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第2章
動く歯車
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王都に帰ってすぐ私達は国王に呼ばれて何があったのかを問い正された。無理も無い、なにせアリアスに乗ったまま戻ってきたのだから。
アリアスとは王都で別れたが周りの視線は痛く、私達が城に入るより先に噂の方が入城していたのには足の速さに感銘を受けた。
そして噂の内容を国王が湾曲して『ヴェレンボーンから着た男は魔獣をも使役する。まさかこいつはヴェレンボーンからの密告者か、もしくは魔界とヴェレンボーンが手を組んで差し向けてきたのか』などといったとんでも妄想をしてくれていた。
いや何かを企んでいるのはお前だろ、と言いかけたハリスの口を塞いだ時には柄ではないが冷汗が出た。新月が声が出る状況なら間違いなく一触触発の雰囲気になっていただろう。
それをなんとか誤魔化して謁見の間を出ると何かが飛んできた。瞬間横に振られた何かを背中を逸らすことで回避する。
的に当たる筈だったであろう何か、は速度を落とすことなく城内の壁へと一直線に走って行き金属が何かを弾いた音が響き渡る。一体何が―――
なんて言わずとも誰かはわかってはいるが。
「ッチ、避けられたか。城の兵士さん達が言ってた通り強いだけはあるんだな、っと!」
予想が出来ていたが何かを振り回したのは五十嵐拓也だった。
数日ぶりに見た彼は城の近衛隊よりも質の良いスッキリしたシルエットのシルバーメイルを着て手には黒い柄、刀身の鎬から切っ先まで真っ直ぐに伸びているケルト十字架の線が特徴的な片手剣が握られていた。
刃の切っ先が大理石の壁へと刺さると決して小さいとは言えない程の大きさを持った穴が開いた。しかしそれでも彼は手甲に守られた拳による攻撃に打って出てくれた。勿論全部避けてやったが。
しかしこんなことをすれば流石に新月とツァスタバの二人も黙ってはいない。
すぐ五十嵐拓也へと歩み寄ろうとした。が、ハリスに窘められていた。
「……五十嵐拓也か元気そうで何よりだ。見たところそれは訓練用の剣ではなさそうに見えるが新しく仕入れたものか?」
唐突な攻撃をさらりと躱して質問をすると口をへの字に曲げた状態で「ああそうだ」言った言葉が返ってきた。
これは……中々に進行速度が速いと見える。早めに対策を練らねばならないかもしれない。
脳内でこれからどうするかとパターンを何通りか予想し始めていると 顔を真っ青にした一条美海と田島薫が五十嵐拓也に詰め寄って口論が始まった。
一気に完全に蚊帳の外と化してしまった。
唐突に始まった言い争いの内容に耳をすますと先程私を狙って剣を振り上げたのか、またこの破壊してしまった壁はどうするのかといったことだった。
確かに私にいきなり刃を向けたのは問題だが壁ぐらいは私が直してやろうと壁に手をつけると穴から何か生えていた。
いや生えているのではなく伸びていた。
よく目を凝らして見てみると伸びていたのは壁と同じ色をした糸でしばらく観察していると五十嵐拓也が開けた大穴が徐々に徐々にと小さくなっていき終いには何事も無かったかのように消え失せてしまった。
すぐに【鑑定】と【世界の図書館】を使う。
ーーーーーーーーーー
【プラリニック・キリオライト】
太陽が落ちてくるような凄まじい威力と高熱を与えない限り切ることが出来ない程硬くそれ以外の衝撃ならば欠けることがあれど放っておけば自然と治ってしまうという脅威の補修能力を持った 鉱石の一種。
主に宮殿や城を造る時にだけ使われる程硬く加工が困難な物でドワーフ五十人が必死に加工してやっと使い物になる形になる程強固な鉱物。
