遑神 ーいとまがみー

慶光院周

文字の大きさ
72 / 82
第2章

決別と別れ、失墜。そして遁走

しおりを挟む
****
五十嵐拓也視点

 また出入り口が塞がれた。今度は向こうに美海と薫が取り残された、クロスが一緒だが心許ねえ!
 戻りたい---けどあの正体不明男を思い出すと足の力が抜ける。
 
 それに----


 「「「「KyaaaAAAAA---」」」」

 分断されたと同時に蝙蝠軍の魔獣に追いかけられて後方から鳴き声が迷宮内に反響している。
 くそっ、レベルアップしたこの力なら普通に跳ね除けれるってのに疲労で逃走しか出来ねぇ! 足も少し震えて---べ、別に怖がっている訳じゃねぇぞ。ただの武者震いだ!

 こんなんでこの先やっていけるわけがないだろ! っていうかこれじゃ俺が褒められないじゃないか。引き際ってのもあるけどこれじゃあ寧ろ「いきなりあらわれたラスボスに一度は負けて逃げる勇者」のテンプレだって言われちまう!  
 やだ、断固として拒否する。テンプレを打破したい!!

 「吹雪さん手を離してくれ! 俺は戻る!!!」
 「ふざけないで!!!!」

 強い力で腕を掴んでいる黒いて袋の手、吹雪さんの手を外そうとすると今以上の、皮膚が剥がされるような痛みを持ってして再度引っ張られる。もう片方の手にあの髪男にこき下ろされた聖剣を握っているので強く出れない。
 他の二人を見ると俺と同じように後ろ髪を引かれるようだが足を運ぶので精一杯で戻るなんて出来ない。
 走っているとアデリーナの足に直接魔獣が噛み付いた、そのまま血をすすられているのか血が滲む。まずい、せめてこの三人だけでも逃さないと---俺が後ろ指刺される。
 運ぶ足を止めて腕を振り払い脳天を狙う。

 「はっ!!」

 疲労を訴える足腰に喝を入れて魔獣に剣を突き立てて一撃で仕留めた。が、動作が重くなった俺は今まで使ってきた剣を蝙蝠に強奪された。その隙に他の蝙蝠が真正面から飛び込んでくる。

 ヤベェ!!!





 「撃てぇぇぇ!!」



 ダダダァアァン----

 「「「「kixyuuuuuuuu---」」」」

 瞼を閉じていると豪快な破裂音と年を食った男の声が聞こえた。はっとして一斉に後ろを振り向くといたのは城の衛兵の隊だった。面識のある顔ぶれがチラチラといるので間違いない。

 「大丈夫か?!」
 「あ、あんたは」
 「覚えているか? 俺は三ヶ月前お前との稽古でやられた---

 「あ、あん時の!!!」
 「あー! 拓也にヤラレタ!」
 「あの膝をついていた部隊長さん!」
 「ああ、お父様に聞きましたがあの後落ち込んでいたとか……もう平気なのですか?」

 被せんなよ! ってか地味に傷つくな!
 まあいい、聖剣も見つけたようだしな。まーちっとトラブルが起きてるみてぇーだが」

 そういえば前にもお城の兵隊とかに手合わせして貰っていた。こいつはその中にいたその時一番力が強いやつだ。しかも部隊長だった気がする。
 周りを見回した部隊長のそいつは確信を持った顔で剣を構え直した。

 「量には量ってな! こんなの取るに足りねーよ。それにこっちは隊ごと来てんだ、勇者様の補佐ぐらいにはなんだろ! それとも勇者殿は休息をご所望か? なら俺達に任せてもいいぜ?」

 堂々とした勝利宣言だ。蝙蝠の軍隊に言ってのけたあいつの発言が頭にきた。

 「……っ、やれるっての!」
 「おう、本当か? そんなにふらふらしてて倒れそうなら休憩挟んでもいいからな」
 「ンなのいらねーよ!」
 「そうか、じゃあ頑張れよ。---全員、かかれぇー!」

 茶化しが入った声を無視すると銃や剣を持った部隊が蝙蝠の群れに立ち向かっていく。その中の一人に俺も、俺達も加わった。

 うっせ! 大丈夫だっての、まだ聖剣があるし! というかこんなことより早く戻んないといけないんだよ! 美海、薫無事でいろよ!



****
ロザリアント視点   過去、一ヶ月前。



 「では行ってくる。あとは任せるが上手く立ち回ってくれ」
 「「は!」」

 ご主人様が外套を風に遊ばせながら出ていきました。
 私とツァスタバは待機、詰まる所のお留守番……なぜです?! 私だってお供させていただきたかったですわ!
 それに何が悲しくて汚貴族おきぞくさんの対応をしないといけないのか---私とツァスタバだけでもこの国を物理的にも内部的にも木っ端微塵にすることが可能ですのに!

 「仕方ないのですロザリアント、これはマスターのご指示、我々は従いましょう」
 「ツァスタバ貴女こそ落ち込んでいるように見えますが? 頭の上から蝋を被ったように白いですわよ。あ、もしかして冬毛ですか?」
 「違いますから」
 
 同じくツァスタバも私と同じように悲しみに暮れておりました。
 残念ですわね。冬毛があれば梳いてクッションを作れますのに。

 さて、冗談はさておきこれからどうしましょうか。事が起きるまでは好きにしても良い、とご主人様に許可を貰いましたがこんな汚らしい所でいつまでも待機するより今すぐ他国に亡命してしまいたいですわ。

 「ロザリアント貴女も考えていることが丸わかりですよ」
 「あらごめんあそばせ」

 顔に出ていたようです。周りに彼女以外誰もいなくて助かりました。

 「では---ご主人様が置いていかれた書き置きを覗きに行きますか」
 「あらロザリアント、貴女も同じことを考えていたのですか。貴女も気になりますか?」

 お互いに顔を付き合わせて口角を上げる。異論は無いようですね。
 そのままご主人様の書斎に向かうとまず目に入ったのは巨大なゾンビの遺体、これg天井からぶら下がってお出迎えしておりました。
 確かこれはイン、インフェルノとかいうご主人様に倒されたものですね。ご主人様がコンパクトにして吊るした---いえ、これはお嬢様のアイデアでしょう。あら、あそこにある花の花弁を集めた壺可愛いですね。中に入っているのはただの貴石の原石のようですか。

