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第1章至る平安
清少納言
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挨拶をした夜は早速、不思議な出来事について聞き込みを開始した。
興味を惹かれた一人の女房が協力を申し出た。
名を清少納言と言うらしい。
枕草子の作者である清少納言である。
夜はいつものごとく枕草子の記憶を欠落させていた。
お前の転生者としての振る舞いはいつになったら改善するんだ。
もっと歴史を知る者として改変を企んでくれ。
「へえ。夜っていうのかい。」
「助かりました。一人で調べるにも途方に暮れていたところでした。」
「いいよいいよ。定子様に万一のことがあっちゃいけないからね。」
「お好きなんですね?」
「そりゃあそうさ。あの方は理想の姫君だ。」
清少納言は、それを信じきっているようだった。
確かに定子の気品と可愛らしさはとても優れていると一見しただけで見て取れた。これで、中身も完璧ならば惚れ込む人物がいても少しも不思議ではない。
清少納言のおかげで、証言が集まってきた。六年前から女房として仕えていた彼女は、定子の信頼する女房の一人であり、その協力はとても強力な支えとなった。
「みなさんの証言を総合すると、夜中に不気味な声がどこからともなく響いてくるという怪奇現象が発生しているようですね。」
「そうみたいだね。私は書き物をしていたから気づかなかったが、随分怯えていた。早く解決したいところだ。」
「ちょっと待ってください。清少納言さん、何かお書きになるんですか?」
夜は強烈に食いついた。
「あっ、ああ。その通りだけど、いきなりどうした?」
「んんっ。失礼。取り乱しました。よかったら、一度見せていただけませんか。私、文章を読むのがとても好きなんです。」
「教養があるってことだったね、そういや。いいよ。解決したら存分に見せてあげよう。」
「ありがとうございます。やる気が湧いてきました。」
「ふふふ。あんたは面白いな。」
「それほどでもありますよ!」
夜と清少納言はなぜか気が合っていた。
ともに書物を愛する者同士であるということ、そして、何より性格がどことなく似通っていた。夜の猫被りを貫通して、それをどちらも理解していた。
●
数日は何もないまま過ぎた。
もともとその不気味な声が鳴くのは週に一度程度。
わずかな手がかりを頼りに見つけるしかないのである。
早く読みたいとせっつく夜をなだめる清少納言。これほどまでに求められると彼女の方も悪い気はしていなかった。
人間関係は基本的に誉め殺しをしておけば間違い無いのである。
少しでも嘘が混じっていれば良い顔はされないかもしれないが、少なくとも夜が清少納言の書いたものを読みたくて仕方がないのは事実なので、気分を害するはずもない。
ほだされてきた清少納言は、一段だけでもと、見せることにした。
清少納言の随筆、枕草子の第一段はとても有名である。
春はあけぼのようよう白くなりゆく山ぎは少しあかりて紫だちたる雲の細くたなびきたる。
から始まり、夏は夜。秋は夕暮れ。冬はつとめて、と。各季節の良い時間帯とそれに対する雑感を述べた名文である。
思っていたのの何倍も良い文章が読めた夜はビビった。
香子だけで、才能で勝てないという思いはお腹いっぱいなのに、清少納言の文章もそれに近いものを感じてしまった。
惜しむらくは、小説を書いてはいないことだろうか。
あくまで枕草子は日記的な記録であり、自ら自由に創造できる小説とは雲泥の差がある。
この言い回しを書ける人間が小説を書き始めたら、どんな素晴らしい作品が書けるようになるのだろうか。彼女は残念に思った。
思うだけでは飽き足らず、物語を書いてみませんかという風に勧誘までした。
いつもの布教である。
清少納言は笑って首を振った。
これを書くので精一杯だと明け透けに語る。
そんなことはないだろうとなおも食い下がる夜だったが、最後には納得した。
枕草子は、そちらへ才能を振り分け続けなければ生まれ得なかった傑作だ。
その作者の書き様に注文をつける権利なんてない。
それでもどうにか書いてくれないかなあと思って彼女を見つめていた夜の視線に根負けした清少納言は、こっそり枕草子の中で創作を織り交ぜた部分を教えることにした。
