異世界少女はちょっぴりハードモード〜チートだらけの異世界を、銃と魔法と木刀殴打で暴れまわる〜

ぐら

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ウニャ野菜は美味しい。

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「……て。起きて!おーい?」

 何者かに頬をつねられる感覚で目覚めた。目を開き少し遠い位置にあった太陽を見る。
 薄眼のまま辺りを見回すが、そこにあるのはただただ蒼い空間だけだ。そして耳に入るのは木の葉の掠れる音のみ。
 頬をつねっているのはカスレアだった。呑気に果実を頬張っている。昨晩取ってきたものだろうか。
 見下ろすような形で食べているから、彼女が噛むたびに跳ねた果汁が顔にかかる。汚い。

「ん……おはよう」
「…………」
 
 目があっていて挨拶もしたというのに、彼女は尚も頬を摘み続けてくる。
 少し痛いので強めにその手を振り払った。

「痛いじゃん!」
「んん、ごめんなさい?」

 寝起きだからか未だに脳みその回転が鈍い気がする。そういえば昨日、野宿したんだっけ……。
 瞼を擦りながら大きく伸びをすると、彼女は先程つねっていた場所を再度つまむ。

「ちょ、起きてんでしょうが」
「あら、寝顔の間抜けさが変わってなかったからつい」

 しばくぞ。
 
 昨日と同様、カスレアに連れられて森を散策する。
 見たことのない生物もちらほら見かけた。
 角が二本あるカブト虫とか、角が三本あるクワガタ虫とか。
 きっとコーカサスオオカブトがいれば四本角なのだろう。おかしな世界だ。
 しばらくすると開けた場所に出た。地面は人間が踏み固めたような形跡もあり、ちゃんと道だ。
 ただ、太陽は頭上に存在し、建物の影はひとつたりとも見当たらない。
 カスレアはこの道を知っていると言っていたが一晩の付き合いで彼女への信頼はゼロだ。
 一抹の不安を抱えながらも、彼女についていく他の選択肢はなかった。

「着いたわよ!」

 彼女が足を止めた場所は、延々と広がる平原の真ん中だった。

「えと、何も無いんだけど......」
「あぁそっか。あなたは村の人じゃないから結界の中が分からないのね。......ほら、私の手を握って」

 彼女がそう言って差し伸べた手に自分の手を重ねる。少し温かい。
カスレアはその手を包み込むようにして私の手を包み、人差し指と薬指で輪っかを作った。そのまま何が起きるでもなく、ただただ二人で手を握るだけの時間が流れた。

「え、これいつまでするの?」
「もうちょっと我慢しなさい」

直感的に手をすっと引こうとした。何をされるか分かったもんじゃない。
ただそれは万力のような力で握られていて、ピクリとも動かなかった。

「ちょっ、痛いって!」
「んんぅー......」

何かをするために力を込めているのは分かるのだが、長い。
カスレアの顔も耳まで真っ赤に染まってしまっていて、今にも爆発しそうだ。

「もっ、もう無理……!」

ただその言葉をきっかけに身体の方が限界を迎え、私は彼女の手の中から自分の手をするりと抜き取った。

「はぁ……はぁ……。出来たわよ」

彼女は息切れしながら答える。
赤くなった手から視線を上げると、そこには村が広がっていた。

「凄い!どういう原理?」
「分からないわ。気合いよ」

マジで気合いだったっぽいのが何処か恐ろしい。

「お、カスレアが虫以外を連れて帰ってくるのはいつぶりかな」

笑いながら私のことを見る初老ほどの男性。

「もうサモエドおじさん!みんなの前ではカスって呼んでって言ってるじゃん!」
「馬鹿にカスって言ってもどうにもならないじゃないか」

あぁ、良かった。この世界でもカスはちゃんと悪口なんだ。
するとオカシイのはカスレアだけなのかも知れない。そちらの方が私にとっても助かる。というかそうであってくれないと困る。

「ようこそ、オイラはサモエドって言うんだ。よろしくな」

サモエドはそう言いながら手を差し伸べてきた。掌は暖かくて、でもゴツゴツしている。

辺りを見回すと、家っぽいものが多数確認できる。私達がいるのはどうやら門のようだ。結界プラス門とは、セキュリティは厳重らしい。

門をくぐり抜けると、目の前に広がるのは田園だった。東北の片田舎を想起させる侘しい雰囲気。家が大きな訳でもなく、質素で趣のある建物がポツポツと建っていた。

「お嬢ちゃんは、どこから来たのかな」

サモエドさんは私に向かってそう聞いた。

「えと......日本、って言ってもわかりませんよね?」
「ニホン!?ソレはまた随分と遠いところから。ようこそウニャへ。歓迎するよ」
「日本を知ってるんですか!?」