 眺めていたい気持ちを我慢し、通り過ぎて奥に置かれたどっしりとした机にまで近づくと山のように積まれた羊皮紙が目に入りました。
 その中に封筒に入った旅行券、短い羊皮紙に書かれた偽装書類に偽装証言をしてくれるよう裏取引をした相手のプロフィール、小さな箱、何かあったら私が気になった花瓶の中を好きに使っていいという書き置き。それに赤いインクで書かれた羊皮紙だけがペーパーウェイトで抑えておりました。
 ツァスタバが文字の羅列を目で追っていると今にも暴走しそうな、お嬢様がご覧になられていた祟り神の目をしていました。

 「コロス……世界ヲおわラセる……」
 「世界破滅予告は後ででいいですから早く教えて下さい」

 怒れるツァスタバから羊皮紙を奪い一巻分丸々あるものを見ていくと顔の筋肉が動かなくなっていく。

 「ロザりアンと貴女も手に持っテいるモノを下げナサイ」

 あら、いつのまにかキコクを握っておりましたわ! 気がつきませんでしたぁ~。しかしこれは口に出して言えない内容ですわね。声に出したら手を出してしまいそうです。


 特に一部分だけは、ね。


 心の内に憎悪を抱いていると聞こえるすれすれの鈴のような声が耳元から囁いてきました。



 『『『大変、大変、あいつらまた話してる……』』』

 ざわざわと、聞こえるのは私やマスターしか鮮明に聞くことが出来ない植物の声、これは私がご主人様に与えられた種族、ニンフ特有の能力ですの。これには色々と情報を頂けるので重宝していますわ。
 特に花を司る神やご主人様のような豊穣を司る能力を持った神の眷属でないと聞こえないような切り花になった植物の声も聞こえるのです。
 よって私には厳重に警備されて所でも花瓶の一つがあれば厳重警戒などざる……あってないようなものです。しかもほぼ亜空間と化しているこのゲル擬きの中でも通用します。一体どのような仕組みになっているのでしょうね。私が知りたいですわ。

 「ツァスタバ、喜びなさいませ? ですわ」
 「ああ、ですね。了解です、では少し席を外します」
 「ええ、いってらっしゃいませ」

 隣で炎を上げていたツァスタバに短く伝えると彼女も理解したようで満面の、しかし背後に修羅を背負った笑みを浮かべて書斎を出て行きました。容貌が整っているとこういう時の顔でも見れたものになるので役得ですわね。
 まあそれは置いておくとしてこの声によるとまたあの死に損ない……いえ、愚王はまた何かをしているようですね。
 ご主人様もお嬢様、ハリスでさえ不在ですから仕事もありませんし日々の鬱憤、元いい憂さ晴らしを兼ねて監視もしておきましょう。
 ふふふ、私やツァスタバは兎も角ご主人様に手を出すとは阿呆が入った人々ですわね。事情がどうであれ私に生命を与えてくれただけでなく着飾る、という楽しみも許して下さるご主人様に私が忠誠を誓っているのは重々承知でしょうに……さてこれからどうしてやりましょうか。私はアリの子一匹でも容赦はしませんのよ? 例え国の為、人のため為でも今回ばかりはねぇ……?

 一人になった私は天井、ではなくその先のを思い描くことで笑みを浮かべた。



****


 場が静かになったので新月に戻って貰うと足に絡みついて頬ずりをされた。邪魔だ。

 『っぱは---!!! やっと終わったよぉ。クロ、ハリスくん抱っこして帰ろー! この子達は置いて置いてもあとで勇者くん(笑)が回収していくでしょ。さっさとってったーい!
 帰ってつーちゃんとロザりんのふかふかマシュマロクッションで癒されたい!!』

 満面の笑みで元気いっぱいなのは分かるが言っていることと顔が合致しない。久々に変態発言を見たがそれはしばらく先になるぞ。残念だったな新月。

 「残念だが無理だ」
 『なんで!!!!』

 現段階で既に分かりきっていることを口に出すと新月が体に稲妻が走ったような顔をした。ゼウスはここにいない筈だ、何故それほど変な動きをするんだ?
 喜びも束の間、新月は頰を膨らませて私の足を最低限の力しか入っていない力で叩く。ひ弱な攻撃を抑え地面に下ろすと目を合わせて話をする。現状が分かっていないようなので簡単に説明をしてやろう。

 ハリスと一条美海、田島薫は……説明が面倒いから『時間がない時の短縮方法、千と千●の神隠●。ハ●式』の念話でどうにかしよう。何度も話すのは面倒だしな。



 「【レーダー】は覚えているか? 敵やら障害物やらが分かるあの能力だ。それに一纏りになった人間が引っかかった、恐らく城の衛兵が進行している。今頃第五階層に入って来ているだろうから五十嵐拓也とその一行と出会っている筈だ。
 第一から第四までほぼ全ての魔獣をあいつらに倒させたから大勢の兵士達なら最近湧いた魔獣など造作も無いだろうしな」
 『りありー?』
 「ひらがなで書くな馬鹿が丸見えだ。“really”とせめて書け」
 『ワタシえいごわかんないアルよ!』
 「……だから勉強しておけと言っていただろうが。まあそれは置いておくとして今のことを話そう。順に並べるぞ」



 まず近衛兵の方は予め用意されていたもので一ヶ月もこの大迷宮に引きこもってる私達に痺れを切らして入ってきた。そしてやつらは銃やら魔力封じの道具を持っている。それが今こちらに向かっている。
 つまり、始めから私達を拘束する予定で動いている。大方ハリスだけでも捕まえれば良し、お前も拘束出来れば尚のこと良し。
 さらに私が無抵抗のまま回収出来れば万々歳、と言ったところだ。
 それに国王あちらは田島薫と一条美海程度ならば切り捨ててもいいと考えているようだ。大方私に勇者二名の死亡責任を負わせて良いように使いたかったのだろうよ。
 まあ生きてるからそうはならんがな。


