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第2章
大迷宮!! 甲
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???
「来ないな……長期戦に備えて横になって待つか」
数分後、
「ZZZzzz……」
****
黒馬を操り前を走る馬車を追いかけるがまたもや問題が発生した。
鞭が無い。
それに馬に乗った経験が数えるぐらいしかない。なのにこの馬で長距離走れということはあの国王……
やつには“馬糞塗れになった挙句、馬に蹴られる夢”でも譲渡してやるか。
「クロス様馬乗ってことあるんですか? 操れます?」
「数えれるくらいしかない。ついでに馬を操る鞭もない。最初から持たされてないからな」
「へぇ?!―――あのハゲジジイ、習ったばかりの呪詛の実験台にしてやる!」
鞍になんとか捕まっていたハリスはやっとの思いで体勢を変え跨った。無論、足が着くわけがないので私が支えたが。
体勢が安定した後思い出したかのように不安げに質問したハリスは素っ頓狂な声を出したあと女三人のように怒りを露わにして叫んだ。
馬に乗っているため吐き捨てた言葉は小声で途切れ途切れだったがしっかりと聞こえた『あのジジイの尻が痔になる呪いと大事な場面で放屁する呪いを……』という部分だけはしっかりと私の耳にまで届いた。
……国王当ての悪夢を一瞬だけ考えていたがそれはハリスに任せて私は馬と意思疎通が図れる道具を作るか。もう馬に乗っているだけに人の目に晒されてやりづらいが諦めるしかない。
こっそりとコートの内ポケットから物を出す素振りをして鞭を作り始める。
本来なら馬によって鞭は使い分ける物だと聞くが今はそんな呑気なことが言えないため今後も考えて“どんな動物にでもこちらの意思が通じ合う”という効果を加点して作る。
少しばがり魔力を持っていかれた感覚がして一見普通の騎乗用の長鞭が出来た。
これだけでいいのかとも一瞬思った。しかし【鑑定】を使ったところ私が言おうとした言葉の代わりに鞭で触れば伝わるようなものになっていた。それなら私が気付く程魔力を持っていかれても仕方ないなと納得出来る代物だ。
まあこれでどうにかなるかと鞭を懐から出す仕草をして握ると先を走る馬車が左へ曲がった。
丁度いい、作り立てほやほやのこの鞭で行きたい方角を教えてみよう。
確か鞭は触ったり音を出したりするために使うはずだ。馬車に付き添い馬を操る騎士を参考に鞭で馬に触ると簡単に左に曲がってくれた。今度は先の馬車まで近付いてくれともう一度触る。これも成功した。
これを何度か繰り返すうちに次々と周りを守護する騎士を次々とごぼう抜きしていく、王都を出る頃には先程は置いていかれた金装飾が多い馬車にまで並んだ。
速度を緩め馬車の側に寄るとこちらに向かって振られる手が見えた。新月か、
さらに馬を近づけると新月を押し退け身を乗り出したやつがいた。五十嵐拓也だ。
「あ―――!!! クロスお前なんでそんな馬に乗ってるんだよ?! っていうか一人だけそんなこと有り得ねぇ!!!」
言っていることが理解出来ない。なんと返してやろうかと考えているとハリスが吹っ切れたように啖呵を切った。
「五月蝿い! のんびりと馬車に乗ってるやつに言われたくねーですよ!」
『そうだそうだ! もっと言ってやれハリスくん!』
「「何よ?!」」
「なんだと?! 子供の癖に!!」
「拓也、それは……」
「なんだよ美海! 薫もそう思うだろ?!」
「自分だって子供だろ!!」
「あ―――、ん……」
その声に支持を出したのは新月だったがそこに佳奈・シトローヌと吹雪沙羅が声を出し同時に五十嵐拓也が怒鳴る。しかし田島薫は聞いていなかったらしい。生返事しか返ってこなかった。
これに一条美海が止めに入るがハリスが言い返して馬車内は元から混雑を極めていたため右へ左へと揺れて滅茶苦茶だ。
これには馬車を操る御者も冷や汗が止まらないらしく私を凝視している。
私に止めろと言いたいのか。
止める人間がいないのだから仕方ないか、そう思いキィキィと猿のような声を上げて伸ばされたままの手首を掴む。
手首を掴み手の主とこちらを睨むに目を合わせると大人しくなったので手を離す。
その後は馬車が揺れることはなかった。今はこれで静かになったからいいが今後はこれ以上のトラブルがネギを背負って向こうからやってくる図を思い浮かべてこの先の旅路を出発して早々案じた。
今の事情からしてその悩みは悪い意味で大きく覆してくれるだろう。
南無三
時期尚早だが私はこの三文字を思い浮かべて唱えた。
この大陸は人が住む地域が狭いため大迷宮のある街“アイリスト”には日が沈む前に着いた。レンガの街並みが続くこの街の名物である大迷宮は活火山の麓付近にある。
そこからゆっくりと下降していきここからヴェレンボーンまで海の下で道が繋がっているのだが個人的に気圧の問題は無いのかと言いたい。
そして大迷宮自体は海の下にあるとはいえ船が通るのには余裕があるためそこまで深くはないと思われている。らしい、制覇した者がいない程広いので絶対とも言えないが。
馬と馬車の方は明日まで鎮座するらしい。
だというのに召喚者一行は近場で一番値段の高い宿に泊まるに対し私達は外へ放り出された。
まあいい。こっちはこっちで好きにさせて貰おう。
脱出してきた新月とハリスと共にアイリストの街を出て巨大迷宮と呼ばれた活火山、確かボイパ山と言われる山を登り比較的平らな場所を探し出した。
そこを少し整備した後この時期必需品の一つとしてあの留守番二人に持たされた大き過ぎる毛皮を二枚程取り出し敷布と掛布にする。
横になってみると暖かい。さらに毛皮を被せるとさらにいい。
アイリストはそれなりに栄えてはいたがこの世界の基準に沿って夜は寝る時間が早い。おかげで満点の星空の下でもこうして寒い思いをせずに済んでいる。
これはこれで良かったかも―――『「全然よくない !!』」
駄目なのか。
そのまま寝ようとしたが両サイドから子供二人が侵入して頭を叩かれた。
誰もいないからか怒りを前面に押し出した顔の二人だったが毛皮に包まると雪解けのようにそれは溶けていく。
「『暖かい!』」
「そうか良かったな」
二人とも年相応の反応だ。片方はババアの域に達しているどころではなく大いにはみ出ているのだが。
そのままツァスタバに貰った携帯食を三人で分けて食べているといつのまにか天体観測、愚痴の吐き出し会に移行していた。
「大体なんで師匠様の位置にいるクロス様がこんなことになってるんですか?! 高級な宿じゃなくて普通の宿なら分かりますけど野宿はあんまりです! あの国王って国を背負う人間がこんな対応して評判が傷付く事も分かんねーのかな?!」
左腕にしがみつくような体勢で声を張り上げたのはハリスだ。ハリスは自分達が一般的な宿ではなく何も用意されてないことに怒りを覚えているらしい。これはまだいい、問題はこちらだ。
