【完結】怪談収集家は探偵じゃありません! 戸羽心里はホンモノに会いたい──《ひもろきサマ》

牛丸 ちよ

文字の大きさ
59 / 66
《 集合体の怪異 》

59 儀式の準備

しおりを挟む
「古いはらえの儀式を再現したいなんて、ほんっとにあんたって頭おかしいんだ」

「そんなに褒めても何も出ないよ~」

 占い師・綾目あやめ 然江子さえこは不機嫌と上機嫌の感情の間でなんとも言えない表情をしながらバイクを走らせる。私はその背中にしがみつき、高速移動の恩恵を受けていた。

「あの倍率のチケットが当たってるなんて信じらんない。それがなかったらこんなこと手伝ってないんだからね」

「綾目さんがお店の壁に貼るほど好きなバンドだったなんて、すごい偶然。助っ人が必要なときにこんな交渉材料があったとは運が良かったな~」

 何ヶ月か前、有名バンドのライブチケットの抽選になんとなく応募していた。誘う相手もいないのに、ペアチケットで。
 それが当たった。
 当選メールを見たとき、《私にいま必要なもの》もとい《いまの私に必要な助っ人を召喚するアイテム》だとすぐ理解し、T都に向かった。

 ごがん村で儀式をするにあたって霊能力者は必須。綾目さんは出会うべくして出会った女だ。

 そしてチケットをチラつかせ、店から連れ出すことに成功したわけである。

「生贄タイプの儀式でしょ。あたしやんないよ。あんたにも死なれたら困るんだけど」

「ライブ会場入れなくなっちゃうからね。だいじょーぶ、私の蘇生成功率99.9%と見てるから」

 儀式の成功率を上げるため、ヨシさんは最良の場所に配置したし、の桔梗さんも私たちから遠ざけた。

「はぁ? ……って言いたいとこだけど、そう思えるのがきっしょいのよね。あんたから死相がぜんぜん見えない」

「綾目さんのお墨付きもあるなら、なおさら大丈夫そうだ」

 二人乗りのバイクは見覚えのある山道に突入していく。
 曲がり角で車体が傾くたびドキドキするが、あらかじめ後ろに乗るときのバランスの取り方を教えてもらったからなんとかなっている。太ももでふんばりがちで、明日は筋肉痛だなと思った。
 とはいえ、思っていたよりも快適なバイク旅だ。綾目さんの運転がうまいのかも。

 しばらくすると、おなじみの駐車場が見えてきた。

「バイクなら行けそうだけど、どうする?」

「こんなゴツいバイクに乗ったゴスパンク美女なんて見たら、70年代くらいで止まってる村のじじばばが心臓発作起こして死ぬよ。歩いて行こう」


   ■


 村に着くと、真っ直ぐにくまだ商店へ向かった。事前に電話でやり取りをしていたから、店主の男──熊田さんが迎えてくれる、

 儀式を再現するにあたり、現地の人の協力は欠かせない。途中で邪魔されたら台無しだし、小道具の融通もある。
 
 熊田さんには『歴史的資料を後世に残すため』だとか適当を言った。私は人を騙くらかすことに心は傷まない。そういう担当はヨシさんだもん。

 そもそも、お社の管理人であり元ひもろきサマであるおばあさんからお社の鍵をもらっていることを伝えたら「あの人がそれでいいなら」と誰もがそれ以上を言わなかった。
 先に一回来ておばあさんに根回ししておいて良かった。神事周りのキーパーソンはやはり彼女なのだ。


 お社の前に着く。早速、映像を思い出しながら畳のセッティングをした。
 お囃子も熊田さんが呼んでくれている。当時、実際に儀式で演奏したという太鼓と笛の双子のおじいちゃま。

 預かっていた鍵でお社の扉を開け、古いうしサマの毛皮を借りた。くっっさ。カビとるやんけ。

「成功すると思う?」

「最後は、怨霊側の気持ち次第だね」

 綾目さんは今も半信半疑のようだ。儀式に必要な祝詞のりとも、資料館の難読な手記とビデオのガサガサな音からどうにか推測したものを伝えているのでなおさらだ。
 村の人間にも聞いてはみたが、正確に覚えている人はいそうでいなかった。

 そもそも、綾目さんには『盛り塩アパートの怨霊に憑きまとわれている』『オカルトマニア故に村に伝わる祓えの儀式を試したい』『儀式の手順』くらいしか伝えていない。
 怨霊の詳細や、私が自信満々な理由は知らないのだ。
 説明がめんどくさいんだもん。聞かれたら答えようと思う。

 到着時刻が夕方だったため、準備が終わるころにはすっかり夜だ。
 周囲を照らすための松明たいまつがかけられた。
 ビデオの映像は正午のように見えたが、午前中は都合が合わなくてね。ま、夜のほうが雰囲気あるでしょ。

 相変わらずスマホは圏外。
 いまごろ、ヨシさんは桔梗さんと楽しくやってるだろうか。
 怨霊ガールとの直接対決のほうが面白こわいと判断したが、妖怪男と呪われた女の対談も見てみたかったな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき
ホラー
書籍発売中!よろしくお願いします! 『視えざるもの』が視えることで悩んでいた主人公がその命を断とうとした時、一人の男が声を掛けた。 「いらないならください、命」  やたら綺麗な顔をした男だけれどマイペースで生活力なしのど天然。傍にはいつも甘い同じお菓子。そんな変な男についてたどり着いたのが、心霊調査事務所だった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

処理中です...