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古里唯一

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何番煎じの異世界召喚

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「やりました皇子様!正真正銘聖女様の召喚に成功しました!」

 大歓声に包まれる大聖堂。赤いカーペットの上に座り込み呆けている私と隣の美少女を他所に盛り上がる人々。
目の前に立つは真っ黒な髪に褐色の肌、エメラルドグリーンの瞳に色気と気品漂う顔立ちの異国の服に身を包んだ青年。
皇子様と呼ばれるに相応しい風格の人物だ。
きっとこの人が皇子様なんだろうなと考えながら、ふと壁鏡に目を向ければ、見覚えのない老婆と目が合った。



 私の名前は森泉もりいずみ あきら。32歳。
事務仕事を卒なくこなし、その他の業務も何気にこなせる器用貧乏。
これと言った取柄はなく、歯車の一つ…と、いうこともなく、シムリングの一つに過ぎない契約社員。

 日々頑張っても評価されない毎日。
ストレスばかりが溜まり、日に日に頭痛と眩暈にやられる日々。

 正直評価のされない会社にいる意味がない。
それでもこのご時世再就職をするのは難しい。
就職氷河期と未知のウィルスに侵略されそうになっている時だからこそ、再就職という冒険をしようとは思えない。
評価はされずとも収入が安定しているなら、文句はない。まだ耐えられる。

 今日もまた、私は会社へ向かっていた。
通勤ラッシュで足は踏まれるし、おしくらまんじゅうになるし、体臭や香水、様々な臭いが混ざり嗅覚がやられていた。
覚えてる。しっかり覚えてる。
最寄駅が近づいて来てやっと降りられると思った時に…。

 ああ、なんか、激しく揺れましたね。

 すごい急ブレーキの音と共に電車内に悲鳴が上がって、押されるように体が傾いた。
一瞬目に飛び込んで来た窓の外の景色は、絶叫マシーンに乗っているかのように反転していた。
そこから先の記憶はまったくなく、現在この状況に至るわけでありまして…。

 これは所謂ラノベとかで本当によくある定番中の定番!
お決まりじゃね?こういう召喚に転生何番煎じだよと言われてもおかしくない!
正直お決まり過ぎてこの手の作品ってもうお腹いっぱいと言われてしまう、異世界転生、もしくは異世界召喚というやつでは!?

 順応力高いなお前。って、これがアニメだったら間違いなく私はツッコミを入れている。
少しは元の世界のことを気にしろとも言っている。気にしない主人公たちは現実世界への執着が薄いのだろうか?

 私はとても元の世界のことが気になる。
電車の急ブレーキ音に悲鳴、体が傾いたことから想像するに、私は電車の脱線事故に巻き込まれたはずだ。
私の体は無事なのか。病院に運ばれて意識不明の重態中なのか。後輩はちゃんと仕事をこなせているだろうか。
祖父母の精神面は大丈夫だろうか。気になって気になって異世界に召喚されたことに興奮できないわ。

 異世界召喚モノは嫌いではない。
弱い主人公が生きて元の世界に戻るために、仲間と共に修行し、強者の前に挫折しながらも強くなっていく姿にわくわくする。

 逆を言えば最強とかチート系は何が面白いのか理解できない。
最強?退屈じゃね?
せっかくの異世界なのにわくわくもなにもないな。
チート?
そんなもん使って俺は強いなんて虚しくならない?
好みは人それぞれあるだろうが、私は最強やチートに興味はない。

 引きニートしてた頃ハマっていたMMORPGでは人気のない種族や職業に惹かれたものだ。
そのためいつもソロゲーだった。ギルドには入ってたけど挨拶のチャットするくらいで一緒に狩りに行こうというお誘いはなかったし誘わなかった。
 だが、効率重視の私にとってギルドは馴れ合い協力の場にあらず!
ギルドバフの恩恵を受けるためだけの謂わば使い捨てカイロ!わあ、性格悪いな私!


