遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

やっぱり巻き込まれる

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 うーむ~どうしよっか。

「どうしよっか、じゃないですよ。新月さんが他のお客に絡むからお店を追い出されたんだ、反省して下さい」
『ウィッス!』
『ふふふ!』
「アリアス様もです。鳥は店内に入れるなって蹴り飛ばされたし」
『すみません』

 16歳になったばかりの子供に怒られる神様×2って斬新だよね!
 ハリス君また最近成長してさ、ファンタジー乙女ゲームなら『冷めた目つきの宮廷魔法使い』なんてキャラで出て来そうな人になっちゃったんだよ。最近髪も切ってないからマジ乙女ゲーム!

 ーーー話が明後日に飛んでしまった、これぞ新月……君、のなせる技! 話の腰へし折り機! 実はこうなったのには理由がありマウス、

 ①今日も今日とて移動しながらお金稼ぎをした。

 →②そのお金で豪華にディナー! ……とした。

 →③でも俺とクロは離れ離れになってしまった恋人達(笑)

 →④その寂しさからお店にいた人達に絡みまくった。だって店員のお姉さんがいい乳と尻をしてたので思わず……、
 直接触らず「下着何色っすか?」「何カップ?」って聞いた俺は紳士的だと思うのに!

 →⑤店主に見つかり摘み出された。
 酷い!紳士的な対応をしたのにこんな寒空(気温20度前後)に放り出すなんて……! 誰か……マッチを、マッチを買って下さいぃ。でないと松明にファイヤして踊り狂います。

 →⑥そんなこと言ってたら蹴り飛ばされて出てきたアリアスちゃん、毛繕いしてたら|店内 (ここ)でするなと追い出されたんだって。
 ああ、誰か、誰かこの雑な扱いを受けた神様にお恵みを!

 →⑦そしたら呆れた顔でハリス君まで出てきてしまった。
 え、俺のことそんなに心配してくれるの?

「誰かさん達が外でやらかさないように食事も食べずに出て来たんですよ」

 うぎゃぴ!




 なんてことがあり、今日滞在する街で唯一この時間帯で空いてたお店を出禁されてしまったのだ! 
 えー、困ったな~。調理器具なんて持ってきてない、ナイフならあるけど~。

 しゃーない、狩るか。

『仕方ないなー! ハリス君どっかの武器屋の戸を壊して大人の武器をいただいて来て、出来れば長くていい奴がいい!』
「はいはい、武器屋さんで大人が使う本物の刃がついた武器、特に槍辺りを買って来ればいいんですね」
『『凄い、通じるなんて』』
「もう扱いに慣れましたから」

 え、拙者犬でござるか? アォーン!

 大人しくゴザの上に座っているとハリス君が帰って来た。手にはなんか普通の槍、特価価格なんて値札がついた物が。
 手渡されて「これで今はいいでしょ」だってさ! 扱いに泣けてくるね!


 こうなったのは俺の責任だけどさ、って訳でいきなり黄●伝説のマジで始めちゃうよぉ~!
 ハリス君はアリアスちゃんと木の実を取りに行きました。って訳で一人だぜい、扱いランボーだよね。
 町を華麗に疾走してその辺の森へ突撃晩ご飯、お隣が付かないのは俺らのなので。量産型の槍を構えて和牛とか、フォアグラとか、歩いてないかなーと探す。いなかった、
 代わりに目があった鳥に槍を投げつける。

「それっ!」

 運の向上、美味いのが獲れますよーに。と願って槍をぶん投げた。ぐげっ、とか変な声が聞こえたけど地面に落下した槍の穂先には鳥が刺さってた。
 マジか、これ何回かやれば楽勝だべ。
 十回ぐらい同じことを周りの木とか、岩陰に向かってやれば色々取れた、鴨に似た頭に角のある鳥がいたのには思わずVサインするよね。
 肉はロースト、骨はスープ、肝臓はペーストとかを作りたいな。

 そう思ったのでそこら辺の葉っぱを取っておく、暗くてよく分からんけど多分これ月桂樹っぽいし。あとはやワイン、生クリーム……ワインはあるけど生クリームは無い。後でどうにかしよ、
 あとはまあ、捌いて食うか、アリアスちゃんは共食いになるけど~。

