失墜の数者 -ロストナンバー-

猫狐

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巨大三国

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シュネーが行くのが心配なのか、ラーナがしきりに励ましの言葉と元気づけの言葉を送っている。それを傍目で見ていると、ミュルが俺に問いかけてくる。

「あの、ここから行く場所って帝国領に近いんですか?」
「うん?……あー、確かに近いかも。属州……帝都ではないにしても、村とかはあったはず」

ミュルは南国育ちであまり知らない……いや、詳しい事を知らないだけだろう。
帝国、と言っている辺り名前は知っていそうだが一応問いかけ返す。

「ミュル、巨大三国とその特徴って分かるか?」

「はい!まず、数者を抱えて魔物と戦争の防衛力に長ける『ティタスタ王国』。
次にココから近いかもって言われて、多くの属州を持ち、魔法と道具の合体研究が盛んって噂の『サートゥン帝国』。
最後が、多くの人が飛び抜けた魔力を持って選ばれた人が神に従って国の方針を決める、『グレイシス神国』。
この三つが巨大三国とその特徴だと教わっています」

パチパチと拍手をしながら頷く。

「その通り、流石によく学んでいるね。
今から向かうのはそのウチの一つ、サートゥン帝国の属州に当たる部分……の近くにある可能性がある。というか、あの辺から国境線があやふやなんだ。だから数者が出張る事もあれば、逆に帝国の兵士が来ることもある」

そこまで言って、ようやく伝わったらしい。
ティタスタ王国は確かに東西南北に広い国土を抱えているが、その中には小国も含まれている。大きな方針はティタスタの王が決めるものの、小さな方針は小国に任せることが多い。
対して西に位置しているサートゥン帝国は属州まで方針が皇帝により決まっている。
しかし、属州を収める兵はそうではない。そこに呪いを受けたミディアの帝国兵の意見の干渉があった場合、何か行動があるかもしれない。
かなり高い位で無いとそんな意見は蹴っ飛ばされるのが目に見えているが、魔法と道具の合体……魔法具と呼ばれる物が一番発展している国だ。呪術だろうが使えるものは使おうとする可能性は高い。

「つまりロイヤリー、お前さんが懸念しているのは帝国兵との遭遇、及び戦闘……って事だろう?」

アルトさんが声をかけてくる。まさにその通りだ。
ミディアを撃退したとして、帝国の命令でミディアを保護しろと言われていたらバチバチの戦闘をせざるを得ない。戦争の種を撒いてしまう事になる。それがミディアが今、そこに陣取っている理由かもしれない。

「大丈夫よぉ!アタシやアルトの姐さんがその時は何とかするわぁ!」

ダグザさんがあっけらかんというがその何とかするは下手したらもっと状況が悪化する可能性が高いのでやめて頂きたい。
ふと、そこでシュネーを一通り愛でたのかラーナがこちらに向かってくる。

「その時はその時だよ、ロイヤリー。『一般冒険者』であるお前が気にする必要はない。……だから、遠慮なく叩き潰してきな」

何時にもなく真剣な声で言われて、頷く。
そうだ、俺は今冒険者だからこそ叩き潰しに行くのだ。立場など関係無くなったから、断ち切りに行くのだ。
あとの事は、国に任せればいい。

「……分かれば、早めに向かわれよ。時はスンなり。今この一時を失うだけで多くの犠牲が出るやもしれぬ」

「……ああ、そうだ。そうだな!よし、シュネー、スルト殿、キュウ殿、出発の準備を」

そう言うとシュネーが真っ先にグリフォンの姿になる。残りの二人は膝を着いたまま言葉を出す。

「恐れ多くも、我らが主に殿を付けられるなど、身に余る幸せではありますが羽がムズムズします。
我らは貴方様の配下。貴方様の手。貴方様の剣。貴方様の翼。どうか、殿はやめて、名前で呼んでくださいませ」
「私もそう思います。私達の意志を尊重してくれる、良き主様。シュネーを保護し、その対応から貴方様の温かみを感じます。だからこそ私たちは貴方様に仕える事を決意したのです。殿などはやめて、名前だけでお呼びください」

そう懇願されれば、頷くしかない。こくりと縦に首を振ると、再度言う。

「分かった。……スルト、キュウ。俺たちの剣、そして翼を持って俺たちを助けよ。俺たちと共に、勝利を齎せ!」

「「仰せのままに。主様」」

大きな、純白の翼が四つ広がる。そして、その翼を見て思う。
本来グリフォンは山奥で狩りをし、平原にはほぼ現れない。しかし平原に暮らし、人化するグリフォン。その実力は確かだった。
だがその翼は大きく、少数と言えど強力な力を持つのが目で見えた。
シュネーの上に比較的軽いミュルとヤコが乗ると、キュウの上にアルトとダグザが騎乗する。

(……ビクともしない。流石は強き翼だ)

内心でそう評価しながら、スルトの上に俺が素早く乗って号令を発する。

「我々はこれからミディアの殲滅に向かう!他の者は即座にティタスタに帰還せよ!」

その声に応じて、グリフォン達が一斉に鳴く。
雄叫びを上げるようにして、それぞれが飛び立った。

その時、ふと後ろからミュルの零れた声が聴こえた。

「……そういえば、ロイヤリーさんって何で国境線なんて知っているんだろう?やっぱり冒険者……だからかな……?私も勉強しなきゃ……」

その声は、風に流されて聞かなかったことにした。
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