 『ほうほう、なら二人を盾に帰ってもよかと?』
 「それも無理だ」
 『え---ー!!!!』
 「話を戻すが考えろ」

 切り捨てる筈だった子供二人を抱えて差し出したところでハイそうですかとなるか? なる訳無いだろう。寧ろ狼の群れに生肉を投げ込むような行為だろうが。

 「よって五十嵐拓也一行との合流は不可能、この国自体も敵に回っているため逃げても無駄。私達は他国から『勇者育成』という政治的な目的で来ている。
 それなら国を脅かした政治犯の罪状、勇者二名を重体にした凶悪犯に、他国との共謀罪をプラスして、城の女中にでも手を出した、とか水増しして重罪人として指名手配されるだろうな」
 『オーマイゴット!!!!! 何呑気にしてるんだ君は!!!! 他人事の養子にてるが君のことだぞ、もっと重く受け止めりdkfn28@%*$=!!!!』
 「誤字脱字が多いぞ落ち着け」
 『落ち着けるか!!!!!! ってかなんで知ってるの?』
 「今後を予想すれば分かる。あと少しだけだが『このまま進んだ世界』を。あまり見たくはないがこの際だ、仕方なかった。私とお前は一人しかいないから見るのが面倒だったが大体は見てこれたぞ。酷いシナリオだったがな」
 『マジか、流石クロ。チート天才! 我が弟よ---では新月ちゃんはお昼寝を……zzzz』
 「話を最後まで聞け」
 『すみません!』

 足にまた絡みついて寝ようとする新月に頰を抓ってやる。こんな状況で寝るとは馬鹿か。

 「いいか? だから脱出する必要がある訳だがこうなることも予想してはいた。だからこの緊急装置【時の玉】を身に付けてるだろう?」
 『あああのダサいネーミングセンスの』
 「黙れ、これがあれば最悪魔力無しでもどうにか出来るからな。まずこれでそこで仲良く眠ってる子供を起こして元いた世界に送り返す。私の会社の社員が待機してるところに落とすつもりだから安全も確保出来てる」
 『マジで? 起こすの? ハリスくんは?』
 「一緒に起こす。---ほら、起きろ」
 『朝? だぞ---ー!!! 遅刻するわよ! って俺の声出ないんだった!せっかくのお母さんごっこが!!』『痛い!』

 こんな時にもおふざけが入る新月にデコピンを与えつつ二人がかりで揺さぶり起こす。早く起きろ。

 「ん、」
 「うる……さいぉ~」
 「痛い……」

 のそのそと起き上がった三人だがまだ夢の世界にいるようだ。一発殴って起こすか。

 『クロそれはやめたれ。俺は石頭だし神様だがらどうにかなるけど重体三人組にそれやったら中身出ちゃうから』

 拳を握る素ぶりを見せると新月が割って中に入り代わりに頰を引っ張るなどして目覚ましにかかった。
 力加減を平等にしていた筈だがそんなに私は力を込めていたのだろうか? いや、そんなことはないと考えつつ新月に任せていると起き上がった三人は死屍累々と化している現状に悲鳴を上げた。五月蝿い。

 「五月蝿いぞ静かにしろ」
 「「「出来ません(るか)!! 説明してください(れ)!!!」」」

 気絶して新月に起こされたのが幸いか一時的に元気を取り戻した田島薫がハリス並みに声を荒げる。これが本来の素顔か、最近のとは全く違う。
 本人達が望んでいることだし先に念話で今までの経緯と二人には約束していたから私の個人情報をお付けして送ってやる。勿論予定通りの方法で、




 私の誕生の経歴、そしてゼウスに殺され死体はバラバラにされて地の底深くに捨てられたこと。あれは確かウラノスの呪いの欠片を取り出すために仕方なくやったとゼウスが言っていた筈だ。
 思い返して今更思った、あの時に全部回収しておけばいいものをなぜしなかったのか、不可解だ。

 そして月日が経ち復活した後ゼウスに謝罪、正式に隠居宣言をした後、旅行兼家造りのためこの世界に来た。
 そのさわりと国々の事情が入り乱れ過ぎた勇者育成計画の大方の予想とその後、自分二人が勇者として城に戻ればどうなるかなど駆け足ではあったが伝えることが出来たと思う。
 手を下ろすと見えたのはハリスの影のある黙り顔、一条美海と田島薫の顔面蒼白に絶望感を上乗せした表情だった。
 三人が黙り込んでいると案の定後ろで新月が割り込んできた。

 『うわぁ! マジでハ●様のご説明シーン再現じゃん! 新月ちゃんにもやって!!』

 袖を引っ張る駄々っ子と化してきたので首を掴んで他所へ置く。本人は少し眉を寄せて不貞腐れていたが蹲って大人しくなった。新月が黙っているうちに片付けておこう。

 「これで分かっただろ? では早速だがお前達二人は異例になるが元の世界に返す。衣類はそのまま着衣していると問題になるので肌着だけになってもらうしこの世界ここのことは他言無用になるが……


 「なんで……」

 なんで、とはなにがだ?」



 今後の予定を説明していると田島薫が俯いたまま口を挟んだ。なんで---とは何のことだ?

 「……---だよ」

 聞き取れた筈なのに聞こえなかった。 
 【地獄耳】の能力でも使えば良かったか?

 「どうした」
 「なんで……そんな平然としていられるんだよ」

 下を向いていた顔が勢いよく前へと向き直った。か細い声で睨んでくる田島薫の顔に首を傾ける。---なぜ複雑な表情をしているか分からない。自分達の身の危険に震えているのかと思えば歯を噛み締めている。怒りを感じているのだろうか?