 チョンチョン、

『え、誰か肩叩いた?』
『ちげえよ、俺やってねぇし! 悪い冗談はよせ、』

 お化け屋敷お馴染みのやりとりを二人一役の漫才でばクールダーーー

 チョンチョン、

 うん……え、マジ?
 振り返るとでっかい角がカエンダケっぽく伸びてるシカの魔獣がいた。シカ……







 ジビエ!
 覚悟しろぉぉぉおおお!!
 飛びかかって目潰しに砂をお見舞い、そんで頭を踏み台にする。

「Hiiiiーーー」

 ハエが鳴く音のような声が下から聞こえた。
 イメージチゲェ、そんなこと考えて油断してた。案の定角で腹に一髪貰う。
 車に当たった感じ、めっちゃ痛え。駆逐してやる!

 そぉぉりゃぁぁあああ!

 声にならない台詞を吐いてそのまま落下、向こうは待ってましたとばかりに前足上げて踏みつけ準備と角のセット、
 ふははは、馬鹿め! こっちには翼があるのだよ!

 翼よ出てこい、と念じれば場違いにも鮮やかな花々が、花弁を撒き散らして一羽ばたきで落下地点を変える。俺の狙いは全生物の弱点、

『脊髄!』

 向こうが気がついて退散の構えに入るも時すでに遅し、安物の槍を力一杯振れば硬い感触が伝わる。骨だもんね、しゃあない。でもそのまま切るのではなく押し込めば立派な脚力は赤ちゃん帰りとなる。
 止めに喉にブッ刺せばご臨終、鹿も槍も。やっぱ安物だったせいかな、武器としては役割を全うしたよ。

【無限の胃袋】に得た物全部を入れてハリス君達と合流すれば向こうも色々取ったみたい。ハリス君に水属性の魔法でクロが前にやってた通り血抜きをして貰いながら町に戻って宿の人に解体して貰った。
 分け前渡せば森の厄介者だったらしいシカ肉見て震えてた。そうか、そんなに俺の魅力に震えるか!
 道ゆく人々の視線を集めるこの彩色(色もだけどちっちゃさに)! この聡明な(バカ過ぎるから余計に目立つ)頭脳に! この肉体美(元気過ぎてウザい存在に)!

『違うと思います』
「アリアス様、壁に向かってポーズする奴なんてみちゃダメです。馬鹿になりますから」

 ちょっと、少しはツッコんでよ!
 代わりに貰った生クリームなどを使って宿で調理をしましたが心の内は晴れません。
 いや、宿の人の五歳児の太腿触って怒られたことじゃないよ! ただクロがいないからさ、それは二人とも同じみたいだし。

 本当、今何処にいるのかな。なんとなくヴェレンボーン目指して移動してるけど、あの始まりの国へ、
 小説でもこの流れってよくあるから合ってるとは思うよ? でも厄介事に巻き込まれてるか心配。

『ーーーだから俺だって心配してるんだよ』
「めちゃくちゃ食べてる人の台詞と思えませんね」

 ご飯は別腹って言うじゃん!

 ーーーー

 いつまでこいつは私に引っ付いているつもりだ。

 それが主観だ、盲女という設定ではあるがいつまでも五十嵐拓也が手を引く形というのは如何なものか。再会した時にはしっかり歩いていたのを見ていただろうに、

「ーーーって事で俺達は旅をしているんだ。世界の魔獣が凶暴化している原因である魔王と元教師の奴を倒すためにな。特にクロスだけは許さねぇ、弟子とか言いつつ子供と女性二人を連れておきながら……、あいつ声の出ない女の子を侍らせているんだぜ?!
 俺達と同じく異世界から来た殺戮者っても見たし、間違いねぇよ! だから国が魔界と戦っている間に俺は早くクロスを倒して合流しないといけないんだ。今向かっているエドゥンの国王が同盟を手っ取り早く結んでくれたらスムーズになるんだが」

 本人の前で言うことかそれは、分からなくていいが。



 話を聞き流していると今歩いている道の遥か遠く、この距離からは親指サイズに見える、景色を隔てた壁があった。
 城壁か、三人が望む五十嵐拓也とその一行との別れまで一日を切ったな。物事はそう簡単に上手く進まないが、

「ーーーん、魔獣か? なんか山姥みたいな首刈族がこっち来てんだけど! ここにも山姥いるし」
「稔、今なんて言った?」
「ジョージです、ジョーク、許してにゃーん!


