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第2章 俺以外の転生者
第24話 完璧な魔法なんてない
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「シロちゃん……アタシ、何か嫌な予感がしてならないわ。昨日死んだ人がニルちゃんって子の知り合いで、その人が確かに殺されているのを発見した。その場に居合わせていた彼女はシロちゃんやコルトちゃん、街のみんなを犯人だと思い込んでいたって事も聞いているわ。そして翌日、いつの間にかシロちゃんが失踪していて、同時にニルちゃんが魔族である疑いか掛けられている。ねえ、シロちゃん……」
むっくんはそこまで言って、急に口を閉ざした。
言おうとしている事は何となく分かる。多分……俺が付いた嘘にも薄々気付いているはずだし。
ここまでむっくんの中で整理がついているのなら嘘を吐いたままじゃ失礼だよな。
「すみません……本当は言わない方が良いと思ったんですけどね。少なくともコルトには、この話はしたくなかったんです」
あの場で『ニルに殺された』なんて話したら、コルトは絶対に制裁を与えたに違いない。
俺がこうして生きていたのは、悪魔の力のおかげ。吸収した魔物がいなかったら俺は本当にニルに殺されていた訳だし。
「いいえ、責めている訳じゃないの。それに、コルトちゃんは気付いていたわよ。シロちゃんが嘘を吐いているって事」
「……まあ、さすがに苦しい嘘を吐いたとは思いましたよ。バレて当然ですよね」
他にそれらしい嘘を思いつかなくて付いた嘘だったけど、やっぱりバレていたか。
もっと考えればよかったけど……コルトはそう簡単に騙されないからな。
「それにコルトちゃんは、シロちゃんがニルちゃんに殺されたんじゃないかって事も考えていたんだから。シロちゃん、その子の事凄く気に掛けていたし、再三に渡って忠告していたけど納得いっていない様子だったって。だから、もしかしたら夜中の内に会いに行って、殺されたんじゃないのかってそう話していたわよ。街中で殺すには発見されるリスクがあるから街の外で殺したって事も、コルトちゃんは考えていたみたい。だから探知に引っかかって今は追われる身になったって事も」
「コルトは未来予知でも使えるんですかね? ほとんど当たりですよ」
まあ、俺を街の外で殺したって事が直接的にニルが魔族である事が知られてしまった原因と考えるにはまだ情報が足りないというか、断定はできないけれど。
「でも、コルトちゃんは彼女を責めるんじゃなくて、救い出さなきゃいけないって言ってたわ。影響されたのね、アナタに。いいえ、元々コルトちゃんはそういう子だったのかも。何にしてもコルトちゃんの成長ぶりにアタシ、涙出ちゃうわ。もうとっくに枯れているのだけれど」
むっくんは冗談交じりにそう言いながら手で涙をぬぐう仕草をする。
そうか……むっくんも、俺がニルに殺されたことに関してニルを責めるような事は一言も言ってない。
仲間に恵まれている事、少しは自覚しなきゃいけないな。
「さて、コルトちゃんばかりに任せておくわけにはいかないわ。アタシ達も探しましょう!」
「はい! 俺は先に出てますね」
「ええ。アタシも支度が出来たらすぐに出るわ」
「分かりました」
俺はそう言い残して、宿を飛び出した。
コルトの指示では人気のない路地や裏道と言われていたけど、方向音痴な俺にはどこから探したらいいか分からない。
闇雲に探していても埒が明かないが……あまり猶予もない。考えている暇はないな、とにかく動こう。
俺はとにかく手当たり次第に路地を駆け回り、ニルがいないか探し回った。
少なくともニル自身は、今自分が置かれている状況を理解しているはずだ。むやみに動き回ってはいないはず。