 「平然と……ね、時間が無いから急いではいるぞ?」
 「違う!!! なんで自分が危険な状態なのに俺と美海を助けようとしてるんだよ!!! 
 そんなことしてる暇あったら逃げろよ、俺達があんたの事情も知らずに勝手に自分勝手な考えを押し付けて反発してたのに! 無視すればいいじゃないか!!!」
 「薫……元気になったんだぁ!
……っじゃない! クロス、いや神様、じゃなくってクロノス様! 確かに私達も大変なことになっててちょっとパニックになってますけど貴方の方が危険なんですよ?! 早く逃げて下さい、私と薫もレベルが上がったんですからどうにか」
 「出来ないから言っている。いいから私の話を聞け」
 「「………」」

 有無を言わせないよう目を近づける。あまりやりたくないが時間が無いから仕方ない。


 「いいか? 私はその気になればこの大陸一つ消し去るなんぞ瞬きする間にでも出来る。最悪異世界に出てしまえばいい。
 だが私は旅に出ている。旅には問題が付き物、問題は解決するのも楽しみの一つとよく言うだろ。それより自分達の事を考えろ、現在進行形で命を狙われているんだぞ。
 しかも国から、レベルが上がろうが年を取ろうが私からしたら生まれたばかりの赤ん坊が虎と戦おうとしてるようなものだ。逆立ちしても出来ない事は出来ない。
 こういう事は出来る奴に任せておけばいい。本来ならこんなことしないが礼儀正しく接した王女と勇者御一行の少女に気まぐれに手を出した……とでも思っておけ」
 「え、私そんな大した事してない……!」
 「そうだ! 拓也は……思い当たる節があり過ぎる」
 「佳奈ちゃんと吹雪さんも……だね。でも私達二人だって同罪です。状況からして私達二人しか助けられないことは分かりますけどどうしてそこまで親身になってくれるんですか? 私何もしてない!」
 「俺もだ!」

 唐突に進んだ話に子供三人が待ったをかける。内二人は何かを思い出し床に崩れ落ちた。 
 重たい物を背負わされたような顔をしている二人の頭をぎこちなくだが撫でみる。傷に当たるのか小さく抵抗されるが慣れていないから諦めてほしい。

 「気まぐれだと言っただろ? 適当に甘えておけ、強いて理由をつけるなら---お前達私の実技しっかり見てただろ」
 「え……はい」
 「ああ……多分」
 「それに特訓、講義、実習と今回の現場体験では真面目にしていた。私が教えたことを自分からやっただろ。
 例えば魔法の件とか、それだけだ。私はこんな人に物を教えるなんてことしたことが無い。だから新鮮でやりがいがあったと感じている。
 その礼だ、まずは早くそれを噛み砕け。そろそろ大軍に苦戦していた兵隊が神殿前の一本道に突入するぞ」
 「え!!!!」
 「やっべ、長話し過ぎた!」」
 「とりあえず今はそれだけだ。まずはお前達を元の世界に返す。あとは私の部下に警察に通報させるから保護してもらえ。そのあとは

 『覆面を被った特定不明な数人のやつらに暴力を振るわれ強制重労働をさせられました。
 場所もどこか暗い場所にいたので分かりません。自分達二人は暴力を振るわれた時に気を失いました。その後のことは知りません』

 とでも言っておけ。そうそう衣類は脱いで貰うぞ。未知の素材をつかった服なんぞ出てきたら厄介なことになる。新月、」
 『ほいさ~!』
 「え、ちょっと展開がよく分からないんだけど---きゃ!」
 『とりゃー!』

 話し合いが随分と伸びてしまった。もう動かないとこちらも危険だ。新月に命令して奪衣婆の如く衣類を剥ぎ取らせる。
 おい待て、その粗末な下着用の布は残しておけ。それから触るのも厳禁だ痴女め。

 『安心しなさんせ、俺も十分の三も分かってないから!』
 「は?! おいレモーネやめ、ひっ!!」
 『お! いい体』
 「失せろ痴女」
 『クロがやれって言ったのに酷い!』
 「ここまでやれとは言っていない。では話を続けるぞ」

 田島薫に腹筋を指でなぞる痴女を剥がしてほしいとジェスチャーをされたので引き剥がす。奪衣婆新月を抱き寄せて大人しくさせると耳元に手を当ててピアスを外す。
 私はその外した両耳のピアスを外した後ピアスの球体を外して石だけを二人へ投げ渡した。
 そうそう衣類は証拠隠滅に回収しておこう。

 「ほら、」
 「「わわわっ!!!」」
 「心配は要らないぞ五十嵐拓也と加奈・シトローヌ、吹雪沙羅はこちらでどうにかしておくからな」
 「そういう意味で……いやそれもあるけど! お前俺の言ったこと分かってないだろ!」
 「うん、私もそう思った。急ぎたい気持ちも分かりますけどクロス、じゃなかったクロノスさん意味分かってないですよね?」

 手のひらの時の玉を見つめたまま複雑そうな表情の田島薫と一条美海が顔を上げて互いに見合わせた。その肩をハリスが軽く抱き寄せて私を睨む。

 「やっぱりあんたらにもそう思えるんだな。クロス様どうしてこの兄さんと姉さんがこんなに驚いているのか分かります?」
 『シンキングタイム三秒やろう! さあクロの助けや答えるがよい! 間違った場合は罰ゲームだから安心したまえ』 
 「出来るわけないだろ」

 新月は置いておいても分からん。

 「知るわけがないだろ。私は神、それも感情の大半が理解できない分類だ」
 『よし後で罰ゲームね』
 「は?」

 意図せず何か話が決まった。なぜだ。


 『まあそれは後でしてあげる。とりあえずそこのお二人さんじゃーそうゆうことでさよーなら!』
 「あとは任せろ」

 無駄な司会者モードからノーマルモードに戻った新月が勝手に話を進めだした。
 訳が分からないのは私なんだが新月の中では話がまとまったようで話が進んだ。まあ新月に乗っておくか。

 「ええぇぇ---!」
 「あ---! ちょっと待ってくれ!」

 口を大きく開けた隙に一条美海、田島薫の顎を掴み無理矢理青い玉を噛ませる。悪いな、もう【レーダー】では第五階層の半ばまで人の群れが来てるから諦めてくれ。

 「「「あ!」」」
 「まだ話の途中なのに!」
 「もう噛んじゃったじゃないか!!」
 「クロス様それはないですよ……」

 何も了承がないまま噛ませたから避難轟々だ。私のせいか? これは。

 『わぁ、クロの俺様だ! 新月ちゃんにも!』
 「しない」
 『ケチ!』

 お前は知らん。一人でやってろ。
 そんな答弁をしていると効果が出たのか田島薫と一条美海の体がミルキーウェイのような白と青の光に包まれて透け始めた。

 「わぁ! 凄い……じゃない! 
 クロノスさん! 私その程度で助けてくれた理由になってるとは思えませんからね! 落ち着いたら絶対今度私達二人に会いにきて下さいよ。貴方なら出来るんだから!!!!」