しかし加工の過程が高価なだけなので地下1000mまで掘ることが出来れば産出するのは簡単。
ーーーーーーーーーー
「新月」
『クロ、これ……』
これを使えば家造れそうじゃないか? と、頭の中で考えていることが一致した。
『となるとドワーフ五十人分の労働力が必要だよねどうしよっか。貯金して頼む?』
「いやそれだと余計にコストがかかる。これで造るなら煉瓦造りが最適だろうから石だけ切り出して運べればあとはヘパちゃんに頼むなりした方がいいだろう。少し余分にこれを切って報酬と一緒に渡せば喜ぶと思うぞ」
「おい何話してんだ」
『ついでに好感度も上がるんじゃないか、っての?』
「ああ」
「聞けよ!」
「なんなの貴方、拓也くんがこう言ってるのよ?無視はいけないわ」
「そうネ、ちゃんとcommunicationはするべきよ!」
『じゃあ早速今度の休みに取りに行こうよ! ここのくz……王に一言言えばOKっしょ』
「そうだな。ではまだ描いていなかった設計図をさっさと描いて……
「「「聞けよ(なさいよ)!!!」」」
……なんだ五月蝿いな」
『そうそう、俺達重大な話をしてるんだから邪魔すんな!』
今まで停滞していた私達の大本命が進むと互いに手を取って喜び合っていると話を妨げられた。
自分の目付きがきつくなっているのを感じたが しっしっ! とまるで犬のような扱いをしそうな新月を見て何もそこまでしなくてもいいのではと思った。
だが何をどう曲げて解釈したのか五十嵐拓也は新月の機嫌が悪くなったのは私のせいだなど言い始め、取り巻き二人の少女、佳奈・シトローヌと吹雪沙羅が大丈夫だった? などと言った言葉をかけている。
が、全て逆効果となって新月の顔には顰めた表情に『はぁ?何言ってんだこいつら』と油性マジックで書かれていた。
対してそれでも私から引き剥がしてくれたことに感謝してしていると勘違いをしてくれた五十嵐拓也の顔には『褒めていいんだぜ?』と書いてあった。
新月の顔の上に乗った半月型の形の良い眉毛が今では眉間が無くなりそうな程寄っていた。
この場にいたら新月が飛びかかり、ツァスタバが突進を開始して余計に話が拗れそうだったので新月、ツァスタバの二人の手を引っ張りハリスを引き連れその場を去った。
後ろから抗議の声が聞こえたがそれは無視することでこの場はこれ以上の被害を生むことがなかった。
ゲルに戻るとストレス発散だと言って新月とツァスタバがお茶会を始めた。前に買ってあったケーキをホールのまま出してフォークでつつき合っている新月、ツァスタバ、やけ食いのようにクッキーを咀嚼するハリスを見ながら買い置きしていたコーヒーを淹れて飲む。
舌に残るどっしりとした苦味と仄かに感じるグレープフルーツのような風味にそういえば買った豆はインドネシアのアルール・バダ地区の豆だったと思い出した。
ほっと息を吐くとハリスにクッキーを勧められて口金から絞り出されたクッキーに赤いジャムが乗ったロシアンケーキを選んで口に入れると水分の抜けたジャムがあまり歯に触ることがないまま消えていった。
コーヒーで流して口直しをするとケーキをつついていた二人が真剣な顔で味はどうかと訪ねて来てこのクッキーは二人の手作りだったと知る。
素直に感想を述べると新月が照れた顔でケーキを口に運んだ。
これを作ったのはこいつだったらしい。綺麗にデコレーションされたホールケーキが約半分になるとだいぶ落ち着きて来たらしい新月が不満を隠さない顔でフォークを動かす手を止めた。
『でさ、あれ頭のどこら辺のネジが取れてんの? クロ直せない?』
「無理だ。直せん」
「医者でも直せないと思いますげどね」