どこかで身動きが取れなくなっているか、どこかに隠れているか。
街の外に出れば、それこそ気付かれてしまう。外に出たとも考えられない。
「おい。そっちにはいたか?」
「いいや。ダメだ、全然見つからない」
「クソ! この前と言い今日と言い、魔族がらみの事ばっかりだ」
近くでは血眼に探している衛兵のものなのか、苛立ちの声が聞こえてきた。
あいつらもニルを追っている。俺達は3人しかいないが相手は数が多い。最悪、衛兵の方がニルを見つけるのが早いかもしれないな。
俺は建物の陰から衛兵の様子を窺う。
冒険者や街の住人は、それを硬い表情をしながら見つめている。
クローディアとの戦いがあってから街の警戒心は高くなっているし、魔族の危険性を改めて感じて怯えているってところだろうな。
「ボヤいていても仕方がない。お前らはそっちを回れ」
「ああ。分かった」
集まっていた衛兵達は2人と1人に分かれてニル捜索を再開する。
俺も姿が見えている訳じゃないが、堂々と動き回るのは危険だな。ニルを探す途中で俺が捕まってちゃ意味がない。
いいや、魔物の俺だったらその場ですぐ殺されるって事じゃないのか? そんな事になったら……。
『説明した通りだ。主の傷はまだ致命的なままだ。今の姿で傷を負えばすぐに元の姿に戻り、絶命するであろう』
頭の中に響く、悪魔の声。
やっぱりそうなるのかよ。ゲームで言えば残機ゼロってところだな。そう簡単な話じゃないけれど。
でも、そんな事きにしていられない。一刻も早く、ニルを探し出さないと。
俺は建物の陰から様子を窺いながら、向かい側の建物の間に身を隠しため、その場から飛び出した。
「がふっ!? がっ!?」
「うわっ!?」
飛び出した直後、何かが俺の体にぶつかって来て俺は跳ね飛ばされる。
地面に叩き付けられ、俺は息が詰まるような声が出た。
痛……くはないけど、やっぱり子の体、衝撃は吸収できないのかよ!? というか、何にぶつかって?
「痛ぇ……何なんだ? 一体」
「すげぇ音がしたぞ」
その場に座り込む衛兵の姿。一緒に行動していた衛兵が心配そうに声を掛けている。
ヤバい! 衛兵にぶつかったのか!?
「クソ! こんな時に」
「何だ!? 誰だ!!」
俺が声を出したと同時に衛兵の一人が俺の方へ目を向けた。
まずい! 姿は見えなくても俺の声や音は聞こえているんだ!
そう考えているうちにもにじり寄ってくる衛兵。
このままじゃ、まずい。けれど、今動いたらそれこそ、俺が終われる身になってしまう。
衛兵は右手の人差し指と中指立てて揃え、その指先を眉間へ付ける。
何だ? 何をして……。
「アンチ・ハイディング!」
衛兵がそう唱えると、眉間に付けた指に一瞬光が灯り、それは両目へと流れていった。
ギラリと光るその目は、間違いなく俺を見つめているようだった。
お、おい……嘘だろ。まさか。
「マ、マガリイノシシだ! マガリイノシシが街中に入り込んでやがる!」
俺を見つけた途端、衛兵は俺を指差して仰け反りながら叫んだ。
同時に偶然こちらへ向かっていた衛兵数人も、仲間の叫びに反応して駆け付けてくる。
い、いやいや! こんなにあっさり!?
と、とにかく! 逃げよう!
俺は向かい側の建物の間に身体を滑り込ませ、その場から逃走する。
幸いなことにその衛兵一人に見つかったのみで、俺の体はまだハイディングの効果が残ったままだ。
だが、油断はできない。少なくとも、街の中にマガリイノシシが潜んでいる、なんて情報は出回るはずだ。
衛兵全員がアンチ・ハイディングなんて魔法を使えるのだったら……これは詰んだな。
「いたぞ! こっちだ!」
「あの野郎、こんな狭いところに入りやがって……」
「おい! 向かい側に回れ! 挟み撃ちだ!」
ひぃぃぃぃぃ! やっぱりか!!
