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今、目覚めのとき
しおりを挟む――――んぅ、……もう朝ぁ?昨日徹夜しちゃったからヤバいかも……。
てか背中痛っ!寒っ!
起きたくねぇ……このまま二度寝……ってん?
口に入った砂の感触に違和感を覚え目を覚ます。
「……はぁ!?」
目を開けるとそこには、神々しさまでもを感じさせる森が果てしなく広がっていた。
あたり見渡す限りの木、木、木!
まるで富士の樹海ですか?って感じの森の中。
歓迎するは小鳥の甲高い囀りと、少し湿った落ち葉の香り。
「いやいやいや、どこ、ここ!」
いや私自殺願望なんてありませんから!こんな薄気味悪いとこに連れてこないで下さい!
思わず目を見開く。
…………いやまじで何なんだよ。
理解が追いつかない、背中もめっちゃ痛いし。
背中を擦りながらとりあえず立ち上がった。
足元に違和感を覚え見ると、もふもふの熊さんスリッパが足を包んでいることに気づく。
因みに私のものではない。気を利かせるとこ違うだろ。
ほら、例えば……寝かせるんだったら、もっと優しい風吹くお花畑にするとか…………。
寝ぼけ頭で暫時の思考を巡らせた後、ある考えにたどり着く。
…………はっ!?この熊さんスリッパってあれだ、ご都合主義的な。
もしやこれって流行りのイセカイテンセイってやつじゃないのか!?
「じゃあここから私の成り上がりライフが始まるのか!」
クラスの陰キャが隅で読んでたのを一度奪ったことがある。
たしかその本には書いてあった。転生したら取り敢えず冒険者ギルドへと向かえと。
そうとなればまずは探索するしかないなっ!
となれば目指す道は唯一つ、太陽の登る方へと!
よーしっ!行くぜ異世界!
――と意気込んではみたものの……。
はぁ……お腹空いたぁ……。
森がこんなに歩きづらいなんて知らなかったなぁー……。
やっぱりスリッパは采配ミスだ。早く責任者を呼べ。
グゥーっと、腹の虫がうるさく喚く。そういえば昨日は徹夜で何も食べていなかった。
パンの腹持ちの悪さをこれほど恨んだ人間はいるのだろうか。
それでも容赦なく空腹感は襲い掛かる。
もうダメだぁ……、お終いだぁ……。
ていうか普通に考えてこの状況は異世界だとかなんだではなく、拉致&遺棄だろ。
そうやってぼんやりしてると、さっきまで輝いて見えた緑の葉っぱや可愛らしい鳥の声も、どこか恐ろしいものに聞こえて仕方がない。
絶望に打ちひしがれながら。力なくへたり込むと、肩にポトリと何かが落ちてきた。
振り向くとそれは丸々としたみかんだった。
思わず感嘆の溜息を洩らし、掴み取ったそれを眺める。
……なんでみかん?
あたりを見回してもそれらしい木は見当たらない。
てかみかんの木がどんなのか知らない。皮を剥いてみても、たしかにみかんだ。
でも大きく立派なそれはとても美味しそうで、私はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「い、いただきま~す」
「それ、食べちゃだめだよ」
そんな声が背後からしたことに気付いて振り返ったが、すでにみかんは半分近く私の口の中だった。
急に視界が朦朧とし、意識が薄れる。
思わずその場に座り込むと、口先から段々と痺れが広がっていくのがわかった。
あぁ、これあかんやつや。ぱぱ、まま。今までありがとう。先に行くね。
流れ行く走馬灯の中で、微笑む二人の男女がこちらに手を振っていた。
それが身に覚えのない顔だったことに気付いて凝視する。
晴れ渡る青空、麦わら帽子、互いに手に握っているのは真っ赤な唐辛子。
……唐辛子?
「……ぐぁっ、ふぐぁっ、げほっ、げほっ!からっ!!」
口の中のものが反射的に吐き出された。
離れかけていた意識は二人の唐辛子農家によって半ば強制的に引きずり戻される。
その薄れゆく顔をひたすらに記憶する。
両親以外に心の底から感謝すべき人間が二人増えた。ありがとう。
「あははっ、大丈夫?だから言ったのに」
先程背後から聞こえた声の主であろう少女が、はにかみながらこちらへ近づいてきた。
その容姿は緑髪に緑眼、漫画で見るような冒険者風の服装となんともファンタジー。
明らかに日本人ではない。
「それ食べる人初めて見たよ。ポロンっていうの。その身、催涙剤にも使われてる」
そう言い彼女は私に水の入った革袋を差し出してくる。
恐る恐る受け取り口に含んだそれは、とても冷たかった。
「お猿さんのいたずらに引っかかったね。ほら、見てあそこ」
彼女の指差す方向には確かに猿がいた。口を大きく開けてドン引きした表情を浮かべている。
食べれないと知ってて投げつけやがったんだな。そんなに私がおかしいか。
なんだかんだ目が覚めてから2,3時間は経っていた。
自分でも気づいていなかった緊張と不安から開放され、視界の端に涙が滲む。
これは唐辛子が辛かったから流れた涙だ。決して怖かった訳ではない。
「……あの……すいません。ここはどこですか?」
「君もしかして迷子?森を抜けた先に私の住む村があるから、そこまで一緒に行ってあげよっか?」
そう言って私の手を握り、立ち上がらせた。
「君、名前は?」
「前川、律です。えっと、貴女は……?」
「私はカスレア、気軽にカスって呼んでね!」
「に、カス……レアさん?」
「もう、遠慮しなくてもいいのに!」
珍しい区切り方とするものだから少し困惑してしまった。あまり悪口を気にしないタイプなのだろうか。
歳は私とあまり変わらないように見えるが、かなり整った顔立ちだ。
何より特徴的なのが髪と眼の色だった。髪は金色で眼は綺麗なエメラルドグリーン、まるで海外映画のヒロインみたいだ。
スタイルも良いし本当に童話の世界に迷い込んだような気分になってくる。
彼女は私の手を引きながらずんずんと森の中を進んでいった。
「どうしてこんな森の奥まで来ちゃったの?」
「えーっと、気付いたら森で倒れてたみたいで……。そしたら熊さんスリッパが」
「クマさんスリッパ?面白いねその靴!歩きにくそう!」
そう思うのなら少しペースを下げてくれ。私はもう体力の限界だ。
彼女は道なき道を、まるで動く歩道にでも乗っているのかというペースで進んでゆく。
「あの、カスレアさんって日本の方なんですか?」
「ニホン?どこそこ。私は育ちも生まれもウニャよ」
ウニャがどこだか知らないが、どうやらここが日本ではないことだけは確かだ。
であればやはり異世界転移?そうでないとカスレアが日本語ペラペラなのにも説明がつかない。
だいたいこういうのは自動翻訳機能みたいなのが裏で頑張ってくれてるからね。日本語は難しいのに大した技術だ。
急に変なこと聞いちゃってすいませんと頭を下げると、彼女は私の手を離し、少し思案した様子で何かぶつぶつ言いながら辺りを彷徨き始めた。
「あの、どうしました?」
そう聞くと彼女は屈託のない笑顔を顔に貼り付けたまま言い放った。
「うーん、迷子!!」
日は既に空をポロン色に染め上げていた。
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☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
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