【完結】怪談収集家は探偵じゃありません! 戸羽心里はホンモノに会いたい──《ひもろきサマ》

牛丸 ちよ

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《 盛り塩禁止アパート 》

30 占い屋フィービー【2】

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 部屋を出る前に、占い師のほうを振り返った。私にはもうひとつ目的があってここに来たことを思い出したから。

「あのアパートの女性がここで心霊現象の相談をしてるでしょ。原因はストーカーだと思う」

「……だから?」

「盛り塩……実際は塩じゃないけど……とにかく異物を玄関先に置いたり、ノックして怖がらせてるのは隣の部屋の男なの。だから、お守りの販売じゃなくて、警察に相談するよう……」

 突然、占い師は声を上げて笑い出した。

「あんたホントにバカだね。あんな気の強い女がくだらない盛りパンゴミのことで占いに来ると本気で思ってんだ?」

「えっ」

 プライバシーがあるからか、それ以上は何も話してくれなかった。腹を抱えて笑う彼女は目尻に涙を浮かべ、ただ出口のほうを指差す。

 煮え切らない気持ちのまま店を出て、振り返れば看板がある。
 店名に添えるように、『金運・健康運・仕事運』の文字。それから『結婚運・恋愛成就、ぜひご相談ください』と一際大きく書かれ、輝いていた。

「あはーん……?」

 恋愛成就、ぜひご相談ください。
 あのアパートに住む彼女が数珠を大事そうに撫でるのを見て、心霊現象の悩みを霊能力者に相談する様子を想像していた。
 しかし、もしかして……あの数珠って恋愛成就用? 年頃の女性らしい悩みを打ち明けるためにこの店に通っていたのだろうか。

 なぜ占い師はあんな風に笑ったんだ?
 私が大きく間違えているから?
 何を?

 考えながら駐車場に行き、助手席に乗り込んだ。

「うわあっ、なんですか、この香り!」

 運転席のヨシさんが驚いた顔をしてこっちを見る。

「お店の匂いがついたかも。良い香りでしょ」

「僕向きではないですね……」

 ヨシさんは申し訳なさそうに運転席のスイッチをいじり、車の窓を開け放った。相当苦手だったようだ。魔除けの香りとかなのかもな。

「ねぇ、私どこかで読み違えてるかも」

「なんです?」

 占い師とのやりとりを話すと、ヨシさんは腕を組んで「うーん」とうなった。

「……まさかとは思うんですが、おばあさんが言ってた『南さん』って、男性のことではなくて女性のことだったんじゃないでしょうか?」

「え!? で、でもっ、私は男の部屋をちゃんと指差して……」

「男性の部屋の奥に女性の部屋があるでしょう。どっちとも受け取れる状況だったと思いますよ」

「え……え? じゃあ、おばあさんは女性の話をしてて、私は男性の話をしてたってこと? 会話、終始噛み合ってなかった? おばあさんに盛りパンを頼んだのは女性のほうで、何食わぬ顔で怯えるヒロイン役してて、男性は何も知らずに騎士ごっこしてて、あの二人は両想いなのにバカな茶番をしてて、私はまんまと付き合わされて無駄な心配したってこと!?」

「おつかれさまです」

「解散!!!!!!!!」

 車のエンジンがかかる。解散と叫びはしたが、再びアパートに向かう。
 まだ解決していないことがいくつかある。帰るには早い。

 大家の頼まれごと──塩を置かれない方法を考える──もどうにかしなければならないし、盛り塩が汚染されるほどアパートが邪悪な理由も知りたい。
 盛りパンが女性の自演なら、彼女が戸惑うノックの犯人は誰なのかという謎も残ってしまった。私を溺れさせたクソガキの幽霊や、過去にあったらしい二階の不幸な出来事、そっちと繋がっていたりするのだろうか。

 私は、手の中にある黒くてきらきらした紙面を見た。店の出入り口のサイドテーブルにあったショップカードを一枚拝借したのだ。

 『占い屋フィービー』
 占い師・綾目あやめ 然江子さえこ

 名前の下には店の住所のほかに電話番号とメールアドレスがある。
 カードを二つ折りにしてカバンの中に入れた。
 綾目さんとは、また会うような気がする。
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