「皆、よくやってくれた!
やっと聖女伝説通りの聖女を召喚できた!
これで我が王都・クリュスタッロスは安泰だ!」


―― 聖女伝説…。


 そんなものを信じて異世界の人間を呼ぶなんてなんという拉致。
異世界の人間を呼ばなきゃ解決できないような問題ってなに?
自分たちの世界の問題くらい自分たちで解決していただけませんかね?
平和ボケしている”こちら側異世界”の人間にしてみれば、別の世界に呼ばれた時点で生命の危機だ。
平和ボケ現代人舐めんなよ…。

 でもさっきそこの聖職者っぽい雰囲気出してる老人が言ってたよね?
”聖女様の召喚に成功しました” って…。
そんなセリフを真顔で恥ずかしげもなく言えるのは本気の人間だけだとお祖母様が言っていた。

 今のこの老人の顔は…うむ。真顔である。シロだ。
服も白だから当然と言っちゃ当然か…。

 私が一人そんなことを考えている中、褐色皇子は隣の美少女の手を取っていた。
その瞬間、勘の良い私はピーンと来た。ああ、聖女伝説通りの聖女は彼女であり私ではない。
よくある聖女召喚の異分子的存在が私と言うことか。把握。

 そして私の勘が正しければ、異分子的存在である私や聖女の彼女は元の世界には戻れない。
異世界拉致せいじょしょうかん”が正しい表現だろう。
 本当に帰れなかったらこの世界滅ぼす努力をしよう ――。

「聖女が無事に召喚できたのは其方の尽力あってのことだ
礼を言う。王都から離れ田舎で余生を謳歌するが良い。ご苦労であった」

”飛ばせ”

 褐色皇子は私を見下すような目を向けそう言い放った。
そして皇子が口にした言葉に従うように、杖を持った灰色ローブの人物が皇子の前に出て来た。
その人物が杖の先端を床に小突けば、私の足元に魔法陣が広がった。
まさにファンタジーの世界と言わんばかりの光景に眩暈がして来る。

 え、あれ、ちょっと待って。
まさかとは思うけどお金も説明もなしに田舎暮らししろってか?
ブラック世界かここは!?

「お待ち下さい皇子様!
聖女召喚に尽力された淑女に何の説明もなしとは如何なものかと思います!」

 私の代わりに声を上げてくれた白銀の鎧騎士様!
なんてダンディで素敵な殿方なのでしょうか!
良いぞもっと言ってやれ!

「残り少ない余生の老女に説明など不要であろう」

 誰が残り少ない余生の老女だ!
ちょっと顔が良いからって三十路相手に老女はないだろ!

「しかし皇子様!我々には異世界より聖女を勝手に召喚した責任があります!
責任説明をするのは当然のことと思います!」

 さすが人間できてますわダンディな騎士様!

「…口を挟んで申し訳ございません皇子様、アランドロン様」

 あ。灰色ローブの君。待っててくれてありがとうね

 灰色ローブの君は、冷やかな眼差しでビシッと私を指差した。
人を指差すなとお祖母様に教わらなかったのかい?

「聖女様の呪いを一身に受けたこの方をこの王都に置いておけば
聖女様の身が危ぶまれます」

 ……聖女様の呪い?
ん?なんのことを言ってるの?

 今まで声を上げてくれていたダンディな騎士様が口をつぐんでしまってる。
苦虫を噛むような表情も素敵だな。絵になるなコノヤロー。

「アランドロン…貴殿が選べ
今この場で災厄をもたらすかも知れぬ老女を
お前の手で始末するか、田舎に送るか…選ぶが良い」


―― DEAD OR ESCAPE逃げるか死ぬか…。

 なんていう選択をダンディな騎士様に委ねようとしてるのよ。
そこは私に決めさせなさいよ!
この世界には異世界の人間の意思尊重はないのか!
全力で逃がして下さいダンディな騎士様!
逃がして下さったら私、十倍にしてこの世界に報復しますから!

「…わかりました」

 一体なにがわかったのだろうか。私の心の声?
だとしたらうるさくてごめんなさいね。聞くに堪えないでしょ、脳内会議女子の心の声。

「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません
私はこの王都・クリュスタッロスの聖騎士団長
”アランドロン=シュタットベル”
貴方様のお名前をお伺いしても?」

 片膝をついて私に視線を合わせるダンディな騎士様。
アランドロン…シュタットシテル?
……うん。長いからもうアランさんで良いかな?
なんだかすごく申し訳なさそうな顔をしている。
例えるなら花瓶を割ってしまい怒られる気配を察知した大型犬のようなお顔…。

「…アキラ・モリイズミです」

 騎士が存在しているってことは多分西洋だよね。
それなら名前を先に名乗っておけばきっと多分大丈夫なはず!