「寧ろそのまま頭が腐り落ちれば良いのです。あのような輩が我がマスターに刃向かうなど身の程知らずにも程があります。まあ、あのような人間は死んでも治らないと言いますが」
「いや、どうにかはするぞ」
「「『……え?」」』
「そ、それはどういうことですか」
「この国の事情というやつだ。そうだな……あの召喚者達がこの城を出てから片付けるとしたら手遅れだ。時期を早めて貰うとするか」
三人が呆気に囚われた顔で首を傾げているのを尻目にたった今出されたコーヒーを飲み干す、カップの底に苦味よりもジャムのような甘さを感じて噎せた。
私が知っているコーヒーではない殺人的な甘さを持った何かが舌を襲った。
カップを間違えたかと確認するとそれはコーヒーのように見えていたがよく見ると鉛色の飲料物が入った開花したばかりの薔薇が描かれた華奢なデザインのティーカップだった。コーヒーではない、そしてカップも新月の物だった。
「ツ、ツァスタバ、これはなんだ」
「【ガンロン】と呼ばれる清涼飲料水です。
エドゥン大陸で好まれている物なのですが如何せん甘い物でして他国ではあまり好まれていません。ですがお嬢様が物語でお読みになってからというものの
『一回だけでいいから飲んでみたい』
と仰っていましたので以前より城の者に頼んでおいたのです。こちらに帰ってきた時に丁度届きましたのでご用意したのですがその……やはりお口に合いませんでしたか」
「味がなく甘さしかなかった、と言っておこう」
引きつった顔になりながらもツァスタバにこの物体の正体を聞くとやはりといわんばかりにこちらの感想が知られていた。ならなぜ出した。
『え、まじ? 俺も挑戦する……っあっま゛! こりゃ俺も飲みたくないぃぃ……!』
口直しに今度は私の側へと置かれていたコーヒーカップをしっかり確認してから口に流し込むとやめておけばいいものを自ら火に飛び込んでいった虫が撃沈する様を見て眉を顰める。
このアホは……
「このアホは放っておけ。では話を戻すが時期が来るまでに私は今そこでのたうち回っているアホの声を早く戻したいと考えている。そこで一つ提案がある」
「提案とは?」
「何か手伝うってことですか? なら俺も頑張ります!」
「いやそこまで大したことではない。ただ―――
****
くそ、やっぱりあいつはいけ好かないやつだ!
腹の中に溜まった鬱憤を晴らすべく自由に使っていいと言われている城の裏側へと足を運び真剣を使った素振りの練習に打ち込んでいると通りすがりの人達が俺を称賛する声が微かに耳へと入ってくる。
やはり俺はこうでなくっちゃ、常に称賛と歓声を浴びるのはこの俺だ。
―――なのにあのクロスが来てからというものの美海はあいつの肩を持つし、薫はなんだか暗い。ついでにアデリーナはあいつを怒らせないようになんて注意してきやがる。
佳奈と吹雪さんは相変わらずだってのにあいつらはどうしたっていうんだ? もしかしてクロスに有る事無い事吹き込まれたりしていないよな……
国王は口では何も言っていなかったがあの様子から察するにクロスに疑惑を持っているだろうと思う。
あいつが乗って戻ってきたという白く輝く巨大な鳥も恐らく普通の魔獣じゃない。もしかしなくてもあいつがやはりこの魔獣凶暴化事件の鍵を持っていると見て間違いない。もしかしてよくアニメであるような【魔王】ってやつなのか? でも国王は魔王は【魔界】を統治する男だと言うし……あーだめだ! 情報が足りない。
しかも証拠も無い。国王があいつについて調べた限りでは過去などはさっぱりわからず驚く程真っ白。ある日突然、ヴェレンボーンのギルド【禁断の書】に現れたらしい。