思っていたより多くて、これはもう小説では?と思う夜だった。
彼女の判定基準はかなりガバガバである。
興味を惹かれた一人の女房が協力を申し出た。
名を清少納言と言うらしい。
枕草子の作者である清少納言である。
夜はいつものごとく枕草子の記憶を欠落させていた。
お前の転生者としての振る舞いはいつになったら改善するんだ。
もっと歴史を知る者として改変を企んでくれ。
「へえ。夜っていうのかい。」
「助かりました。一人で調べるにも途方に暮れていたところでした。」
「いいよいいよ。定子様に万一のことがあっちゃいけないからね。」
「お好きなんですね?」
「そりゃあそうさ。あの方は理想の姫君だ。」
清少納言は、それを信じきっているようだった。
確かに定子の気品と可愛らしさはとても優れていると一見しただけで見て取れた。これで、中身も完璧ならば惚れ込む人物がいても少しも不思議ではない。
清少納言のおかげで、証言が集まってきた。六年前から女房として仕えていた彼女は、定子の信頼する女房の一人であり、その協力はとても強力な支えとなった。
「みなさんの証言を総合すると、夜中に不気味な声がどこからともなく響いてくるという怪奇現象が発生しているようですね。」
「そうみたいだね。私は書き物をしていたから気づかなかったが、随分怯えていた。早く解決したいところだ。」
「ちょっと待ってください。清少納言さん、何かお書きになるんですか?」
夜は強烈に食いついた。
「あっ、ああ。その通りだけど、いきなりどうした?」
「んんっ。失礼。取り乱しました。よかったら、一度見せていただけませんか。私、文章を読むのがとても好きなんです。」
「教養があるってことだったね、そういや。いいよ。解決したら存分に見せてあげよう。」
「ありがとうございます。やる気が湧いてきました。」
「ふふふ。あんたは面白いな。」
「それほどでもありますよ!」
夜と清少納言はなぜか気が合っていた。
ともに書物を愛する者同士であるということ、そして、何より性格がどことなく似通っていた。夜の猫被りを貫通して、それをどちらも理解していた。
●
数日は何もないまま過ぎた。
もともとその不気味な声が鳴くのは週に一度程度。
わずかな手がかりを頼りに見つけるしかないのである。
早く読みたいとせっつく夜をなだめる清少納言。これほどまでに求められると彼女の方も悪い気はしていなかった。
人間関係は基本的に誉め殺しをしておけば間違い無いのである。
少しでも嘘が混じっていれば良い顔はされないかもしれないが、少なくとも夜が清少納言の書いたものを読みたくて仕方がないのは事実なので、気分を害するはずもない。
ほだされてきた清少納言は、一段だけでもと、見せることにした。
清少納言の随筆、枕草子の第一段はとても有名である。
春はあけぼのようよう白くなりゆく山ぎは少しあかりて紫だちたる雲の細くたなびきたる。
から始まり、夏は夜。秋は夕暮れ。冬はつとめて、と。各季節の良い時間帯とそれに対する雑感を述べた名文である。
思っていたのの何倍も良い文章が読めた夜はビビった。
香子だけで、才能で勝てないという思いはお腹いっぱいなのに、清少納言の文章もそれに近いものを感じてしまった。
惜しむらくは、小説を書いてはいないことだろうか。
あくまで枕草子は日記的な記録であり、自ら自由に創造できる小説とは雲泥の差がある。
この言い回しを書ける人間が小説を書き始めたら、どんな素晴らしい作品が書けるようになるのだろうか。彼女は残念に思った。
思うだけでは飽き足らず、物語を書いてみませんかという風に勧誘までした。
いつもの布教である。
清少納言は笑って首を振った。
これを書くので精一杯だと明け透けに語る。
そんなことはないだろうとなおも食い下がる夜だったが、最後には納得した。
枕草子は、そちらへ才能を振り分け続けなければ生まれ得なかった傑作だ。
その作者の書き様に注文をつける権利なんてない。
それでもどうにか書いてくれないかなあと思って彼女を見つめていた夜の視線に根負けした清少納言は、こっそり枕草子の中で創作を織り交ぜた部分を教えることにした。
思っていたより多くて、これはもう小説では?と思う夜だった。
彼女の判定基準はかなりガバガバである。
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