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第2章 俺以外の転生者
第5話 ラーメンの材料はちょっと刺激的
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空腹を満たすため俺は商業街まで足を運んだ。
あまりたくさん食べてしまうと夕ご飯に響きそうだし、適当に屋台のジャンクフードでも食べようかと見て回るが。
「ベルチェンリザードの丸焼き! 丸焼きはいらないかい!?」
「ムラシュの羽の素揚げは絶品だよ! おひとついかが?」
「ハニーブンブンのはちみつ漬けだよ! こいつは美味い! 間違いない!」
屋台に出回っているのは得体の知れない料理ばかり。
リザードっていうくらいならトカゲか何かだろうし、ハニーブンブンっていうのは多分蜂だ。
ムラシュってのがどんな生き物かは分からないけど、あの羽の形を見るに……コウモリだ。
コウモリの羽って、食べるところある訳?
「ろ、ろくなのがない……。慣れないものを食べるわけにはいかないよな」
今までシチューとか食べた事のあるものに限定して食べてきたけど、異世界らしいものも出てきたな。
まあ、もといた世界でも作ろうと思えば作れたんだろうけどね……。
「……!? こ、この臭い!!」
とある屋台を通りかかった途端、屋台から漂ってくる嗅ぎ慣れた異臭に思わずその屋台の方へ目を向けた。
「こんな臭ぇ飯を食えるか!! ふざけるな!!」
「ああっ!! お客さん!!」
席に座っていた男性が怒鳴り声をあげて立ち上がる。
そのまま器をひっくり返して、険しい顔をしたままその場を立ち去った。
ひっくり返った器の中身は地面にばら撒かれ、無残な菅名になっている。
こ、この独特の匂い……嘘だろ。
い、いや……確かに、向こうにいた頃の料理はたくさんあったけど、まさかあんなものまで。
俺は空腹に負けて誘われるようにその屋台へと向かう。
暖簾をくぐると、その臭いは一層に強く、鼻を突くような異臭を感じた。
「いらっしゃい……一杯800エメルだよ」
酷く項垂れた屋台の店主は掠れた声でそう呟く。
ポロシャツにズボン、頭にタオルを巻き、青髭が特徴的な男性。
その人生に疲れたような目は色々と苦労してきたことを物語っていた。
「えっと……これって、この料理って」
「ん? ああ……臭いって言いたいんだろ。食べないなら他所へ行った行った」
男性は心底嫌そうな表情を浮かべて手で軽く払いのける動作をする。
俺は意を決して、言葉を放ってみた。
「これって……とんこつラーメンですよね?」
「……!?」
俺の言葉を聞いた途端、男性は目を見開いて俺を凝視する。
その後、段々と顔が歪んでいき、じわじわと目に涙が溢れ始めた。
「う、嘘でしょ!? まさか、ここでも向こうの世界の人に会えるなんて!!」
「え!? あなたも日本人!?」
男性の思わぬ言葉に俺も声を大にしてしまう。
まさか、こんな状況で向こうの世界の人に出会うなんて……。
「と、とにかく……ラーメン、食ってくれ!」
男は機嫌を取りもどぢたのか、意気揚々とラーメン作りに取り掛かる。
カウンター奥の厨房は、割と向こうの屋台と作りは同じようだ。
「異世界でラーメンが食べられるなんて……何だか妙な気分ですね」
「そうだろ? 俺も最初の頃はびっくりでさ……やっぱり異世界じゃ受けいられないみたいだなぁ」
悲しい表情を見せる男性。
そういえば、この人も日本から来たような感じだけど……俺と同じ、転移できたんだろうか?