初めはコアをどっさり持ってきたことから同時期にあったトワフという地方の大量発生していた魔獣だらけの山が大きな衝撃の後を残して魔獣の一匹も見ない程を刈り尽くされていた、という出来事の関係者だと思われ出身はトワフかと予想されていた。
だがあいつのように目立つ人間を知っている農民はいなかったし座る時の作法、食事のマナーの良さからクロスは農民ではないとすぐに分かった。
なら貴族か王族かと疑われたが【カオス】なんて家は無く勿論他国の王族の可能性もゼロ。魔族かエルフかもわからず種族すら不明。
一体どこからきたのかも誰も知らずギルドに入れば1日目の依頼にして【ゴトルゴー】なんて魔獣を倒し、その日の内に王都のすぐ目と鼻の先の位置に宮廷お抱えの魔導師クラスのみが放つことが出来る火属性の魔法で隕石を落としたらしい。
そのあとはトントン拍子に進んで今に至った前代未聞の冒険者、それがこの国での見方だ。
背が高く鍛えていて力もある。顔は魔族特有の魔眼と同じようなものを持っているが顔は整っている分類に入るだろう。
いつも弟子一人に女性を二人も連れている。側から見ればアニメのチートキャラの設定コピー&ペーストだ。
まず、弟子のハリスという男の子だったがトワフ出身の農民とわかったが残り二人も問題があった。この二人も只者では無かった、どんなに洗ってもクロス同様の不明な点が数多くあったのだ。
一人は銀髪の巻き毛にぼ、……ゥン! スタイル抜群の執事ツァスタバさん。
この人はごく普通の執事に見えるが魔力が異常に高い。
加えてクロスに同行している人間では一番遅くに加わっているが経歴を調べても白紙、魔族の可能性もあると言われていたがツァスタバさんのような特徴を持った人を知る人は出てこなかった。
もう一人はレモーネ、この人は女性というより俺達に歳は近く見える。クロスと双子だと言っているがどう見ても同じ点が一つも無い。
ギヴァールの猛毒を浴びたのにも関わらず喉の負傷のみで助かり現在【甘露】での治療を試みている人。
クロスと対極の色を持った儚げで今にも崩れてしまいそうな砂糖菓子を思わせる姿をしている。声は聞いたことがないけど多分、鈴を転がすような声をしているだろう。
なぜクロスと一緒にいるかは分からないがお互いに言っていることが伝わり会話が成立してる。
ほとんどクロスの側から離れず、俺達が魔法の特訓をしている時にはいつも来ていて毎回俺達に毎回違ったお菓子を作ってくれているからすぐに食べ切ってしまう。味は美味い、少し甘さが足りなく感じるが許容範囲内だ。
だがいつも剣の練習を見学だけでいいからしてみないかと誘うが首を振って断られている。
もしかしてクロスが何かしているのか?でなきゃ俺の誘いなんて断るやついない……
「拓也ー! ココにいたのですかー?ワタシも混ぜて下サイ」
「あら、貴女まだ魔法の一つも出せていないじゃないの? クロスさんいるのだし聞いてこればいいじゃない」
「ナンですか! 貴女だってswordはまだまだじゃないですか」
「だから私はここに来てるんじゃない」
「二人共そこまでにしろよ。どうせなら三人でやろうぜ」
喧嘩を始めた二人を宥めもっと広い兵士専用の練習場を貸してもらいに三人で向かう。この時にはもう頭の中で考えていたことは心の片隅に移動しており、目の前の二人に意識が向いていた。
****
『でさ! あの子俺がクロやハリスくんが疲れているだろうからって作ったお菓子食べちゃうんだよ? 非道だ! 外道!
君達に作ったもんじゃねーっての、せっかくクロ用に甘さ控え目のもの作ってるのにー』
「新月もうお前は酒は控えろ。酔ってるぞ、というかいつの間に茶会から宴会に変わった」
『酔ってなーい! この前だって塩を効かせた新月ちゃん特製まんまるスコーン食われたしぃ~。あーもう』
むかつく―――ぅ!!!
