魔眼のギフト

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第六話 戦利品

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 こわいこわいこわい。

 全体的に意味不明だけど何よりも原産地が怖すぎる。
 原産地イルミナちゃんってもはや完全にホラーじゃないか。

 言葉の印象が悪すぎる。
 原産地ラッシュスライムよりも遥かに深い闇を感じる。

 ……いや、思わず思考停止したくなるがちゃんと考えよう。
 えーと、

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名称:【天啓】のスキルオーブ
状態:修復中
ランク:S
詳細:イチゴ味。イルミナちゃんと連絡できるスキルがゲットできるんだって。壊れても治るらしいよ。すごいねー。
原産地:イルミナちゃん
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 ……詳細の文章が妙に砕けているモノなのはこれを書いたのがイルミナの知り合いの神様だからとか、そういう感じの理由だろう。
 たぶん。

 【天啓】は僕が考えていた通りイルミナとの連絡用スキルみたいだ。
 詳細を見れば修復中という状態も理解できる。
 少し前なら喜ばしい事実だったんだけど……。

 イチゴ味。
 喰えと?

 原産地イルミナちゃんを?

 ………………。

 僕は【天啓】のスキルオ―ブをそっとアイテムボックスに戻した。

 今は修復中らしいからね。 
 うん、直ったら考えよう。
 直ったら。




 
 とりあえず【天啓】のスキルオ―ブのことは忘れよう。

 ……あとはアレも見とかなきゃいけないよな。
 なんかあまり見たくない気もするが放置するわけにもいかない。
 自分の靄に向かって【鑑定眼Ⅱ】を発動する。

――【鑑定眼Ⅱ】――

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名称:魔力
状態:正常
ランク:――
詳細:ナルミ・ユウの魔力。属性なし。
原産地:ナルミ・ユウ
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 意外とわかることはないな……。
 僕の魔力には属性がなくて、どこかに属性ありの魔力も存在することくらいか。
 たまに灰色以外の靄を見たことがあるけど、あれのことだろうか。

 ……原産地は予想通りでした。

 さて、次にやることは……。
 あ、昨日の戦利品を回収しなきゃ!

 急いでラッシュスライム達と戦った木へと駆け寄る。
 石の周囲は見事に石だらけだ。
 持ち上げるのがつらいような大きな石だけアイテムボックスに回収し、後の石は適当に除けながらラッシュスライムのドロップアイテムを探していく。

 それを見つけたのは十個目の魔石を回収し終えたときだった。

「袋?」

 向こう側が透けて見えるほど薄い、灰色の袋が落ちていた。
 なんだこれ?

――【鑑定眼Ⅱ】――

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名称:手袋型スライム  
状態:正常
ランク:F
詳細:ラッシュスライムの力が宿った手袋。溶解耐性。レアドロップ。
原産地:ラッシュスライム
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 名称を見た瞬間、反射的に袋を投げ捨てた。
 袋はひらひらと風に揺られながら地面へと落ちる。
 動き出す様子はない……。

 ……これって普通の装備アイテムなのかな。
 どう見ても生きてるようには見えないし、ついでに靄も見えない。
 詳細と原産地から見てもラッシュスライムのドロップアイテムであることは間違いない。

 恐る恐る袋を拾い、十秒ほど考えた末に嵌めてみる。

「手袋って書いてるけど指の部分はないし。……スライム用なのかなってうわあああああああ!?」

 身に付けた手袋が突然グニャグニャと蠢気始めた。

「あわわわ!? きもいきもいきもい!? なんだこれ!?」

 動揺する僕に関係なく袋は動き続け、やがて止まった。
 しかも、いつの間にか僕の手にぴったりの手袋に変化している

「……あ。そうか、アイテムボックスと同じ仕様なのか」

 初めて腕輪型のアイテムボックスを装着した時のことを思い出した。
 はー、マジで喰われるかと思った……。
 何だか今日は心臓に悪いことが多いなぁ。





 途中でトラブルがあったものの、無事にドロップアイテムの回収が終了した。
 今回の戦利品は魔石が二十二個、手袋型スライムが十個だ。
 これを見る限り、レアドロップは大体三割くらいかな?
 モンスターによっても変わるんだけど。 

 手袋型スライムを両手に一つずつ装備し、残りはアイテムボックスに収納した。
 しかし、溶解耐性ってどのくらい効果があるモノなんだろうか?

 ……よし、昨日の洞穴に行って試そう。
 この森広そうだから拠点は確保しときたいしね。

 洞穴までの道もちゃんとわかるから問題ない。 
 ラッシュスライム達がとってきた跡が残っているからだ。
 いや、むしろ何も残ってないからわかるというべきか。

 昨夜、ラッシュスライム達が通った後の地面は、落ち葉や草が消えて土がむき出しになっている。
 どうやらラッシュスライム達が全部溶かしてしまったらしい。
 お陰で迷う心配がないのは助かるが、昨日戦ったばかりの身としては少しぞっとするモノがある。
 しかも今から残党狩りに行くわけだし。

 あ、でも猛毒キノコはちゃんと避けてる、回収しとこ……。
 これが残っているということは溶かしたモノはやっぱり吸収してるのかな?
 まあ、溶かされた跡はあっても溶けたモノ自体は残ってないからたぶんそういうことだと思うけど。

 ではでは出発しますか。





 洞穴への道のりをてくてくと歩く。
 朝から森を歩くのって何だか健康的な感じがしていいよね。
 落ち葉とかがなくて歩きやすいし。

 そのまましばらくは何事もなく歩き続けた。
 変化があったのはそろそろ洞穴に着くかという頃のことだった。

 木々の合間に灰色の靄が見えた気がしたのだ。
 たぶん、ラッシュスライムじゃない。
 小さかったが人型のように見えた。
 靄が見えた辺りを確認すると緑色の小さな人間が立っている。

 長くとがった耳、ぎょろっとした大きな目、デカイ鷲鼻。
 腰にはぼろ布を纏い、手には長い棒のようなものを持っている。
 緑の体色も相まってまるでゴブリンみたいな人だ。

――【鑑定眼Ⅱ】――

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:ゴブリンランサー
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 ゴブリンでした。
 一応現地人の可能性も考えたけどやっぱりゴブリンでした。

 ランサーってことはあいつが持っているのは槍か。
 よく見ると先端が尖っている。

 というかなんで名前しか表示されないんだ?

 と、ゴブリンがこちらに気付いた。
 そして、槍を構えながらこちらに向かってくる。

 やっぱりそうなるか。
 槍相手に無手で戦うのは不利どころの騒ぎじゃない。
 近づかれる前に決めないと本気でまずい。 

――【魔弾】――

 魔力の弾丸がゴブリンランサーの頭を撃ち抜く。
 ラッシュスライムのように穴があいたりはしないが、ダメージはしっかり通っているようだ。

――【魔弾】――
――【魔弾】――

 ふらつくゴブリンに向かってさらに二発の【魔弾】をぶつける。
 計三発の【魔弾】を喰らったゴブリンランサーが力尽きたように倒れる。

 そして、倒れたゴブリンランサーは靄となって消えていく。
 不思議なことに身に着けていたぼろ布と槍も一緒にだ。

 あ、待って。
 槍は消えないで。
 ようやく武器がゲットできると思ったのに!

 当然そんな僕の想いは届かず、槍はゴブリンとともに消え去っていった。

 ああ……、僕の武器が……。
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