「あの……あなたはどうやってこの世界に?」
「ん? あー、俺さ、向こうでもラーメン屋経営してたんだけどさ、出前の配達中に事故に遭って死んじまったんだよ。そしたら何か驚いた事に、気付いたら見知らぬ土地にいたんだよ。まさかそこが異世界なんて思いもしなかったけど……しかも訳が分からない事に変な武装しててさ。子供の頃やってた『ケモノクエスト』ってゲームのアイテムを思い出しちゃったよ……」
男性の話を聞くに、俺と同じ境遇というやつだろうか。
向こうの記憶を引き継げるのも俺とたいして変わりないってところだろう。
「何だか興奮しちゃってさ、腰に差さってた剣を握って振り回してみたら剣から変な光の筋みたいなものが飛び出してな、その光が降り注いだ箇所が思いっきり消し飛んじまったんだよ。もう俺、恐ろしくなって小便ちびっちゃってさ、剣も武装も全部引き剥がしてその場に捨ててしまったんだ」
う……うわぁ、あれか、チートってやつなのか。
「それから色々と街を転々とするうちに、ラーメン作りが恋しくなって、訳の分からない世界だけどラーメンってメニューが無いみたいだし、これは一躍有名になるチャンスじゃないか!? って思ってラーメン作りを始めたんだ」
チート能力を全部投げうってラーメン作りに精を出すなんて……俺だったら間違いなくその武装で無双している。絶対。だってこんな境遇嫌だもん。まあ、どれほど危険かにもよるけど。
「ただ、そこからが問題なんだよ。ラーメンを作る知識とかはあったんだが、肝心の材料……これが不足してんだよ。小麦はあるから辛うじて麺は作れたんだけどさ、とんこつスープを作るための豚骨とかが無いんだよ。この世界、豚がいないからな」
「そうなんですか!?」
「ああ。豚がいないっていうよりは豚と同じような生き物の見分けがつかないから手あたり次第研究してみたんだ。それでようやく行き着いたのがこのラーメンさ」
そういって男性は出来上がったラーメンを僕の前に置いた。
見た目は普通の豚骨ラーメンのようだ。具材はチャーシューと卵のみのようでちょっと物足りなさを感じるが……異世界だから仕方がない。
匂いはとんこつラーメン独特の強烈な異臭がするが、これがとんこつラーメンの良いところだ。
僕は意を決して、割り箸を手に持ち、麺を啜ってみる。
麺に絡むスープも一緒に口へ入ってきた。
「どうだい? 向こうから来た人ならこの味が分かると思うんだが」
麺の触感は異世界の材料でも表現できているようだ。
コシがあって美味しい。ただ、このスープ……何だろう。とんこつスープ……に似た味はかろうじてするけど、何だか妙なクセがある。いや、めちゃくちゃ美味しいんだけどね。チャーシューも柔らかくて美味しいし……。
「これ……一体何の出汁を取っているんですか?」
異世界なのにここまでとんこつラーメンの味を再現出来るなんて。何の出汁をとっているのか凄く気になる。
「あー、それはな……オークだよ」
「…………ゔっ!? おぐっ!!」
男性がにこやかに告げた途端、俺の思考は一瞬停止した。
オ、オーク? オークってあの、オーク!? え……じゃあまさか、このスープはオークの骨で出汁を取ってるって事!?
その結論に至った途端、凄まじい吐き気に襲われる。
だが、それを必死にこらえて込み上げてきたものを飲み込んだ。
「オークが一番豚に似てるから、これならイケるんじゃないかって、他の冒険者が討伐したオークの骨だけ貰い受けてスープを作ってみたんだよ。これが絶品だったんだ、びっくりしたよ。まあ、この世界の人達はこの味を受け入れられないみたいなんだ」
そりゃそうだよ!?
オークだよ? オーク!!
いくら姿が豚に似てるって言っても……ビジュアルを想像したら食欲失せるって!
ただでさえ、とんこつラーメンは臭みが強いのに。
「はぁ……画期的なアイデアだと思ったんだけどなぁ。世知辛い世の中だよ」
俺はラーメンをスープまで飲み干して、全部平らげると、麻袋から800エメル分の硬貨を取り出して男性へ渡した。
「まいどあり。この街に来てようやくちゃんと食べてくれる人に出会えたよ」
男性はそう言って心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
できれば、出汁の材料は聞かない方が幸せだったかもしれない……美味しかったけど。
「おい! こっちだ! 見つけたぞ!」
「……うっ! 報告通りの酷い臭いだな。まるで死人の匂いだ」
屋台の外で何やら不穏な声が聞こえた。
カチャカチャと金属の擦れるような音が響いている。衛兵でも走り回っているようだ。
「ヤバい!! ご、ごめんな! 俺、そろそろ行かなきゃ」
そう言って男性は慌ただしく店を片付け始める。
スープの入った鍋に蓋をして零れないように金具で固定すると、男性は屋台の側面に取り付けてあった取っ手を持ち上げる。
「また機会があれば食べに来てくれよ。サービスしとくからさ」
男性はそう言って無邪気に微笑むと、手押し車の要領で車一台分に等しい屋台を押して走り去っていった。
いやいや……十分チートな腕力と脚力してるよ。
「なっ!? 何なんだあいつは!!」
「筋力増強の魔法でも掛けてたのか!?」
男性を捕まえ損ねた衛兵たちの驚きの声がする。
ラーメン屋の店主にも負けてる俺って一体……。
あまりたくさん食べてしまうと夕ご飯に響きそうだし、適当に屋台のジャンクフードでも食べようかと見て回るが。
「ベルチェンリザードの丸焼き! 丸焼きはいらないかい!?」
「ムラシュの羽の素揚げは絶品だよ! おひとついかが?」
「ハニーブンブンのはちみつ漬けだよ! こいつは美味い! 間違いない!」
屋台に出回っているのは得体の知れない料理ばかり。
リザードっていうくらいならトカゲか何かだろうし、ハニーブンブンっていうのは多分蜂だ。
ムラシュってのがどんな生き物かは分からないけど、あの羽の形を見るに……コウモリだ。
コウモリの羽って、食べるところある訳?
