1 / 3
俺、通学、避けたかないのです。
しおりを挟む
製紙工場の鉄の森を潜る朱色の鉄道車両。小さな電車には当然蒸気機関車のような大層な設備はなく、代わりに工場の煙突から真っ白な煙が立ち昇る。富士山のお膝元、岳南電車は今日も広大な裾野の極小さな区間を市民を乗せて走っている。
朝、スーツ姿のサラリーマンがスマホで新聞を読んでいる傍ら、座席に座って外をぼうっと眺める1人の男子高校生。源太坂高校に通う和田裕哉は車窓を流れる風景のフィルムを無心で見つめる。2年生になった裕哉にしてみれば、最早全てを絵に描けるほど見てきた景色だが、これがなかなか飽きない。日によって若干の違いがあって、それを見つけていくのが楽しいのだ。
本吉原駅を降りると、幾人の乗降客の中に1人の女子生徒を見つける。周りに他の学生がいないことを確認すると、裕哉はその女子生徒のもとへまっすぐ向かっていく。足音はあまり立てず、かといって忍足とも言えないような静かな歩行法で歩き、手が届きそうな距離まで近づいた。
「お……」
出しかけた声は喉奥で止まり、彼女の肩に置こうと挙げた手は通学鞄の位置を直すのに再利用された。裕哉は何事もなかった風を装い、若干下を向きながら彼女の横を足早に素通りした。
裕哉と彼女は1年生の時からのクラスメイトである。裕哉は委員会や学校行事を通して彼女との仲を深めてきた。いつしかそれはいじらしい恋愛感情へと変貌を遂げ、1日に使う脳の大半を彼女が占めるまでになった。
だのに、恋愛感情を自覚してからというもの、裕哉は彼女に素直な自分を見せることができない。好きだとバレるのが怖い、周りに好きが認識されるのが恥ずかしい、そんな感情が裕也の行動を制限する。
自分の感情とは反対の行動をとってしまう。避けたかないのに避けてしまう。ああ、恋しい人よ、せめておはようと言えたなら!
裕哉は悔しさに手を握り締め、駐輪場まで駆け出した。
◇
「おはよーっす」
教室のドアを開け、友人たちと挨拶を交わしながら窓側の自席に座る。質の良い日差しを浴びながら、朝練をする野球部の元気の良い声を耳から摂取する。よし、今日も最高の朝ごはんが済んだ。
リュックから筆箱を取り出して今日の支度をしていると、間も無くして前方のドアから1人の女子生徒が入室する。彼女は潤井羽月。1年の時からのクラスメイトで仲もそこそこ良い、そこそこ良いのだが……なんとなく距離があるし、俺も距離をとってしまう。変に意識してしまうのだ。理由は分かりきっている。俺は彼女のことが好きなのだ。好きだからこそ周りと彼女自身の目が気になって普通に接することができない。いわゆる「好き避け」というやつだ。でっかい問題あな厄介。
ドアを閉めた彼女と目が合う。まずい、無意識に見てしまっていた。流れるように目線を黒板へ移し、黒板を見る際の目線の経由としてたまたま目が合った風を装う。これが俺の常套手段。あのまま目を合わせて微笑むような甲斐性があれば良かったのだろうが、悲しいことにそんなものは持ち合わせていない。
しかしまあ、朝、駅で挨拶せずに素通りしてしまったのは流石に態度が悪かったと思う。挨拶なんてクラスメイトなら普通にするものなのだから意識するだけ変というものだ。さっきの失態を取り返してやろう。
羽月は俺の斜め前の席だ。前方から向かってくる彼女の気配を、スマホをいじりながら視界の端で常に感じている。見てはいけない、それは露骨だから。
羽月は席に着くと前後左右のクラスメイトに挨拶を交わす。この流れで俺も挨拶をしよう!目線が合い、彼女が会釈した瞬間、すかさず声を発した。
「……うっす」
目を下に逸らしながら、ボソッとつぶやく。お前はどこぞのBボーイか。もはや挨拶しないよりもタチが悪い。なんでこうも素直になれないんだ。自分の女々しさが嫌になる。
羽月はそんな俺を一瞥し、なんとも言えぬ無表情で席に着く。もう声すら発さなかった。これ嫌われてるのではなかろうか。居た堪れなくなった俺は机に項垂れた。
羽月も羽月だ。羽月の方から挨拶してくれれば俺だってこんな態度はしなくて済むと思う。もはや男が率先してやるとかそういう時代ではないのだ。羽月がそういう態度を取るならこっちだって同じような態度を取らざるを得ない。傷つくのは怖いから、俺だけ素直な感情を出すなんて嫌だ。
なんて、そんなこと思っているからダメなのだろうな。ああ、お天道様!俺の心の天邪鬼をどうか追放してください!