『えー、クロに接待用意してない時点でもうアウトだよ! あいつらクロの【天罰】当たるけども――――――っっと悲惨な末路になるかもよ?……いいや、させる』
右腕に絡みつく新月が瞳孔を開いた目で私、を遠すぎハリス、アイリストの街を抜け召喚者一行が泊まった街一番の高級宿屋へ妖艶な笑みを向けている。その笑みに色々と含まれた意味を持っているように思えた。
こいつが一番問題だ。九割の確率でやりかねない、というよりも既に色々とやからしまくっている。
ここでいつもなら程々にと言えるのだが便乗役のハリスでさえ愚痴を吐いているのでもうどうしようもない。
結局私は両脇を挟まれたまま夜空の星を繋げて星座を作りながらお子様二人が寝付くまで我慢をすることになった。
早朝出発して召喚者一行が泊まる高級宿屋にまで足を運んだが彼らの優雅な朝食を食べ終わるまで五時間程待たされての出発となった。
その間に馬車と共にレンタルだった暴馬が王都へと帰って行くのを見送る。この間召喚者一行は誰一人も来ずアデリーナのみが見送りに来た。
いつもの凝った髪型ではなく顔まわりをスッキリと見せ右肩に長い髪を垂らした髪型、薄紅色の膝丈のドレスでレイピアにしては少し刀身が太めの剣を携えていた。
と言っても所々に甲冑がついているのでドレスアーマーというものらしいが。
アデリーナはまず私達に一礼をして昨日の詫びをして私達と見送りをしたのだが闘牛よろしく暴れ回り乗せている騎士を何度も振り落とす様子に手を合わせていた。
その間騎士の男から野太い悲鳴が絶え間なく上がり街の住民が朝から何をやっているんだと怒鳴り声で怒られながら来た道を戻った。
その数時間後に召喚者一行がやってきたわけだがあんな騒動があったのになんで早く来なかったのかと首を傾げる。そんなに食事に時間をかけて着たのかと思っていたがそれだけでは無かったようだ。
まず五十嵐拓也は前に見た銀色の甲冑に剣を携えていた。それはなれたからいい。原因はその後ろにも続いていた。
その脇にいた銀髪の佳奈・シトローヌは新月よりも短いスカート、腹部が見えるようにあえてデザインされた白と青、赤の三色で構成されたジャケット。
何時ぞやのチャクラムを装備しており全体としては佳奈・シトローヌがやっていたというチアガールにそっくりだった。
反対に黒髪の吹雪沙羅は髪型はそのままであるのに対し黒い両サイドに深いスリットの入ったこれまた丈の短いもの。
なんと言えばいいのか分からないが現代の丈が短いコスプレ用のチャイナドレスに腕辺りに布を足したが何処と無く悩ましげな服と言えばいいのだろうか。
そこに何時ぞやのレイピア……だが柄部分が紫色になっているのであの後武器の強化でもしたのだろう。
田島薫は黄緑色の前がジャケットのようになった外套に肩や膝辺りのみに甲冑をつけた服装に両手剣を装備していた。
服の色合いが黒髪とよく合っていたが私は冒険者の服を3段階程段数を上げただけの物に見えた。
そして最後の一条美海は乳白色のローブにブーツと言った服装で上二人と違い至ってシンプルな服装だった。背中には金属製の槍の様な形をした杖を背負っている。
見たところ魔道士辺りだろう。まだまだ未熟者、魔道士どころかまだ魔法使いの域かもしれない。
以上全員が全員服装に統一感が見当たらない六人だったが一般の冒険者に比べれば遥かにまともな格好をしていた。と言ってもこちらも負けず劣らず場に不似合いすれすれの服装だ。
ハリスは体熱効果が付属された布を使った焦げ茶色のケープとナポレオンコートが合体した訳の分からないコートに半ズボン。といったところだったがここでも新月欲がはみ出た服装だ。
ジャケット……と言っていいのか分からないもの、おそらく新月は軍服をモチーフにしたコートだと思われるがよく分かん。+半ズボンだがこれは言わずもがなと言うべきだろうか。
そんな欲望を丸出しにした犯人はというと以外にもいつもの白い軍服もどきだった。
案外場の空気を読むことが出来たのかと驚いた。欲望は丸出しだが。
そして新月の第二の被害者である私はというと―――真っ黒な分厚い外套にワインレッド色のチョハと呼ばれる上着、ズボンなのだが新月セレクトなので合わせているものが色々とおかしい。
まず全体的にどこの舞台に出る役者だと言いたくなるほど所々に装飾がしてある。それはもう一歩間違えれば成金に思われる程、
第二にチョハは某映画の衣装元になったものだ。弾帯が付いているのだがそんなもの使わない私からしたらはっきり言って邪魔だ。
ここに拒否してつけていないが短剣も装備されるところだった。只でさえこれでもか存在主張の強い服装なのにそんな邪魔なもの要らん。
そんな衣装対決をしたために後五十嵐拓也とその取り巻きの批判の声とご近所さんらの視線を浴びながら動くこととなった。
もうこれだけでも五月蠅いのに本題はこれからだというのが新月のありもしないやる気をさらにマイナスに下げることとなった。
よって見事私は召喚者五十嵐拓也よりも派手な服装をしているということでこの町の住民からマイナスの評価を頂いた。それだけでなく声や視線の何よりも私の体力を下げるお荷物を持たせられるという来て早々大きな影響も貰った。
捨てては―――駄目か。不法投棄になる。
色々とあった朝となったが大迷宮の入り口付近は冒険者が多く初心者もまた多い為か石作の大門があった。
中に入った人間を記録する受付表にサインをして中に入る。一般用に解放されているダンジョンらしく私達が向かった頃には既に初心者から中堅者が溢れ返っていた。
だがここで注目されるのはやはりと言ってか五十嵐拓也とその一行だ。勿論自国の王女であるアデリーナまでいるので他人の目を集める力は1.5倍どころか二倍、三倍となっている。
群がる群衆をあちらに任せて私達はツァスタバも使用している『見えなくなる系アイテム』のマントに三人でなんとか包まり一足先に中で待機することにした。
こそこそと入ってすぐの初心者階層はだいぶ薄暗いせいか松明を持った冒険者が多い。
あと数分後にはあいつらも来るだろうと光属性の魔法『ライト』を使い自分達の周辺だけを明るくして岩に腰掛けて待つ。
時間にして約三十分後、あまりに待ち時間が長いので私はパイプを吸いながら読書、新月は【千里眼】を使って何かを見ていた。顔がにやけていたのでろくなものではない事だけは分かった。
ハリスはというとプラスチック製のロボットを魔法で浮かせて石を相手に一人遊びしていた。どうやら分解して【開口の胃袋】に押し込めて大切に持ってきたらしい。
年相応の遊ぶ姿に新月が抱きつき頰を摩擦熱が起こりそうな程擦り付けていたので引き剥がすと迷惑なことに引っ付き虫は私に乗り換えてきた。邪魔だ。
そんなことをしていると既に憔悴した二人と真逆に輝いている三人と通常状態の一人が入り口から群衆を連れてゾロゾロとやってきた。