 なぜ分かった。

 「……なぜ出来ると分かる。そんなに易々と出来ないかもしれないだろ」
 「少し考えれば分かります! だってレモーネちゃ……新月ちゃんが偶にゲーム機とかこの世界にだって無いような物持ってたもん! ってことは他の異世界にも行けるってこと、つまり他に行ける力があるなら出来るってこと! 
 それに貴方のその堂々とした態度見てれば分かります! 絶対……絶対お礼する……んですから会い……に来て下さい……ね!」

 先に噛ませた一条美海の姿が段々と透け始めていた。言いたいことだけを伝え切ったが最後、「役目は終了とした」と言わんばかりに霧散した。いや空気に溶けたと言った方がいいか。
 とりあえず一人は無事帰れたか。と一条美海がいた空間を見つめていると右から袖を掴まれ勢いよく右を向いた。
 壁際にもう一人が壁際にいたせいで壁に手を付く形になった。
 私と壁の間に田島薫を挟んで。

 
 これが俗に言うサンドイッチというものか。

 「う、うぁ……」
 「お前が引っ張ったんだろうが」

 勢いがあったので強く壁肌を叩く。具材が驚いているが仕方ない。自分のせいだ許せ。

 『あ------!!! KA☆BE★DO☆N---だあああああ!!!
 ズルイ! その配置に居座っていいのはこの俺!! 新月ちゃんだぞ?! 変わって!!!!』
 「そ、そういう問題じゃない!」
 「確かに違いますね。というわけで新月さんはクロス様から剥がれて下さい!」
 『やだ!』
 「………」
 『あ、クロの非道、浮気者! この俺というものがありながら!』

 よじ登って来た新月をハリスがスカートを掴んで引き剥がそうとするが剥がれない。白地に猫柄のカボチャパンツが仄暗いこの空間で明かりに照らされて輝いていた。
 ……勿論無言で引き剥がす。粘着力の強い接着剤を剥がすような音が聞こえた。ロミオロミオとうるさい外野が目に余る。

 「悪いな田島薫、こいつのことは目を瞑ってくれ。そうだな……借りだとでも思って」

 私の言葉にはっ、と気がついたように私を押し返して叫んだ。

 「そうだ! これは借りだからな!!! 影の功労者で命の恩人に礼はさせろ!!! 
 俺なんも出来なかったけど待つことは出来るからな。いい……から絶対会いに来い! 来なかったら見せて……もらった漫画ストーリー……ネットで世界中に流すか……らな!!!! 世界中に……知ら……れて有……名になっ……ちまえ!!」

 最後にとんでもない捨て台詞を吐いて掻き消えた。後ろから新月とハリスが左右から「カンバ!」と掛け声をかけられる。全然有り難くない。

 「……もう行くぞ。ジンニーヤーお前起きてるだろ」
 「あ、ばれてましたか」
 「『あ、起きとった!』」

 送り返して終わりだと思っていたのにまた仕事が増えた。また今度新月に遊びに行きたいと言われるだろうから絶対に会うことになる。それでもって問い詰められる。面倒だ、
 話を変えて狸寝入りをしていたジンニーヤーに話しかけると悪戯っ子のような顔をして起き上がった。大方私があの二人を放置して行ったら食べるつもりだったのだろう。油断も隙もないな。

 「なんであの子供返したんですかぁ~眷属が殆どやられて私の懐が大打撃だったから美味しく頂こうと思ってましたのにぃ~!」
 「食べるな。そんなに腹が減っているならこれをやるから」

 新月がおやつをねだる時のような甘えた声で柔らかく叩いてくるジンニーヤーを抑えとある物を出す。
 さっきコイオスが投げた星の一つである酒が流れる星と山羊しか存在しない星、のコピーしたものだ。
 
 コイオスは星を司っているからこういった小型コピーが出来る所が利点だ。うまく星から取り出せれば等身大に化けるのも魅力的だといってもいい。あいつが一番活用出来てないのが悲しい所だがな。

 「あ、肉! これどうすればいいんですか?!」
 「ピンセットでも使ってつまみ上げとけ。酒の方は【無限の胃袋】の中に入れとかないと垂れ流しだから気をつけろ」
 「はぁ~い!」

 素直な返事が返ってきたかと思うと床に転がっていたピンセットを拾い上げ一生懸命に山羊を取り出そうとする姿が笑いを誘ったのか新月が噴き出した。
 確かに魔人が懸命にピンセットを駆使している姿は斬新だ、扱い易さの方が驚きだ。新月の方が大変だぞ、ついでだこいつにも一つ茶番劇に噛んで貰おう。

 「ジンニーヤー私達はもう行くが人間の集団が来たら食べる前にこの紙に書いたことを言っておけ、そうすればこれも追加する」
 「あ、ジャーキー! ちょーだ下さい」

 最後の手持ち食品をチラつかせればあっさりと連れるジンニーヤー、お前よくこれで生きてこれたな。箱入り娘じゃなかったら生きてないぞ。

 「クロス様山羊なんて渡していいんですか?」
 「何か問題か? 食べれるだろ山羊」
 「そうですけど……ほら、ツァスタバさんって……」

 心配するようにハリスが話しかける。ツァスタバ? あいつならどう見ても---

 「山羊だろ」
 「思うところはないんですか」
 「あいつなら同類だろうが皮を剥いで捌いたあとジンギスカン焼いて食べてるだろ」
 「確かに」

 頭の中でツァスタバと山羊の弱肉強食の関係図を思い浮かべてもジンニーヤーと同じく、食力旺盛な姿しか思い浮かばない。痛みは欠片も持ち合わせてなさそうだからな。


 ツァスタバのことは一旦忘れ、一人片隅でピンセットに悪戦苦闘後逃げ惑う山羊を追いかけ回すジンニーヤーに別れを告げて奥の壁肌を探る。確か【レーダー】ではに……

 『どないしたと?』
 「壁なんか撫で回してどうしたんですか?」

 左右から同じような質問が飛んできたので説明をしようと口を開きかけて考えた。

 ---こいつらに任せた方が早い!