 そう言うと初老の男性は微笑んだ。

 「勿論、いいところさ私も何度か行ったことがあるよ。特にあの巨大なナマズは見事だね。流石カフェラテの聖地としか言うしか無いよ。思い出深いのは、あのクラゲ料理で......」

 いや、多分別の国だそれ。私知らない。
 でも勘違いしてくれるならそれでいいや。そっちのほうが都合が良さそうだし。
 
 暫く喋った後、サモエドは村の中に一つある大きな家に招いてくれた。
 そこで歓迎会を開いてくれるらしい。私は村の人達に挨拶をしながらその男性について行った。

「おじゃましま……す」

中は洋風な雰囲気だった。玄関を登ったところに木で作られた靴棚があり、それを過ぎた先の壁には大きな暖炉があった。木の温もりに満ちた落ち着く部屋だ。
テーブル上には美味しそうな食事が並んでいた。
魚の乗った黒パンと大きなハム、ウニャ野菜のスープとおおきな盃に入れられたお酒(?)だろうか。というかウニャ野菜ってなんだよ。私も少しずつ染まってきているのかも知れない。
色々な人間が席についている。本当に私の歓迎会なのだろうか。こんなに人が集まると思っていなくて緊張する。
そんな妄想をしながら席につくと、先程の男性が鍋を一皿持ってきた。湯気が上っているのか見ているだけで暑くて体温が上がるような気がする。男性が席に着くのを見届けると、隣の壮年の男性が私の方を見た。

「ところでお嬢ちゃん、君はお酒が飲めるかい?」

男性はそう尋ねてきた。この人たちと同じ空気で自分だけジュースを頼むのも気が引けるので首肯した。お酒は飲んだこと無いのだけれども.....
小さな盃に酒が注がれる。断れずそれを一気に飲み干すと強いアルコールの味と芳醇な香りが広がる。ただ飲んでしばらくするとその香りはかき消され、水で割ったような柑橘系の香りがそれを上書きした。案外美味しい。

「料理もどうぞ」

白磁のような皿に炒めた野菜と魚の切り身が載せられている。それを一口食べてみた。するとクリームシチューのような風味が一瞬舌を覆い、素材本来の旨味が襲ってくる。添えられたパンを齧ると、乳のテイストの主張は穏やかになり、小麦の香りだけが残った。
美味しいのにどこか物足りなさを感じる。だから次へ次へとまた手が伸びてしまう。そんな不思議な味だ。

みんな礼儀もいいし、優しい。カスレアは異端児だったのだ、あの子のことは忘れよう。
肝心のカスレアと言えばテーブルの隅で黙々と食事していた。モキュモキュと擬音が聞こえてきそうな豪快な食べ方。遠目にもまつ毛が揺れているのが分かる。黙っていれば美人とはこのことか。
食事は終わり、私は村の人達に改めて紹介された。

「私、律って言います」
「リツちゃんか!いい名前だね!」
「よろしくなりっちゃん!」
「はい、よろしくお願いします」

私は村の人たちとの挨拶もほどほどにして、その日はお開きとなった。
サモエドさんは、私に今日泊まる寝床を紹介してくれるらしい。何故かカスレアも着いてきたのだが。
星空の下、先程の屋敷から少し離れた丘を登る。頬が火照っていて、少し気分も悪い。これはお酒のせいなのだろうか。

「なんだかノスタルジィを感じるわね」
「……うん、そうだね」

彼女の妄言にも慣れてきた。適当に受け流す。

「着いたよ。自由に使ってどうぞ」

サモエドさんが紳士的に指す方には、私が思っていたよりも数倍大きい、長屋のような形をした家があった。
私はカスレアの方を向いて、かしこまる。

「短い間だったけど、ありがとう。またいつか会えるといいね」

 彼女と別れたらもう少しこの世界について調べてみよう。何が何だかさっぱりだ。
 私の言葉を聞いた彼女は、私の目を見た。そして少し寂しそうな顔をするのだ。

「そうね、同じ部屋じゃないのは残念だわ」
「ん?」

私がサモエドさんの方を見ると、彼は笑っていた。

「あぁ、リツの部屋は、彼女の住んでいる部屋の隣にしといたよ。随分と仲が良いそうだからね。女の子水入らずで楽しむといいよ」

視線をカスレアに戻すと、彼女は満面の笑みだった。
喉元まででかかった溜息を、強い力でぐっと飲み込んだ。
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