 いだたああああああ!」
「何をやっているんだ馬鹿二人が、早く構えろ!」
「(うん、うん)」

 稔は藪を突いて蛇を出した、この状況で。伸が初めて五十嵐拓也に同意、無言で頷いてるのには私も賛同だぞ。
 二人は放って置く、まずはこっちへ突進する魔獣だ。水分を一度に無くしたミイラの如き顔、乞食のように骨張った手足と膨れた腹を持つ魔獣は二足歩行が可能らしい、両手に何処からか奪ったであろう鉈を掴んでいる。
 一行は私が目が見えていないと認識しているからか『私を守る』と言っている。必要は無いのだが、しかし『守る』と言うのであればある程度頼もう。

 無理に目立つようなことをすると今後、強制的に同行をさせられるからな。
 まずは奴らに任せてある程度の数を減らす。

「みんな離れて、『裁きの火を受けよ、【火刑ステーキ】』」
「次は、ワタシ! 闘技、『リングスライサー』!」
「よし、二人ともありがとう! 行くぞアデリーナ」
「はい!」
「「「それっ!」」」

 一行は新月がよく見る漫画の主役級の動きをする、その傍らで巻き込まれは地道に一体づつ倒していた。
 未来の先読みではこの際自分の判別出来る距離に来た魔獣のみ、倒せばよかった。だから同じことをすれば良い、丁度一体近づいて来たのだから。

「『ファイヤーリング』」
「Gaaaaーー」

 中級レベルの魔法を使えば魔獣は焼け溶けた。
 確かこれは自分の半径数メートルに入った障害物を燃やす輪を発動させる技だ。城壁近くで大立ち回りをしなくていい魔法か、悪くない。
 後始末は任せて『使えない人間』だと一行に見せつければ私に一番絡みついていた五十嵐拓也も小言を言い出した。

「(なあ、クロディルトさんって魔法は使えても後は身の回りのことしか出来ないんだな)」
「(だからイッタ、Destinationに着いたらサヨラナヨ!)」
「(そうね、彼女達には別の目的もあるのだし無理に誘うのは無駄よ)」
「(はあ、戦闘力としては申し分は無いのですが……。いえ、無理に私達の都合に当てはめてもいけませんね)」
「「「「(聴こえているんだ(が)(けど)」」」」

 解体をしながら囁き合う四人は聞こえていると思わないらしい。話の上に上がらない三人は何か言い合いをしていた。
 そんなにも認められたかったのだろうか? 早く別れるのだから良いはずなのに。



 ーーーー
 アデリーナside

 全員で話し合った結果パーティ『巻き込まれ』の方々とはお別れすることになってしまいました。
 祖国が、父上が一方的にも見えなくはない戦争をしているため私としては早く国に帰還したかったのですが。
 いえ、仕方ありません。大体彼女達とは王都、グレズンまでとこちらが言ったのです。
 無理に同行して貰うわけにもいきませんから。

 でも、何故が盲女の彼女には何処か気になるような……

「アデリーナ! 早く国王に会いに行こう」
「え、ああはい!」

 王都に入ってすぐ別れた四人の内一人がとても気になっていた。しかし勇者様に声をかけられたので忘れることに致しました。

 ーーーー
 稔side

 なんかアジアっぽい王都のグレズンにつけば、やっと! やーーーーっと自己主張の強い勇者様達と別れられた。
 色々と言いたい事はあるけどもう勝手にやって欲しい、だってどうなろうとそれがこの世界の運命なら俺達が無理して助けるのも、ねぇ?
 俺達には俺達の世界ってものがあるし、勇者だとしても異世界の人間が手を貸すってのも理解出来ない。