おまけ
補足
【ガンロン】
さとうきび潰して出てきた原液に果汁、シュガーツリーという木の実。
その他いろいろ甘ったるいものを入れて溶かした砂糖の塊みたいな飲み物、熱帯雨林ぼうぼうな《エドゥン》の国民的飲み物。
はっきり言って人間が飲むものじゃない。糖尿病まっしぐら。
【シュガーツリー】
本編に出る予定だけどまだ出番待ちしてるもの。
花、実、葉、枝、根っこの全てが砂糖のように甘いパステルカラーの木。実がなるまでは甘くはないが実がなった途端甘くなる。
すごく甘いので実がなると同時にアリが集りだし匂いにつられて魔獣が寄ってくる迷惑な木、だけど農民が唯一手にできる砂糖なので命懸けで取る人が多い。たまに冒険者の依頼にもくる。
アリアスとは王都で別れたが周りの視線は痛く、私達が城に入るより先に噂の方が入城していたのには足の速さに感銘を受けた。
そして噂の内容を国王が湾曲して『ヴェレンボーンから着た男は魔獣をも使役する。まさかこいつはヴェレンボーンからの密告者か、もしくは魔界とヴェレンボーンが手を組んで差し向けてきたのか』などといったとんでも妄想をしてくれていた。
いや何かを企んでいるのはお前だろ、と言いかけたハリスの口を塞いだ時には柄ではないが冷汗が出た。新月が声が出る状況なら間違いなく一触触発の雰囲気になっていただろう。
それをなんとか誤魔化して謁見の間を出ると何かが飛んできた。瞬間横に振られた何かを背中を逸らすことで回避する。
的に当たる筈だったであろう何か、は速度を落とすことなく城内の壁へと一直線に走って行き金属が何かを弾いた音が響き渡る。一体何が―――
なんて言わずとも誰かはわかってはいるが。
「ッチ、避けられたか。城の兵士さん達が言ってた通り強いだけはあるんだな、っと!」
予想が出来ていたが何かを振り回したのは五十嵐拓也だった。
数日ぶりに見た彼は城の近衛隊よりも質の良いスッキリしたシルエットのシルバーメイルを着て手には黒い柄、刀身の鎬から切っ先まで真っ直ぐに伸びているケルト十字架の線が特徴的な片手剣が握られていた。
刃の切っ先が大理石の壁へと刺さると決して小さいとは言えない程の大きさを持った穴が開いた。しかしそれでも彼は手甲に守られた拳による攻撃に打って出てくれた。勿論全部避けてやったが。
しかしこんなことをすれば流石に新月とツァスタバの二人も黙ってはいない。
すぐ五十嵐拓也へと歩み寄ろうとした。が、ハリスに窘められていた。
「……五十嵐拓也か元気そうで何よりだ。見たところそれは訓練用の剣ではなさそうに見えるが新しく仕入れたものか?」
唐突な攻撃をさらりと躱して質問をすると口をへの字に曲げた状態で「ああそうだ」言った言葉が返ってきた。
これは……中々に進行速度が速いと見える。早めに対策を練らねばならないかもしれない。
脳内でこれからどうするかとパターンを何通りか予想し始めていると 顔を真っ青にした一条美海と田島薫が五十嵐拓也に詰め寄って口論が始まった。
一気に完全に蚊帳の外と化してしまった。
唐突に始まった言い争いの内容に耳をすますと先程私を狙って剣を振り上げたのか、またこの破壊してしまった壁はどうするのかといったことだった。
確かに私にいきなり刃を向けたのは問題だが壁ぐらいは私が直してやろうと壁に手をつけると穴から何か生えていた。
いや生えているのではなく伸びていた。
よく目を凝らして見てみると伸びていたのは壁と同じ色をした糸でしばらく観察していると五十嵐拓也が開けた大穴が徐々に徐々にと小さくなっていき終いには何事も無かったかのように消え失せてしまった。
すぐに【鑑定】と【世界の図書館】を使う。
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【プラリニック・キリオライト】
太陽が落ちてくるような凄まじい威力と高熱を与えない限り切ることが出来ない程硬くそれ以外の衝撃ならば欠けることがあれど放っておけば自然と治ってしまうという脅威の補修能力を持った 鉱石の一種。