「クロス! お前一体どこ行ってたんだよ?!」
「そうね。何も言わずに忽然と消えるとかあり得ないわ」
「今のフブキにはagreeデス!」
あんな人混みに紛れて待っていろだなんて面倒に決まっているだろうと思ったが向こうはそんなことは聞いていなかった。
仕方ない、諦めて先を進もう。
むすっとした顔で脛蹴りの構えをした新月を回収して先を急ぐ。
「『ライト』」
光属性の魔法を再度使い今度は広範囲を照らすと今度は五十嵐拓也が不満を顔に出した。
「お、俺だってそれぐらい出来るし!」
「そうか、では次の階層で頼もう。威勢張る程ならそれ相応のことが出来るのだろう?」
「お、おお、いいぜ」
ずいっと顔を近づけて吠える子ライオンにそれならばと次回から任せると宣言する。が返ってきた返事は語尾が小さい。
それでも言い返しただけで取り巻き二人は抱きついて黄色い声を上げると五十嵐拓也の目に一瞬焦りの色が見えた。
「大丈夫です。私もお手伝いしますからあまり肩に力を入れないで下さいませ。既に光属性以外の他属性魔法ですら扱うことが出来る貴方なら出来ます」
「アデリーナ……、そうだよな、俺なら出来る!」
「そうネ、拓也ならno problemデス!」
「そうよ、私達がいるわ」
「佳奈、吹雪さん……ああ、そうだな!」
アデリーナもそれに気がついたのか五十嵐拓也の手を握り目を合わせて励ます。流石あの国王の御息女というべきか。人を動かす術は身につけているらしい。
「あ、あの」
「なんだ」
「拓也がすみません」
「? お前が頭を下げる程の事ではない。それよりも先を進むぞ」
アデリーナと取り巻き二人にすっかり励まされた子ライオンを見ていると下から声が聞こえて目線の先を下へと移動させる。
何も言わない田島薫を引き連れた一条美海だった。彼女は頭を下げていたが何故彼女自身が謝るのかが分からない。
首を傾げたがそれよりもと道の先を指指す。指の先には威勢を取り戻した子ライオンが自分について来いと大手を振って道を歩く姿がある。
側から見たら斑らの道化師が笛を吹いている光景が脳裏に浮かび上がった。
笛を吹いて子供達を率いる道化師、だが五十嵐拓也は斑らの道化師の様に報酬を踏み倒されて怒っている訳では無いが。寧ろ踏み倒されそうなのは私の方だ。
そんなことを考えていると見慣れた白と灰色の頭が両サイドから袖を引いた。
『あの三流芝居目の前でやられると欠伸が出そうだったんだけど』
「これが終わったら第三者として見れるから我慢しろ」
右で子供の様に私の手を振り回してくれるのは新月だ。先を行く一行に聞こえぬよう小声で気長に待て、と付け加え抑えつけた。
頰を膨らませた新月だったが我慢してくれたようだ。
今のところは。
「あの馬鹿って扱い易いですけど面倒くさいですね」
「仕方ない。人間誰しも褒められれば伸びる。だがあいつは褒められ続けて褒めて貰えなくなったら死ぬようになってしまったんだろう。原因はあるが、
で、要因はあるが今のあいつは『豚もおだてりゃ木に登る』というより褒め過ぎてあいつは褒められなければ動けなくなったトドだ。
又は外を知らず愛されることが当たり前と思い込んでいる動物園のパンダといったところか。どちらにせよ取り扱いは難しいがコツを掴めば手のひらで転がすのが楽な人種だな」
『そのまま調子にのってオゾン層突っ切ってお空の彼方へばいばい☆ ってなるか飛んでて鼻が折れて落下、全治半年の怪我でも負ってまへ。いや、今からでも遅くない!
この新月ちゃんがお空お星決定のサヨナラホームランを打ってあげようではないか! クロ、人一人ぐらい射てる巨大パチンコちゃん出して』
「「やめろ」」
『いた! 桃太郎の桃じゃないんだから割らないでよ。割っても明晰な頭脳しかないぞ!
ハッ! もしやお前ら俺の高知能頭脳を盗もうとする悪の組織のものだな! そんなことしても世界の英知を詰め込んだ俺の頭脳は渡さんぞ!』
「「嘘つけ」」
『いたーい!」
両手を伸ばし『頂戴☆』とせがむアホに二発、一人ドラマごっこを始めたアホにもう二発、と私とハリスの手刀が合計四発入った。
なにが英知だ、英語はおろか掛け算割り算があやふやで雀でも引っかからないような子供だましな罠にも引っかかってた癖に。
さてアホは無視して今回の依頼だがほぼ付き添いのような物なので魔獣を倒すのはあちらさんに任せて私達はサポート側に回ることにした。
その際にこの大迷宮を散策している時に【レーダー】という大変便利な能力を見つけた。それを使い指示を出していたら雑用係に回されたがまあ仕方ない。
「っはぁああ!!」
太刀を浴びて絶命した第一階層主、巨大蝙蝠を一瞥して剣を収める。活火山であるこの灼熱地獄で金属の甲冑は体力と気力を擦り減らすことになるだろう。
私とハリスはというと耐えられない程では無かったが。
「新月お前何かしたのか?」
『ん? ただ耐熱性の布生地にポーションを浸してみたの凄い?』
頭に張った白いバツマークを付けたまま爛々と目を輝かせて頭を差し出す新月。
これには普通に撫でると五歳児のようにはしゃいでいた。一瞬、新月が子猿のように思えたのは言わないでおこう。
さて、第二階層間近になり階層主を倒した事により階層最後のドロップアイテムを入手させることが出来た。
子供達が手を取り合っている横で私は第二階層を扉の前でリサーチする。
いた、
入ってすぐどでかいスライムの魔獣がいた。しかも中ボス、主レベル辺り、本来ならばここに居るはずの無い強さを持っている。これが魔獣の凶暴化か? 面倒な。
流石に二度続けてはこいつらが対応出来ない。現に甲冑や長袖の五十嵐拓也、田島薫、一条美海、アデリーナの四人は息が上がっている。
私が出るか、後ろの冒険者に任せたんじゃ死人が出る。出ても支障はないが問題は起こる。
………………
…………
……
「お前達は下がっていろ」
「「「「「「はぁ?!!!」」」」」」
「ハリス、水属性のシールドを貼っておけ」
「了解です!」
私の先を行かないよう一行の一歩先に踏み出し行く手を遮る。
案の定意味が分からない、何故だと油性マジックで顔と背景に書いたのが見えた。
どうやらお相手さんも気がついているそうで第一階層と第二階層を仕切る金属製の扉を向こう側から体当たりしている。
ギィィィ―――ン、ギィィィ―――ン
ゴゴゴォォ―――、
耳障りな音と扉が動く音が先程いた中級ボスの広場に響く。説明するのに時間が無いようだ。
確か受付では階層を仕切る扉は階層主を倒したら自然と開くそうだ。稀に破壊して地上に上がろうとする魔獣も最近はいるようだがこれはその類のものらしい。
理由を求めるより先に理解出来るハリスに指示を出しその他を守らせる。
「おいチビ! 一体何があるって言うんだ?!」
「むっ……、お前五月蝿えよ。ここは命をいつ捨ててもおかしくない場所なんだ。理由なんて聞いてる暇あったら大人しくしてろ」
「「「っ……!」」」
「「ごめんなさい(申し訳御座いません)」」
「お?」
一行と冒険者を背に大きな水の壁『アクア・シールド』を出したところ五十嵐拓也に胸元を掴まれて睨まれていた。
そこで沸点に達したのかはどうか知らんが珍しく怒りを含んだ口調で、しかし冷静にハリスは返答した。
顔を覗き込む様に見合わせている二人だがハリスの方が冷静な顔色をしていた。流石に場を踏んだだけあると思いつつその逞しさにどうすればいいのかと首を捻りたくなった。
「さてそれは後にして私も用を済ませるか、『我が力の一滴を捧げる。悠久なる人類の栄光、歴史の末席に座する叡智よ、虚無の刃をここに、【 アルマ・クリエテェド】』」
ここは魔法でも―――と思ったがスライムなんてもの小説の中なら稀に見る能力を持ってとんでもない事をする魔獣の代名詞と言えるものだ。
活火山が噴火したら困るので一先ず普通に切れるか試してみよう。
試し切り使うため用意したのはあの大鎌だ。前回同様、鮮血を巻き上げ出現した大鎌に群衆の騒めきが聞こえたが私は気を引き締めて目を動かさない。
扉が自然に開き切るのと何度目かの体当たりが同時になる。
来た、相手は溶岩だ。
一歩足を踏み込んで宙を駆けるとほぼ同じに高熱の巨大スライムがお出ましになった。
『溶岩性質キングスライム 【種族】 スライム【Lv】86』
今までのレベルでは大したことがないと思うが今は来て欲しく無かった。
これは召喚者一行ならひとたまりもない。それに場所が場所だ。勝手について来た冒険者の列と先程の階層主との闘いで室温が高くなっているというのにこれは遠慮したい。
全身が高熱でほぼ白くその場にいるだけで衣類に付属された効果である耐熱処理が済むより先に熱が伝わる。
一瞬にして蒸風呂だ、水の壁のその先に居るはずの人間も暑さに耐え切れず何人か倒れた音がした。
それでも構わず鎌を振り下ろす。が、溶けた。高熱過ぎて炎の色が白いんだ、当たり前か、やっぱり周囲の室温を下げてからやるべきだった。
「「「と、溶けた……?!! も、もうお終いだ……」」」
「っお前ら!! 闘ってるのはクロス様だろ! 自分達は見てるだけのくせに逃げるなんて!!」
鉄がゆっくりと溶けて焼失した。その光景に何人かが灼熱の蒸気の中へと消えていく。
それを目の当たりにした冒険者が尾を巻いて逃げ去る姿にハリスが怒りを露わにしていた。だが私もハリスだけに話しかけ続けることが出来ない。スライムが反撃を開始したからだ。
【エンパス】が発動したのでもう一度地面を蹴る。ほぼ同時にスライムが溶解して広場が溶岩の海へと変えた。水の壁に溶岩の波が押し寄せ視界が白一色で包まれる。
見えない。このままだと天井に頭を打って赤い海へ落ちる。このこんな所泳げる訳がないだろ。
「……ぐっ!」
歪な天井に頭を打った。
でもこれで天井が分かった、落ちる前に天井の窪みに手をかけ落下を防ぐ。石が崩れる前に足をかけ身体を吊るす。
ぶら下がっていられる僅かな時間で何か足場になる場所はないかと探す。
あった。踵で天井を蹴り上げ一番大きな岩に飛び降りる。
回転する視界の中で怒りに飲まれてそのまま追いかけようとしたハリスが私から見えた。
「騒ぐな! 怒りに身を任せて自爆するきか」
「ぐっ……、は、はい」
「『汝の心を凍てつかせ破滅へと導かん。【サソリタ】』」
喝を入れて黙らせた。
ハリスが意気消沈となったところで脳裏に『崩落の危険』と浮かんでいた言葉を無視して広場全体を氷の湖面へと変える。これには溶岩スライムも驚いたのか身を引こうとした。
いた、が、スライムの身体が地面を触れなければ動けないのが仇となってそれも無意味な行動となった。やっとこれで触れれる。
もう一度鮮血滴る金の刃を創り斬り込む。溶岩で泥のようにうねりを見せていた溶岩スライムだったが冷えてしまえばあとは早い。
踠き足掻く獲物へ刃を向ける。
百に、
――――いや千に下ろす。
そうして出来上がったのが千切りキャベツよろしく細切れになった薄皮の溶岩プレートが出来上がった。
ーーーーーーーーーー
【溶岩性質キングスライムだったもの】
冷やされ千に下され薄皮状態になった元溶岩スライムの王、溶岩性質キングスライムの成れの果て。
薄過ぎて溶岩プレートではなく溶岩シート、一回ぽっきりの使い捨て品となったもの。
備考:焼肉するのに使いましょう! 使ったあとはすぐ捨てるだけ、面倒な洗い物要らずです!
但し、シートなので土台は必要……
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
【黄燐の瞳】
溶岩性質キングスライムから稀の稀に採取出来る宝石。宝石だが瞳のように球体状で爛々と輝く火を放つ。だが持ち主が持つとその火は熱く感じない。
手に持つとランタンの代わりにもなり暖も取れる。薪の上に置けば火が灯る。
灰の中から取り出すと汚れも手垢も落ちる。
備考:持ち主によっては様々な扱いが出来る。
ーーーーーーーーーー
【鑑定】を使って調べるとこの二つが出た。残骸は適当に【無限の胃袋】に入れて【黄燐の瞳】を手に取る。確かに眼球のような模様が見える。
『おー綺麗!』
「新月か、ハリスに守られて壁の外にいたんじゃないのか?」
『俺がクロから離れて一人でぬくぬくしてると思う? ちゃんと安全領域の扉向こうでチアガールしてたよーん! クロどころか誰も見てくれなかったけどね』
そう言って宝石を持った腕の間から袖を揺らして飛び跳ねるアホが一匹生えてきた。
溶岩の海に沈むかもしれないというのに呑気にチアガールの真似なんぞしてたのかこの馬鹿は? 馬鹿だろ。
しかしこの稀な宝石は新月が応援してたおかげかもしれない。
「新月お前両手を出せ」
『ん? ほい!』
宝石と同じ色の瞳が大きな目で見ていた。こいつになら渡しておいてもいいかと何故かそう思えた。
「両手で水をすくうようにしろ」
『ほい!』
馬鹿正直に言われた通り両手をお椀の形に丸めた手にもし汚物でも同じようなことをするんじゃないか? と一瞬このアホの脳を疑いながらも手の中に爛々と燃える目玉―――というよりただの炎をのせる。
「熱くないか?」
『うん! 綺麗!』
「お前にやる」
『へぇ……?! い、いいの?!』
「ああ、私が持つよりお前が持っていた方がこれもいいだろ」
『あ、ありがと……』
礼を言った途端新月は固まった。どうした、と後ろを見るが一行とハリスがこちらへ走ってくる以外魔獣の巨大化も何も起こってはいない。
目の前で手に持った宝石を遮るように手を振ると何やら小刻みに震え出した。
どうした、
そう口を開く前に足に何かが絡みついた。確認しなくてもあの白髪のアホであることは理解出来た。
陣痛、または腹痛か? 何か拾い食いでもしたのだろうか?
誤飲で倒れられても困るのだが……
アホのエピソード
『ぶークロのアホ、家出してやる!
