少年冒険者は蛇蜥蜴が倒したい~奴隷勇者の異世界譚外伝~

Takachiho

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8.新戦力

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 翌日の朝、ラウルとファムは再び派遣騎士隊の事務所を訪れた。今朝早く、二人の泊まっている宿屋にセシルから伝言があったためだ。

 女将によれば、どうやらセシルが話を持って行った火魔法使いから臨時パーティへの参加の了承を得られ、顔合わせをしたいということだった。特に問題がなければダンジョンで実力を測った上で、冒険者ギルドで正式に一時的にパーティを組むことになる。

 どのような人が来るか何も聞いていないラウルとファムは期待半分、不安半分で事務所の門を潜った。

「どうぞこちらへ」

 今日はセシル本人ではなく受付のメイドに案内され、二人は前回と同じ応接室へと向かう。メイドのノックに部屋の中からセシルが応じ、年若いメイドが恭しい所作でドアを開けた。

「ラウルくん、ファムさん。御足労おかけしました」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「ありがとうございます!」

 ラウルもファムもセシルに伝えた感謝の言葉に嘘はないが、それでもその視線はすぐにセシルの横に立つ少女へと吸い寄せられた。

 薄いピンクのおさげ髪と碧眼を持つ、まだ幼さを残した人族の少女。その見知った顔を目にし、ラウルは驚くと共に心のどこかで納得している自分に気付いた。

「ラウルさん、ファムさん。よろしくお願いします」

 優しそうな声でそう告げた少女が、丁寧に頭を下げる。

「よ、よろしく」
「こちらこそよろしくね、ミレイナ」

 ラウルとファム、そして少女はセシルに促されてソファに腰を下ろす。お互いに自己紹介は不要だった。

 ファムにミレイナと呼ばれたこの少女は、先のいくさに際してメルニールからラインヴェルトに逃れてきた孤児の一人で、まだ英雄がこの地にいた頃は二人と寝食を共にしていた。

 そして彼女こそ、多頭蛇竜ヒュドラー討伐を決意した日に宿屋の食堂でラウルが思い出した噂話の主人公。即ち、最近ミルの所属する“戦乙女の翼ヴァルキリーウイング”からパーティ加入を打診されているという、ある意味ではラウルにとって羨望の、そして淡い嫉妬の対象でもあった。

 孤児院暮らしのミレイナは、これまで冒険者ギルドの依頼で街の外の湖に棲む友好的な魔物への食事の配送などで日銭を稼いでいて、空いた時間に冒険者見習いとして先輩冒険者から指導を受ける立場だった。

 その実力は既に冒険者として独り立ちしているラウルやファムに劣っていたはずだが、そんな彼女に転機が訪れたのはミルとの魔力操作の訓練を受けたときだった。

 魔法を効率的に運用するために必要な魔力操作の技能。一部のみにしか知られていないが、それを高めるのに効果的な訓練方法が、かつて英雄によって編み出され、今はミルへと継承されていた。

 そのラウルにとっては未知の訓練を受けたミレイナは、個人差があると言われる中、魔法使いとして劇的な成長を見せ、その潜在的な素質はミルが自らのパーティに勧誘したほどだという。

「実は以前からミレイナさんをメイド隊の候補生に勧誘していて、何度か体験入隊をしてもらっていたのですが、その、ある冒険者パーティにも誘われてしまって、少し相談を受けていたのです」
戦乙女の翼ヴァルキリーウイング……」

 無意識にラウルの口からパーティ名が零れ落ちた。

「ご存じでしたか」
「あ……。その、仲間内で噂になっていて……」
「ミルミルの訓練を受けたんですよね」

 二人が応じると、セシルは目を丸くしながらも納得したように小さく頷く。セシルにとっても、広義の意味で英雄の関係者である二人がある程度の事情を知っていたとしてもおかしいことではなかった。

「セシルさん、後は私が……」

 そう言って、ミレイナがラウルとファムを交互に見遣り、ラウルの目を見つめて再度口を開いた。

「ラウルさんもファムさんもご存じの通り、私は冒険者見習いとしてまだまだ修行中の身でした。自分でもあまり才能があるとは思えず、セシルさんに誘われてメイド隊への入隊も考えましたが、やはり憧れの冒険者になる道を諦めきれないでいました」

 15歳で成人する社会で未成年のラウルとファムよりも幼いミレイナだったが、メイド隊での練習の成果なのか、年齢のわりにしっかりとした言葉遣いをしていて、今より幼い頃の彼女を知る二人は少なからず驚いていた。

 元々しっかりした子ではあったが、当時はもっと年相応の話し方をしていたのだ。

「そんなとき、幸運にもミルさんの訓練のおかげで火魔法の素質があることがわかりました。ミルさんはそんな私をあの“戦乙女の翼ヴァルキリーウイング”に勧誘してくれました。それはもう信じられないくらい嬉しいことでしたが、同時に私のような未熟者が入れるパーティではないことも十分わかっていました」

 ミレイナの気持ちはラウルにも痛いくらい理解できた。それだけ英雄たちのパーティである戦乙女の翼ヴァルキリーウイングは、この街とメルニールで特別な存在だった。

 ラウル自身、いつかその一員になりたいという野望を持ちつつも、いざ誘われたら戸惑ってしまう自信があった。

 街の危機を幾度も救い、二人の英雄が去った後でも帝国皇帝から一目置かれる戦乙女の翼ヴァルキリーウイングに加わるということは生半可な覚悟でできることではい。

「だから、お二人と一緒に多頭蛇竜ヒュドラーを倒すことで、その名に恥じない冒険者になれると少しでも証明したいのです。他でもない自分自身に」

 そうして、ミレイナは多頭蛇竜ヒュドラー討伐臨時パーティへの参加を望んだ。頭を下げるミレイナに代わり、今度はセシルが口を開く。

「ミレイナさんはメイドの修練の合間に火魔法の鍛錬もしていて、決して足手まといにはならないはずです」

 身体能力の面ではそれほどではないが、継続して先輩冒険者からダンジョン内の立ち回りも学んでおり、何よりその火魔法はセシル以上の火力なのだという。

 ラインヴェルトで活動する冒険者の中でも一流と評されるセシルにそう言われてしまっては、ラウルもファムも、まだ見ぬ幼き才能を疑う理由はなかった。

 ラウルとファムは顔を見合わせてからミレイナに向き直った。二人を代表して、ラウルがミレイナの薄ピンクの後頭部を見つめながら歓迎の意を示す。

 具体的な戦力はこれからダンジョンでチェックするまでわからないが、ラウルは微塵も心配していなかった。セシルが自身以上だと明言し、そして何よりミルが素質を認めたのだから。

 ミレイナが頭を上げる。ラウルとファムに感謝の言葉を告げる彼女の浮かべた笑顔は年相応に可愛らしく、とても眩しいものだった。
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