主に宮殿や城を造る時にだけ使われる程硬く加工が困難な物でドワーフ五十人が必死に加工してやっと使い物になる形になる程強固な鉱物。
しかし加工の過程が高価なだけなので地下1000mまで掘ることが出来れば産出するのは簡単。
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「新月」
『クロ、これ……』
これを使えば家造れそうじゃないか? と、頭の中で考えていることが一致した。
『となるとドワーフ五十人分の労働力が必要だよねどうしよっか。貯金して頼む?』
「いやそれだと余計にコストがかかる。これで造るなら煉瓦造りが最適だろうから石だけ切り出して運べればあとはヘパちゃんに頼むなりした方がいいだろう。少し余分にこれを切って報酬と一緒に渡せば喜ぶと思うぞ」
「おい何話してんだ」
『ついでに好感度も上がるんじゃないか、っての?』
「ああ」
「聞けよ!」
「なんなの貴方、拓也くんがこう言ってるのよ?無視はいけないわ」
「そうネ、ちゃんとcommunicationはするべきよ!」
『じゃあ早速今度の休みに取りに行こうよ! ここのくz……王に一言言えばOKっしょ』
「そうだな。ではまだ描いていなかった設計図をさっさと描いて……
「「「聞けよ(なさいよ)!!!」」」
……なんだ五月蝿いな」
『そうそう、俺達重大な話をしてるんだから邪魔すんな!』
今まで停滞していた私達の大本命が進むと互いに手を取って喜び合っていると話を妨げられた。
自分の目付きがきつくなっているのを感じたが しっしっ! とまるで犬のような扱いをしそうな新月を見て何もそこまでしなくてもいいのではと思った。
だが何をどう曲げて解釈したのか五十嵐拓也は新月の機嫌が悪くなったのは私のせいだなど言い始め、取り巻き二人の少女、佳奈・シトローヌと吹雪沙羅が大丈夫だった? などと言った言葉をかけている。
が、全て逆効果となって新月の顔には顰めた表情に『はぁ?何言ってんだこいつら』と油性マジックで書かれていた。
対してそれでも私から引き剥がしてくれたことに感謝してしていると勘違いをしてくれた五十嵐拓也の顔には『褒めていいんだぜ?』と書いてあった。
新月の顔の上に乗った半月型の形の良い眉毛が今では眉間が無くなりそうな程寄っていた。
この場にいたら新月が飛びかかり、ツァスタバが突進を開始して余計に話が拗れそうだったので新月、ツァスタバの二人の手を引っ張りハリスを引き連れその場を去った。
後ろから抗議の声が聞こえたがそれは無視することでこの場はこれ以上の被害を生むことがなかった。
ゲルに戻るとストレス発散だと言って新月とツァスタバがお茶会を始めた。前に買ってあったケーキをホールのまま出してフォークでつつき合っている新月、ツァスタバ、やけ食いのようにクッキーを咀嚼するハリスを見ながら買い置きしていたコーヒーを淹れて飲む。
舌に残るどっしりとした苦味と仄かに感じるグレープフルーツのような風味にそういえば買った豆はインドネシアのアルール・バダ地区の豆だったと思い出した。
ほっと息を吐くとハリスにクッキーを勧められて口金から絞り出されたクッキーに赤いジャムが乗ったロシアンケーキを選んで口に入れると水分の抜けたジャムがあまり歯に触ることがないまま消えていった。
コーヒーで流して口直しをするとケーキをつついていた二人が真剣な顔で味はどうかと訪ねて来てこのクッキーは二人の手作りだったと知る。
素直に感想を述べると新月が照れた顔でケーキを口に運んだ。
これを作ったのはこいつだったらしい。綺麗にデコレーションされたホールケーキが約半分になるとだいぶ落ち着きて来たらしい新月が不満を隠さない顔でフォークを動かす手を止めた。
『でさ、あれ頭のどこら辺のネジが取れてんの? クロ直せない?』
「無理だ。直せん」
「医者でも直せないと思いますげどね」
「寧ろそのまま頭が腐り落ちれば良いのです。あのような輩が我がマスターに刃向かうなど身の程知らずにも程があります。まあ、あのような人間は死んでも治らないと言いますが」
「いや、どうにかはするぞ」
「「『……え?」」』