 こっちの世界に来るまではそんな事をなんとなーく考えてたんだけどな、実際我が身に降りかかってみるとさ、自分の生まれた世界で生きることこそが俺の身の丈に合ってると言いますか。

「異世界に来たからってさ、新たな自分の得意分野の開発にはなったけど良いことばかりじゃないしな」

 泊まった宿で一人眠れず呟いた。
 考えることや、やるべきこと、辛さも苦さもあったけど“この世界で生きていこう”とか言う主人公のようにはなれないと実感した。

「ほう、よくぞ悟った」
「クロさん?!」

 一人満足しているとベットの前に見慣れた黒い影がいた。安い大部屋でパーティ全員すし詰めの部屋だから聞こえていたのか。

「違う、本来神に睡眠は必要ない」

 さいですか、というかナチュラルに心を読まれとる……。

「よって、いつでも起きていられる。お前達は元の世界に帰りたいと言っていたな、何故そう思うのかを観察するのには丁度いい体質なんだ。人間、眠る前や弱っている時こそ本音を漏らすからな」

 ニィ、っと目だけが細まった。暗闇の中で不思議な色合いの目だけが目立つ。
 神様って性格悪いな! って、一瞬思ったが少し考えてみる。

 感情がクロさんの場合乏しいよな、なら何故俺達はーーー、
 って考えているんじゃないか? 最近じゃ異世界物小説とかいっぱいあるし、『普通ならこの世界に留まるぞ!』って方式が神様側としてはインプットされてるんじゃないだろうか。
 そう考えるとクロさんの目は俺を見て笑っているんじゃなくって、質問してる目なのでは?

「あー、最近じゃあ現代に疲れて自由な世界を求める人間が多いんだよ。元に俺もそうだったし」
「なら何故帰ることを望む」
「うーん、好きなアーティストとかいるし。窮屈だけど住みなれた水がいいんだよ。井の中の蛙って言葉もあるけど、生まれた場所が一番本人にとって良い環境なんじゃないかって思う。ラ●ュタでも土から離れては生きられないって言うし。

 転生じゃないんだから今まで生きてきた証って言うか、努力は捨てて第二の人生! とか現実逃避しても仕方ないと思うんだよ。何となく、
 生きていれば何処でも嫌なことはあるし、

 俺、元の世界そんなに嫌いじゃないしな!」
「そうか、そうか……」

 相手は神様なのだからと嘘を付かずに言い切った、嫌いじゃない、と言ったところでクロさんが目を閉じて言葉を噛みしめるように頷く。
 何処かに感動する言葉が入っていたのか? 俺にはよく分からないけどクロさんにとって悪い回答では無かったようだ。

 安堵すると共に強烈な睡魔が襲って来る、緊張の糸が切れて緩んだせいだ。

「クロ、さん俺もう、眠ぃーーー」
「無理に起きろとは言わない。人の子よ、安心して眠れ」

 もう寝たいと伝えればあっさり許して貰えた。
 目蓋を閉じる瞬間、見えた異色の目は初めて見る優しさを見せた気がした。


 ーーーーー


 稔が眠ったことを確認してから窓から宿の外へと出た。流石に室内で薬を煎じるのはマナー違反だからな。

 裏手にある雑木林に身を潜り込ませると人が座り込める空間が一人分のみ存在した。此処でいいか、アリアスに一言断りを入れてから時間を止める。
 瞬時に風の音、人が集まる場所特有の夜の騒ぎ声がピタリと止んだ。続いて【無限の胃袋】を久々に使い、胃袋の入り口を広げて中に入る。左右を見渡せば必要な材料、今までにかった品物が真っ白な空間で浮遊していた。
 その中から必要な物を掻き集め、つけ足しでレシピがいい加減な物だった時のことも考えて補足の物も用意する。新月が作った留め具もしっかり身につけた、これで準備は出来た。

 さて始めるか、


 鉱石のポタシウムサルフェイトとロードクロサイトを乳鉢で砂になるまですり潰す。が、乳鉢の方が私の力に負けそうだ。胸部にある脂肪も妨害してくるからな。
 仕方ないので原材料のみを力任せに素手で潰した。