「アキラ様…我々の身勝手によりこの世界にお呼びした挙句、追放するご無礼をお許し下さい
アキラ様の犠牲なくして聖女様の召喚はできませんでした
この国の民、この世界で生きるものたちすべてを代表し感謝申し上げます
そして…――
何も説明できぬ無力な私をお許し下さい」

 さっきから呪いだの犠牲だのと不吉な言葉が飛び交うね。
一体この人たちが何を言っているのか、私にはわからないよ。
説明できないって言ってるし。まあ、それはそうか。
皇子様が目の前にいるのに説明を始めたら騎士様の身が危ないもんね。
我が身が可愛いのは当然だ。謝ることはない。

 だが皇子、お前はちょっとくらい詫びろ。
騎士団長様が膝ついて頭下げさせてるのにお前はなに堂々と美少女口説きにかかってんのよ!
灰色ローブの君も欠伸してんじゃない!周りの連中も笑いながら話してんじゃない!

 こいつら全然私の犠牲?に感謝なんてしてないんじゃないの!?
聖女様である美少女は…うん。顔赤らめて可愛いな!初々しいな!一生やってろ!


「アランドロン様。もうよろしいですか?」

「お時間をいただきありがとうございました。ベネット様」


―― ベネット……ふっ…。

 笑っちゃダメだ…笑っちゃダメだ…。
名前を聞いた瞬間某有名映画のセリフが脳内を駆け巡ってしまった。
ダメだ。耐えるんだ。耐えるのよあきら
ここで笑い転げてしまったら田舎どころか辺境の地に飛ばされるかもしれないのよ。
笑うのはご本人がいなくなってからよあきら


「では…」

 青白い光を放つ魔法陣。
ミラーハウスの中にいるような空間に閉じ込められた私の目に映ったのは、先程壁鏡越しに目が合った老婆の姿。

 どうして鏡に老婆が映っているの?
鏡は元来、自己認識の第一歩とされるものだ。
鏡を通して初めて自分自身を客観的に見ることができるもの。
鏡を見れば自分の顔が見れる。自分一人が鏡を覗き込めば、そこに映すのは本来の自分だけのはず。

「……」

 私が口を開ければ彼女も口を開く。
私が老婆に向かい手を伸ばせば、彼女も同じように手を伸ばしてくる。
そして気付く。手は骨と皮しかないように細く弱々しく、皮膚はシワやシミができ目も当てられない状態だと言うこと。

 その手で自分の顔に触れれば叫びたくなった。
三十路になれば曲がり角。メイクのノリも悪くなるし保湿も潤いもなくなってくる。
二十代のノリでいてはすぐに老いていく。
だから年齢に合わせたスキンケアを心がけて来た。
早寝早起き、三食きちんと食べ、なるべく動き階段を使うようにして健康的な生活を送ってきたつもりだ。

―― その結果がこれ?

 異世界に異分子として召喚されて、徐々に年取る間もなく一気に老化。
片や聖女様は美少女のまま…。


“聖女様の呪いを一身に受けたこの方をこの王都に置いておけば
聖女様の身が危ぶまれます“

”アキラ様の犠牲なくして聖女様の召喚はできませんでした”


 つまり彼らが言っていた聖女様の呪いと言うのは“老化”?
そして犠牲と言うのは…。


「私の寿命か?」





 呟いた時には遅かった。
魔法陣の眩しい光に包まれ目を閉じてしまい、慌てて目を開ければ野外に放り出されていたからだ。

 見渡しても建物という建物はなく、褐色皇子も美少女も、灰色ローブ君もダンディな騎士様も、取り巻いていた笑いおしゃべりをする人々も全員いなかった。
あるのは一面に広がる平原。草木の香りがして子供の頃を思い出しそうになる。

 転移の魔法って便利だな。と、気が動転してなければ口にしていただろう。
でも今の私は、目の前に叩きつけられた“老化”の事実を受け入れるだけの余裕がないんだ。
転移魔法って便器だなって言い間違えそうになるくらい気が動転してる。というか滅入ってる。


―― とりあえず…。


「……ふふっ…んふふ…くっ…!」

 ベネットについて大爆笑しておこう。

「あははっ!」

 何分笑い続けたのかなんて覚えてない。
単語一つ、セリフ一つ、顔一つで笑い転げられる時間なんて限られてる。
それでも私は笑い続けた。笑い続けた。

「あはっ、あははっ…はぁ、苦しいぃ
笑い転げてるだけなのに、腹筋崩壊どころか涙腺崩壊
鼻水決壊の大惨事だわっ…!」

 笑ってないとやってらんないよ。
こんな最低最悪な異世界拉致せいじょしょうかん…ーー。
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