「ろ、ろくなのがない……。慣れないものを食べるわけにはいかないよな」
今までシチューとか食べた事のあるものに限定して食べてきたけど、異世界らしいものも出てきたな。
まあ、もといた世界でも作ろうと思えば作れたんだろうけどね……。
「……!? こ、この臭い!!」
とある屋台を通りかかった途端、屋台から漂ってくる嗅ぎ慣れた異臭に思わずその屋台の方へ目を向けた。
「こんな臭ぇ飯を食えるか!! ふざけるな!!」
「ああっ!! お客さん!!」
席に座っていた男性が怒鳴り声をあげて立ち上がる。
そのまま器をひっくり返して、険しい顔をしたままその場を立ち去った。
ひっくり返った器の中身は地面にばら撒かれ、無残な菅名になっている。
こ、この独特の匂い……嘘だろ。
い、いや……確かに、向こうにいた頃の料理はたくさんあったけど、まさかあんなものまで。
俺は空腹に負けて誘われるようにその屋台へと向かう。
暖簾をくぐると、その臭いは一層に強く、鼻を突くような異臭を感じた。
「いらっしゃい……一杯800エメルだよ」
酷く項垂れた屋台の店主は掠れた声でそう呟く。
ポロシャツにズボン、頭にタオルを巻き、青髭が特徴的な男性。
その人生に疲れたような目は色々と苦労してきたことを物語っていた。
「えっと……これって、この料理って」
「ん? ああ……臭いって言いたいんだろ。食べないなら他所へ行った行った」
男性は心底嫌そうな表情を浮かべて手で軽く払いのける動作をする。
俺は意を決して、言葉を放ってみた。
「これって……とんこつラーメンですよね?」
「……!?」
俺の言葉を聞いた途端、男性は目を見開いて俺を凝視する。
その後、段々と顔が歪んでいき、じわじわと目に涙が溢れ始めた。
「う、嘘でしょ!? まさか、ここでも向こうの世界の人に会えるなんて!!」
「え!? あなたも日本人!?」
男性の思わぬ言葉に俺も声を大にしてしまう。
まさか、こんな状況で向こうの世界の人に出会うなんて……。
「と、とにかく……ラーメン、食ってくれ!」
男は機嫌を取りもどぢたのか、意気揚々とラーメン作りに取り掛かる。
カウンター奥の厨房は、割と向こうの屋台と作りは同じようだ。
「異世界でラーメンが食べられるなんて……何だか妙な気分ですね」
「そうだろ? 俺も最初の頃はびっくりでさ……やっぱり異世界じゃ受けいられないみたいだなぁ」
悲しい表情を見せる男性。
そういえば、この人も日本から来たような感じだけど……俺と同じ、転移できたんだろうか?