「そ、それはどういうことですか」
「この国の事情というやつだ。そうだな……あの召喚者達がこの城を出てから片付けるとしたら手遅れだ。時期を早めて貰うとするか」
三人が呆気に囚われた顔で首を傾げているのを尻目にたった今出されたコーヒーを飲み干す、カップの底に苦味よりもジャムのような甘さを感じて噎せた。
私が知っているコーヒーではない殺人的な甘さを持った何かが舌を襲った。
カップを間違えたかと確認するとそれはコーヒーのように見えていたがよく見ると鉛色の飲料物が入った開花したばかりの薔薇が描かれた華奢なデザインのティーカップだった。コーヒーではない、そしてカップも新月の物だった。
「ツ、ツァスタバ、これはなんだ」
「【ガンロン】と呼ばれる清涼飲料水です。
エドゥン大陸で好まれている物なのですが如何せん甘い物でして他国ではあまり好まれていません。ですがお嬢様が物語でお読みになってからというものの
『一回だけでいいから飲んでみたい』
と仰っていましたので以前より城の者に頼んでおいたのです。こちらに帰ってきた時に丁度届きましたのでご用意したのですがその……やはりお口に合いませんでしたか」
「味がなく甘さしかなかった、と言っておこう」
引きつった顔になりながらもツァスタバにこの物体の正体を聞くとやはりといわんばかりにこちらの感想が知られていた。ならなぜ出した。
『え、まじ? 俺も挑戦する……っあっま゛! こりゃ俺も飲みたくないぃぃ……!』
口直しに今度は私の側へと置かれていたコーヒーカップをしっかり確認してから口に流し込むとやめておけばいいものを自ら火に飛び込んでいった虫が撃沈する様を見て眉を顰める。
このアホは……
「このアホは放っておけ。では話を戻すが時期が来るまでに私は今そこでのたうち回っているアホの声を早く戻したいと考えている。そこで一つ提案がある」
「提案とは?」
「何か手伝うってことですか? なら俺も頑張ります!」
「いやそこまで大したことではない。ただ―――
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くそ、やっぱりあいつはいけ好かないやつだ!
腹の中に溜まった鬱憤を晴らすべく自由に使っていいと言われている城の裏側へと足を運び真剣を使った素振りの練習に打ち込んでいると通りすがりの人達が俺を称賛する声が微かに耳へと入ってくる。
やはり俺はこうでなくっちゃ、常に称賛と歓声を浴びるのはこの俺だ。
―――なのにあのクロスが来てからというものの美海はあいつの肩を持つし、薫はなんだか暗い。ついでにアデリーナはあいつを怒らせないようになんて注意してきやがる。
佳奈と吹雪さんは相変わらずだってのにあいつらはどうしたっていうんだ? もしかしてクロスに有る事無い事吹き込まれたりしていないよな……
国王は口では何も言っていなかったがあの様子から察するにクロスに疑惑を持っているだろうと思う。
あいつが乗って戻ってきたという白く輝く巨大な鳥も恐らく普通の魔獣じゃない。もしかしなくてもあいつがやはりこの魔獣凶暴化事件の鍵を持っていると見て間違いない。もしかしてよくアニメであるような【魔王】ってやつなのか? でも国王は魔王は【魔界】を統治する男だと言うし……あーだめだ! 情報が足りない。
しかも証拠も無い。国王があいつについて調べた限りでは過去などはさっぱりわからず驚く程真っ白。ある日突然、ヴェレンボーンのギルド【禁断の書】に現れたらしい。
初めはコアをどっさり持ってきたことから同時期にあったトワフという地方の大量発生していた魔獣だらけの山が大きな衝撃の後を残して魔獣の一匹も見ない程を刈り尽くされていた、という出来事の関係者だと思われ出身はトワフかと予想されていた。
だがあいつのように目立つ人間を知っている農民はいなかったし座る時の作法、食事のマナーの良さからクロスは農民ではないとすぐに分かった。
なら貴族か王族かと疑われたが【カオス】なんて家は無く勿論他国の王族の可能性もゼロ。魔族かエルフかもわからず種族すら不明。