あの衛兵だけでなく、他の衛兵達もどうやら俺が見えているらしい。魔法を使ったんだろう。
むっくん、あれだけ自信満々に言っていたくせにガバガバじゃないか!!
これじゃあ、ニルを探すことも出来ないじゃないか!
「クソォォォ!! 何でこうなるんだよ!」
むっくんはそこまで言って、急に口を閉ざした。
言おうとしている事は何となく分かる。多分……俺が付いた嘘にも薄々気付いているはずだし。
ここまでむっくんの中で整理がついているのなら嘘を吐いたままじゃ失礼だよな。
「すみません……本当は言わない方が良いと思ったんですけどね。少なくともコルトには、この話はしたくなかったんです」
あの場で『ニルに殺された』なんて話したら、コルトは絶対に制裁を与えたに違いない。
俺がこうして生きていたのは、悪魔の力のおかげ。吸収した魔物がいなかったら俺は本当にニルに殺されていた訳だし。
「いいえ、責めている訳じゃないの。それに、コルトちゃんは気付いていたわよ。シロちゃんが嘘を吐いているって事」
「……まあ、さすがに苦しい嘘を吐いたとは思いましたよ。バレて当然ですよね」
他にそれらしい嘘を思いつかなくて付いた嘘だったけど、やっぱりバレていたか。
もっと考えればよかったけど……コルトはそう簡単に騙されないからな。
「それにコルトちゃんは、シロちゃんがニルちゃんに殺されたんじゃないかって事も考えていたんだから。シロちゃん、その子の事凄く気に掛けていたし、再三に渡って忠告していたけど納得いっていない様子だったって。だから、もしかしたら夜中の内に会いに行って、殺されたんじゃないのかってそう話していたわよ。街中で殺すには発見されるリスクがあるから街の外で殺したって事も、コルトちゃんは考えていたみたい。だから探知に引っかかって今は追われる身になったって事も」
「コルトは未来予知でも使えるんですかね? ほとんど当たりですよ」
まあ、俺を街の外で殺したって事が直接的にニルが魔族である事が知られてしまった原因と考えるにはまだ情報が足りないというか、断定はできないけれど。
「でも、コルトちゃんは彼女を責めるんじゃなくて、救い出さなきゃいけないって言ってたわ。影響されたのね、アナタに。いいえ、元々コルトちゃんはそういう子だったのかも。何にしてもコルトちゃんの成長ぶりにアタシ、涙出ちゃうわ。もうとっくに枯れているのだけれど」
むっくんは冗談交じりにそう言いながら手で涙をぬぐう仕草をする。
そうか……むっくんも、俺がニルに殺されたことに関してニルを責めるような事は一言も言ってない。
仲間に恵まれている事、少しは自覚しなきゃいけないな。
「さて、コルトちゃんばかりに任せておくわけにはいかないわ。アタシ達も探しましょう!」
「はい! 俺は先に出てますね」
「ええ。アタシも支度が出来たらすぐに出るわ」
「分かりました」
俺はそう言い残して、宿を飛び出した。
コルトの指示では人気のない路地や裏道と言われていたけど、方向音痴な俺にはどこから探したらいいか分からない。
闇雲に探していても埒が明かないが……あまり猶予もない。考えている暇はないな、とにかく動こう。
俺はとにかく手当たり次第に路地を駆け回り、ニルがいないか探し回った。
少なくともニル自身は、今自分が置かれている状況を理解しているはずだ。むやみに動き回ってはいないはず。
どこかで身動きが取れなくなっているか、どこかに隠れているか。
街の外に出れば、それこそ気付かれてしまう。外に出たとも考えられない。
「おい。そっちにはいたか?」
「いいや。ダメだ、全然見つからない」
「クソ! この前と言い今日と言い、魔族がらみの事ばっかりだ」
近くでは血眼に探している衛兵のものなのか、苛立ちの声が聞こえてきた。