 次にネクタリンといわれる山林に生える果実の果汁を作る。絞り器で潰して汁は空間内を漂っていた壺の中へ、残りカスを外へと投げ捨てた。
 出来上がった絞り汁をバラ状石膏、乳香と混ぜておく。加えて鉱石を加えて49日……そんなにこの国に滞在出来るか。
 壺を密閉して壺の時間だけを早めた、こういう時に自分の能力が役に立つ。
 本来、あまりいいものではないのだが……。壺を見ながらかつて、周囲に言われた言葉を脳内で再生させる。


 そのようなことをしても何の意味も無いが、
 手持ち無沙汰も無駄なことと、切り替えて最近採ったばかりの、中身は老夫婦に押し付けた莎莎羅竹を400g丁度に切った。
 切ったーーーはいいが、竹のままでは少量づつ加えることが出来るだろうか。疑問に思ったので粉砕しておく。
 そのうち49日分の時間が経った壺が完成した、これに粉砕した竹を数回に分けて入れる。今度はこれを600日寝かせなければならないのか、気長に待つことにしよう。

 その間にブライダルローズ、植物とは思えない硬さの花弁を圧縮して形成、研磨をして刃物を……これは必要なのか? 用意はするが……。



 第二過程はビスマルクを溶かしたものを残りの鉱石と共に全てすり潰し、四分の一になるまで煮詰めたあと日干しして乾かすーーー、だったか。
 すり潰すことは可能だが残念ながら此処には太陽が無い、残念だが今日は煮詰める過程までで終わろう。
 粉砕した鉱石を丸ごと鉄鍋に流し入れ、生活魔法の火『ファイヤー』で煮詰めていく。一緒に風属性の魔法もかけて換気をしておこう、後で宿の人間に罰金を支払うのも面倒だ。


 二つの魔法を同時に発動させること早、二十時間。煮詰める間は刺激臭と有害物質が出ているのにも関わらず、中々煮詰まらない。
 普通の人間が同じ作業をしていれば間違い無く力尽きているだろうと予想しながら延々かき混ぜた。

 それがこれだ、なんとも筆舌に書き難い色をした物体。これを天日干しか……
 時間を止めるのも止め、釜を持って外へ出る。時間が通常通り流れる世界では止める前と同様、栄える街の象徴とも言える夜の騒ぎ声が聞こえた。
 釜はその辺に隠し、窓から宿へと戻るとベットに横になった。








 次の日の朝、宿の人間に不審物があると言われる事もなく無事に釜を回収、宿の人間に許可を得て天日干しにする。今日一でどうにかなるだろ、駄目なら炎だけがある大陸を横切るんだ、それで大丈夫だろう。
 疑心しかない解毒剤【甘露】の作製法のため幾つか保険をかける、最悪失敗なら私が治せばいいと諦めているからな。あんなデタラメな方法で解毒剤など出来るか。
 ともあれ干している間は手持ち無沙汰だ、を探すという設定がてら外へと出る。同行した洋子と伸が晴れやかな顔で王都を歩く反面、何故か稔だけは重傷を負った人のように歩いていたが。


 ーーーオイ聞いたか? 国の勇者が来てるんだとよ!
 ーーーうちの王様が手を貸すとでも思ってるのかねぇ~……

 異国風情溢れる街並みを歩いていれば噂で召喚者一行が何処に行ったのか手に取るように分かる。
 はっきり言って、何をやってるかはどうでもいい。負け戦同然の戦いに手を貸す奴がいるのか、無意味だ……と言いたい所だがいた。

 この国の王と同格の人間が丁度人身売買をしている、そのアホ、ネットの世界に転がっていた『すぐ殺される奴の条件』に全て当てはまる【クズ】の人間だった。何故そんな条件を知っているのかと言えば、新月が拾ってきて調べ、自爆していたからだ。つまりあいつ並の【クズ】ということである。他力本願という所までそっくりだったしな、本人には何も力がない点まで。
 このことを五十嵐拓也とその一行は最後まで知らない筈だ、どうでもいいが。
 よって、手を貸すのを見た時は『こいつ死ぬな』と悟った。現に未来では魔王の妹に処刑されていた。