―――あーあんなことに生ハムが落ちてる!』
「あいつあほだが流石にこれには引っかからないと思うがあ、かかった」
すっぽりと大きな籠の中に捕獲されたアホが一名、
『うわ! 罠だった!』
「お前アホ過ぎるだろ。ほら帰って―――しっかりピーマンの肉詰めのピーマンも食べるんだぞ」
『えー、ずっと食べるとピーマンいらなく思えるから外しただけなのに!』
「誰がその残骸の後始末するんだ?」
『クロ(`・ω・´) ……嘘ですごめんなさいぃぃぃー、ぁぁぁぁあああ!!!!』
以上、おバカな新月エピソードでした。
「来ないな……長期戦に備えて横になって待つか」
数分後、
「ZZZzzz……」
****
黒馬を操り前を走る馬車を追いかけるがまたもや問題が発生した。
鞭が無い。
それに馬に乗った経験が数えるぐらいしかない。なのにこの馬で長距離走れということはあの国王……
やつには“馬糞塗れになった挙句、馬に蹴られる夢”でも譲渡してやるか。
「クロス様馬乗ってことあるんですか? 操れます?」
「数えれるくらいしかない。ついでに馬を操る鞭もない。最初から持たされてないからな」
「へぇ?!―――あのハゲジジイ、習ったばかりの呪詛の実験台にしてやる!」
鞍になんとか捕まっていたハリスはやっとの思いで体勢を変え跨った。無論、足が着くわけがないので私が支えたが。
体勢が安定した後思い出したかのように不安げに質問したハリスは素っ頓狂な声を出したあと女三人のように怒りを露わにして叫んだ。
馬に乗っているため吐き捨てた言葉は小声で途切れ途切れだったがしっかりと聞こえた『あのジジイの尻が痔になる呪いと大事な場面で放屁する呪いを……』という部分だけはしっかりと私の耳にまで届いた。
……国王当ての悪夢を一瞬だけ考えていたがそれはハリスに任せて私は馬と意思疎通が図れる道具を作るか。もう馬に乗っているだけに人の目に晒されてやりづらいが諦めるしかない。
こっそりとコートの内ポケットから物を出す素振りをして鞭を作り始める。
本来なら馬によって鞭は使い分ける物だと聞くが今はそんな呑気なことが言えないため今後も考えて“どんな動物にでもこちらの意思が通じ合う”という効果を加点して作る。
少しばがり魔力を持っていかれた感覚がして一見普通の騎乗用の長鞭が出来た。
これだけでいいのかとも一瞬思った。しかし【鑑定】を使ったところ私が言おうとした言葉の代わりに鞭で触れば伝わるようなものになっていた。それなら私が気付く程魔力を持っていかれても仕方ないなと納得出来る代物だ。
まあこれでどうにかなるかと鞭を懐から出す仕草をして握ると先を走る馬車が左へ曲がった。
丁度いい、作り立てほやほやのこの鞭で行きたい方角を教えてみよう。
確か鞭は触ったり音を出したりするために使うはずだ。馬車に付き添い馬を操る騎士を参考に鞭で馬に触ると簡単に左に曲がってくれた。今度は先の馬車まで近付いてくれともう一度触る。これも成功した。
これを何度か繰り返すうちに次々と周りを守護する騎士を次々とごぼう抜きしていく、王都を出る頃には先程は置いていかれた金装飾が多い馬車にまで並んだ。
速度を緩め馬車の側に寄るとこちらに向かって振られる手が見えた。新月か、
さらに馬を近づけると新月を押し退け身を乗り出したやつがいた。五十嵐拓也だ。
「あ―――!!! クロスお前なんでそんな馬に乗ってるんだよ?! っていうか一人だけそんなこと有り得ねぇ!!!」
言っていることが理解出来ない。なんと返してやろうかと考えているとハリスが吹っ切れたように啖呵を切った。
「五月蝿い! のんびりと馬車に乗ってるやつに言われたくねーですよ!」
『そうだそうだ! もっと言ってやれハリスくん!』
「「何よ?!」」
「なんだと?! 子供の癖に!!」
「拓也、それは……」
「なんだよ美海! 薫もそう思うだろ?!」
「自分だって子供だろ!!」
「あ―――、ん……」
その声に支持を出したのは新月だったがそこに佳奈・シトローヌと吹雪沙羅が声を出し同時に五十嵐拓也が怒鳴る。しかし田島薫は聞いていなかったらしい。生返事しか返ってこなかった。
これに一条美海が止めに入るがハリスが言い返して馬車内は元から混雑を極めていたため右へ左へと揺れて滅茶苦茶だ。
これには馬車を操る御者も冷や汗が止まらないらしく私を凝視している。
私に止めろと言いたいのか。
止める人間がいないのだから仕方ないか、そう思いキィキィと猿のような声を上げて伸ばされたままの手首を掴む。
手首を掴み手の主とこちらを睨むに目を合わせると大人しくなったので手を離す。
その後は馬車が揺れることはなかった。今はこれで静かになったからいいが今後はこれ以上のトラブルがネギを背負って向こうからやってくる図を思い浮かべてこの先の旅路を出発して早々案じた。
今の事情からしてその悩みは悪い意味で大きく覆してくれるだろう。
南無三
時期尚早だが私はこの三文字を思い浮かべて唱えた。
この大陸は人が住む地域が狭いため大迷宮のある街“アイリスト”には日が沈む前に着いた。レンガの街並みが続くこの街の名物である大迷宮は活火山の麓付近にある。
そこからゆっくりと下降していきここからヴェレンボーンまで海の下で道が繋がっているのだが個人的に気圧の問題は無いのかと言いたい。
そして大迷宮自体は海の下にあるとはいえ船が通るのには余裕があるためそこまで深くはないと思われている。らしい、制覇した者がいない程広いので絶対とも言えないが。
馬と馬車の方は明日まで鎮座するらしい。
だというのに召喚者一行は近場で一番値段の高い宿に泊まるに対し私達は外へ放り出された。
まあいい。こっちはこっちで好きにさせて貰おう。
脱出してきた新月とハリスと共にアイリストの街を出て巨大迷宮と呼ばれた活火山、確かボイパ山と言われる山を登り比較的平らな場所を探し出した。
そこを少し整備した後この時期必需品の一つとしてあの留守番二人に持たされた大き過ぎる毛皮を二枚程取り出し敷布と掛布にする。
横になってみると暖かい。さらに毛皮を被せるとさらにいい。
アイリストはそれなりに栄えてはいたがこの世界の基準に沿って夜は寝る時間が早い。おかげで満点の星空の下でもこうして寒い思いをせずに済んでいる。
これはこれで良かったかも―――『「全然よくない !!』」
駄目なのか。
そのまま寝ようとしたが両サイドから子供二人が侵入して頭を叩かれた。
誰もいないからか怒りを前面に押し出した顔の二人だったが毛皮に包まると雪解けのようにそれは溶けていく。
「『暖かい!』」
「そうか良かったな」
二人とも年相応の反応だ。片方はババアの域に達しているどころではなく大いにはみ出ているのだが。
そのままツァスタバに貰った携帯食を三人で分けて食べているといつのまにか天体観測、愚痴の吐き出し会に移行していた。
「大体なんで師匠様の位置にいるクロス様がこんなことになってるんですか?! 高級な宿じゃなくて普通の宿なら分かりますけど野宿はあんまりです! あの国王って国を背負う人間がこんな対応して評判が傷付く事も分かんねーのかな?!」