 「新月とハリスお前達壁を手当たり次第押してみろ」
 「え、なんですか? 別にいいですけど」
 『お、テンプレですな! この俺に任せてミソ!』

 よくある話に新月だけが理解して岩壁をわさわさと触りまくる。虫みたいだと思ったのは言わないでおこう。



 しばらく触っていると新月が押し当てたようで一部の壁が奥へと沈み込んだ後元の形に戻った。それを合図に人一人が横になってやっと通れそうな亀裂が生まれる。

 「うわぁ! なんだこりゃ!」
 『おっと正解! びっくりドン●ー』

 擦り切れた王道シナリオのような展開に新月よハリスが大興奮の中二人の襟首を掴んで亀裂の奥へと押し込む。

 『gykぬ!』

 誤字とプチッ、と何かが潰れる音がしたが無視して捩じ込んだ。最後に神通力を使って私が向こう側へと飛び込びこみ一条美海の杖と田島薫の履いていた靴を床に放り投げると同時に亀裂は閉じた。

 『クロの非道! 新月ちゃんのたわわなバストが絶壁になるところだったぞ!』
 「言うてそんなないだろ」
 『そうでした! 悲P』
 「はいはい新月さんはシャラップ」
 『お口チャック! しんらつぅ~だにゃーん★』
 「はいはい。で、クロス様ここなんですか?」

 新月の冗談とお遊びは置いておくとしてハリスの問いには答えてやろう。

 「抜け道だ。大昔にここを作った際、ジンニーヤーに噛み付かれそうになった場合の逃げ道を作ったんだろうな。
 忘れ去られていたようだから私の【レーダー】ですら細い線が僅かに見えていただけだった。おそらくここを進めば大迷宮唯一の光の大穴に行き着くはずだ。大昔の人間はあの大穴から降りて神殿を祀っていた筈だからな」
 「やけに自信過剰ですね。普通直下型の壁使いますか?」
 「大昔は階段だなんて便利なものがなかったからこれが当たり前だったんだ。今ではダンジョンとかしているこの大迷宮だって穴を降りるのが不便だった人間が地上から入ってくる大穴の光を目当てにしながら作ったものだぞ? そんな面倒なことをするやつらなら抜け道の一つや二つ用意してるだろ。相手は魔人なんだからな」
 「そういえばそうかも……」

 考える仕草をしてハリスが唸った。大昔のことだなんて知る由も無いのに理解できるまで考えるのはハリスのいい所だな。

 『クロ! 真っ暗で蜘蛛の巣だらけ! 絡まっちゃた!』

 対して向こう見ずなこいつはどうにかならないのか。

 「分かった今---

 『クロノス様【レーダー】に反応が』

 静かにしてろ」

 アリアスの口調で文書が流れてきたので黙っていると向こう側が煩くなった。
 三人とも耳を壁に当てていると【レーダー】の探知がされたらしくアリアスが【偽証】という能力を使い誤魔化すかと聞いてきた。言わずもがなだろ。
 そのあと少しおいたあとに罵声が聞こえた。


 二人はどうしたのか、アイツらは?!
 さあ? どうでしょう。
 とぼけるな!---あ、あそこに落ちてるのは美海と薫の物だ!!
 二人をどうしたのデスカ?!
 血、血が?! ま、まさか食べたの……?!
 さあ? どうでしょう。しかしやはり(山羊は)若いものに限りますねぇ。
 あ、あああああああああ---ーーーー

 手を上げろ!!! この魔獣風情が!!!
 ふ、人ごときがこの私に敵うとでも?
 あ、アイツら、レモーネやクロスはどうした……
 あの方々はもうお帰りになられました。すれ違っておられないのですか?
 いいえ、すれ違ってないわ。
 あらそう、ならお帰りになられませ?私先程の戦いで凄くお腹が空いているの。今はおやつ(ラム肉)を食べましたから気分がいいけどあと十秒だけよ?
---???!!!
 そ、そんな!
 せ、せめて遺留品だけでも!
 逃げないと!
 三人とも早くしろ!
 ---ふふふ、あと、五秒。
 ッチ!! 今は満身創痍だが次はねーからな!!!!!





 最後の負け犬の遠吠えが終わると大勢の足音が聞こえた。あいつら扱い易過ぎる。

 「行きましたかね?」
 「ああ、【レーダー】では遠ざかっている」
 『ジンちゃん前にではあの勇者(笑)くんもチワワから芋虫に化けるね~』

 笑いを堪える新月と焦りを含んだハリスの顔が対処的だったのが暗闇でも分かった。特に新月の顔が、

 『プププ、は~笑いを堪えるのが大変だった! さてと、クロにはなんかの罰ゲームを受けて貰おうかな!』
 「は? 今か」
 『うん! そうだなーよし! ど定番の青汁---と見せかけて女装……はゴツそうだから性転換+俺もで!』

……私は何も聞いていない。

 『こらこら流すな!』
 「知るか。病院に行け!」
 『ちょいちょい! が約束破って言い訳?』

 ドヤ顔で踏ん反り返る新月を置いていこうとして立ち止まる。ハリスが口に茨を詰め込んて噛み砕いたような白くて複雑な顔をする。

 『さあさあクロ!!!』

………………………………
……………………
…………

私としたことが……








 『あ、ああああああああ鳴呼嗚呼嗚呼亜あゝ!!!!! そんな?!!!!

 クロが!

 性別変わったら!!

 ムキムキの女に!!!

 なると思ったのに!!!!

 で、

 いざ、なると!!!!!

 世界的スーパー!!!!!!

 モデルに!!!!!!!

 新月ちゃんは!!!!!!!!

 男の子になっても!!!!!!!!!

 ちっちゃくてひょろひょろのまま!!!!!!!!!