「あの……あなたはどうやってこの世界に?」
「ん? あー、俺さ、向こうでもラーメン屋経営してたんだけどさ、出前の配達中に事故に遭って死んじまったんだよ。そしたら何か驚いた事に、気付いたら見知らぬ土地にいたんだよ。まさかそこが異世界なんて思いもしなかったけど……しかも訳が分からない事に変な武装しててさ。子供の頃やってた『ケモノクエスト』ってゲームのアイテムを思い出しちゃったよ……」
男性の話を聞くに、俺と同じ境遇というやつだろうか。
向こうの記憶を引き継げるのも俺とたいして変わりないってところだろう。
「何だか興奮しちゃってさ、腰に差さってた剣を握って振り回してみたら剣から変な光の筋みたいなものが飛び出してな、その光が降り注いだ箇所が思いっきり消し飛んじまったんだよ。もう俺、恐ろしくなって小便ちびっちゃってさ、剣も武装も全部引き剥がしてその場に捨ててしまったんだ」
う……うわぁ、あれか、チートってやつなのか。
「それから色々と街を転々とするうちに、ラーメン作りが恋しくなって、訳の分からない世界だけどラーメンってメニューが無いみたいだし、これは一躍有名になるチャンスじゃないか!? って思ってラーメン作りを始めたんだ」
チート能力を全部投げうってラーメン作りに精を出すなんて……俺だったら間違いなくその武装で無双している。絶対。だってこんな境遇嫌だもん。まあ、どれほど危険かにもよるけど。
「ただ、そこからが問題なんだよ。ラーメンを作る知識とかはあったんだが、肝心の材料……これが不足してんだよ。小麦はあるから辛うじて麺は作れたんだけどさ、とんこつスープを作るための豚骨とかが無いんだよ。この世界、豚がいないからな」
「そうなんですか!?」
「ああ。豚がいないっていうよりは豚と同じような生き物の見分けがつかないから手あたり次第研究してみたんだ。それでようやく行き着いたのがこのラーメンさ」
そういって男性は出来上がったラーメンを僕の前に置いた。
見た目は普通の豚骨ラーメンのようだ。具材はチャーシューと卵のみのようでちょっと物足りなさを感じるが……異世界だから仕方がない。
匂いはとんこつラーメン独特の強烈な異臭がするが、これがとんこつラーメンの良いところだ。
僕は意を決して、割り箸を手に持ち、麺を啜ってみる。
麺に絡むスープも一緒に口へ入ってきた。
「どうだい? 向こうから来た人ならこの味が分かると思うんだが」
麺の触感は異世界の材料でも表現できているようだ。
コシがあって美味しい。ただ、このスープ……何だろう。とんこつスープ……に似た味はかろうじてするけど、何だか妙なクセがある。いや、めちゃくちゃ美味しいんだけどね。チャーシューも柔らかくて美味しいし……。
「これ……一体何の出汁を取っているんですか?」
異世界なのにここまでとんこつラーメンの味を再現出来るなんて。何の出汁をとっているのか凄く気になる。
「あー、それはな……オークだよ」
「…………ゔっ!? おぐっ!!」
男性がにこやかに告げた途端、俺の思考は一瞬停止した。
オ、オーク? オークってあの、オーク!? え……じゃあまさか、このスープはオークの骨で出汁を取ってるって事!?
その結論に至った途端、凄まじい吐き気に襲われる。
だが、それを必死にこらえて込み上げてきたものを飲み込んだ。
「オークが一番豚に似てるから、これならイケるんじゃないかって、他の冒険者が討伐したオークの骨だけ貰い受けてスープを作ってみたんだよ。これが絶品だったんだ、びっくりしたよ。まあ、この世界の人達はこの味を受け入れられないみたいなんだ」
そりゃそうだよ!?
オークだよ? オーク!!
いくら姿が豚に似てるって言っても……ビジュアルを想像したら食欲失せるって!
ただでさえ、とんこつラーメンは臭みが強いのに。
「はぁ……画期的なアイデアだと思ったんだけどなぁ。世知辛い世の中だよ」
俺はラーメンをスープまで飲み干して、全部平らげると、麻袋から800エメル分の硬貨を取り出して男性へ渡した。
「まいどあり。この街に来てようやくちゃんと食べてくれる人に出会えたよ」
男性はそう言って心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
できれば、出汁の材料は聞かない方が幸せだったかもしれない……美味しかったけど。
「おい! こっちだ! 見つけたぞ!」
「……うっ! 報告通りの酷い臭いだな。まるで死人の匂いだ」
屋台の外で何やら不穏な声が聞こえた。
カチャカチャと金属の擦れるような音が響いている。衛兵でも走り回っているようだ。
「ヤバい!! ご、ごめんな! 俺、そろそろ行かなきゃ」
そう言って男性は慌ただしく店を片付け始める。
スープの入った鍋に蓋をして零れないように金具で固定すると、男性は屋台の側面に取り付けてあった取っ手を持ち上げる。
「また機会があれば食べに来てくれよ。サービスしとくからさ」
男性はそう言って無邪気に微笑むと、手押し車の要領で車一台分に等しい屋台を押して走り去っていった。
いやいや……十分チートな腕力と脚力してるよ。
「なっ!? 何なんだあいつは!!」
「筋力増強の魔法でも掛けてたのか!?」
男性を捕まえ損ねた衛兵たちの驚きの声がする。
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