左腕にしがみつくような体勢で声を張り上げたのはハリスだ。ハリスは自分達が一般的な宿ではなく何も用意されてないことに怒りを覚えているらしい。これはまだいい、問題はこちらだ。
『えー、クロに接待用意してない時点でもうアウトだよ! あいつらクロの【天罰】当たるけども――――――っっと悲惨な末路になるかもよ?……いいや、させる』
右腕に絡みつく新月が瞳孔を開いた目で私、を遠すぎハリス、アイリストの街を抜け召喚者一行が泊まった街一番の高級宿屋へ妖艶な笑みを向けている。その笑みに色々と含まれた意味を持っているように思えた。
こいつが一番問題だ。九割の確率でやりかねない、というよりも既に色々とやからしまくっている。
ここでいつもなら程々にと言えるのだが便乗役のハリスでさえ愚痴を吐いているのでもうどうしようもない。
結局私は両脇を挟まれたまま夜空の星を繋げて星座を作りながらお子様二人が寝付くまで我慢をすることになった。
早朝出発して召喚者一行が泊まる高級宿屋にまで足を運んだが彼らの優雅な朝食を食べ終わるまで五時間程待たされての出発となった。
その間に馬車と共にレンタルだった暴馬が王都へと帰って行くのを見送る。この間召喚者一行は誰一人も来ずアデリーナのみが見送りに来た。
いつもの凝った髪型ではなく顔まわりをスッキリと見せ右肩に長い髪を垂らした髪型、薄紅色の膝丈のドレスでレイピアにしては少し刀身が太めの剣を携えていた。
と言っても所々に甲冑がついているのでドレスアーマーというものらしいが。
アデリーナはまず私達に一礼をして昨日の詫びをして私達と見送りをしたのだが闘牛よろしく暴れ回り乗せている騎士を何度も振り落とす様子に手を合わせていた。
その間騎士の男から野太い悲鳴が絶え間なく上がり街の住民が朝から何をやっているんだと怒鳴り声で怒られながら来た道を戻った。
その数時間後に召喚者一行がやってきたわけだがあんな騒動があったのになんで早く来なかったのかと首を傾げる。そんなに食事に時間をかけて着たのかと思っていたがそれだけでは無かったようだ。
まず五十嵐拓也は前に見た銀色の甲冑に剣を携えていた。それはなれたからいい。原因はその後ろにも続いていた。
その脇にいた銀髪の佳奈・シトローヌは新月よりも短いスカート、腹部が見えるようにあえてデザインされた白と青、赤の三色で構成されたジャケット。
何時ぞやのチャクラムを装備しており全体としては佳奈・シトローヌがやっていたというチアガールにそっくりだった。
反対に黒髪の吹雪沙羅は髪型はそのままであるのに対し黒い両サイドに深いスリットの入ったこれまた丈の短いもの。
なんと言えばいいのか分からないが現代の丈が短いコスプレ用のチャイナドレスに腕辺りに布を足したが何処と無く悩ましげな服と言えばいいのだろうか。
そこに何時ぞやのレイピア……だが柄部分が紫色になっているのであの後武器の強化でもしたのだろう。
田島薫は黄緑色の前がジャケットのようになった外套に肩や膝辺りのみに甲冑をつけた服装に両手剣を装備していた。
服の色合いが黒髪とよく合っていたが私は冒険者の服を3段階程段数を上げただけの物に見えた。
そして最後の一条美海は乳白色のローブにブーツと言った服装で上二人と違い至ってシンプルな服装だった。背中には金属製の槍の様な形をした杖を背負っている。
見たところ魔道士辺りだろう。まだまだ未熟者、魔道士どころかまだ魔法使いの域かもしれない。
以上全員が全員服装に統一感が見当たらない六人だったが一般の冒険者に比べれば遥かにまともな格好をしていた。と言ってもこちらも負けず劣らず場に不似合いすれすれの服装だ。
ハリスは体熱効果が付属された布を使った焦げ茶色のケープとナポレオンコートが合体した訳の分からないコートに半ズボン。といったところだったがここでも新月欲がはみ出た服装だ。
ジャケット……と言っていいのか分からないもの、おそらく新月は軍服をモチーフにしたコートだと思われるがよく分かん。+半ズボンだがこれは言わずもがなと言うべきだろうか。
そんな欲望を丸出しにした犯人はというと以外にもいつもの白い軍服もどきだった。
案外場の空気を読むことが出来たのかと驚いた。欲望は丸出しだが。
そして新月の第二の被害者である私はというと―――真っ黒な分厚い外套にワインレッド色のチョハと呼ばれる上着、ズボンなのだが新月セレクトなので合わせているものが色々とおかしい。
まず全体的にどこの舞台に出る役者だと言いたくなるほど所々に装飾がしてある。それはもう一歩間違えれば成金に思われる程、
第二にチョハは某映画の衣装元になったものだ。弾帯が付いているのだがそんなもの使わない私からしたらはっきり言って邪魔だ。
ここに拒否してつけていないが短剣も装備されるところだった。只でさえこれでもか存在主張の強い服装なのにそんな邪魔なもの要らん。
そんな衣装対決をしたために後五十嵐拓也とその取り巻きの批判の声とご近所さんらの視線を浴びながら動くこととなった。
もうこれだけでも五月蠅いのに本題はこれからだというのが新月のありもしないやる気をさらにマイナスに下げることとなった。
よって見事私は召喚者五十嵐拓也よりも派手な服装をしているということでこの町の住民からマイナスの評価を頂いた。それだけでなく声や視線の何よりも私の体力を下げるお荷物を持たせられるという来て早々大きな影響も貰った。
捨てては―――駄目か。不法投棄になる。
色々とあった朝となったが大迷宮の入り口付近は冒険者が多く初心者もまた多い為か石作の大門があった。
中に入った人間を記録する受付表にサインをして中に入る。一般用に解放されているダンジョンらしく私達が向かった頃には既に初心者から中堅者が溢れ返っていた。
だがここで注目されるのはやはりと言ってか五十嵐拓也とその一行だ。勿論自国の王女であるアデリーナまでいるので他人の目を集める力は1.5倍どころか二倍、三倍となっている。
群がる群衆をあちらに任せて私達はツァスタバも使用している『見えなくなる系アイテム』のマントに三人でなんとか包まり一足先に中で待機することにした。
こそこそと入ってすぐの初心者階層はだいぶ薄暗いせいか松明を持った冒険者が多い。
あと数分後にはあいつらも来るだろうと光属性の魔法『ライト』を使い自分達の周辺だけを明るくして岩に腰掛けて待つ。
時間にして約三十分後、あまりに待ち時間が長いので私はパイプを吸いながら読書、新月は【千里眼】を使って何かを見ていた。顔がにやけていたのでろくなものではない事だけは分かった。
ハリスはというとプラスチック製のロボットを魔法で浮かせて石を相手に一人遊びしていた。どうやら分解して【開口の胃袋】に押し込めて大切に持ってきたらしい。
年相応の遊ぶ姿に新月が抱きつき頰を摩擦熱が起こりそうな程擦り付けていたので引き剥がすと迷惑なことに引っ付き虫は私に乗り換えてきた。邪魔だ。
そんなことをしていると既に憔悴した二人と真逆に輝いている三人と通常状態の一人が入り口から群衆を連れてゾロゾロとやってきた。
「クロス! お前一体どこ行ってたんだよ?!」
「そうね。何も言わずに忽然と消えるとかあり得ないわ」
「今のフブキにはagreeデス!」