 うぇーーーーーいいいい(泣)↑↑↑』
 「ただの新月さんの遠吠えです」
 『うわぁ---ん!!! 新月ちゃ……くん泣く!! ミーン、ミンミンミンミンミンミミ---』
 「ーーーその姿で泣くといつもより不快感が倍増されるな」

 いつもより何オクターブか高め、しかし一般女性の中では低めの声がほのかな光と雲の巣だらけの狭い空間に響く。

 『それど直球にキモいって言ってるよね?!』

 こちらも本来ならばいつもより何オクターブか低めの、しかし一般的には高い声が聞こえるであろうが今は何も聞こえない。

 「あ~……なんか化けたといえば化けましたし、そのままと言えばそのままですね」

 言うな。

 『ぶぅ~、今度こそ俺の方がカッコよくなると思ったのに! しかもその!』

 指を刺されてドン!と揺れる胸元を見る。重い、

 『たわわなバスト! なんで新月ちゃんには無かったの! 長い黒髪に白く変わった肌にその伏せ目がちの目、すらっとした体型!!! ずるい!』

 知るか。

 新月のおふざけのせいでガラガラと変わった状況で新月を睨む。

 お前のせいで肩こりになりそうだ。まだ体型も顔も隠れる濃紺のローブを着込んでいるわけだが新月の趣味、マントの裏地が赤翼の蝶を模したマントが付いていた。
 この姿は新月が無期限とのこと、しばらくは姿をこれに固定させることになった……新月め……アホが考えたな。

 対して新月くんは伸びた髪を三つ編みにし、白地に赤い龍が刺繍されたチーパオ、簡単に言えばチャイナ服を着た170㎝にも満たない10代の子供が現在の新月だった。今まで女性だったからまだ許されていたことがこれからは犯罪だ。仕返しに私と同じく姿を固定にしてやったから警察に御用となるがいい。


 膨らんだ頰を押すと空気が抜けた。面白い、

 『あ、クロ~笑った? 柔らかくなった?』
 「さあな、膨れていないで早く行くぞ。ハリスもだ」
 「はい!」
 『あ、あー美女に肩車だなんてなんだかな~』

 揺さぶられて生ぬるく流れる文章がひび割れた床に落ちるが誰も拾い上げることは無かった。



 数分走ったあと瓦礫を手作業で外していくと遥か上空から薄暗い光が漏れていた。穴までたどり着いたようだ。さてここで問題が起きる。

 「私は魔力も神通力も使い切ったぞ。本来ならスタシスを掴んだままハリスと二人ならピアスを使うはずだった。無くてもどうにかできるはずだった。お前のせいだ責任とれ」
 『「まじですか???!!!」』
 『え、責任ってどんなよ(゜∀゜)』
 「死んでおけ」
 『酷し!』

 そう使い切ったのだ。性別を変えることや別の種族になることは容易い。だが私はここ一ヶ月で溜まった疲労と新月の分まで変えた負担で底を突いた。
 捨て猫のような目で見上げる二人の肩に手を置く。

 「というわけだ。頑張れよ二人とも」



 「『なんでこうなんの!!!』」

 新月を飛ばしてそれに私とハリスが乗る。本人がチビのままで蚊が飛ぶよりもとろい。ハリスには重大任務になるが上級でも扱い辛い書いてあった重量を操る魔術を使っているが……

 「初めてでこれはキツイ!!!!」
 「新月くんは重い!!!! クロが重すぎる! ダイエットしろ! その重たい果実を置いて行け!」
 「無理だ」
 「え、わぁあ!」

 気を抜けたハリスが手を止めた瞬間岩が落ちた。

 『あべし!』

 新月に当たった。
 
 『俺もうズタボロなんだけど!』
 「あと三階分だけだ。頑張れ」
 『え---! しょんなーー! この分はあとでクロからもらうからね! 膝枕と一緒にお風呂入る!』
 「「変態か」」

 新月のパワーダウンとハリスの魔力切れで二人が何度か墜落しそうになったがなんとか這い出した。

 『こんなアリス展開認めない! アリスの俺が馬役なんて! クロがハートの女王でハリスくんが白兎じゃん!』
 「知らん」
 「知らないのはいいけどクロス様この後どうするんですか?」

 胴体にひっつく白い毛玉を抱きかかえて街を目指しているとハリスの声で立ち止まる。どうするか。

 「そうだな……とりあえず名前はクロ……クロディルトとでも呼べ。それならまだ反応できる」
 「そうですか。俺は影が薄かったからその場でのみ名前を弄れば大丈夫ぽいですけど目はどうするんですか?」
 「大体は盲目だとして通す」
 「新月さんは?」
 「ハクとでも名乗らせとけ」
 『威張るな! 私のことはハ●様と呼べ!』

 全身が生まれたての小鹿のように震えながらも、ドヤ顔で踏ん反りかえっているアホが後ろで声も出ないくせに威張っていたのは見ていないことにしよう。

 「気に入ってみたいだぞ。まあ後は一日だけどこかで過ごして回復すれば海でも渡って変えるなりするさ」

 それまでは待機だと街に着いてすぐ裏路地に身を潜めると風に乗って話し声が聞こえる。





---ねえ聞いた? 勇者様の教育係をしていた男が勇者様のご友人を見捨てて逃走したんだって。

 えー! いやだ怖い。噂だと外見は置いておくとしても結構変なやつなんだって!

 城の召使いの女の子にまで手を出したとか!

 最低ね! 早く捕まらないかしら? 国王様が公開処刑をするから生きて連れてこれば賞金が出るとか言っているそうだし。

 だといいわね。噂だとそいつ勇者様とは別の世界から来た侵略者だとか聞いたわ!

 うわ、そんな化け物がこの街に?!

 大丈夫だって! いざとなったら俺がお前を守るからよ!

 貴方!


---------
------


 『---は? あの愚王ついにやりやがりましたな。消していい?』
 「やめろ」
 「これはいいと思います。ちょっと表通り見てくるので待ってて下さい」
 「待て、今は不味いぞ」
 「大丈夫です。十秒で戻って着ます」
 「あ、おい」
 『俺も!』「やめろ」

 闘志を燃やして暴れる新月を止めるべく羽交い締めにしているとハリスがいい笑顔でサムズアップポーズをして歩いて行った。確かあいつ既に魔力切れの筈。新月もこれで満身創痍だ。何かあったらを使うしかなくなるぞ。

 ハリスが出歩いている間新月を抱えて大人しく路地裏に佇んでいると人相の悪い人間が三人ほど取り囲んで来た。
 どうやらこんなところで立っているから阿片売りか売春婦だとでも思ったらしい。ズタボロの新月が腹いせに急所を力の限り蹴り上げ不快な音が聞こえたと同時に風のように二人が逃げ出した。
 溜息をつく間も無く内軽傷で済んだ金髪の男が飛びかかって来たので頭部を掴み地中へと沈める。失神しているようだが頭だけは出してやってるんだ感謝しろ。