あいつらもニルを追っている。俺達は3人しかいないが相手は数が多い。最悪、衛兵の方がニルを見つけるのが早いかもしれないな。
俺は建物の陰から衛兵の様子を窺う。
冒険者や街の住人は、それを硬い表情をしながら見つめている。
クローディアとの戦いがあってから街の警戒心は高くなっているし、魔族の危険性を改めて感じて怯えているってところだろうな。
「ボヤいていても仕方がない。お前らはそっちを回れ」
「ああ。分かった」
集まっていた衛兵達は2人と1人に分かれてニル捜索を再開する。
俺も姿が見えている訳じゃないが、堂々と動き回るのは危険だな。ニルを探す途中で俺が捕まってちゃ意味がない。
いいや、魔物の俺だったらその場ですぐ殺されるって事じゃないのか? そんな事になったら……。
『説明した通りだ。主の傷はまだ致命的なままだ。今の姿で傷を負えばすぐに元の姿に戻り、絶命するであろう』
頭の中に響く、悪魔の声。
やっぱりそうなるのかよ。ゲームで言えば残機ゼロってところだな。そう簡単な話じゃないけれど。
でも、そんな事きにしていられない。一刻も早く、ニルを探し出さないと。
俺は建物の陰から様子を窺いながら、向かい側の建物の間に身を隠しため、その場から飛び出した。
「がふっ!? がっ!?」
「うわっ!?」
飛び出した直後、何かが俺の体にぶつかって来て俺は跳ね飛ばされる。
地面に叩き付けられ、俺は息が詰まるような声が出た。
痛……くはないけど、やっぱり子の体、衝撃は吸収できないのかよ!? というか、何にぶつかって?
「痛ぇ……何なんだ? 一体」
「すげぇ音がしたぞ」
その場に座り込む衛兵の姿。一緒に行動していた衛兵が心配そうに声を掛けている。
ヤバい! 衛兵にぶつかったのか!?
「クソ! こんな時に」
「何だ!? 誰だ!!」
俺が声を出したと同時に衛兵の一人が俺の方へ目を向けた。
まずい! 姿は見えなくても俺の声や音は聞こえているんだ!
そう考えているうちにもにじり寄ってくる衛兵。
このままじゃ、まずい。けれど、今動いたらそれこそ、俺が終われる身になってしまう。
衛兵は右手の人差し指と中指立てて揃え、その指先を眉間へ付ける。
何だ? 何をして……。
「アンチ・ハイディング!」
衛兵がそう唱えると、眉間に付けた指に一瞬光が灯り、それは両目へと流れていった。
ギラリと光るその目は、間違いなく俺を見つめているようだった。
お、おい……嘘だろ。まさか。
「マ、マガリイノシシだ! マガリイノシシが街中に入り込んでやがる!」
俺を見つけた途端、衛兵は俺を指差して仰け反りながら叫んだ。
同時に偶然こちらへ向かっていた衛兵数人も、仲間の叫びに反応して駆け付けてくる。
い、いやいや! こんなにあっさり!?
と、とにかく! 逃げよう!
俺は向かい側の建物の間に身体を滑り込ませ、その場から逃走する。
幸いなことにその衛兵一人に見つかったのみで、俺の体はまだハイディングの効果が残ったままだ。
だが、油断はできない。少なくとも、街の中にマガリイノシシが潜んでいる、なんて情報は出回るはずだ。
衛兵全員がアンチ・ハイディングなんて魔法を使えるのだったら……これは詰んだな。
「いたぞ! こっちだ!」
「あの野郎、こんな狭いところに入りやがって……」
「おい! 向かい側に回れ! 挟み撃ちだ!」
ひぃぃぃぃぃ! やっぱりか!!
あの衛兵だけでなく、他の衛兵達もどうやら俺が見えているらしい。魔法を使ったんだろう。
むっくん、あれだけ自信満々に言っていたくせにガバガバじゃないか!!
これじゃあ、ニルを探すことも出来ないじゃないか!
「クソォォォ!! 何でこうなるんだよ!」
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