あんな人混みに紛れて待っていろだなんて面倒に決まっているだろうと思ったが向こうはそんなことは聞いていなかった。
仕方ない、諦めて先を進もう。
むすっとした顔で脛蹴りの構えをした新月を回収して先を急ぐ。
「『ライト』」
光属性の魔法を再度使い今度は広範囲を照らすと今度は五十嵐拓也が不満を顔に出した。
「お、俺だってそれぐらい出来るし!」
「そうか、では次の階層で頼もう。威勢張る程ならそれ相応のことが出来るのだろう?」
「お、おお、いいぜ」
ずいっと顔を近づけて吠える子ライオンにそれならばと次回から任せると宣言する。が返ってきた返事は語尾が小さい。
それでも言い返しただけで取り巻き二人は抱きついて黄色い声を上げると五十嵐拓也の目に一瞬焦りの色が見えた。
「大丈夫です。私もお手伝いしますからあまり肩に力を入れないで下さいませ。既に光属性以外の他属性魔法ですら扱うことが出来る貴方なら出来ます」
「アデリーナ……、そうだよな、俺なら出来る!」
「そうネ、拓也ならno problemデス!」
「そうよ、私達がいるわ」
「佳奈、吹雪さん……ああ、そうだな!」
アデリーナもそれに気がついたのか五十嵐拓也の手を握り目を合わせて励ます。流石あの国王の御息女というべきか。人を動かす術は身につけているらしい。
「あ、あの」
「なんだ」
「拓也がすみません」
「? お前が頭を下げる程の事ではない。それよりも先を進むぞ」
アデリーナと取り巻き二人にすっかり励まされた子ライオンを見ていると下から声が聞こえて目線の先を下へと移動させる。
何も言わない田島薫を引き連れた一条美海だった。彼女は頭を下げていたが何故彼女自身が謝るのかが分からない。
首を傾げたがそれよりもと道の先を指指す。指の先には威勢を取り戻した子ライオンが自分について来いと大手を振って道を歩く姿がある。
側から見たら斑らの道化師が笛を吹いている光景が脳裏に浮かび上がった。
笛を吹いて子供達を率いる道化師、だが五十嵐拓也は斑らの道化師の様に報酬を踏み倒されて怒っている訳では無いが。寧ろ踏み倒されそうなのは私の方だ。
そんなことを考えていると見慣れた白と灰色の頭が両サイドから袖を引いた。
『あの三流芝居目の前でやられると欠伸が出そうだったんだけど』
「これが終わったら第三者として見れるから我慢しろ」
右で子供の様に私の手を振り回してくれるのは新月だ。先を行く一行に聞こえぬよう小声で気長に待て、と付け加え抑えつけた。
頰を膨らませた新月だったが我慢してくれたようだ。
今のところは。
「あの馬鹿って扱い易いですけど面倒くさいですね」
「仕方ない。人間誰しも褒められれば伸びる。だがあいつは褒められ続けて褒めて貰えなくなったら死ぬようになってしまったんだろう。原因はあるが、
で、要因はあるが今のあいつは『豚もおだてりゃ木に登る』というより褒め過ぎてあいつは褒められなければ動けなくなったトドだ。
又は外を知らず愛されることが当たり前と思い込んでいる動物園のパンダといったところか。どちらにせよ取り扱いは難しいがコツを掴めば手のひらで転がすのが楽な人種だな」
『そのまま調子にのってオゾン層突っ切ってお空の彼方へばいばい☆ ってなるか飛んでて鼻が折れて落下、全治半年の怪我でも負ってまへ。いや、今からでも遅くない!
この新月ちゃんがお空お星決定のサヨナラホームランを打ってあげようではないか! クロ、人一人ぐらい射てる巨大パチンコちゃん出して』
「「やめろ」」
『いた! 桃太郎の桃じゃないんだから割らないでよ。割っても明晰な頭脳しかないぞ!
ハッ! もしやお前ら俺の高知能頭脳を盗もうとする悪の組織のものだな! そんなことしても世界の英知を詰め込んだ俺の頭脳は渡さんぞ!』
「「嘘つけ」」
『いたーい!」
両手を伸ばし『頂戴☆』とせがむアホに二発、一人ドラマごっこを始めたアホにもう二発、と私とハリスの手刀が合計四発入った。
なにが英知だ、英語はおろか掛け算割り算があやふやで雀でも引っかからないような子供だましな罠にも引っかかってた癖に。
さてアホは無視して今回の依頼だがほぼ付き添いのような物なので魔獣を倒すのはあちらさんに任せて私達はサポート側に回ることにした。
その際にこの大迷宮を散策している時に【レーダー】という大変便利な能力を見つけた。それを使い指示を出していたら雑用係に回されたがまあ仕方ない。
「っはぁああ!!」
太刀を浴びて絶命した第一階層主、巨大蝙蝠を一瞥して剣を収める。活火山であるこの灼熱地獄で金属の甲冑は体力と気力を擦り減らすことになるだろう。
私とハリスはというと耐えられない程では無かったが。
「新月お前何かしたのか?」
『ん? ただ耐熱性の布生地にポーションを浸してみたの凄い?』
頭に張った白いバツマークを付けたまま爛々と目を輝かせて頭を差し出す新月。
これには普通に撫でると五歳児のようにはしゃいでいた。一瞬、新月が子猿のように思えたのは言わないでおこう。
さて、第二階層間近になり階層主を倒した事により階層最後のドロップアイテムを入手させることが出来た。
子供達が手を取り合っている横で私は第二階層を扉の前でリサーチする。
いた、
入ってすぐどでかいスライムの魔獣がいた。しかも中ボス、主レベル辺り、本来ならばここに居るはずの無い強さを持っている。これが魔獣の凶暴化か? 面倒な。
流石に二度続けてはこいつらが対応出来ない。現に甲冑や長袖の五十嵐拓也、田島薫、一条美海、アデリーナの四人は息が上がっている。
私が出るか、後ろの冒険者に任せたんじゃ死人が出る。出ても支障はないが問題は起こる。
………………
…………
……
「お前達は下がっていろ」
「「「「「「はぁ?!!!」」」」」」
「ハリス、水属性のシールドを貼っておけ」
「了解です!」
私の先を行かないよう一行の一歩先に踏み出し行く手を遮る。
案の定意味が分からない、何故だと油性マジックで顔と背景に書いたのが見えた。
どうやらお相手さんも気がついているそうで第一階層と第二階層を仕切る金属製の扉を向こう側から体当たりしている。
ギィィィ―――ン、ギィィィ―――ン
ゴゴゴォォ―――、
耳障りな音と扉が動く音が先程いた中級ボスの広場に響く。説明するのに時間が無いようだ。
確か受付では階層を仕切る扉は階層主を倒したら自然と開くそうだ。稀に破壊して地上に上がろうとする魔獣も最近はいるようだがこれはその類のものらしい。
理由を求めるより先に理解出来るハリスに指示を出しその他を守らせる。
「おいチビ! 一体何があるって言うんだ?!」
「むっ……、お前五月蝿えよ。ここは命をいつ捨ててもおかしくない場所なんだ。理由なんて聞いてる暇あったら大人しくしてろ」
「「「っ……!」」」
「「ごめんなさい(申し訳御座いません)」」
「お?」
一行と冒険者を背に大きな水の壁『アクア・シールド』を出したところ五十嵐拓也に胸元を掴まれて睨まれていた。
そこで沸点に達したのかはどうか知らんが珍しく怒りを含んだ口調で、しかし冷静にハリスは返答した。
顔を覗き込む様に見合わせている二人だがハリスの方が冷静な顔色をしていた。流石に場を踏んだだけあると思いつつその逞しさにどうすればいいのかと首を捻りたくなった。