 「ク、クロディルト!」

 指に絡まった髪の毛を取っているとハリスが無事に帰ってきた。ついでに土産も付属されている。

 「無事……では無いようですね。特にそいつ。まあいいや、とりあえずこの紙見てください! 表通りにびっしりと貼られていた物を破ってきました」

 男のことは一蹴したハリスがそれよりもと私達二人に紙---手配書と書かれたものを差し出す。

 「これ酷い出来ですよ! ク、中央はしっかりと特徴が書いてあるし勇者の友人を殺した大犯罪者だとか書かれているのに俺の説明はただの子供で髪の色も特徴も無し。
 し、白さんは白いミステリアスで儚げな美少女、勇者様の仲間だけど男に誘拐された囚われの姫。
 ツ、後の二人はメイドと女執事の姿の綺麗所、こちらは見つけたら●●公爵の所に連れて行けば賞金と……

 「夜伽をさせてやると」

---そうです。これなら俺らはどうにかできますけどこの扱い酷い、酷すぎる!!!! あいつら人の、命をなんだと思ってるんだ!!! これが同じ人間だなんて思いたくも無い!」
 「言いたいことは分かるが今は我慢してくれ。騒がれると面倒だ。それに罰は下るから安心し---」

 新月同様に血が上ったハリスは魔力が底切れの筈なのに髪を逆立てていた。こういう時は頭を撫でてやれば良かった筈だ。
 新月に習った通りしゃがんで目線を合わせ撫でようと手を伸ばすと両肩を力強く掴まれた。新月は未だに腕の中だ。出来るのは目の前の一人しかいない。

 「出来るわけ無いだろうが!!!!!! 俺は貴方に命を救われた! 
 そりゃ感情なにそれ美味しいの?って人だし、人じゃないし。突拍子も無いことやらかすし言ってることめちゃくちゃな時もある。
 センス無いし、ゲテモノ普通に食べるし、最悪自分がこうすれば---なんて馬鹿やる!! あんた相当なろくでなしだよ。んでもって馬鹿だぁ……」

 騒ぎは呼びなく無いというのはハリスの心の内にもあったのだろう。
 頭を私の肩に埋めて押し殺すように叫び、泣き始めた。どうやら表通りでの噂を直接聞いても反論出来ない自分の立場に苛立ちがあるのだろう。


 
---私の心配をしてくれるのは新月の他にもいたんだったな。悲しむだなんて疲れるだけなのにご苦労なことだ。
 でも同時に私の体が火でもそばに焚かれたような感覚が広がっていく。肩が涙で濡れている筈なのに変だ。でも嫌いではないかもしれないな。

 「悪かったな二人とも。とりあえずここではなくどこか食事の出来る所に行って休もう。ハリスもあまり泣いていると乾涸びるぞ。し、白もだ、怒りに任せても何も解決はしない」

 「『……」』

 離れない二人を一緒に抱きかかえて路地裏を歩き出す。俯いている二人には何も聞こえないよう私の腕に力を込める。
















 バケモノがこの街にいるって!

 反逆者だ!

 見つけて袋叩きにしちまえ!

 快楽殺人者だって!

 気味が悪い……

 バケモノが---


---------------
---------
---


 風に乗って老若男女問わず同じような声が聞こえる。こんな声に私は何も思うところが無いがこいつらには聞かせられないな。
















****
数時間前


 走っている途中で新月が頭の上から文書を投げて来た。

 『ねぇクロあれでいいの?』
 「は? ああ、そこは丁度いい案件があるからなぁ---アフターケアは考えてあるぞ」
 『うわ、なんか考えていそうな顔だZE★でもその顔がたまらないですぅ!』

 気持ち悪いこと言うな。

 『で、どんな考えがあんの?』
 「現代のテレビでも見てみろ。ニースの方をな」

------------
------
---


 続いてのニュースです。
 ●●での集団失踪事件で行方不明だった一条美海さん16歳と田島薫さん16歳が××県◽︎◽︎山の山林で発見されました。
 二人は意識があるようですが、失踪当時の衣類は身に付けておらず何者かに暴行された形跡もあり警察は最近世界各国で頻繁している大規模な誘拐、行方不明事件に巻き込まれたとみています。二人は事件の最中のことを、

 「何も覚えていない。ただ窓も無い暗い場所で他の人と一緒にいた。
 犯人らしき人物は何人かいたが全員顔を隠していて見ていない。言うことに逆らったら暴行されて気がついたら病院にいた」

 と口を揃えており特定は出来ていませんが犯行はグループ又は組織ぐるみでのものだと各国の国と警察は考えいるようです。


 今回見つかった二人の友人の行方不明になっている五十嵐拓也さん16歳、佳奈・シトローヌさん16歳、吹雪沙羅さん17歳の行方は未だ分かっておらず目撃者であると思われる朝比奈洋子さん24歳、笹島伸さん21歳、木戸稔さん18歳も行方が分かっておりません。
 朝比奈洋子さんと笹島伸さん、木戸稔さんは事件当時近くにあったコンビニエンスストアの中にいましたが事件が起きた時の監視カメラは突然が光ったと同時に画面が白くなり何も写していなかったとのことで状況判断は出来なかったとのことです。

 警察は対策本部を他国との対策本部と繋げ国際的なものとすることでアメリカやイギリス、中国など世界中が一致団結してこの事件に取り組むとの意表をしています。
 また、この集団失踪事件について親族の方々は一刻も早く事件解決がされることを望んでいるとのことです。

 次のニュースです。

---------
------
---


 『へー、クロよく考えて得るね。すごい! でもこの大規模事件って何? 物騒過ぎる』
 「今現在進行形で起きてる事件だ。犯人は●●の大規模なマフィア△△だが国の裏と手を組んで動いているらしく派手にやり過ぎだ。ゼウスや世界中の神々も頭を抱えてるようだからこれに押し付けて強制的にでも話を進めてやろうかと思ったんだが」
 『で、後で強引過ぎるって言われるタイプじゃん! 考えてあっても面倒ごとにならないとは限らんぜよ。なんかあったらクロのせいにされるぞ! たとえ事件解決したとしても』
 「それは……ない……はずだ」
 『だとええね。大丈夫、いざとなったら俺が証拠隠滅とさらなる大事件として全世界の空からギャルのおぱんつ振らせてやるから!あ、勿論元素材は世界中の全10代から徴収で』
 「やめろ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...