 国が違うということで持っていた硬貨が使用不可、という出来事も何度かあったが換金所はあったので何処かの馬鹿の二の舞はしなかった。アリアスから来た手紙の話、あいつら絶対に使用不可の硬貨を使ったに違いない。

 何も買わずに練り歩くのは不自然に見える、そう言った三人は屋台で筒状に巻かれた菓子を食べ始めた。なら私も何か買っておくか、人を探している体を装う。
 勿論情報の収穫は無い、が金が消えたかわりにガラクタは増える。
 金装飾がついた目に痛い程の色を使った壺、壺、壺、たまに龍が刺繍された絨毯、重々しい金属製の装身具多数、土着信仰の像が幾つか、魔除けが数点……
 滞在日数十日程、殆どの有金を使ってまで購入したこれらの品々だったが三人、特に洋子からは悪趣味の烙印を押された。

「これらは悪趣味の領域に入るのか、理解した」
「買い倒れしておいて気が付かないのかよ! いや何というか、一つ一つはいいんだけど……」
「統一感が無い、金銀宝石を付けとけばいいって感じの物。または高そうに見えて本当に高いものを人の見える範囲に飾りまくるのが悪趣味なんだよ。湯婆●か」
「ジブ●か懐かしいな」
「伸さん、話がズレてるーーー」

 私が買い倒れならお前達は食い倒れだろう、一日中食べていた癖に何を言う。
 そう言いたい所だが厄介なことがやはり起きた。天日干しが上手くいかなかったのだ、覚悟はしていたからいいが。

「お前達そんなどうでもいい話は後だ、ヴェレンボーンに行くぞ。用意しろ」
「「「今から(か)?!」」」
「ああ」

 行くぞと言って立ち上がる。が、こいつらは観光地図を片手に「せめてここだけは、」と譲らない。
 帰りたく無いのか? まあ、いい。一日だけは見逃そう、猶予を与えて三人が出かけている間にただ冷えて固まった金属をブライダルローズを加工して形成したナイフで砕く。
 が、内部が未だに硬化していなかった。釜に入れたまま外に置いていたせいだろうか、浅い器に入れるべきだったようだ。プレートを用意するか、
 誰もいないことをいい事に合金の入った釜をひっくり返して平す。さてと、これを火の大陸を通過する際飛行機擬きの外に置いて直射日光で乾かせばいい。

「「「クロさーーーん!!」」」

 おや、帰って来たか。振り返ると三人、足して後ろから追いかけてくる群勢が。
 ……展開知ってはいたがこれはなんの騒ぎだ?
 稔に手を引かれて慌てて合金の入ったプレートを掴んだ。

「おい、これはなんの騒ぎだ」
「洋子のメイクに引いた人間に!」
「洋子さんが突っかかって!」
「そいつらがやばい所の人間で!」
「今終われ中!!」
「あいつらコロス! アタシが何のメイクしようがアタシの勝手だろうが! fu*k!」
「「煽んな!!」」

 伸に引き摺られながらも敵を煽る洋子が新月のように見えた。いや、そんなことはどうでもいい、まずは後ろの人間をどうするかだ。
 合金の入ったプレートを仕舞い、今度は私が三人の手を引く。こちらの方が早い、少し話したところで時を止める。



 あ、アリアスに断りを入れて無かった。後でにしよう。

 飛行機擬きを出して馬鹿三人を乗せ……動かない。前に時を止めた時には新月もしっかり動いたのだが、私の半身である新月や神格級の物しか動かないのか? 今まであまり使ったことが無いせいか初めて知ったぞ。
 動かないのは仕方ない、担ぎ込んで時間を動かす。

「あー! テメェら待ちやがれ!!」

 知るかそんなもの。
 エンジンをかければ追いかけてきた人間は吐き出された熱風で焼き焦げる前に吹き飛ばされる。三人は間抜けな顔をしていたが説明が面倒になってしなかった。
 それにしてもあの追いかけてきた奴ら、これで流れが分かったぞ。彼奴らの告げ口で五十嵐拓也が私とこの三人に疑心を抱く。それによりに響くのか、思ったよりも面倒な事だったらしい。






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