「さてそれは後にして私も用を済ませるか、『我が力の一滴を捧げる。悠久なる人類の栄光、歴史の末席に座する叡智よ、虚無の刃をここに、【 アルマ・クリエテェド】』」
ここは魔法でも―――と思ったがスライムなんてもの小説の中なら稀に見る能力を持ってとんでもない事をする魔獣の代名詞と言えるものだ。
活火山が噴火したら困るので一先ず普通に切れるか試してみよう。
試し切り使うため用意したのはあの大鎌だ。前回同様、鮮血を巻き上げ出現した大鎌に群衆の騒めきが聞こえたが私は気を引き締めて目を動かさない。
扉が自然に開き切るのと何度目かの体当たりが同時になる。
来た、相手は溶岩だ。
一歩足を踏み込んで宙を駆けるとほぼ同じに高熱の巨大スライムがお出ましになった。
『溶岩性質キングスライム 【種族】 スライム【Lv】86』
今までのレベルでは大したことがないと思うが今は来て欲しく無かった。
これは召喚者一行ならひとたまりもない。それに場所が場所だ。勝手について来た冒険者の列と先程の階層主との闘いで室温が高くなっているというのにこれは遠慮したい。
全身が高熱でほぼ白くその場にいるだけで衣類に付属された効果である耐熱処理が済むより先に熱が伝わる。
一瞬にして蒸風呂だ、水の壁のその先に居るはずの人間も暑さに耐え切れず何人か倒れた音がした。
それでも構わず鎌を振り下ろす。が、溶けた。高熱過ぎて炎の色が白いんだ、当たり前か、やっぱり周囲の室温を下げてからやるべきだった。
「「「と、溶けた……?!! も、もうお終いだ……」」」
「っお前ら!! 闘ってるのはクロス様だろ! 自分達は見てるだけのくせに逃げるなんて!!」
鉄がゆっくりと溶けて焼失した。その光景に何人かが灼熱の蒸気の中へと消えていく。
それを目の当たりにした冒険者が尾を巻いて逃げ去る姿にハリスが怒りを露わにしていた。だが私もハリスだけに話しかけ続けることが出来ない。スライムが反撃を開始したからだ。
【エンパス】が発動したのでもう一度地面を蹴る。ほぼ同時にスライムが溶解して広場が溶岩の海へと変えた。水の壁に溶岩の波が押し寄せ視界が白一色で包まれる。
見えない。このままだと天井に頭を打って赤い海へ落ちる。このこんな所泳げる訳がないだろ。
「……ぐっ!」
歪な天井に頭を打った。
でもこれで天井が分かった、落ちる前に天井の窪みに手をかけ落下を防ぐ。石が崩れる前に足をかけ身体を吊るす。
ぶら下がっていられる僅かな時間で何か足場になる場所はないかと探す。
あった。踵で天井を蹴り上げ一番大きな岩に飛び降りる。
回転する視界の中で怒りに飲まれてそのまま追いかけようとしたハリスが私から見えた。
「騒ぐな! 怒りに身を任せて自爆するきか」
「ぐっ……、は、はい」
「『汝の心を凍てつかせ破滅へと導かん。【サソリタ】』」
喝を入れて黙らせた。
ハリスが意気消沈となったところで脳裏に『崩落の危険』と浮かんでいた言葉を無視して広場全体を氷の湖面へと変える。これには溶岩スライムも驚いたのか身を引こうとした。
いた、が、スライムの身体が地面を触れなければ動けないのが仇となってそれも無意味な行動となった。やっとこれで触れれる。
もう一度鮮血滴る金の刃を創り斬り込む。溶岩で泥のようにうねりを見せていた溶岩スライムだったが冷えてしまえばあとは早い。
踠き足掻く獲物へ刃を向ける。
百に、
――――いや千に下ろす。
そうして出来上がったのが千切りキャベツよろしく細切れになった薄皮の溶岩プレートが出来上がった。
ーーーーーーーーーー
【溶岩性質キングスライムだったもの】
冷やされ千に下され薄皮状態になった元溶岩スライムの王、溶岩性質キングスライムの成れの果て。
薄過ぎて溶岩プレートではなく溶岩シート、一回ぽっきりの使い捨て品となったもの。
備考:焼肉するのに使いましょう! 使ったあとはすぐ捨てるだけ、面倒な洗い物要らずです!
但し、シートなので土台は必要……
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
【黄燐の瞳】
溶岩性質キングスライムから稀の稀に採取出来る宝石。宝石だが瞳のように球体状で爛々と輝く火を放つ。だが持ち主が持つとその火は熱く感じない。
手に持つとランタンの代わりにもなり暖も取れる。薪の上に置けば火が灯る。
灰の中から取り出すと汚れも手垢も落ちる。
備考:持ち主によっては様々な扱いが出来る。
ーーーーーーーーーー
【鑑定】を使って調べるとこの二つが出た。残骸は適当に【無限の胃袋】に入れて【黄燐の瞳】を手に取る。確かに眼球のような模様が見える。
『おー綺麗!』
「新月か、ハリスに守られて壁の外にいたんじゃないのか?」
『俺がクロから離れて一人でぬくぬくしてると思う? ちゃんと安全領域の扉向こうでチアガールしてたよーん! クロどころか誰も見てくれなかったけどね』
そう言って宝石を持った腕の間から袖を揺らして飛び跳ねるアホが一匹生えてきた。
溶岩の海に沈むかもしれないというのに呑気にチアガールの真似なんぞしてたのかこの馬鹿は? 馬鹿だろ。
しかしこの稀な宝石は新月が応援してたおかげかもしれない。
「新月お前両手を出せ」
『ん? ほい!』
宝石と同じ色の瞳が大きな目で見ていた。こいつになら渡しておいてもいいかと何故かそう思えた。
「両手で水をすくうようにしろ」
『ほい!』
馬鹿正直に言われた通り両手をお椀の形に丸めた手にもし汚物でも同じようなことをするんじゃないか? と一瞬このアホの脳を疑いながらも手の中に爛々と燃える目玉―――というよりただの炎をのせる。
「熱くないか?」
『うん! 綺麗!』
「お前にやる」
『へぇ……?! い、いいの?!』
「ああ、私が持つよりお前が持っていた方がこれもいいだろ」
『あ、ありがと……』
礼を言った途端新月は固まった。どうした、と後ろを見るが一行とハリスがこちらへ走ってくる以外魔獣の巨大化も何も起こってはいない。
目の前で手に持った宝石を遮るように手を振ると何やら小刻みに震え出した。
どうした、
そう口を開く前に足に何かが絡みついた。確認しなくてもあの白髪のアホであることは理解出来た。
陣痛、または腹痛か? 何か拾い食いでもしたのだろうか?
誤飲で倒れられても困るのだが……
アホのエピソード
『ぶークロのアホ、家出してやる!
―――あーあんなことに生ハムが落ちてる!』
「あいつあほだが流石にこれには引っかからないと思うがあ、かかった」
すっぽりと大きな籠の中に捕獲されたアホが一名、
『うわ! 罠だった!』
「お前アホ過ぎるだろ。ほら帰って―――しっかりピーマンの肉詰めのピーマンも食べるんだぞ」
『えー、ずっと食べるとピーマンいらなく思えるから外しただけなのに!』
「誰がその残骸の後始末するんだ?」
『クロ(`・ω・´) ……嘘ですごめんなさいぃぃぃー、ぁぁぁぁあああ!!!!』
以上、おバカな新月エピソードでした。
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