あと、贅沢は言わないので相手の心を読む能力とかあったらください。
朝、スーツ姿のサラリーマンがスマホで新聞を読んでいる傍ら、座席に座って外をぼうっと眺める1人の男子高校生。源太坂高校に通う和田裕哉は車窓を流れる風景のフィルムを無心で見つめる。2年生になった裕哉にしてみれば、最早全てを絵に描けるほど見てきた景色だが、これがなかなか飽きない。日によって若干の違いがあって、それを見つけていくのが楽しいのだ。
本吉原駅を降りると、幾人の乗降客の中に1人の女子生徒を見つける。周りに他の学生がいないことを確認すると、裕哉はその女子生徒のもとへまっすぐ向かっていく。足音はあまり立てず、かといって忍足とも言えないような静かな歩行法で歩き、手が届きそうな距離まで近づいた。
「お……」
出しかけた声は喉奥で止まり、彼女の肩に置こうと挙げた手は通学鞄の位置を直すのに再利用された。裕哉は何事もなかった風を装い、若干下を向きながら彼女の横を足早に素通りした。
裕哉と彼女は1年生の時からのクラスメイトである。裕哉は委員会や学校行事を通して彼女との仲を深めてきた。いつしかそれはいじらしい恋愛感情へと変貌を遂げ、1日に使う脳の大半を彼女が占めるまでになった。
だのに、恋愛感情を自覚してからというもの、裕哉は彼女に素直な自分を見せることができない。好きだとバレるのが怖い、周りに好きが認識されるのが恥ずかしい、そんな感情が裕也の行動を制限する。
自分の感情とは反対の行動をとってしまう。避けたかないのに避けてしまう。ああ、恋しい人よ、せめておはようと言えたなら!
裕哉は悔しさに手を握り締め、駐輪場まで駆け出した。
◇
「おはよーっす」
教室のドアを開け、友人たちと挨拶を交わしながら窓側の自席に座る。質の良い日差しを浴びながら、朝練をする野球部の元気の良い声を耳から摂取する。よし、今日も最高の朝ごはんが済んだ。
リュックから筆箱を取り出して今日の支度をしていると、間も無くして前方のドアから1人の女子生徒が入室する。彼女は潤井羽月。1年の時からのクラスメイトで仲もそこそこ良い、そこそこ良いのだが……なんとなく距離があるし、俺も距離をとってしまう。変に意識してしまうのだ。理由は分かりきっている。俺は彼女のことが好きなのだ。好きだからこそ周りと彼女自身の目が気になって普通に接することができない。いわゆる「好き避け」というやつだ。でっかい問題あな厄介。
ドアを閉めた彼女と目が合う。まずい、無意識に見てしまっていた。流れるように目線を黒板へ移し、黒板を見る際の目線の経由としてたまたま目が合った風を装う。これが俺の常套手段。あのまま目を合わせて微笑むような甲斐性があれば良かったのだろうが、悲しいことにそんなものは持ち合わせていない。
しかしまあ、朝、駅で挨拶せずに素通りしてしまったのは流石に態度が悪かったと思う。挨拶なんてクラスメイトなら普通にするものなのだから意識するだけ変というものだ。さっきの失態を取り返してやろう。
羽月は俺の斜め前の席だ。前方から向かってくる彼女の気配を、スマホをいじりながら視界の端で常に感じている。見てはいけない、それは露骨だから。
羽月は席に着くと前後左右のクラスメイトに挨拶を交わす。この流れで俺も挨拶をしよう!目線が合い、彼女が会釈した瞬間、すかさず声を発した。
「……うっす」
目を下に逸らしながら、ボソッとつぶやく。お前はどこぞのBボーイか。もはや挨拶しないよりもタチが悪い。なんでこうも素直になれないんだ。自分の女々しさが嫌になる。
羽月はそんな俺を一瞥し、なんとも言えぬ無表情で席に着く。もう声すら発さなかった。これ嫌われてるのではなかろうか。居た堪れなくなった俺は机に項垂れた。
羽月も羽月だ。羽月の方から挨拶してくれれば俺だってこんな態度はしなくて済むと思う。もはや男が率先してやるとかそういう時代ではないのだ。羽月がそういう態度を取るならこっちだって同じような態度を取らざるを得ない。傷つくのは怖いから、俺だけ素直な感情を出すなんて嫌だ。
なんて、そんなこと思っているからダメなのだろうな。ああ、お天道様!俺の心の天邪鬼をどうか追放してください!
あと、贅沢は言わないので相手の心を読む能力とかあったらください。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました
ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。
意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。
しかし返ってきたのは――
「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。
完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。
その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる