追放された俺は逆行転生した〜TS吸血姫は文化を牛耳る〜

石化

文字の大きさ
30 / 49
第1章至る平安

藤原道長2

しおりを挟む
香子を抱いたのちに何食わぬ顔で倫子も抱くという離れ業を成し遂げた道長は、明け方に帰って行った。

香子は、此れ幸いと、小説の続きに取り掛かる。
今まで悩んで詰まっていた青年期の貴公子の描写に彩(いろどり)が加わっていく。

それを読んだ夜は、その見事さに感動を覚えた。
君はもう少し、悔しさを覚えたほうがいいと思う。

表現のあまりの変わりように何かあったのかと思った彼女だが、まあ、そういうこともあるかと、香子を問い詰めることはしなかった。
鈍い。これで本当に最高の小説を書けると思っているのだろうか。
疑問である。

ともかく道長は、倫子の元に通うついでに、香子の元にも顔を出すようになった。もうだいたい青年期の貴公子の性格を掴んでいた香子は迷惑そうだったが、道長は気にしなかった。むしろそこが良かった。
だめだこいつ早く何とかしないと。

さて、香子のところには、暇さえあれば夜が入り浸っている。
香子の小説の続きをねだり、自分でも書いて見ようとしては挫折をするというおきまりのパターンだ。彼女がこの時代に爪痕を残すことはできないかもしれない。悲しい。

毎回のように香子の元を訪れる道長と入り浸る夜。二人が出会うのは、必然だった。

「香子さん。こいつは誰です?」

夜は胡乱な目で道長を見つめた。
完全に不審人物に対する口調だ。

「何やってるのよ、夜!!!」

慌てて香子が頭を下げさせる。

道長の瞳が、興味で輝いた。
おもしれー女二号の発見である。

「へーえ。夜っていうのか。俺と寝ない?」

「は?」

夜はゴミ虫を見るような目をして返事をした。
香子の迷いを湛えたような顔とは比べるべくもない。

彼女には道長に対して恋愛的には一ミリの興味も存在していなかった。

TS状態であるとは言え、流石にやりすぎである。

道長はショックを受けた。

「えっ。夜、何事も経験って言ってなかったっけ?」

「閨事(ねやごと)の経験なんていりません。」

夜の貞操観念は無駄に固かった。
それは男としての最後の一線だったのかもしれない。

その日のうちは、おとなしく引き下がった道長だったが、幾許も無いうちに文が届いた。

「見ずもあらず  見もせぬ人の  恋しくは  あやなく今日や  ながめくらさむ」

平安の夜は、又の名を詩歌バトルの場と言っても過言ではない。
書き渡した和歌に対してどれほど上手く切り替えせるかに、自分の評判と、恋路がかかってくるのだ。
さあ、この、古今集の業平の歌。
「見たとも言えず、見ないとも言えない人が恋しくて、今日はただ、訳もわからないまま物思いをして過ごそうかと思います」

この意味を有する歌に、夜は対抗することができるのだろうか。
古歌の引用は卑怯ではあるが、道長はさほど詩歌が得手ではない。
古歌の引用は一定の教養が必要であり、引用して用いるのは認められていた。

この頃は明かりが貴重品の上に、明るさもさほどではなかったので、相手の顔はぼうっとしか見えない。
そこで決め手になるのが、香りと、髪の長さだ。
髪が長ければ美人であり、短ければ尼である。

当然夜は基準をクリアしている。
ついでに言うと夜は夜目が効くので、普通に顔を基準に答えを出している。
もし、道長が男の娘ばりの美貌だったらわんちゃんくらいはあったかもしれないが、現実は非情であった。いい男ではあるのだが、夜の基準から外れていた。
夜の返歌は、次の通りであった。

「道ならぬ 恋に酔ひては 思ひだに はかにもならぬ しるべなりけり」

 古今集に、道長の吟じた歌の返歌が載っていることを踏まえた返歌のアレンジである。
 道長の思いを道理から外れたと非難していることと、恋に酔うと言う新しい表現を用いているところが目を引くが、概ね問題はない歌だった。

「不道理な恋に酔ってしまっては恋しいと言う思いでさえもあてにならない道しるべであることだ。」

そんな感じの意味である。

もともと道長から仕掛けた詩歌バトルである。
これに対する有効な返しがない場合、道長の負けが決定する。
負けず嫌いである道長は、夜からの返歌の文を手に口をパクパクさせていた。
とてつもなく綺麗な筆跡に、先例を踏まえた返しである。生半可な相手ではなかった。
それでも、このまま引き下がるわけにはいかない。
道長にもプライドがあった。

彼は一日しっかりと考え、その次の引用を考える。
最後まで自分の歌を使おうと思わないあたりが、残念である。

翌晩、道長は、再び倫子の元を訪れた。

夜に歌を詠もうと言うのである。
再び書き出した文を、道長は直接彼女に手渡しした。
それを受け取って、夜は開いた。
詩歌バトル。その最終章である。
勝つか負けるか、この一番で決まる。
果たして、道長の句は。

「あしびきの山鳥(やまどり)の尾のしだり尾の 長々し夜をひとりかも寝む」

であった。
拾遺集の柿本人麻呂の句であり、のちの時代で百人一首の一句としても選ばれている、とても有名な歌である。

意味は長い夜をあなたを思って一人眠っていることであるよ、だ。


だが、有名と言うことは、それだけ使われてきたと言うことである。
これに対する気の利いた返歌をすることは、常人にはかなり難しいと言えるだろう。
だが、夜は常人ではなかった。
紀貫之の元で培った実力は本物である。
齢22歳の青年程度に負けるものではない。

「ぬばたまの 夜を待ちぬる 独り寝の さむざむしきが 答えなりけり」  


夜の返歌はこれであった。

「私を待つと言う、その夜のひとり寝の寒さこそが、私の答えだよ。」

と言う意味である。清々しいまでの拒絶であった。

そして、その返歌の返しは途轍もない速度であった。

普通、もう少し、考える時間が必要のはずだ。
だが、夜はそんな常識を覆した。

あまりのことに絶句した道長。
彼がなんとか二の句を繋げようとする間に邪魔が入った。
朗々と吟じる詩歌の声が、他の女房たちの元に届いたのである。
詩歌は、大声で吟じるのが常識である。

「倫子様がお待ちです。」と言われては、もともと彼女の元に通ってきている体(てい)の道長はこの場所を離れざるを得ない。

残念さと悔しさを残したまま、彼は去っていった。

こうして夜と道長の第一次詩歌バトルは夜に軍配が上がったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...