一体どこからきたのかも誰も知らずギルドに入れば1日目の依頼にして【ゴトルゴー】なんて魔獣を倒し、その日の内に王都のすぐ目と鼻の先の位置に宮廷お抱えの魔導師クラスのみが放つことが出来る火属性の魔法で隕石を落としたらしい。
そのあとはトントン拍子に進んで今に至った前代未聞の冒険者、それがこの国での見方だ。
背が高く鍛えていて力もある。顔は魔族特有の魔眼と同じようなものを持っているが顔は整っている分類に入るだろう。
いつも弟子一人に女性を二人も連れている。側から見ればアニメのチートキャラの設定コピー&ペーストだ。
まず、弟子のハリスという男の子だったがトワフ出身の農民とわかったが残り二人も問題があった。この二人も只者では無かった、どんなに洗ってもクロス同様の不明な点が数多くあったのだ。
一人は銀髪の巻き毛にぼ、……ゥン! スタイル抜群の執事ツァスタバさん。
この人はごく普通の執事に見えるが魔力が異常に高い。
加えてクロスに同行している人間では一番遅くに加わっているが経歴を調べても白紙、魔族の可能性もあると言われていたがツァスタバさんのような特徴を持った人を知る人は出てこなかった。
もう一人はレモーネ、この人は女性というより俺達に歳は近く見える。クロスと双子だと言っているがどう見ても同じ点が一つも無い。
ギヴァールの猛毒を浴びたのにも関わらず喉の負傷のみで助かり現在【甘露】での治療を試みている人。
クロスと対極の色を持った儚げで今にも崩れてしまいそうな砂糖菓子を思わせる姿をしている。声は聞いたことがないけど多分、鈴を転がすような声をしているだろう。
なぜクロスと一緒にいるかは分からないがお互いに言っていることが伝わり会話が成立してる。
ほとんどクロスの側から離れず、俺達が魔法の特訓をしている時にはいつも来ていて毎回俺達に毎回違ったお菓子を作ってくれているからすぐに食べ切ってしまう。味は美味い、少し甘さが足りなく感じるが許容範囲内だ。
だがいつも剣の練習を見学だけでいいからしてみないかと誘うが首を振って断られている。
もしかしてクロスが何かしているのか?でなきゃ俺の誘いなんて断るやついない……
「拓也ー! ココにいたのですかー?ワタシも混ぜて下サイ」
「あら、貴女まだ魔法の一つも出せていないじゃないの? クロスさんいるのだし聞いてこればいいじゃない」
「ナンですか! 貴女だってswordはまだまだじゃないですか」
「だから私はここに来てるんじゃない」
「二人共そこまでにしろよ。どうせなら三人でやろうぜ」
喧嘩を始めた二人を宥めもっと広い兵士専用の練習場を貸してもらいに三人で向かう。この時にはもう頭の中で考えていたことは心の片隅に移動しており、目の前の二人に意識が向いていた。
****
『でさ! あの子俺がクロやハリスくんが疲れているだろうからって作ったお菓子食べちゃうんだよ? 非道だ! 外道!
君達に作ったもんじゃねーっての、せっかくクロ用に甘さ控え目のもの作ってるのにー』
「新月もうお前は酒は控えろ。酔ってるぞ、というかいつの間に茶会から宴会に変わった」
『酔ってなーい! この前だって塩を効かせた新月ちゃん特製まんまるスコーン食われたしぃ~。あーもう』
むかつく―――ぅ!!!
おまけ
補足
【ガンロン】
さとうきび潰して出てきた原液に果汁、シュガーツリーという木の実。
その他いろいろ甘ったるいものを入れて溶かした砂糖の塊みたいな飲み物、熱帯雨林ぼうぼうな《エドゥン》の国民的飲み物。
はっきり言って人間が飲むものじゃない。糖尿病まっしぐら。
【シュガーツリー】
本編に出る予定だけどまだ出番待ちしてるもの。
花、実、葉、枝、根っこの全てが砂糖のように甘いパステルカラーの木。実がなるまでは甘くはないが実がなった途端甘くなる。
すごく甘いので実がなると同時にアリが集りだし匂いにつられて魔獣が寄ってくる迷惑な木、だけど農民が唯一手にできる砂糖なので命懸けで取る人が多い。たまに冒険者の依頼にもくる。
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