」
 「あれが女帝の耳にまで届いていたらしくてな。そのせいで今私達はこんな状況に晒されているっと、返事が早いな」

 さっき出した筈なのにもう帰ってきたらしい八咫烏の速さにハリスは眉を動かしていた。手を伸ばすと指先にとまり鳥からパネルへと変化した八咫烏が撒いていった煙を払い返事を読むと二人同時に固る。

 《よくご存知で、そうです私の耳にもあの出来事は届いています。そこで私は考えました。
 宮廷の魔導師では何かあっても自力ではヴェレンボーンまで帰国出来ない可能性が高い。
 なら、それ以上の力を持った者に身代わりとして向かってもらえればあの手この手を使って自力で帰国出来る。
   クロス様でしたらそれが可能でしょ ?ですからお頼みしましたの。勿論あとで別料金の報酬を用意させてますのでご安心下さい》

 自分の背景にヒビが入るのがわかった。なんで何かあっても帰って来れると知っているんだ。

 《なぜ分かる》
 《お気づきだと思われますが私はエルフ、いえニンフに近い者でございます。ですから私には貴方様の正体がなんとなく分かるのです。
 貴方様はこの世界の者では無い、きっと別世界の神でしょう。ですからお頼みしたのです。
 ではよろしくお願いします!  もし何かございましたら私の親友が統治する魔界へお逃げ下さい。かしこ》

 大陸の往復で疲れ果てた八咫烏を前に今度は二人の背景にヒビが入り粉々に砕ける音がした。つまりこうなった原因は全て私が……もう疲れた寝る。

 「寝る。おやすみ」
 「えー!!!  ちょっと説明して下さいよクロス様~~~~!!!」

 ハリスを置いて襲ってくる睡魔に身を委ねる。悪いなハリス、今は現実から逃亡させてくれ。
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